2012年06月

マーケットから見たデジカメの世界《第4回》

小寺メルマガ「金曜ランチボックス」の中の対談部分を無償公開しています。毎週金曜日発行のメルマガから抜粋して、翌週の火曜日ぐらいに公開していく予定です。

「金曜ランチボックス」は、この対談以外にも社会系コラムや製品レビュー、Q&Aコーナー、そしてこれまでブログで書いてきた小ネタなど沢山のコンテンツでお楽しみ頂けるようになっています。よろしければ、下記2箇所の配信先バナーからご購読をお願いします。

□対談:Small Talk

毎月専門家のゲストをお招きして、旬なネタ、トレンドのお話を伺います。

今月の対談のお相手は、インプレスジャパン刊『デジタルカメラマガジン』の編集長を務める、川上義哉氏にお願いしている。

デジカメ盛衰のあれこれを語りながら、今後のトレンドを紐解く最終回。世界の国の中で、こんなにたくさんカメラを製造しているメーカーがひしめき合っている国はない。国内市場が旺盛だった時代に支えられてここまで来たわけだが、もうそんな時代は過去のものだ。メーカーの統廃合も徐々に進みつつある中で、日本のカメラはどういった戦略で生き残れるのか。

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マーケットから見たデジカメの世界《第4回》
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小寺 カメラにフィルターが乗るっていう流れ、それはある意味、コンパクト一眼、ミラーレス一眼どまりなんですかね? この流れは本格一眼までいくのか。

川上 ここはまだ、業界的には議論はあるんですけど。

中井精也さんという、鉄道写真家で有名な方がいて、彼の書籍をつくったんですよ(著者注:『世界一わかりやすいデジタル一眼レフカメラと写真の教科書』)。それはすごく売れたんですけど。なんと、今日9刷とか決まって、びっくりしちゃったんですけど。

小寺 ほお。

川上 すっごく売れてるんです。で、その本はRAWの話……1ページしか載ってないんですよね。やれるんですよ、もちろんプロの方だから。でも編集会議のとき、これを最初の一冊にしたいから、カメラの設定だけ、撮った瞬間そこに出てきたものが見た目と変わる喜びを出そう、っていうんで、カメラ内で設定をさせて、それから撮りましょう、ってやってるんですよね。

それがこんだけ本として売れちゃうと……どっかでやっぱり、一歩踏み出す時が、上の機種でもある。まだまだ、メーカーとしては決めにくい状況ではあると思いますけど。

小寺 そこで気になるポイントがあって。アートフィルターをかけて撮って、最初にみるビューが、カメラの後ろ側の液晶モニタじゃないですか。で、液晶モニタの表示が果たしてそんなに正しいのか、っていうことが気になるんですよ、テレビ屋さんとしては(笑)。

川上 なるほどね。

小寺 テレビ屋さんってほら、マスターモニタ以外では色は作れない世界なので。でもカメラの液晶モニタって、なんか標準規格もないし、機種ごとに発色なりコントラストがかなりが違うので、そんなのでいじっちゃって、フィニッシュがどういうイメージになるのかわかってんのか。僕なんかはそこの不安感がどうしてもあるんだけど、そんなことは杞憂なんですかね?

川上 そこは、フィニッシュとは何か、みたいなことが、さっきの話からつながってくると思うんですけど。ものすごく希薄になってると思う。

小寺 うん。

川上 正直、プリントする、っていうのが撮影枚数に比例して伸びてるかというと、逆だと思うんですよ。すごく減っちゃってる。ま、ここぞ、ってものはあるかもしれないけど。

うちの読者アンケートをとっても、RAW現像、RAWを知っていて、やったことある人って9割近くいるんですけど、じゃあみんながそれをいつもRAW現像してますか、っていうと、してる頻度というのは少ないですよね。たくさん撮って、ここぞというものの一部をRAW現像して、叩いて仕上げはするけど、全部はやってはいない。それでなに何かやるかっていうと、プリントもほとんどしなくて、「『GANREF』のフォトコンテストにアップする」みたいな(笑)。

小寺 ああー。

DSCF0675川上 ……流れだったりする。PCのディスプレイでも見るんでしょうけど、その違いに気づいてるかっていうのもなかなか。ま、環境光も違いますよね。元は外で撮ってるわけだから。もちろんディスプレイのガンマの問題とか、輝度の問題があっても、気にしてない可能性が高くて。

逆に言うと、カメラメーカー側がなぜアートフィルターみたいなものをその場で設定できるようにしちゃったかのひとつの理由には、もしかしたらそこがあるかもしれないですよ。どっちにしたっていくらか合ってないんだから、カメラの液晶で満足したらそれでいいじゃん、みたいなね。「それが出力なんだ」と。

小寺 ああ、なるほどね。

川上 ……という割り切りもね、あるのかな、と思ったりはします。

■「アウトプット」という意味

小寺 フィニッシュの絵を大きく見たいというニーズは、どうなんでしょうね。プリントつったってせいぜいL判じゃないすか。ただ多くのデジカメにはHDMI端子がついていて、HD解像度でテレビで見ろよ、ということを促している中で、でっかく見たいというニーズが本当にどこまであるのか、というのが、今のとこよくわかんないんですよね。

