And juseppe loves her

にたないけんの生存と残像と記録

tateishifesta2



にたないけん。

男。
1984年生まれ。
東京都葛飾区立石在住。

ひとりで歌とギターとハーモニカ。

高校生からずっとドラムを叩いていたが、2008年アコースティックギターを買って歌をつくって歌いはじめる。

ライブ演奏をするようになる。
都内でも地方でもライブハウスでも飲み屋でもどこでも歌うようになる。



2011年23曲入りの1st album(CD-R)をつくる。
2013年20曲入りの2nd albumをつくる。
2015年9月10曲入りの3rd albumをつくる。
入手方法はライブ会場で購入するか通販のみですが、岡山の古本屋ながいひる、横浜の喫茶へそまがり、の2店舗には置いてありますので、そこで買うこともできます。

2016年3月3人編成のロックバンドジョズエを結成。
にたないけん:エレキギターとボーカル
うわがわこういち:エレキベース
たなかけいご:ドラム

twitter:@nitanaiken
instagram:wagahaiken



いついきなりきみとであってもいいように
ぼくはきょうもちいさな歌をじゅんびしている
この歌はしらない街をあるくための靴にもなるし
ゆうだちから身をまもるためのおおきなはっぱにもなる
ばけネコがいやがる音をだす笛にだってなるし
いつだったかの夜あけのあまくこげたこおひいにだってなる
かなしまないでポーラ
そんなことはぼくにはいえない
うんとかなしんで
それからそのきみがもってきた
ちぢんだてのひらにあるものを
くしゃくしゃにまるまったものを
ぼくの歌ととりかえっこする日がいつかくるよ

2015年5月 にたないけん





【VIDEO】


「ずぶぬれシアター」



「ダンス」



「うそでもいいのさ」



ジョズエ「ダンス」


おたより、チケット予約、ライブ出演のお誘いはこちらまで
→ nitanaiken@gmail.com





―6月―

■6/12(日)勝田ごじゃっぺ音楽祭
イベントホームページ→http://gojappe.net/

■6/15(水)亀有キッドボックス
19時open/20時start
1000円+2drink
にたないけん/エバーソン山本
※立石の山本珈琲店の店主との燃えさかる葛飾ツーマンです

■6/18(土)新宿ロックンロール以外は全部嘘
19:00open/19:30start
2000円+drink
にたないけん/ザ・カトウタクミ(ブルボンズ)/多田羅幸宏(ブリキオーケストラ)/ブラインドミウラストレンジャー(夜のストレンジャーズ)
※にたないけん出演は20:10~

■6/29(水)高円寺U-hA
19:00open/19:30start
2000円+drink
にたないけん/やく/保利太一
※にたないけん出演は最後20:50~

―7月―

■7/3(日)新宿ロックンロール以外は全部嘘
18:30open/19:00start
1600円 +drink
石田千尋/一人でももじゃグレープフルーツ/ワイコ/しげるカントリー(ザ・モーレツアタック40'S)/大薮麻琴/にたないけん
※にたないけん出演は最後21:30~

■7/4(月)下北沢ぷあかう
「パルプフィクション vol.2」
19:00open/19:30start
1000円+drink
タカダダクミ的/にたないけん/尾島隆英(富山)/Lilly lee ICHIKA

■7/5(火)西荻窪のみ亭
18:30くらいに開店/19:30開演
投げ銭
にたないけん/尾島隆英(富山)/佐古勇気

■7/18(月)池袋Adm

bullbonesfes20160718

13:30open/14:00start
前売2500円/当日3000円 +drink(2日間通し券:前売4000円/当日5000円)
※ジョズエ出演は2番目14:45~


■7/27(水)西荻窪ARTRION
―ARTRION3周年特別企画ONEMAN月間―
【にたないけん独唱2016~俺の酒と俺の歌~】
18:30open/19:30start
前売2500円/当日3000円 +drink
にたないけん
opening guest:小棚木もみじ


―8月―

■8/1(月)池袋Adm
九代目梅雨将軍2man series「再会将軍」
19:00open/19:30start
前売2000円/当日2500円 +drink(e+6/18から発売)
ジョズエ×僕のレテパシーズ
opening guest:Vulpes Vulpes Schrencki

■8/6(土)渋谷club乙-kinoto-
BAIDOKU presents「NAKED PUNK FESTIVAL’16」
14:30open/15:00start
前売¥2,000/当日¥2.500 +drink
※18歳未満入場禁止
Very Ape/ED WOODS/ヒミツの錯乱棒/クライムシティ/PAPAPA/東京梁山泊
マネーショット(徳島)/ジョズエ/クロメ/GISIRI/バイドクfeat.ビンタ(fromデッドバンビーズ)

Special Guest:Pole Dancer
rabbi(JapanPoleDance)/Mika/もみぃ

DJ:ユウジロウ(乙副店長)/Ko-Hey!(JUKE BOX JIVE)
Tequila Girl:ちひろ
Food:中村屋

※ジョズエ出演は16:10~

baidokufes


■8/7(日)新宿ロックンロール以外は全部嘘

■8/14(日)渋谷喫茶SMiLE
「今、共に鳴る 3」
19:00open/19:30start
2000円+drink
にたないけん/かえる王国/ミヤザキナオコ
※にたないけん出演は2番目20:20~

■8/24(水)心斎橋酔夏男

■8/28(日)横浜喫茶へそまがり
「晩夏のギター、魂ふるえる」
14時開場/15時開演
1600円+drink
にたないけん/輪/鈴木良典
※にたないけん出演は最後16:40~


