1周目、読み終えた。何度も読まなきゃわからないのかとおもったが、最後に長江自身の「出版にあたって」でおおまかなネタバレをしてくれているので、結構溜飲が下る。ただし、この「出版にあたって」にてすべての仕掛けや真相が詳らかにされているとは思えない。何かもっと隠しているに違いない。隠された真実があるに違いない。
ググったところで『放送禁止』ほど解析が進められていないようだ。なので、ここで僕なりに気づいた真実や、疑問点をまとめておこう。最終的に僕なりの真実を仮説として結論する。
なお、(たぶんそんなにいないと思うけど)この本をこれから読む人にとって、著しく損害となるネタバレを含む記事になると思うので、ご注意。
主な登場人物やキーワードを整理しよう。
長江俊和 ・・・ この本を出版した人。長江の知人から紹介された、出版禁止となったルポ『カミュの刺客』を読み、すげーっと思ったので出版。
若橋呉成(わかはしくれなり)ペンネーム ・・・ 『カミュの刺客』を書いた人。フリーのジャーナリスト。熊切にあこがれる。
『カミュの刺客』 ・・・ 熊切敏(くまきりさとし)心中事件にについて、その真相を解明しようと、若橋が書いたルポ。関係者の死によって出版が見送られた。
熊切敏(くまきりさとし) ・・・ 映像作家。数々のドキュメンタリー映画を撮り、有名に。女優の永津佐和子と結婚。しかし、秘書の新藤七緒と不倫し、新藤と心中。
新藤七緒(しんどうななお)本名は伏せてあるので仮名 ・・・ 熊切の事務所の秘書。熊切と不倫し心中(睡眠薬の大量一気飲み)するが、熊切は死に、新藤は生き残った。『カミュの刺客』は、若橋が新藤に取材をし、当時の事件の真相を知ろうとするルポである。
神湯堯(かみゆたかし) ・・・ 日本の裏も表も牛耳る政治家。熊切の映画『日出ずる国の遺言』にて神湯を批判したことにより、熊切は神湯を支持する一派(カミュの刺客と呼ばれる)から憎まれるようになる。
森角啓二(もりかくけいじ) ・・・ 熊切プロダクションに勤めるプロデューサーで事件の第一発見者。
カミュの刺客 ・・・ これまでも神湯をディスる人が不審死をしていて、これらは神湯支持者のしわざと言われている。彼らをこう呼ぶ。
こういった前提があり、若橋は、熊切の死が心中ではなく、何者かによる謀殺なのではないかと考えている。若橋は、心中で生き残った新藤こそが、カミュの刺客なんじゃないか?という仮説というか確信を持って、このルポを書いている。のだが・・・!
以下、読んで気付いたこと。
◆P120 神湯系政治結社事務所に取材に行った若橋に対し、政治結社の男が言ったこと 「視覚の、死角」
P163 若橋が残した下書きより「原稿の中で、漢字の変換ミスをしている個所を見つけた。取材相手が言った言葉の意味を大きく取り違えていた部分があったのだ。」
きっと120ページのことを言うのだろう。正しくは「刺客の刺客」じゃないか。つまり、刺客を殺すための誰か、ということか?この、ギャグのような言葉がひときわ異物感があるので、何かあるだろうなと思っている。
さらにP121 で若橋は、男から「そのことが一刻も早く、あなたが気付かなければならない、喫緊の課題です。」と言った。
若橋呉成=わかはしくれなり これを並び替えると、「われはしかくなり」=我は刺客なり になる。
よって、若橋は新藤を殺害することを何者かに依頼された刺客であった。
◆新藤七緒=しんどうななお これもアナグラムになっていると思い、読み終えた後、紙と鉛筆で10分くらい悩んだ。もちろん読み終える前にもアナグラムを解くことはできるかもしれなかったが、あえて読み終えるまで解かないで置いたのだ。
「おんな」が作れる。残る文字は「し ど う な」である。
そこで僕は気が付いた。身の毛がよだった。「ど う な し お ん な」=「胴無し女」
最後まで読めば、その意味は分かる。
◆ただし、「くまきりさとし」や「ながつさわこ」もアナグラムなような気がするんだけど、分からない。アナグラム生成サイトを使ってもわからなかった。森角啓二なんて絶対不自然だろ、だからなんか隠れた何かがあるんだろうが、アナグラムであることはわからなかった。
◆熊切敏の、これまでの映像作品のタイトルと内容 P28、34
『死槌』(しづち)・・・99年公開。世界のエネルギー問題を扱ったドキュメント映画。熊切が世界的有名になったきっかけ。
『日出ずる国の遺言』・・・日本の政治家の腐敗を暴く。
『INU』・・・ある未解決事件の真相解明を縦軸に、警察機構の腐敗問題に鋭いメス。
長江俊和が書いた本である以上、そしてこの意味深で不可解なタイトルである以上、ぜーったい隠れた意味があるに違いないんだが、悔しい、分からない。もしかしたら本当に何にも意味がないのかもしれないけど。
どこかのブロガーやツイーターで知ったこと。
◆七緒=一緒+し つまり「一緒に死」 確かにうまい!けども、より大きな真実へつながる鍵ではなさそう。
◆若橋はペンネームで、本の中では彼の本名の部分は□□と伏せられている。
P16 「□□(※筆者の本名)さんですか?」
□□ = しかくしかく =刺客刺客
うまい!