動画を撮れば、動画のディスプレイはテレビ以上がないので、テレビ繋ぐのはわかるんだけど、写真をテレビで見るというモチベーションって、カメラメーカーさんが皆さん仰るように、本当にあるのかなー、というのが僕にはよく見えないんですけど。そのへん……

川上 ない、って思います。

小寺 ないか(笑)。ないんだ。

川上 僕もやったんだけど。僕はなんか、かみさんの親にずいぶんお世話になったんで、クリスマスはうちの実家へ、年末年始はあっちの実家みたいな感じで。

そうすると、年末年始におせちを作ったりなんだりして年越しをするときに、僕の仕事は、一年間の子どもの成長をですね、スライドショーにして。でかいテレビにですね、夕飯、年越しのときに流しながら飯を食う、なんてことをここ2年やってるわけですけど。あ、こういうのってあるんだなとは思いました。

イメージだけで言えば、仲間内で、家族4組ぐらいでキャンプに行きました、と。帰ってきたらまた集まりがあるじゃないですか。お父さんたちが撮ってたものをガッチャンコして、子どもたちが遊んでて、お父さんたち酒飲んでる、みたいな。奥さんたちは悪口言ってて。

小寺 (笑)。

川上 そういうシーンで流れてる、ってのはあるだろうと思うんですけど。ま、そういう世界ってのがもう、どんどん死に絶えてくというか……。人は関係性を持ちたがる存在であることは変わらないんだけれども、生々しいそういう集まりとか、家族関係みたいなものがどんどん希薄になってる。結婚しない人も増えてるし、子どもなんかいない人もいっぱいいるし、そもそも近所付き合いしないし、みたいなことが増えてく中では、あんまり大きい画面でみんなで見て共有するようなことを求めるシーンがないんですね。

小寺 うんうん。

川上 で、個人的なものであれば、携帯で見るか、パソコン使って流しながら見てる、っていうんで全然よいので。テレビというのは……意思決定する人たちの世代ではたしかにいいと思うんです。40代、50代、60代の人には。でもこれから30代になってく人、いまの20代、30代の人には、ほとんど効かないんじゃないかなぁ。それはよく小寺さんも仰ってたように、もうテレビからどんどん人が離れていくでしょう、ということとつながるんではないかと思うんですけどね。

小寺 アメリカとかの事情を考えると、アメリカ人って、本物のスライドショー指向というか。写真をポジで撮って、スライドにして、部屋を暗くして、プロジェクタで上映、みたいのって昔から一般家庭で普通にやられてたみたいなんですけど。

川上 そうですね、ええ。

小寺 宗教的な理由もあるのかもしれないですけど、ファミリーが集まってなんかする、みたいなのをすごく大事に思っているところがある。そこの、ファミリーに対しての情熱というかガッツ感みたいのが、どうも日本と違うんじゃないかな、という気がするんですよね。

川上 おっしゃるとおりですね。ま、でもアメリカの話を聞くと、あそこはより格差というか、地域ごとに違うみたいで。今の共和党と民主党の勢力図みたいなもんですけど、民主党系って言うのかな。今の南部の保守的な地盤の人たちは未だにそういうのがあって、そこで生まれ育った人は、都会に行っても、「やっぱりクリスマスは家に帰るでしょ!」みたいなことらしいんですよ。

それに対して、4、5年前にすごく売れた『Sex and the City』みたいなね(著者注:『Sex and the City』のTV版の放映時は1998年から2004年。映画一作目の公開が2008年)。都心で働く女性で、シングルで、という人たちはそういう価値観がなく生きてる可能性が高い。単純には言えないですけど。

小寺 以前さ、ニコンがプロジェクター付きのカメラを出したじゃない(著者注:最初のモデルはCOOLPIX S1000pj、2009年発売)。あれは、うまくいかなかったの? なんか最近あんまり噂にならないってことはうまくいかなかったのかなあ。

川上 こないだ──去年新モデルが出たんです。それが相当良くなって。以前はやっぱり出力が弱くてですね、役に立たねーじゃん、みたいなことがあったみたいです。……まあ、市場作れたほどではないんですが、そういうところもいま、コンパクトカメラが煮詰まってる、というんでしょうね。

小寺 そうなんだ。ビデオカメラの世界では、逆にソニーさんがプロジェクターの機能をほとんどのラインナップに載せてきてですね。いま上位モデルのほとんどがプロジェクターが載ってるんですけど。

川上 え、じゃあ、撮ったらそこでびゃーっと観れる……?

小寺 あのね、寝るときに、家族で川の字になって、天井に打つんだって。

川上 あっ、すごい……!