―9月―

■9/14(水)高円寺U-hA
19:00open/19:30start
2000円+drink
にたないけん×中川五郎
※にたないけん出演は先攻19:30~



チケット予約・お問い合わせ・ライブ出演のお誘い→ nitanaiken@gmail.com






なかなかライブを観にいけない
でもCDを聴いてみたい
という方のために
にたないけんは通信販売を受け付けています




cd

「吾輩は猫ではない 名前はにたない」(CD-R)
23曲入り1000円

1.アニー
2.日が暮れるよりも早く
3.ライフイズビューティフル
4.メランとコリー
5.ぼくの神さま
6.ぼくはきみのかわいさしか知らない
7.雨男
8.レディドントダイ
9.戦車がやってくる
10.ダンス
11.風になるのさ
12.ダンボールムーン
13.アイラブユーはいらないよ
14.バイオハザード
15.長い夢
16.パレードはおわったよ
17.女生徒
18.メリミー
19.ずぶぬれシアター
20.むてきだぞ
Bonus track
21.もしも日曜日がきたら
22.1000のバイオリン(THE BLUE HEARTS)
23.スーパーカー




jacket

「きみを見つけるためにここで暮らすのも悪くない」
20曲入り2000円

1.トリップ
2.遠くへ行こう
3.名古屋駅
4.何もはじまってないのに
5.きみは何になりたかったんだい
6.アクアドルフィンランド
7.女がほしい
8.ゴースト
9.大掃除の朝
10.赤いマント
11.ブルーハーツ
12.夜になれば
13.ボーイミーツガール
14.きみにさわりたい
15.熱帯夜
16.カバンとコートとカートコバーン
17.鴨川
18.トムとソーヤ
19.うそでもいいのさ
20.愛の言葉



waretakutibiru

「われたくちびる」
10曲入り1500円

1.東京パンクミュージック
2.三浦海岸
3.地獄の犬
4.夏のはじっこ
5.ロッテリア
6.酔いざめの星
7.ぽたぽた焼き
8.ペチカ
9.ベトナム
10.まだねない



■注文の仕方■

1.お名前、住所、メールアドレス、欲しいCD、枚数を明記して
nitanaiken@gmail.com
までメールをください。

2.折り返しこちらからメールで口座番号などをお伝えしますので、そちらの銀行口座に金額をお振り込みください。

3.入金確認後、CDを発送させていただきます。

4.なお、送料として300円別にいただきます。2枚以上でも300円です。
銀行手数料はご負担くださるようお願いします。ご了承ください。


ぜひご利用ください
おたよりお待ちしてます!


にたないけんより




「だめだ、ホエールウォッチングは前日までに予約しないといけないし高い」

クジラ見物は未遂に終わった


でもこれさ、船乗ってクジラでてこなかったらどうするの?
「え?お金返してくれるよ」
あ、そうなの
「こっちは買い物ってなんでもそうだよ、電化製品とか買って持って帰って、なんかちがうなってなって、お店持ってったら1週間後でもふつうに返品できる、レシートなくてもできる、ソーリーソーリーって言ってくれる」

それはすごい、日本じゃかんがえられない、おれなんかこの前ヘッドホン買って、したら自分のウォークマンと規格が合わなくて使えなかったから、店持ってってさ、レシート渡して事情説明して、買ってから1時間後だよ、店員もおれの顔おぼえてるよ、なのに、「1度開封してしまってるので返品はできません」て、病気のロバみたいな顔で沈痛に申し渡しやがって、でも耳にはめてないですよって言っても、「でも1度開封してしまってるので」って、そりゃあ開封してしまいますよこちとら、だって開封してしまわずにヘッドホン使うサイコパスがどこにおるんだよクソロバが、って思って、じゃあこれ試してみてくださいって言って、そのロバ野郎にヘッドホンはめてCD再生してさ、そのときおれブルーハーツのSTICK OUT聴いてたんだけど、「あ、でも聴こえますよ」って、そう、再生はされるんです、でも停止ボタンがきかないんですよ、「ほんとだ、ブルーハーツがとまらない」、うるせえ、なんかかっこいいこと言ってんじゃねえよって思って、曲の頭出しもできないんですよ、困りますよ、「ほんとですね、でも1度開封してしまってるので」って、なんなんこのマニュアルロバ、もういいわ、6000円なんてはした金おまえにくれてやる、ってなっておんおん泣きながら帰宅してさ、これが日本ですよ

「なにそれひどいね、どこそれ」
新宿のディスクロバオン


「じゃあアイフォン直しにいく?アップルストアいこうか、することもないし」




2日前にぼくは携帯が壊れてしまったのだ
海外で携帯電話をつかうと暴力的な通信料を搾取されるらしく、それを回避しつつ携帯電話をつかうには、なんでもウィーフィー?を使えば無料で通信できるらしい
実は日本をでるまえにウィーフィーのことを調べたのだが頭がたりなくてなんのことかちっともわからなかった
これはぼくが推測するに
電気や電波というのは目に見えない
しかしウィーフィーだけがその電気や電波をからだに付着して運搬することができるごく微細なプランクトンで、電話会社はそこに目をつけて近年ついにウィーフィーの捕獲および飼育および増殖に成功したんだろう
ルーターとかいうのはおそらくウィーフィーを住まわせてる虫かごのことだ
なんだそういうことかとすっきりして僕は日本をでたものだ


今回泊まったホテルにもfree wi-fiというお知らせの紙があり
受付で教わったパスワードを入力すればホテルで飼ってるウィーフィー1GBまで無料で使えるとのことだった
1GBというのは1垓匹ということである
垓というのは〈がい〉と読み、あんまり馴染みがないかもしれないが、億のあとが兆でそのあとが京でそのあとが垓である
このホテルは1垓匹も使わせてくれるというのだ
なんとも大盤振る舞いではないか
ということでウィーフィーを飛ばせてメール受信などしていた

するとなんだ、画面に「OSをアップロードしますか?」という文面が出現した
OSとはなんのことだ、まあいい、アップロードするということは今よりも状況が良くなるということだろう、おーけー、きみにまかせる、精勤したまえ
ということでアップロードを許可した
なにやらパワーゲージをためているような画面になり、順調にためていると思ったら、急に画面が暗くなった
おや、どうした、わがはい急ぎの文の返事をしたためている途中であったのだぞ
すぐに明るくなりパスコードを入力せよとのたまうので、いつもの暗号をつたえる、だのに「ちゃう、もっかい」とかえってくる
え、なぜだ、また伝える、「だからちゃうって、もっかい」
え、あってるはずであろう「あーもうええわ、5分後にまたきなはれ」
5分後またたずねると「ちゃうよ、ほしたら10分後や」
10分後またたずねると「どつかれたいんか?30分後にまたきいや」
え、まじ?なにごと?と思い30分後にいくと「あんたにたないちゃうやろ、これが最後やで、1時間後にきなや」
ぼくはまっこと恐ろしくなり、これ以上はいかんき、刺されるがじゃ、とおぼしめし
アンに救いをもとめた


