やはりこの男は常軌を逸している。金正恩が米トランプ政権への「宣戦布告」とも言えるICBMの発射強行。さらに8月には核実験も準備中という。米朝開戦の悪夢は、もうすぐそこに迫っている――。


「アメリカに教えてやる」

「米帝(アメリカ)との長い戦いも、いよいよ最終局面に突入した。われわれの警告を無視し、意思を試してきたアメリカに対して、明白に教えてやる時が来たのだ。

われわれの戦略的選択を目のあたりにしたアメリカの奴らは、とても不愉快に違いない。(7月4日の)独立記念日の贈り物は気に入らないだろうが、今後共、大小の贈り物を頻繁に贈り続けてやる!」

7月5日、金正恩委員長が国営通信社の朝鮮中央通信を通じて、米トランプ政権に向けて「宣戦布告」した。

その前日、北朝鮮がついにICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射実験を強行した。北朝鮮の報道によれば、このミサイルは「火星14号」と呼ばれ、39分の飛行時間で高度2802km、飛距離は933kmに達したという。

ロフテッド軌道と呼ばれる故意に高度を上げる方式で発射しているため、通常軌道で飛ばせば7000kmを超える射程となり、アメリカ本土に到達する。

この北朝鮮のICBM発射を受けて、韓国の韓民求国防長官は5日、恐ろしい発言をした。

「北朝鮮は続いて、6度目の核実験を強行する可能性が非常に高い。

北朝鮮の最終目標は、核兵器を搭載したミサイルを作ることだ。そのため、現段階において核実験の徴候は見られないものの、着々と準備しており、確実に行うだろう」

実際、北朝鮮は'06年に初めて核実験を実施した時から、常に中長距離弾道ミサイルとセットにしてきた。ミサイルを発射してから3ヵ月以内に、核実験を行うというのが通常のパターンだ。

昨年1月の4度目の核実験の時だけは、核実験の翌月に長距離弾道ミサイルの発射実験を行った。

こうした前例にならえば、韓民求長官が予言するように、まもなく6度目の核実験を強行する可能性が高い。

長年、北朝鮮の軍事動向を追っているソウル在住ジャーナリスト・金哲氏が語る。

「おそらく8月中旬までは、核実験は行わないでしょう。秋の収穫を前に朝鮮人民軍の備蓄米が不足していることと、軍は毎年真夏に起こる洪水の対応に追われるからです。

金正恩委員長も、夏は1ヵ月くらい休みを取って、元山や白頭山の別荘で過ごす習慣があります。今年は元NBAスターのデニス・ロッドマン氏を元山の別荘に招待するとも聞いています」

だが、8月下旬から9月上旬は要警戒だという。金氏が続ける。

「北朝鮮は9月9日に、建国69周年を迎えますが、この記念日の前に核実験を強行し、国威を発揚する可能性が高い。

韓国政府の分析によれば、金正恩委員長はこれまで、儒教の教えで『統治者の数字』と言われる『9』にこだわって発射日時を決めています。

このことから、日時を加えると合計27となり、縁起のいい9が3つになる主体暦106年(2017年)8月21日午前9時が6度目の核実験の〝Xデー〟ではないかと、韓国政府は睨んでいるのです」

金正恩核実験のXデーが「8・21」の可能性 米朝開戦の悪夢が現実に?



習近平の不気味な動き

北朝鮮のICBM発射を受けて、7月7日と8日にドイツのハンブルクで行われたG20(主要国・地域)首脳会議は、北朝鮮への対応が、大きなイシューとなった。

特に、G20の場で行われたトランプ大統領と習近平主席との2回目の米中首脳会談は、北朝鮮問題を巡って激しい応酬となったのだった。

いまから3ヵ月前の4月6日と7日、米中両首脳は米フロリダ州で初顔合わせとなったが、この時にトランプ大統領は、習近平主席に対して〝ビッグディール〟(大きな取引)を持ちかけた。

「とにかく中国の力で、北朝鮮を黙らせてくれ。方法は中国に任せる。経済封鎖で締め上げてもいいし、北朝鮮に軍隊を出したって構わない。

その代わり、わが国は南シナ海での中国の行動について、目を瞑ろう。オバマ前政権は、『航行の自由作戦』とか言って、南シナ海で中国と摩擦を起こした。だが、わが政権は、中国が北朝鮮への対応に尽力している限り、そのような行動には出ない」


