補習にはわたしを除いて八人いた。特に席を決められているわけではないらしく、窓際寄りの最後列の席に三人、その対角に位置する廊下寄りの席に四人かたまっていて、真ん中辺りやや窓寄りの中途半端な席に一人座っていた。その中途半端な一人がクラスメイトだった。見知った顔の男子だ。だから少しだけ、二秒くらい迷った。でもぎこちなさを誤魔化して教室の中を進み、彼の隣の机に右手の指先を置いた。
「隣、いい?」
 彼はちらりとだけわたしのほうを見て、ただ無言で頷いた。夏休みの補習は大体のところ気だるい。彼もその例に漏れず気だるいのだろうか。それとも気だるさを装っているのだろうか。
 わたしは自然と割り当てられた形になった席に座り、「暑いね」とできるだけ爽やかさをこめて言った。彼は気だるそうなまま、「あっついなぁ」と実感をこめて言った。
 彼はテスト当日に風邪を引いたことをどこか言い訳するみたく話した。お返しに、わたしは本当は補習を受ける必要はなく、部活のついでであることを話すと、彼の目は見開かれ、わたしは軽く噴き出した。でもそれで気持ちが少し落ち着いた。
 鞄から数気龍飢塀颪鮗茲蟒个掘∈枯咾巴爾魏,気┐覆ら開く。肘の手前まで覆っている白の手袋が目の端にあるようになって、薄い生地とはいえ、見た目と実際の暑苦しさに短い息がもれた。わたしの左手は手首の前で途切れていて、だからほんとは手袋ではなく、別の呼び方があったような気もするけれど、忘れてしまった。
 手袋を外そうかなとか思っているうちに、数気旅藤先生が教室に入ってきた。すぐにチャイムが鳴り、その流れのまま出席を取り始める。よく通る、でも気だるそうな声で、話し始めるのがこっちの予想よりも半テンポくらい遅い。音楽の裏打ちみたいな感じで、誰にも言ったことはないけれど、わたしは工藤先生の声と話し方を気に入っていた。
 名前を呼ばれて返事をして、そのこととは特に関連もなく手袋を外すことにした。学校で外すのは小学校以来だけれど、今日は補習だし、人数も少ないからかまわないだろう、ということに決めた。
 汗で湿気った手袋を小さくたたんで机の端に置く。工藤先生がやっぱり半テンポ遅らせた話し方で授業を始めた。そのうち隣の彼がちらちらとわたしのほうを見ているのに気づいて、気にしているようだったので、わたしは「暑いから」と小声で言い訳するみたく言った。
「……触る?」
 彼のほうに腕を差し出しながらそう続けた。すると彼の目がまた見開かれ、わたしの口からはまた笑みの息がもれた。じっと見つめると目を泳がせて、そのあと彼は一大決心みたく頷いた。頷かれたことに意表を突かれて逆に戸惑ったりもした。
 ゆっくりと近づいてきた彼の指が傷跡に触れる。丸まった左腕の端には皮膚を縫い合わせた跡が残っていて、ここを家族以外の誰かが触られるのは随分と久しぶりだった。彼の表情は少なくとも補習の授業よりも興味をそそられているように見えた。もう気だるそうには見えなかった。今にも震え出しそうな緊張した指がくすぐったい。
 息を止めていたことに気づいて細く息を吐く。気づかれないように。怯えるような指先が懐かしくて、何だか照れる。頬や耳がじわっと熱を持っていくのを感じた。夏なのにと思う。暑いのに。もっと暑くしてどうするんだろう。