「ナスの漬物、持っていかんか?」――89歳の父からそんな連絡が来た。父は当社の会長でもあり、会社から目と鼻の先の住宅に住んでいる。会社へはあまり顔を見せなくなったが、会社の周りの片付けのほか、色々と助言をしてくれていて、未だ心配をしてくれているというのか、心配を掛けているというのか、私としては“程よい”距離と関係が保たれていると思っている。

私の実家でもあるその住宅や会社の敷地は、元々米農家だった曾祖父の代からのもので、父が41歳の時、農地からの用途変更がきっかけで運送会社を始め、実家は建て替えてその土地に残った。以来、その家で3世代6人で暮らした。

決して裕福ではなかったが、コメや野菜を中心に食べ物には困らなかったと記憶している。他にヤギやニワトリも飼っていた。父も母も野菜作りが好きで、農家をやめてからも、家庭菜園と呼ぶには広すぎる土地で、今でも野菜を育てていて、我家も収穫時期になるといつも頂いている。

2年ほど前から母が体調を崩し、父と母は一緒に畑仕事が出来なくなった。父は1人で畑仕事を続け、さらに母がメインでやっていた漬物作りも始めた。私の実家では1年中、漬物を欠かすことがない。保存食でもあり、ご飯と味噌汁に漬物が当たり前の家だったから、父は漬物がない生活は考えられなかったのだろう。

母の漬けた漬物は、昔に比べると年々塩味が薄くなっていった。それは家族の健康を考えてのことだったろう。農家だったころや運送会社を始めた時代は肉体労働が多く、塩分も必要だったのだ。段々薄くなっていく漬物に、度々「ちょいっと塩が足りないじゃないのか?」と注文を付けていた父の言葉が思い出される。

父も私も漬物の中でナスの漬物が好きだ。だが何十年もやっているのに、母が漬けていた時も、うまく漬かるときと漬からない時があった。「持っていかんか?」と連絡が来たのは、かなり上手に漬かったということだろう。早速食べてみると、これは連絡したくなるよなというぐらい、少ししょっぱめで、とても美味かった。父の満足気な顔が目に浮かぶ。ありがとうございます。でも、塩分は控えめに――。

ーーあさひかわ新聞7月21日号「旭川の小さな運送屋さんの社長は書きました Vol.76」よりーー




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 vol.1243