結局、読者にも、長江にも、刺客としての若橋の動機が謎なのだ。なぜ若橋が刺客として選ばれたのか。なぜ心中事件から七年後なのか?神湯堯とはどんな奴なのか?伊藤、木下、高橋、怪しくね?僕は一番森角が怪しいと感じる。こればかりは我々読者が考えるしかない。もちろん、小説としての未熟さもあるんだろうけど。さて、いろいろ考えてみる。
P17 新藤「私のメールアドレス、どうやって調べたんですか?」
若橋「当時事件を取材していた雑誌の記者が一人、知り合いにいまして、あなたのメールアドレスを知ってるというんで、教えてもらったんです。」
若橋が刺客であるならば、この知り合いが刺客を送り込んだ黒幕だ。誰なのか。またP179にはこうある。
「過去に某夕刊紙の芸能デスクを務めていたという人物と、新宿で落ちあい、話を聞く。」ここで熊切と永津の実際の夫婦関係を聞かされる(DVとか離婚したいとか)。
そして「夕方、「熊切心中事件」を取材するきっかけとなった知人に会い、現状を報告する。私が大きな間違いを犯していた事実も、正直に告白した。」
この大きな間違いとは、若橋と新藤の一線を越えた関係のことかな。さらに
「明日もう一人、取材を依頼していた関係者の一人と会い、・・・」
とあるが、その日の日記は、無い。
そこで僕はこんな仮説を立ててみた。
【永津佐和子が、自分を裏切った熊切敏を新藤七緒(=刺客)に殺させ、そのことを闇に葬るため、若橋(=刺客の刺客)を新藤に会わせて、新藤を殺させた。しかし若橋は新藤を愛してしまい、なかなか殺さない。そこで永津本人が、若橋とふたりで新藤を殺害した。】
この仮説を裏付ける根拠を以下挙げる。
◇P180~181 若橋の草稿より。「絶叫で飛び起きた。」・・・若橋は寝ていて、永津が新藤を襲った?
「布団から飛び出して、彼女を背後から抱きしめる。[・・・]私の腕から逃れようともがき苦しんでいる。」・・・永津が首を絞めやすいように、若橋が新藤を押さえつけている?
「七年の時を経てもなお、まとわりつく熊切の呪縛」・・・熊切=永津の名字だ。なおこの本は、表面的には、睡眠薬の後遺症が熊切敏のノロイのように新藤を苛めているように書かれている。
この直後、曽根崎心中や猪瀬直樹の書籍を引用しながら心中にかんする能書きをだらだら書いている。とても冷静で理性的だ。これはもしや、永津佐和子が若橋のパソコンで代筆しているのか?
◇また、P240 若橋の供述「七緒は死んでおらず、常に会話していた」について、これは永津と会話していたということだろうか?
◇そしてラストP263 「彼女の首を絞めた時、それは使命感からということではなく、病に苦しむ七緒を早く「楽にしてあげたい」(※これは『放送禁止5 しじんの村』でも聞いた論理)という思いが強かったのだ。あの時、彼女は確かにこう訴えかけてきたのだ。「早く殺して」と。」・・・この「早く殺して」は、新藤の首を絞め殺すがなかなかとどめがさせないでいる若橋の耳元にささやいた、永津の言葉ではないか?
◇その真相を闇に葬るために、P262 で永津は、事件から時間をおいて、事故死している。永津佐和子は取材を拒否している(P94)。
◇なにより、男と女の低モラルな愛憎ってところが長江作品っぽい。
以上が仮説【】の根拠だ。でももっとよく読めば、この仮説を覆す事実が見つかるかもしれない。もし、この本を読んだどなたかが、僕のこの記事を読んでくださったとして、あの仮説【】を補強する一節をご存知でしたら教えてください。もちろん仮説【】を覆し、より矛盾のない美しい真実をご存知でしたら、教えてください。
~10月11日追記~
王様のブランチ効果でだか、本記事へのアクセスがびよんと伸びた。有難いんだが、ここに比べてこの記事の補足記事 『出版禁止』補足 はほとんど読まれていないことが分かった。ので、こちらへのリンクをここに貼っておきますので合わせてよしなに。
本日ちょうど出版禁止を読み終え、気になるところを検索していて辿りつきました。
永津佐和子森角啓二、ふたりの名前をあわせて並び変えると
「わがこもけいかくじさつなり(我が子も計画自殺なり?)」というフレーズが出てきてなんだか混乱しております。
永津と森角の名前をあわせてアナグラムをつくると「殺害」とか「計画」など関連しそうなワードが出てくるのでもう一度読んで考察してみたいです。