携帯うごかんくなった、拒否しはじめた
「見せて、・・・・・ああこれだめだね、さわらないほうがいい、なにやったの?」
いや、OSとかいうのをアップロードしようとしたら、
「え、なにやってんの?OSしらないの?OSは〈おしりしまおう〉、対ウィーフィー用殺虫剤のことだよ」
そんなカバな
「ウィーフィーはおしりに電波を付着させて運んでるの、なんでそんなこともしらないの?」
そ、そんなハヴァナ
「おしりしまっちゃったウィーフィーなんて何も運べないんだよ」
でも携帯がアップロードを推薦してきて、しかも1垓匹もいるのになぜ
「携帯とウィーフィーは冷戦状態にあるの、使用する側と使用される側には常に諍いがある、これ世の中の常でしょ、OSはウィーフィーにとって外出禁止令みたいなものよ、おしりだしてたら即射殺よ」
ガッデム、、、わたすこげん時どったら顔しだらいいがわがんね
「わらっどげ」




といういきさつがあったのだ
携帯なんて使わなくても日本帰ればなんとなく直るだろと思ったのだが
アンは親切なのでアップルストアに連れて行ってくれた

トラムという路面電車に乗り、バスに乗り、ショッピングモールへ
うーむ、亀有のアリオとちっとも変らぬと思いつつ歩いているとアップル発見
マイケルムーアのようなおっさん店員が即座にちかづいてくる
ぼくはイギリス語がわからないのでアンが対応している

ムーアなんていってる?
「おまえの電話はおだぶつだ、初期化するしかないぜ、いいか?って」
おふこーすゆーどぅー

葬儀はものの1分で終わり晴れてほやほやのアイフォンが手元に帰ってきた



腹がへったのでフードコートを歩いた
SUMOという名前の寿司屋があった

一軒のキャッフェにはいった
サーモンとアボカドのベーグルとコーヒー
オープンテラスになっていて気持ちよかった

このショッピングモールでも裸足の人をよく見かけた
オージーの裸足移動率は高い

電気屋にいったら知らないメーカーのエレキギターが並んでいた
オージーのミュージシャンはどこで楽器を買うのだろうか


バスにのって市街へ
日が暮れていた
トワが車でむかえにきてくれた
「きょうなにしてたんすか?」
携帯なおしてた
「おれさっき時間あったんでサーフィンしてきたっす」
どうだった?
「いやあ、やっぱたのしいっす、でもまだ波すげえたかくてこわいっす」
へえー見てみたかったな
「おれなんてまだまだっす、ともだちとやってんすけど、おたがいけなしあってて、でもそのほうがうまくなるっす」


ゴールドコースト空港でおろしてもらう
「おれ実家熊本なんで日本帰るとき東京寄るっす、けんさんのライブ観てみたいっす」
トワはすばらしい男だった
まるで太陽からやってきた男だった
だってほら夕焼けに向かって帰ってゆくよ


アンといっしょにジェットスターの出国カウンターへ
行きの飛行機であんなにファッキンジェッツだったのにいともたやすく通過
なんなら荷物の重さも計られなかった
なおさら行きのイカサマジェッツが憎たらしい


19時搭乗口
アンはパッタイを食っている
アンはシドニーにかえってしまう
ぼくは日本へ
アンは7年前ぼくがはじめて歌をつくって人前で歌った初ライブをたまたま目撃したひと
本とか映画好きなんだねって言われた
会った時間はすごく少ないけれど
アンはぼくのともだち
田口トモロヲにインタビューしただかするだか言ってたアン
握手をしてわかれた




飛行機にのりこむ
帰りは直接成田空港にいくのではなくメルボルンで乗り換えになる
約3時間の飛行
斜めうしろに座ってる太らせたアントニオバンデラスがあきらかにどんよりと酒臭く、隣に座ってパソコンで仕事してる風のイタリー系イケメンサラリーマンになにやら話しかけている
迷惑だろうなと思いきや、意外な展開に
トッティがなにかちょこちょこ話すたびにバンデラス爆笑
どうやらトッティが非常にクレバーでユニークな会話能力を持参しているらしくバンデラスとにかく爆笑、ひいひい言い出す始末
スチュワーが通るたびにバンデラス酒を買いトッティにもおごりスチュワーにもなにやら冗談を飛ばし
ああ、こういうところは日本の場末の酒場と変わらない
おかげさまで仮眠すらとれなかった



22:30メルボルンに着陸
ここが一番緊張していた
次の出航が24:10
実質1時間くらいでまた受付やらセキュリティやら審査やらこなさなあかんかった
しかも国内便から国外便までの道がわからない

しぜんと早歩き、いや遅走りで移動するにたけん
空港がむちゃくちゃに広い、メルボルン空港がスーパーだとするとゴールドコースト空港なぞ駄菓子屋ばい
途中で外にでた瞬間から妙に不安になり、これはまずい、すこしでも道を間違えると変なほうにいってしまう、アボリジニの生霊にブーメランで狩り殺される、それはあかん、おれは日本に帰りたい、レシートいいですとか言う暮らしに戻りたい
こういうとき火事場の馬鹿力というものがひとには働くものであり、つなぎを着た空港スタッフと思しき男につかつかと歩み寄り
イクスキューズミー、ウエアーイズメルボルンエアポルト、インターナショノーデパルチャー
とすらすらと話すことができた自分に喝采、事実これがこの旅でいちばんまともに話せた英会話であり、なんと言われたのかは忘却したが、この建物の2階だようまくいくといいな、みたいなことをつなぎが言ったのが瞬時に飲み込め、それに対してもぼくは
サンキューソーマッチ、グッデイ
と自然に返すことができ、よい1日をっておめえもう23時だよアホちゃん、と思いつつもスムーズに国際ターミナルまでいけたのだった

受付は無人であった
おそらく空港スタッフはみんな定時で帰宅したのだ
旅行者はなにやらATMのようなものを操作して手続きをしていた
画面を見る、英語でなにがなにやらわからない、パスポートをスキャンする、反応しない、tryとばかり言われる、どうしたらいいのかわからない、手間取る、あせる、アクセル、アセトアルデヒド、汗とアルコールでひどい人、それは水を飲まないからや、店員さんにいってお冷もらいまひょ、と漫談をしていたら急にピコポンと鳴って、チケットがでてきた

