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翌日は、朝から雲一つない快晴だった。
約束の7時に近づき、家の外を見ると、もうお兄ちゃんの車は止まっていた。
「おはよう」
と挨拶し、由香は車に乗り込んだ。
「おはよう、寝坊しなかったな、偉い、偉い」
お兄ちゃんからは、そんな声が返ってきた。
「どこの海に行くの?」
車が動き出したのを見計らって、由香が聞いた。
「ちょっと遠い海だよ」
「ちょっと遠いって、よく分かる話だね」
由香は笑った。

その後も、今から行く海の話や、サークルの話で会話は続いていた。
嘘の告白をしたときのように、空気がよどんでいたらどうしようと思っていた由香は、その会話にひとまずホッとした。

会話が一呼吸ついた頃
「この辺りで昼飯買っとく?」
お兄ちゃんが車を止めて言った。
「お弁当作って来たから飲み物だけでいいよ」
「え?作ってきてくれたの?」
お兄ちゃんは嬉しそうに言った。
「うん」
由香が鞄に入ったお弁当を見せると、お兄ちゃんは怪訝そうな顔で言った。
「毒が入ってるとか?食ったら腹が痛くなるとか?」
「そんなこと言うなら食べなくていいよ!」
少し怒った顔をすると
「ごめん、冗談。じゃ、飲み物だけ買ってくるよ」
と言ってお兄ちゃんは車を降りて行った。

少し経ってから、由香も彼の後を追った。
お兄ちゃんの手には、缶コーヒーが握られていた。そのコーヒーには「ブラック・無糖」と書かれていて少し嬉しかった。
「どうした?何か欲しいものでもある?」
お兄ちゃんに聞かれたけど、由香はだた
「ううん、何もないよ」
と言って微笑んだ。

二人は、お菓子を物色しながらしばらくコンビニの中をグルグル回った。
「俺、コンビニでバイトしてるんだ」
ポテトチップスを手に取りながら、お兄ちゃんが言った。
「だからこの前、サークルの時、コンビニ弁当買って来てくれたんだね。どこのコンビニ?」
「俺んちの一つ前の駅前にあるコンビニ」
「あぁそこなら知ってる。大学の帰り道だからよく通るよ」
「そっか。おまえは?何かバイトしてるの?」
お兄ちゃんがそう聞いたところで、レジの順番が回ってきたので、会話はとぎれた。
『コンビニで買い物か、私たち周りの人から見たら、恋人みたいに見えるのかな』なんて思いながら由香は一人ニヤニヤしていた。
「おい、行くぞ」
と、お兄ちゃんに声をかけられるまで、由香は1人ニヤニヤしていた。
まるで小学生のような恋だ。

車に戻ると、お兄ちゃんは黒い方の缶を由香に差し出して言った。
「はい、おまえはこっちね、ブラックコーヒーの格好いいお姉さん」
「ありがと」
笑いながらそれを受け取った。
二人を乗せた車はゆっくり北上を始めた。