中国の外交関係者が述懐する。

「わが国にとって驚天動地の提案だった。この時は、両国の貿易不均衡問題について、トランプ大統領から噛みつかれるかと思っていたら、そこは比較的穏やかで、代わって北朝鮮問題ばかり言ってきたからだ。

だがわが国にとって、自国の領土・領海である南シナ海問題と、しょせんは他国の問題にすぎない北朝鮮とでは、前者のほうが重要に決まっている。そこで習近平主席はニンマリして、『できるだけのことをやろう』と、トランプ大統領に約束したのだ」

習主席は帰国するや、4月15日に北朝鮮が行う「金日成主席生誕105周年記念軍事パレード」に、大物特使を派遣することに決めた。中国の外交関係者が続ける。

「特使に選ばれたのは、中国共産党ナンバー3の実力者・張徳江全国人民代表大会常務委員長(国会議長)だった。張委員長は、かつて金日成総合大学に留学し、金正日総書記が訪中した際には、自ら通訳を務めたこともある北朝鮮通だ。

張委員長の任務は、核開発を凍結し、ミサイル発射実験を控えるよう、金正恩委員長を直接説き伏せることだった。言うことを聞くなら、中朝の『血盟関係』を復活させ、多大な経済援助を与えようということだ。

だがあろうことか北朝鮮は、わが国ナンバー3の訪問を拒否したのだ」

すっかりメンツを潰された習近平主席は、怒りを炸裂させ、その後の中朝関係は、国交樹立して68年で最悪の事態になっていったという。

「習主席の命令で、北朝鮮に対する原油の供給をストップした。これによって平壌のガソリン価格が高騰し、一般市民が買えなくなった。

もう一つは、中国銀行に北朝鮮関連口座の取引をストップさせたことだ。北朝鮮は長年、中国国内だけでなく、世界中の取引において、中国銀行を利用してきたが、それを遮断したのだ」(同前)

中国が2つの大ナタを振るったことで、今度は金正恩委員長が激怒したが、トランプ大統領は歓喜した。トランプ大統領がツイッターで中国への美辞麗句を並べたのは、こうした中国の措置を評価したからだった。

だが、前述のように7月4日、アメリカの独立記念日にわざわざ合わせて、北朝鮮がICBMの発射実験を強行したことで、トランプ大統領の態度は一変。翌5日にツイッターで、怒りをぶちまけた。

〈中国と北朝鮮の貿易額は、今年第1四半期に、約40%も増加しているではないか。中国のわが国への協力なんて、こんなものだったのだ〉

金正恩核実験のXデーが「8・21」の可能性 米朝開戦の悪夢が現実に?



民間人100万人が犠牲に

ドイツでの前述の米中首脳会談でも、「中国はやれることはやっている」と釈明する習近平主席に対して、トランプ大統領は、いつもの捨てゼリフを吐いた。

「中国がやらないのだったら、アメリカがやる!」

米国防総省や軍関係者との協議・演習に何度も参加している村野将氏が解説する。

「トランプ政権が、北朝鮮はレッドラインを越えたと判断すれば、先制攻撃も視野に入ってきます。

奇襲効果を最大限高めるため、攻撃の第一波を在日米軍基地に依存しないとした場合、4月末に釜山に寄港していたオハイオ巡航船ミサイル原子力潜水艦に搭載されている約150発のトマホーク・ミサイルが主力になります。

それに、横須賀に常時展開しているアーレイバーク級駆逐艦、タイコンデロガ級巡洋艦が、巡航ミサイル攻撃に加わる。さらにグアムや米本土からB2ステルス爆撃機を派遣し、北朝鮮の防空網を突破して、地下施設などをバンカーバスターで破壊していきます」

米朝開戦となれば、3ヵ月の戦闘で100万人の民間人が犠牲になると、アメリカ軍は見積もっているという。

仮に韓国国内で100万人が犠牲になれば、約1200人の在韓邦人が犠牲になると見られている。また、在日米軍基地も北朝鮮のミサイルの標的になるので、日本列島のリスクは、俄然増していく。

8月に北朝鮮が核実験を強行した時点で、こうした事態は一直線に現実化していくのである。その意味でも、国際社会が結束して、北朝鮮の核実験を阻止できるかにかかっている。

「週刊現代」2017年7月22日・29日合併号より