とにかくよかったよかったっちゅうことで荷物検査へ
顔がぶこぶこしたポリスに速攻で我がカバンがはねられる
え、なんぞ
脇からスティーブブシェミが出現してチェックしていいかと聞いてくる、もちろんどす、なんもやましいことありまへん、ブシェミかばんを開ける、使用済みの下着類をかぐ、コンタクトレンズの洗浄液をふる、やがてひとつの瓶を手に持ち、これはいけないぜボーイと言う
ベジマイトである
なんやねん、ベジマイト危険なんかい、サリンじゃあるまいし、オーストラリアの文化を広めたいとは思わんのか
とにかくベジマイトは没収される
これは予想外だった食ってみたかったのに
あのベジマイトはきっと今夜ブシェミの食卓にあがっている

パスポートと顔面を照らしわせるゲートは自動改札みたいになっててすんなり通れた
ゆるいなオージー

遅走りで搭乗口へ
無事に飛行機に間に合う
なぜかフラフープの練習をしているオバタリアンがいる
最後まで自由な国オーストラリア



飛行機にのりこむ
3列席の真ん中の席
右に座ったジョージクルーニーに話しかけられる
「メルボルンは好きか?」
・・・(いや乗り換えで降りただけだからよくわからない、って言いたい)
「オーストラリアにはなんできたんだ?」
ワーク(ちがう)
「そうか、おれはメルボルンが好きだ」
マイフレンドイズゴールドコースト(ちがう)
「おれの妻は日本に住んでるんだ」
へー、、、アイリブドインカツシカ(つうじるかしら)
「カツシカ?どこだそれは、おれの妻は品川に住んでいる」
・・・(あ、そっからね、30分ぐらい電車で行ったところに住んでるんよ、って言いたい)
「妻のお母さんが病気でね、脳をわずらっててね、それで今回日本へいくんだ」
・・・(それはお気の毒に、、、って言いたい)
「・・・(こいつ全然英語だめだな)」
・・・(全然英語だめだわ)

そこからクルーニー沈黙、なんとなく気まずい、パソコンで海外ドラマを見始めるクルーニー
左隣はほっそりしたオバタリ、飛行機備え付けのテレビでコメディ映画を視聴、声をあげて爆笑
うしろの席は母親と赤ん坊、ベイビー爆音で号泣
まったくの不眠のまま朝9時飛行機は成田に着陸する


降り際だめもとでクルーニーと最後に会話してみたいと思い勇気をだして話しかけた
ハウメニードゥーユーゴートゥージャパン?
「ああ、それなら14回だ、じゃあな!」
・・・(常連やんけ、じゃあ日本語で話してくれたっていいだろう)




なつかしいという感覚もいっさいなく成田空港を歩く
オーストラリアドルを円に両替する
みちゆく旅行者を横目に駅へむかう
駅の売店で日本人の店員から缶ビールを買う
16時間飲まず食わずの喉にたたきこむ
日本は蒸し蒸しして暑いな
上着をぬいでカバンにしまう
京成線に乗る
日本人のサラリーマンがいて
日本人の大学生がいて
成田駅からは日本人の高校生が乗ってくる
空腹をかんじる
おれは今なにが食いたい
おれは今だれに会いたい
車窓からは千葉の田舎の風景がみわたせる
みどりいろの木とあおいいろの空とつちのいろをした地面だ
旅はまだつづいている
きみもきっと今おなじ空をみている



goldcoast




「起きて、いくよ、まあ別にひとりでもいくけど」



こちこちの目を指でおしひらいて3分で外に出る
アイビスがゴミを荒らしてる
朝6時
工事現場ではもう労働がはじまってる
クレーンが青空につきささる

オージーは朝はやく働きはじめて昼3時に帰る人も多い
それはそうだ
ゴールドコーストの朝はほんとうに歩きたくなる朝だ
東京のあの殺伐と殺気立ったコンクリートとアスファルトの朝とはかけ離れすぎている
みんながみんなあたらしい空気を吸いこみ
空いっぱいに手足を伸ばす
鳥や虫や木とおなじ場所に人間もまた立っている


すぐに海に着いた
もう日はのぼったあとだった
砂は真っ白で手のひらにのせてもさらさらと手からすべりおち一粒も手に残らなかった
砂というより砂糖みたいだった
その砂糖のうえを歩くとむぎむぎという心地よい音がした
靴がその感触によろこんでいた

いろんな人が朝をたのしんでいた
ジョギングする人、仕事へ向かう人、ただ海を見ている人
通勤の道がビーチだなんてさいこうだな

ひとりの少女のバックパッカーが、20歳はいってなさそうだった、ビーチにいたおばあさんにカメラを渡して写真を撮ってもらっていた
少女はその写真をみるたびにゴールドコーストのあの朝の光と匂いを思い出すだろう
家族や恋人にそれを見せて自慢するだろう
そしていずれ年老いておばあさんになったときその写真をながめて
写真の中にじぶんとおなじ名前の少女をもう一度みつけるだろう


いままで日本で見てきた海がぜんぶじょうだんに思えるぐらいの海
こんなにきれいな色が世の中にあるなんてなにも言葉がでなくなる
海をみるとき人はみんなおなじ顔をしている
ぼくらはずっとずっと昔に海から陸にやってきた
だからこの骨や肉や血や涙すべてに海がはいってるのだ


ホテルに帰ってアンはまた寝た
ぼくは本を読んだ


昼になってともだちと飯を食いにいくといってアンは出ていった
ぼくは冷蔵庫にあったローストチキンをきりとってサラダとチーズと食べた
白状するとこのローストチキンがオーストラリアの食事のなかでいちばんうまかった
しっとりしていて鳥の味が濃厚だった
オーストラリアの広大な大地でストレスなく育ったせいかしら


夕方になってアンと繁華街へでかけた
とちゅうでまた海を見た
ぽつんと波打ち際にインド人の母と子が手をつないでいた
そのときおおきめの波がやってきて母と子は波の中で転んでしまった
服も頭もぬらした母と子は夕焼けのなかでわらっていた
いきることはうつくしいかもしれない
鼻の奥がじんとして泣いてしまった
アンにはばれてないはず



