この別荘自慢の露天風呂。


牧野家男女交互にどうかと提案し、司は別室でシャワーを浴びた後
パソコンを開いていた。


どれぐらい集中していたのだろう。


小さなノックの音。
顔を上げると、まだ少し湿った黒髪の恋人が立っていた。


「お邪魔?」

「いや、大丈夫だ。」


キョロキョロと部屋を見渡しながらつくしが入ってくる。


「ふぁ〜。何ていうか‥大正ロマンみたいな‥。」

「年季が入ってるからな、ここは。」

「仕事部屋なの?」


近寄ってきたつくしは、風呂上がりのいい匂いがした。


「お風呂気持ち良かったよー!あんたも入ればいいのに。」

「今はお義父さん達か?」

「うん、進とパパ。」



つくしがパソコンを覗き込む。


「出張帰りなのに大変だね。」

「‥いや、全く頭に入ってこねぇ。」



揺れる黒髪を少し取り耳に掛けた。
白い肌と大きな瞳。

華奢な見掛けとは真逆に、強い心を持つ女。



自分が唯一 手放せないもの。
ずっと変わらなく愛している女。


俺は牧野つくしがいるから優しくなれる。



「何で?あ、バドミントンで疲れちゃった?」

「…緊張してる。」

「はぁ?あんたが?」



そうだろ。
笑っちゃうよな。
バドミントンをまともに出来ない親父にこれだけ緊張するなんてよ。



立ち上がり、つくしの柔らかな身体を抱きしめた。

胸いっぱいに吸い込む。
甘い、甘い、香り。

この小さな身体にこんな強さがあるなんて、一体誰が思う?


「…くそ、抱きてぇ。」


背中に回った手がピクリと動く。


「こんないい匂いさせてるのにお預けかよ。」

「…こらこら。」

「分かってるよ。」


古風な女だ。
両親や弟の前では、愛情表現は恥ずかしがる。


「…帰ったら、ね。」

「ああ。」


重厚な本棚に軽く押し付けた。


「キスだけだ。」

「…キスだけだよ。」


小さな顔に自分を擦り寄せた。
額にキスをして、まぶたにもそっと触れる。
長い睫毛が小さく震える姿がいつもたまらない。
軽く耳たぶを甘噛みすると、ビクッと揺れた。


「…あんたって…。」

「何だ?」

「……。」

「言えよ。」


反対の耳に指を入れた。
真っ赤になる顔がたまんねぇ。


「言え。」


鼻と鼻が触れた。
甘い吐息を吸い込む。
そして…そっと触れるだけのキス。


物足りねぇだろ?


身体を密着させて、俺が当たるようにした。
さっきから気付いてないフリをしている恋人が、思わず下を見る。

息を飲む音。


「お前の為に我慢してる。」


腰を引いた。
これ以上は俺もまずい。

身体はいつも磁石のように引き寄せられてしまう。
この女だけが俺を興奮させる。


「帰ったら遊ぼうな。」

「は?」


真っ赤な顔をしたつくしが俺を凝視する。


「な、なに?バドミントン?」

「んなワケあるか。」


美貌の男が妖しく笑った。


「健康的に遊ぶのはもうしただろ。…そうだな。
すっげーエロい遊び。」

「はぁあ!?」

「よし。これで頑張れる。」


ギャーギャー騒ぐつくしの声に最初は聞こえなかった。
鋭いノックの音。


「入れ。」

「失礼致します。司様、牧野様。」

「なんだ?」

「浴場でお父様が倒れられました。」


つくしが息を飲む。
二人は顔を合わせた後、急いで部屋を出た。








「ごめんなさいね、パパが心配かけて。」


ママがうちわで横に寝ているパパを仰いでいる。
借りたのだろう。
新品の浴衣を着たパパは顔を真っ赤にして、目を閉じている。


「長湯しない人なのにねぇ。のぼせたみたい。」

「俺が上がろうって言っても、まだだまだだってソワソワしてて。
立派な露天風呂だったから緊張したのかな。」


司には分かった。
“話があります”と伝えた事だろう。
晴男も何の話か分かったに違いない。
(鈍すぎる娘の父親でもピンときたんだろう。)


「パパは私が見とくから、皆休んでちょうだい。」

「ママ、私も替わるから続き部屋にお布団敷いてもらうよ。
今日はママも疲れたでしょう。」

「そうねぇ…。」

「お願いしてくる!」


しっかり者の長女は、テキパキとこの後を決めていった。













「……あの。」

「何だ。」

「…どうしてこんな状況に…。」


進が顔を右に向けると、薄明かりの中
それはそれは美しい顔があった。


「お前一人だと寂しいと思ってな。」


冷たく見える程、整った顔立ち。
シンプルで高級なTシャツには布地が盛り上がる程
完璧に鍛え上げられた肉体。


異性から見たこの人は、男神だと言われている。
思わず拝んでしまう程の美貌だと。


違う。
同性から見たらそれ以上だ。

同じ男とは思えないぐらいの存在感。

圧倒的な雄。
クラクラする程の色気。


男神が布団を並べ、自分の横に寝ている。
(信じられないシチュエーション。)



「お前の親父が倒れて寝てるんだからよ。お前が俺に付き合え。」




そ、そんな…。


この超絶イイ男……もしかしてスネてる?








ねーーーーちゃーん!!

助けてくれー!!

(めっちゃいい匂いするんだけどー!!)
(めっちゃ、横でふてくされてるんだけどー!!)




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