ビルとビルの隙間を抉り取るように、半地階の憩いの場がある。そこから地上にも出られるし、地下の街にも入れる。青や灰の空が望め、昼間は日も差し落ちて、春には桜の花びらがひらひらと舞い、それなりに気温が高いと、休憩を取りにきたスーツや制服の男女の姿も見られる。ベンチと生垣を兼ね備えたような場所に腰かけ、植えられた緑を背にパンを齧る大学生風の人もいる。
 わたしはそこで、仕事のお昼休みにパンを齧りながら本を読む。雨と曇りの隙間にあった晴れの日で、朗らかというよりも少し暑いくらいだった。広げた文庫本に光が反射して眩しい。白い。部屋の中で読むより文字が色濃く見えた。
 口の中の焼けたチーズの風味に牛乳を混ぜる。本の中では何人もが人を待っている。待ちながら、その人のことを話している。小学生のころのエピソードを、夜の酒場で。それを昼間に読むのもそんなに悪くない。と思う。
 スズメが足の先で遊んでいたので、小さくパンを千切る。本を読みながら、パンを千切りながら、パンを齧りながら、スズメにパンをやりながら、休憩を勤しむ。そのうちにハトが舞い降りて、スズメとハトの大群になる手前でパンはなくなった。
 デザートのなめらかプリンを食べ終えてから、わたしは本を閉じつつ立ち上がった。卵を扱うかのようにやわらかく本を持ち、地下に潜る階段のほうに進む。階段の前には両開きのガラス扉があり、それは少し重い。本をやわらかく持った理由は特にない。単にやわらかく持ちたかっただけだろう。深層において、誰かに叩き落とされたかったのかもしれないけれど、そんなことをする人をわたしは一度も見たことがない。
 地下に降り立つと、視界は赤く染まっていた。まるで薄く血を塗ったサングラスをかけているかのように。本で反射した日の光が網膜に焼きついた結果だった。通りゆく人が赤く、地下の街に建つショップのワンピースも赤い。通路に椅子とテーブルを展開した喫茶店も赤いし、そこを利用する客の横顔も赤い。心躍る。
 わたしは辺りを見渡しながら歩く。きょろきょろと、まるで初めて訪れた場所のように。赤い光景を心にとどめる。目が慣れるまでの、網膜の焼きつきが消えるまでの、数分だけの楽しみだ。じわじわと赤が薄れていく。光の跡が薄れていく。できるだけ長く焼きついて、わたしの視界を赤く染めていてほしいなと思う。