パブにいった
満を辞してオーストラリア初の居酒屋
カウンターにいってビールをたのむ
飲みたいビールの銘柄のサーバーをさしてディスワンといえばビールをくれる
ギネスだけは注いでから泡が落ち着くまで待つから時間がかかる
カウンターのお姉さんに「チップス?」と言われたので
げげげ、そうか、チップをやらなきゃあかんのか、ジーザス、こりゃ失礼した、でもいくらあげればいいんだい子猫ちゃん、と思いながら財布をごそごそしてたら
この愚鈍なジャップの様子を察したのかおもむろにポテトチップスの袋をつかんで
「チップス?」
ああ、じゃがいもせんべえのことですか、こりゃ失礼した、でも今はそんなに食いたくないんだベイブ
みたいな顔をしてたら、それでもポテチをつきだしてくる
ノーマネー?
「ノーマネー!」
センキュー
なぜかポテチをただでもらった

酒を飲まないアンはラムコーク
テレビではラグビーの試合
「ルールわかる?」
わからない
「アメフトとどうちがうのかな?」
わからん
店の脇ではひとりの男がギターを弾き歌っていた
だれかのカバーみたいだった
話したい人は話し聴きたい人は聴きパブは心地よく自由だった
「オージーはほんとにいいと思わないと拍手しない、そのかわりほんとにいいと思ったら自分ひとりだってがんがん拍手するよ」


そこから日本のライブハウスをめぐる音楽事情の話に発展
ライブハウスをけなすミュージシャン
ミュージシャンをなめてあつかうライブハウス
売れないのはこいつらのせいだ
おまえらが客よばねえからだろ
こんな構図がある限り日本の音楽シーンはだめです
ミュージシャンと店は圧倒的にコミュニケーションが足りない
事務的な会話ばかりで音楽の話すらしない
だから腹のさぐりあいみたいになって疑心暗鬼になる
ただしこれは実感として東京だけでの話です

ライブハウスとミュージシャンが信頼関係を築いて一丸にならないといいシーンはうまれない
それにはあとほんの少しの会話だけでいい
シーンをつくるっていうのは馴れ合いとはまったくちがう
シーンは日本語でなんていう、景色だろう
音楽はひとりのためのものじゃないのだから
どんな音楽だって橋なんだよ
ぼくやあなたがつながれる唯一の橋
だれにも聴かせてない歌があったとしよう
でもその歌ができた瞬間にそれは自分以外のすべてとつながる手がかりになる
どんな歌も鳥のように手元から離れてかってに旅をしている



トワとネットと合流
韓国料理を食べにいった
隣のギャル2人が日本人だった
料理が多すぎてトワたちがパックにつめて持ってかえった


「あした仕事はやく終わったら空港まで車でおくるっす」
ネットとは今夜でおわかれ
すごくいい奥さん
まるで邪気というものがない
シャイなのにすごく気をつかってくれる
ディアブロとストリートファイターにはまってるんだってさ
馬鹿旦那っていう日本語だけ使える


ホテルに帰る


「食ってばっかになっちゃうね」
食っちゃ寝ですよ、ふとるよ
「あした昼なにしようか、クジラみにいく?」
うん、いく



8時に起きた
ゆうべアンの飛行機はゴールドコーストにはつかずブリスベンに着陸
電車とバスとトワの車を乗り継いでホテルまで命をからがら鳴らしてやってきたアン
「おなかへってる?チキンとブルーチーズあるけど」
「マック食べた」
「栓抜きないんだけど」
「トワくんはそういうとこぬけてる」


ホテルの外に出てトワの車を待った
「おい、おまえらタクシーに乗りたいんじゃないのか?」とタクシーに話しかけられた
あいうぇいとまいふれんど
大嵐は跡形もなくなくなりすばらしい晴天
ゆうべとはまるで別の国みたい
手をつないで歩くインド系の親子
自転車をこぐひと
スケボーですべるひと
はだしでタンクトップのひと
路面電車
日曜日
ゴールドコーストがやっとはじまる


トワの車が10:30にやってくる
助手席には奥さんのネット
朝飯を食いにいこうということになり店にいくのだがことごとく満員
路上まであふれかえる人人人
朝だというのにみんなディナーのようなボリュームを和気あいあい
「オーストラリアはなんかおかしくて、車めっちゃ多いんすけど、駐車場全然ないんす、なんも考えずに建物たてちゃうんだよなあ、おかしいす」

やっとあいてる店があり4人で突入
「オーストラリアはある程度のチェーン展開はしてるけど、個人経営のカフェがはやってる
スターバックスとかできたけどオージーはいかないからすぐつぶれたし」
見渡すと日本人客もいる
日本人の店員もいる
メニューを見る
どれも高い
オーストラリアは物価が高い
でもそのかわり給料も高い
コンビニ店員みたいなのでも時給1700円くらいある
土日はその倍
社会保障もちゃんとしてるらしい

松屋の朝定が食いたかったがなかったのでベーコンエッグバーガーに決める
たいへんにジャイアントである
ナイフとフォークで切ろうにもパンがじょうぶで切れない、そのまま手でわしづかんで嚙みちぎる、うまい、なぜかたこやきソースの味がする
ぼくは朝いちばん腹がへっているタイプの人間なのでへいちゃらに食う
トワ、それ量多くない?
「おれふだん朝は2回食うっす」



「カランビンの動物園にいくっす」
道中海が見えるのだが前日の大嵐を受けて波がはげしい
白濁してカフェオレのようになりながら爆発を繰り返している
こんな日にサーフィンしたらどうなる?
「死ぬっす、ばかっす」
頭上にはヘリが飛んでいる
バカなサーファーをとめるためだろう



動物園に上陸
受付のお姉さんが日本人だった

今から言っておく
動物園の写真をたくさん撮ってブログにのせよう、リア充具合を見せつけよう、ばっしゃっしゃっしゃ
という魂胆だった
しかしこの翌日携帯電話が昇天するため今やなんの記録も残っていない
コアラを20匹見た
トラックぐらいのおおきさのワニを見た
カンガルーと添い寝した
ウォンバットもタスマニアンデビルも見たし
エミューやクジャクにいたっては檻にはいってなかった
といってもきみたちは写真がないと信じないんだろうジャップ
「クジャクのオスは羽を広げてメスにアピールするっていうじゃん?」
うん、そうじゃないの?
「じつはメスはオスの羽になんて興味なくて鳴き声で決めるらしいよ」
なにそれ、いい話
「ね、いい話」



