チェンマイ市内を車で通っていた時のことだ。
ある裏小路に間違って入ってしまって、私は 表通りに出ようと道を探していた。

そのとき、小さなお店の裏側にあるキッチンとでも言おうか、屋台くらいの大きさの賄い所が目に入った。その小さな台所で中年の女が せっせと 客に出す食事を作っていた。私は女が立っている傍の俎板の上に置かれた丼に目が留まった。それは真っ黒い食品つまり女が既に作った料理だった。私の目は丼の天下盛りになった色の異様さに釘付けになった。

そのとき、女が他の料理皿に手伸ばした、その一瞬、その真っ黒い料理が急に白色に変わっかと思うと、同時に無数のハエが飛び散った。なんと黒い料理の正体は 無数のハエの色だったのだ。
ところが女はその光景にまったく慌てる事もなく  次の料理に掛かっていた。

裏通りからその店を通して表側の佇まいが見て取れ、その内側には数人の客が テーブルを前にして料理を待っていた。
ゲッ、こんな、不潔この上もない料理を食わされるのか!とんでもない物を見てしまった。衛生観念など まったくない。あの天下盛りになった無数のハエは、不潔な厠の 溜まり式肥え壷の中に止っていたかもしれない。いや きっとそうだ。よしんば違ったところで、同じように不潔極まりない汚物か、腐敗したゴミだめにたかっていたハエに違いない。

その日から、私は 屋台や不潔そうな料理店を見るたびに、この日の光景が目に焼きついて離れない。