マフラーは蛇のように居間の床に横たわっていた。ただ昨日あたりから季節外れのものになりつつあるので、今はその本来の役割を果たすべく人に巻きついているよりも、そうやって床に横たわっているほうが似合っている気もした。私がそっと手を伸ばすと、マフラーはすぐにその気配に気づいて、ぴくりと身を震わせた。逃げようかと迷う仕草も見せたけれど、結局床のそれは私に触られることを許した。蛇とは違う肌触り、と当たり前のことを思う。しゅるりとやわらかい。冬だともっとうれしくなるのかもしれないけれど、今の季節だとそう大した感慨は抱かなかった。
 しゃがんで特に意味もなく撫でたり弄んだりしていると、そのうちそうされるのに飽きてきたのか、マフラーは私の手から逃れて床を滑りはじめた。蛇がにょろにょろ進んでいくのは「這う」でいいのだろうか。もしそうだとして、マフラーのにょろにょろも「這う」なのだろうか。そんなどうでもいいことを考えながらマフラーのあとをついていった。
 マフラーは物置にしている部屋の前で方向転換し、数センチほどのドアの隙間にその身を滑り込ませた。中に何を入れていたかなと思い出しながら開けると、見覚えのある雑多な風景の中に、見覚えのない肌色が混じっていた。
 肩で、背中で、お尻で、太ももで、ふくらはぎだった。腕は頭の下で枕になっていた。丸まるのをめんどくさがった猫のように、中途半端に体を伸ばしている。彼女は眠っているか死んでいるかのどっちかなのだけれど、どちらにしても安らかな顔に見えた。安らかな寝顔。安らかな死に顔。マフラーが彼女の細い肩を這い滑り、首を隠す髪の下を潜り、腕と首の隙間を縫って、しゅるしゅると獲物を捕まえるみたく巻きついていく。二回りしたところで這うのをやめて、ちょうどいい住処を見つけたように落ち着いた。もしかしたら撫でまわされるのはあまり好きでなかったのかもしれない。
 唐突に床の彼女の目が開き、少しだけ頭を浮かせて辺りを窺う。その真っ黒な目は思いもよらずつぶらで、リスやハムスターといった小動物を思わせた。つぶらな目が私を見つけ、そのまま無表情に見つめてくる。何かを言いたそうに口を開き、また閉じて、もう一度開くと、
「暑い……?」
 疑問形で一言そう言った。
 彼女はすうっと目を閉じて、熱を外に逃がすような吐息を漏らしながら腕の枕に頭を落ち着かせ、また安らかな寝顔か死に顔かを私に見せつける。