カランビンからクーランガッタまでゆく
50年代のクラシックカーのショーをやっているらしい
ぼくは車には乗れないし興味がないからなにがなんだかわからないが
とにかくきらびやかな車がたくさん並んでいた
ライブもやっていて演奏の音がどこからか漏れている
スカみたいなロカビリーが流れている
こういうイベントのとき日本人ならみんなこぞってエルヴィスみたいな格好をするんだろうが
オージーは誰もそんなことはしない
オージーはどこまでもオージーである

暑いのでみんなでアイスを食う
ぼくだけ食わずにぼーっとしている
寿司屋があったのでそのメニューを見ている
ほとんどボウズにした女の子が自分よりでかい犬をつれている
その犬に少年が笑いかける
レコード屋にいったけど高くて買わなかった
スーパーにいってベジマイトを買った
ベジマイトってのはすげえくさいと言われてるオーストラリアの瓶詰の食い物です
どんな味がするのやろ
ぼくは世界で一番くさい缶詰シュールストレミングスを食ったことがあるからたかをくくっている


「もっと海の近くにいけるっす」
また車を走らせる
信号で止まった時バス停を見ると
上が緑、ズボンが紫、体もほそくて髪はみじかく刈りあげたパンクスばあさんがいる
サングラスをしている
パンクスだけど座り方は完全にばあさんである
それを見ていたらなんだか泣けてくる
みんなちゃんといきている


海をみにゆく
芝生
アイビスっていう鳥がたくさんいる
日本でいうカラスみたいな存在の鳥だが
おおきさはトキぐらいあって顔がこわい
七面鳥もよく歩いている
こどもがごろごろ転がっている
海は爆発している
なんども波がめくれあがってそのたびに虹ができる
「あそこに島があるのわかるっすか?」
うん
「あのへんサメがでるっす」
へえ
「毎年かじられる人いるっす」

ゴールドコーストの海はぜんぜん海の匂いがしなかった
あのこびりつくような潮の香り
あれは日本の海特有のものなんだろうか



「じゃあ帰るっす」
日が暮れたゴールドコーストを走ってゆく
釣竿をもった若い男女4人が歩いてる
「このへんの家みんなサーファーっす、やべえっす」
ゴールドコーストはほんとうにサーファーの聖地らしくて世界レベルのプロサーファーが住んでいてふつうにそのへんの海でサーフィンを楽しんでいるらしい
なにせトワはサーファーなのだ
そりゃあ興奮するだろうね
ぼくがかつて下北沢のスタジオでリハーサルにはいったときエレベーターでART SCHOOLの木下理樹と遭遇したけどそんな感じかしら
いまにも自殺しそうな顔をしていた
ART SCHOOLはよく知らなかったので声はかけなかった

日が暮れたカフェの前を通り過ぎる
店のなかは電気をつけてなくて真っ暗になりかけてる
男と女が一組机をはさんでなにか話してる
たのしそうにも見えるけどかなしそうにも見える


車をトワのうちにとめて夜市にくりだす
外はきゅうに寒い
それもそうでオーストラリアは日本と逆で今のんびりと冬の支度をしているところ
マーケットをひやかす
ナタリーポートマンを金髪にしたようなレースクイーンがいて
「あのこたちと写真とるっす!」
ただかな?
「ただっす!」と言うので
ナタリーたちと写真をとって10ドルとられる


晩御飯は中華
チャーハンと辛いラーメン
アンとトワとネットがイチゴ畑で働いてたころの昔話をきく


ホテルに帰る
きのうの残りのワインを飲む
アンは日本に帰りたいと思う?
「思わない、こっちのほうがあってるみたい」
ジョーストラマーの話で盛り上がる


「あした起きられたらビーチに日の出見に行かない?」
うん、いく



朝6時
ゴールドコーストは嵐だった
空港の自動ドアがあくたびにはげしい雨と風がはいってきた
ひどく腹がへっていた

なにかくいたい
食事をするには日本円をオーストラリアドルにかえる必要があった
両替所には黒人の女が菩薩のように鎮座している
あにはからんや、ぼくは生涯一度も黒人の女と話したことがないのだ
いっきに緊張がみなぎり両替所のまえをうろうろしたり椅子に座ってぼーっとしてるふりをした
そういえば中学生のときはじめてエロティックブックを買おうとした時もこんな気分だった


一歩が踏みだせず空港内をうろうろした
するとジーザス、なんと日本語がどこからか聞こえてくる
1軒のオープンキャッフェで男女4人が日本語で話している
メロコアバンドの男2人とそのファンの女2人といった感じの4人がまさかの異国で平気の平左の朝飯前で瓶ビールをきめて団欒している
おいおい、ここはオーストラリアだぞ、地元のドトールじゃないんだ、なんでそんなスタンスでいられるんだ、けしからん、ふざけてる、なげかわしい、できれば仲間にいれてほしい、寿司の話がしたい、ブラフマンの話でもいい
と思ったが異国にきて日本人と仲良くなるなど愚の骨頂である
この出来事により我が反逆心が開花
そそくさと両替所に突進
「イクスチェンジ、オーケー?」とウーピーに話しかけることができた

ウーピーはにこやかにハローだかハワユーだか言った
だまれジャップとっとと猿山に帰れと言われると思ってたからまずその笑顔に安心した
そこからはとんとん拍子にことがすすみ
というかウーピーが何を言ってるのか全然わからず
仕方ないからイエスばかり連呼し
たまにイェとかヤとかも混ぜ
きづけばオーストラリアゴールドバーグを入手
ウーピーに最後エンジョイと言われたがいったいはたしておれはぼくはわたしはエンジョイできるのだろうか



晴れてキャッフェにいってもよかったがまだ緊張がつづいていた
そもそもなんて注文すればいいのだ
ガラスケースを見るとさまざまのパン料理がならんでいる
どれも巨大でうまそうだ
しかし名前がわからない
おおラスティネイルどれだけ涙をながせば
ふたたび挫折したぼくはキャッフェをはなれて読書をはじめた
気をまぎらわそうと思ったのだ
腹へってないことにしましょそうしましょ
こんなんでまぎれねえよと思ったのだが予想を完全に裏切り非常に気がまぎれてしまった
まぎれまくってしまった
リチャードブローティガン「アメリカの鱒釣り」
日本じゃあまり進まなかったのにここにきて没頭してしまった
脳は異国に来て日本語を欲しがっていた

