ドアを開けるとむわっと熱気があふれ出て、ほのかな汗のにおいもした。自分のにおいは気にならなくても、人のにおいは気になるものだと言われるけれど、彼女のはそう不快ではなかった。
「おかえり」
 掠れた声がした。喉が渇いていそうだ。前髪が汗で濡れて額に貼りついている。つうっと頬からあごの先まで流れたそれを、彼女は人差し指の根元で拭った。
 窓の横の壁に背中を預け、足を崩れた「4」の形にしている。スカートは短く、ゆるく曲げた右足の膝横に蚊に刺された跡がある。
「クーラーつければいいのに」
 わたしは部屋に上がって台所に向かう。シンクの籠からグラスを取りつつ冷蔵庫を開け、ペットボトルのお茶を取り出す。
「人の部屋だし」
「気にしなくていいのに」
 グラスに注いだお茶を差し出すと、彼女は少し気だるそうにしながら受け取った。制服のブラウスも汗で濡れて肌に貼りついている。ボタンを三つ開けた胸元からは水色のブラが覗いていた。
 喉を鳴らす音が響く。両手でグラスを傾ける仕草は上品に見えた。わたしは彼女の両手首を縛っている縄をぼんやりと見つめた。
「何?」
 頬でグラスの冷たさを味わいながら彼女は小首を傾げる。
「手錠のほうがよかったかなって。革のやつとか」
「うーん、革だとベトつくし。それにこの感触、私好きだよ」
「飲んだらシャワー浴びる?」
「あ、うん」
 彼女はまたグラスに口をつける。わたしは彼女の額に貼りついた前髪を指先で横に流した。彼女は少し照れくさそうな、親が子供の悪戯に対して見せるような笑みを零した。

 二つのグラスをシンクに置き、わたしも彼女を追ってバスルームに入った。
「スカート脱ぐ?」
「ん?」
「スカートだけ脱ぐ?」
「どっちでも」
 彼女は迷った末にスカートのまま湯船の縁に腰かけた。わたしはシャワーのノズルを持ち、水のほうの蛇口を捻る。無数の線がタイルの上で弾け、細かな粒が足を掠めていく。彼女が心待ちにしているようなので、わたしはノズルを上に向けて少し傾ける。
「つめたっ」
「水だからね」
「水責めだ」
「そ、水責め」
 滑らかに濡れたブラウスが白い半透明越しの水色と肌色を作る。彼女の体の線を描き出していく。手首の縄も水を吸って色が濃くなり、ほどきにくそうになっていた。乾くのにどのくらいかかるだろう。でも夏だから、わりとすぐかもしれない。
 彼女は特に気にする様子もなく、ただ気持ちよさそうに水の感触に目を閉じている。