2011年11月13日

『吉本隆明『心的現象論』の読み方』


 『宇田亮一吉本隆明『心的現象論』の読み方』(宇田亮一、文芸社)という本は、吉本隆明の著作について書かれた本の中で最もわかりやすく、かつ『心的現象論』の本質をストレートに突いた本だと思う。動物の心とヒトの心の違いを吉本はどう考えたかを「ネコは“外界にいるネズミ”を視ているが、ヒトは“心の中のネズミ”を視ている」という言い方で説明した個所などはその一例だ。

 実用からはるかに離れた場所で書かれた『心的現象論』を実用化するとしたら、どうこの大著を読めばいいのか。そういう著者の問題意識が、わかりやすさと本質性というこの本の性格を決定づけている。団塊の世代の私は長いあいだ吉本ファンを自認してきたが、この本によって実は自分が「吉本読みの吉本知らず」だったことに気づかされた。そのときの衝撃は「王様は裸だ」と言った子供のひと言の衝撃にやや似ている。

 そしてもうひとつ衝撃的だったのは、『心的現象論』を、そして吉本の諸著作を深く読みこんだこれだけの本が、いわゆる知識人としてのキャリアを積んだ人物によってではなく、キリンビールという大手企業の幹部を務めた元ビジネスマンの臨床心理士によって書かれたことだ。私たちの社会の知識と思考の主要な担い手が交代しつつあることを鮮やかに示す本として私は読んだ。

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      ブックカフェ奥出雲

       2011.11.19sat−11.20sun
          (詳しくは下の写真をクリック)

    ブックカフェ
 
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       『流砂』4号(意外に売れているようです)

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