しばらく読んで頭をふとあげると自動販売機がある
そうか、その手があった
飲み物だけでなく軽食もある
これにしよう
しゃべらなくてすむ
ということでオーストラリアでのはじめての買い物はスニッカーズ
日本じゃ絶対買わない
邪悪な甘さがすばらしく身にしみてリスのようにすこしずつ食った



しかしいかんせん口の中が甘ったるすぎてコーヒがほしくなる
朝9時
到着から3時間もたっている
午前中までにはなんとかコーヒを手にいれたい
そんな羨望のまなざしでキャッフェを眺めていたらカウンターの年端もいかぬ黒人の女店員と目があう
にこりとした仔馬のような目で、買わないの?と訴えてくる
ええい、こうなれば、ここで玉砕しても武士の本懐、おれは記録ではなく記憶に残りたい、がむしゃらにカウンターに接近、ようやくいざ尋常に「ホットコーフィ」と言えた
女店員「ワッツ?」
ワッツじゃねえよ、わかるだろうがよ、と思ったが、もう一度「カウフィー」と言ってみたら、オケ、とのこと
スモー?ルージ?と聞いてくるので「ラージ」と答え
シュガー?ノー、メルク?ノー、ブラック?オーケー
と交渉は破竹の勢いで進み、少し待つと「ブラック?ブラック?」と女が言い出したので
ディスイズミーと言い、コーヒを受け取ることに成功
これはわたしですってなんやねん
破顔しつつ出来合いの椅子にふんぞって爆飲
となりのテブールでは中年夫婦が芋だか卵だかをなにがしかしたものをがつがつ食っていた



アンは15時に空港に着くことになっている
9時間なにもすることがない
空港にはさまざまの人々が歩いている
ずっしりコートを着てマフラーを巻いた中国女もいれば
上半身裸で裸足で歩いている入れ墨じいさんもいる
というか裸足で歩いている人は老若男女かかわらず多い
日本の空港で裸足で歩いていたら好奇の目にさらされるだろうがこちらではそんなことはない
ピジャマの人もいるしゴスロリの人もいる
みんな好き勝手な格好をし
みんな何も気にしていない
人と同じじゃないと気がすまない日本とは大違いの風土である
ぼくはオーストラリアがすこし好きになりはじめていた


アンからのメール
嵐のため飛行機が遅れてる
到着は19:40になるという
9時間待ってさらに4時間半待つのは正直ぽるんがである
嵐なのだから仕方ない待とう待ちましょうの16:30


アンの友人のトワが車で迎えにくるから合流せよとの達しが届く
空港の外、濁流の中トワと合流
ライクアローリングストーンと言って挨拶しようとしたらトワは日本人だった
あ、はじめまして、すげっすね雨、だいじょぶっすか、やべっすね、なんでこんな日にまた、いやこんなん1年に1回とかですよ、いやあやべえなこれ、前みえねえな、あ、なんか音楽やってるとか聞いたっす、今アンさんからメールきたんすけど、なんか21時になるみたいで到着、いやあ、ってか今日これないかもしれないっすよ、この雨じゃ、やべっすね、ほんとは結構街とかいい感じなんすけど、いやあ全然まえ見えないっすね、うわ、すげ、どうしたこれ、なんか先ホテルいっててって話なんで今からイパネマいっちゃいますね、めしも食っちゃっていいって話っす、ほんとはみんなでどっかいきたいんすけどこのへん店しまんの早いんすよ、だから先スーパーでなんか買っちゃったほうがいいっす、いやあなんだこの雨、なんか遠くからきてもらったのにすんません、あしたも雨だったらどうしよ、なんでこんな嵐なのに車すげえいるんだろ、みんなどこいくんだろ、オージーは雨でも傘ささないんすよ、ほら、あっこの二人、傘さしてないし裸足すからね、あ、ここがコールズってってスーパーす、もうひとつウルワースってのがあってその二つがこのへんのイトーヨーカドーみたいなもんす
って言われた


野菜は日本にないものばかり
魚介は高い
肉とパンは安い
酒も高い
20枚切り85円の食パン、ブルーチーズ、パックのグリーンサラダ、ローストチキンまるごと1匹800円
瓶ビール6本セット、赤ワイン
を購入
レジは無人でセルフだった



18時ホテルに到着
ここでワイファイが使えずに携帯電話が使用不能になる
おれ今からかみさん迎えにいってそっからアンさん迎えにいくっす、ちゃんと空港ついてればいいんすけどどうなるかわかんないす、だから、ああ、どうしよ、携帯つながんないし、じゃあこうしましょう、この窓の下からちょうど駐車場見えるっす、22:30から23:30までのあいだに下見ておれの車があったらアンさんといっしょにきたってことなんで、ドアあけてください、いなかったら今日はアンさん無理だったってことなんで明日の9時にまたくるっす、9時には必ずくるっす、すげえ原始的な方法なんすけどこれでいきましょう、飯はさき食ってていいっす
って言ってトワは出ていった
とてもいいやつだと思った


なんにせよ27時間ぶりの念願の食事である
瓶ビールを飲もうとしたその矢先、ガッデム、栓抜きがない、缶にすればよかった、ホテル内のどこをさがしてもファッキン栓抜きが見つからない
うちの父は歯で瓶のふたをあけられるので真似してみたら歯がちぎれ飛びそうになったのでやめた
手ではあきらかに無理そうである、泣きそうになる
しかしティースプーンの柄が細いことにきづく
その先っぽを王冠の隙間になんとかねじこんでぐりぐりやると手ごたえが
少しずつ王冠がひしゃげてくる
スプーンで壁をすこしずつ掘って何年後かに脱獄する映画あったっけ、あれ、ショーシャンクだっけ
とにかくそのショーシャンク作戦により1時間の格闘の末、ついに瓶があく、飲む、ぬるい、だが、しかし、うまい、からだじゅうの細胞がよろこんでいる
こつがわかったので2本目からは3分であけられた

ブルーチーズをかじる、葉っぱをむさぼる、ローストチキンをかみちぎる、食欲の奴隷、こんな遠いところまでやってきてこんなさびれたホテルでおれはひとりなにをやつているのだ、赤ワインを飲む、まずい、うまい、雨、やまない、外、暗い、ドントクライ


22:30になってびしゃぬれのベランダにでて駐車場を見ると車がとまっている
あ、そういえばトワの車がどんなんかおぼえてないやん、どうやって判断すればええんや
3台止まってるうち1台のヘッドランプ?目?が光ってる
あれはトワからの合図だろうか、あれかな、でもちがう気がする、あんな車じゃなかった気がする、あ、外人がふたり車にちかづいてゆく、なにか話している、どうしよう、トワがかつあげにあってるのだとしたら、さいわいここにフォークとナイフはある、さしちがえるか
と思ってたらもう一人がサーフボードを持ってきて、わいのわいの言いながら乗り込んで車は行ってしまった
トワじゃなかった
しかしきゃつらこんな大嵐のなかサーフィンしにいくのだろうか
欧米人とはなんたるタフネスと勇気の持ち主よ、そりゃあ日本人は戦争で負けるわよ


すべてを放り投げて眠ることにした
アンがどうなったのか心配だったがトワがうまくやってくれてるだろう
あしたの朝なにもかもわかるだろう、しなねえよ、だいじょうぶ
23:30消灯



ごそごそ音がしてドアがあいて誰かがはいってきた
「ごめん、おそくなって」
アンの声がした
夢だと思った
1:30だった



3ヵ月前にアンとメールのやりとりをしていた
おたがいの好きな映画や本や仕事の話をしているなかで
そっち遊びいこうかなということになり
じゃあこっちきなよということになり
ものごとがとかとんとんと進み
かくしてぼくははじめてひとりで海外旅行をすることになった
6月3日ぼくは生涯ではじめて赤道をまたいで
オーストラリアのゴールドコーストにむかっていた


成田空港のジェットスターの受付は旅行者の行列だった
そのほとんどが外人だった
ここは日本なのにもう外人だらけだということに出鼻をくじかれた
英語なんてサンキューとソーリーとライクアローリングストーンだけ話せればいいだろう
そう思ってなにも準備してなかっただけに並んでるうちににわかに緊張がはじまった


もうすぐ離陸の時間だというのに行列はいっこうに減らず
なにかハプニングがあったみたいで受付カウンターは1つしか機能していない
ジェッツたちは異様にぴりぴりしていて
無理やりつくられた冷たい笑顔がかえってこわくて
荷物の重さをはかったら
「貴様の荷物は規定量を越えている、全部身につけるか捨てるかしろ、さもなくば預けろ、ってかもたもたすんな、時間かかるんならそっちでやれ、こっちはこっちで次の客さばかなあかんねん」
みたいなことを叱責され
ぼくはとりあえずライクアローリングストーンと言ってその場を穏便におさめたかったが、緊張状態にあったため、どうすればいいのかわからず、ってか規定量超えてないんだけどハゲ、と思いながら無理くり荷物を減らそうとつとめ
パーカーを2個着たりタオルを首や腰に巻いたりコンタクトレンズの洗浄液を手にもってみたり、こんな旅行者見たことねえよハゲと思いながらがんばっていたら
「まだかよ、どうすんだよ、チェックインオアダイ」とハゲのジェッツに言われ
もういいよこんな格好したくないですよ全部あずけるよとなり
「やれやれ、そっちのカウンターで金払えば預けられっからさっさとしなはれ、のろまのトーマスくん」みたいなことを言われ
なんでこんなに凌辱されなきゃいかんのかと思いカウンターにいったら
「16000円です」と尋常ならざる高値をふっかけられ完全に自我が沈没
金を払いハゲ飛行機にやっと乗り込むも気分は地底までさがっていた



隣は外人、前の席も外人、斜め前も外人、スチュワーも外人
ここは日本なのにもう日本じゃないのだ
誰もかしこも何を言ってるのかぜんぜんわからぬ
座席にはテレビジョンがついていてこれで映画や音楽を楽しめるつくりになっている
これはもうゴールドコーストに着くまで虚構の世界に引きこもろうということになり操作してみると
是枝監督の「海がきこえる」やデヴィッドボウイの新しいアルバムやら存在しており
こりゃあいいわいとなり、ぽちぽちしていると、pay to showという文字が立ちはだかる
金を払え、観たいなら、という意味であるメイビー
またか、また16000円とられるのかと思いあたり、おれは搾取されるだけのでくのぼうにはなりたくないと決意し
そっとハゲテレビジョンの電源をおとした




乗り込んで3時間、夜11時になり機内食の時間がおとずれた
僕は予約の時に機内食をたのんでいないので僕にはなにもおとずれない
まわりの外人たちにはそれぞれ機内食が配布されはじめた
しかしなんたることか
機内食がこない人は皆カバンからなにやら取り出して思い思いに食事をとりはじめたのだ
はっきり言って自分以外のすべての人間が食事をとりはじめたのだ

スチュワーを呼びとめてビールやワインを注文する熟年夫婦もあり
斜め前の黒人はバナナとケバブのようなものを食っており
僕の隣のケリーオズボーンのような女の子は銀だこを食いはじめる始末
この精神的リンチは思いのほかこたえた

酒をたのみたかったのだが、たのみ方がわからないし、果たして日本円で払えるのかという懸念、クレジットカードはもってないし、ていうか日本語のわかる乗務員は胸に日本国旗のバッジをしているという放送があったが、徘徊してるスチュワーは屈強な黒人スチュワーしかおらず、リンダとかマチルダとかそういう名前しか見つからず、ついぞ飛行機をくだるまで日本国旗バッジをしてるスチュワーはひとりもいなかったし、斜め前のカップルはなぜか座席に座らずせまっこい飛行機通路内でえんえん立ち話してるし、え、なんで、どうしたの、ここ立ち飲み屋ちゃうし、そこでよく見ると女のほうの尻がたいへんにジャイアントであり、おそらく座席に座れない事件が発生しているのだ

そのまま朝になり、機内食の時間になり、黒人はまたバナナを食い、熟年夫婦はナッツをかじり、ケリーオズボーンはチョココロネを食い、尻カップルはどこにいったのか唐突に姿を消し、たぶん途中下車したんだろう
日本代表にたないけんは不眠のまますべてのナーバスを抱きしめて
朝6時飛行機はゴールドコーストに着地する




船をみている
灯台をみている
空の色が濃くなって
半ズボンのひとたちが帰ってゆく
すこしずつ街に灯りがついて
僕は夜に色があるなんてしらなかった
過去と未来を砂にうめて
ふたりはだれにもわからない言葉ではなした


きみは一年に365回ライブをしたいんだねと言われたことがある
それはちがう
それは多すぎる
おれは一年に300回ライブがしたい


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