小寺 それを発見したら、ユーザー間でものすごく広がって。これはいいね! って話になって。

川上 いいですね。

小寺 でね、小さい子とか特に、自分が映ってるのを観るのが大好きなので、寝かしつけに最高なんだって。

川上 あー、ちゃんと寝てくれるのか(笑)。

小寺 そうそう、だまーって上観てるから(笑)、そのうち寝ちゃうのよ。

川上 いいねえ。しかもずーっと観てたら退屈だしね、たぶん。わははは(笑)。

小寺 そうそうそう。寝かしつけに最高のソリューション、っていう。

川上 それは面白いなあ。カメラだって、あっていいですけどね。さっきの子どもの話ですけど──ま、こういう仕事やってるんで、たぶん人よりも……一年で数千枚撮っちゃうんですけど。で、それを整理してるじゃないですか。すると子どもが来てずーっと見てますからね。

小寺 見たいんだね。

川上 見たいんでしょうねえ。たとえば数百枚撮ったのをずっと流しとけばいいですし。電源的にもちっちゃいですもんね、カメラ。あらー、それは言うてやろ、ニコンさんに。

小寺 (笑)。ああそうそう、それとね、ドラマチック感というかね、演出感が凄いのがよくわかった。暗くするとさ、体のすぐ脇からプロジェクタの光がこう、放射状に出てるのがわかるじゃない?

川上 まわりが暗くて、ぼやーっと。

小寺 なんかイベント感があるのよ、すごく。毎日がイベントみたいな感じがあるのね。

川上 夜寝るのが楽しみな時間になっちゃいますもんね。すごい。それはすごいなあ。

■どこへ行くカメラメーカー

川上 あの……ビジネスの流れみたいな話で最近注目してんのはやっぱり、メーカーと販社が分かれてるケースが多くて。そうすると、日本の販社の肩身がどんどん狭くなってる感じがしますね。

小寺 ふうん。というのは?

川上 やっぱり日本は台数出せないので。中国のマーケットとかだと、10倍ぐらいあるわけですよね。北米も大きいし、EUとかもどんどんやってると。

でも限られたラインでカメラ作って出してると、世界で同じ時期に発売するわけです。中国が「うちは100台売るよ」っていうときに、日本は「10台押さえといてね」って言っても、「いや、あんたのとこは3台にして、7台こっちに持ってきてよ」みたいな戦いがあるみたいで。

小寺 ああー。

川上 何が言いたいかっていうと、肩身が狭いというよりも、「日本のマーケットでこういうものが必要だから作ってくれ」って言うじゃないですか。たぶんその意見がだんだん……

小寺 ああ、通らなく……

川上 なってくる。それでも日本のメーカーだから日本の声には敏感だと思うんですけど、でもそれがワールドワイドでコストを考えていったときに、そこをやるとぼーんと値段が上がっちゃうようなことを選ぶか、っていうと、もう難しくなってくると思うんですよね。

小寺 日本人のニーズを突き詰めていくと、ワールドワイドレベルからすると過剰品質になるじゃないですか。

川上 ほんとですね。

小寺 だけど、それを満たさない限り、日本の市場ではあんまり評価が高くなくなっちゃう。世界では売れてるんだろうけど、日本でのイメージはイマイチ、みたいな感じになっちゃうところが、これから出てくると思うんですよね。最初から国内を見ていないメーカーとか出てきてもおかしくない。

たとえば、iPhoneとかで、けっこうよく撮れるようになっちゃったじゃないですか。

川上 なっちゃった。よく撮れますよ、あれ。

小寺 で、あんなんでいいよねっていう層は、確実にいるわけじゃないですか。しかも、ネットワークに常時つながるから、コミュニケーションツールとして写真が使える。こないだ、CESの時にポラロイドが出してたカメラが、もうOSがAndroidそのものなんですよ。

川上 ほお。

小寺 アプリも自分で入れられる、本当のAndroidマシンなんだけど、デジカメの形してんですよ。「これかー」って気がしましたね(笑)。

川上 僕自身もいろんな各メーカーの、キーマンまで行かないけど中堅の方々と、非公式にはよく意見交換をしてるんですが。共通してみんな言ってるのはそこの部分ですよね。ただ単にiPhoneなりなんなりがコンパクトカメラの市場をとるのかとらないのか、というレベルじゃなくて、それはどの部分がいちばん効いてるのか、と。加工の部分の面白さとか、アプリケーションをしょっちゅう変えられるとか。

メーカーがやるとですね、メーカーが全部アプリケーションまで提供するわけですよ。それでは競争できないわけですよね。AndroidってOSは作るけど、あとはユーザーが勝手に自分の責任でアプリ入れてくれて、加工で遊んでる。もう、コストも競争力も全然違うよねと。スキームが全然違いますと。

で、それをニコンさんがやれないの? やるの? まあニコンさんに限らず、他のメーカーでも、やれないの? やるの? ってのはすごい議論してるんだけれども。

正直日本は、キャリアとの絡みとか、物の供給の問題とか、関係者の問題でできないことを考えると、海外でできるんだったら海外でやる可能性は高いと思うんですよね。それで生き残るのであればやっちゃう。そんなことをはっきり言う知り合いは一人もいませんけど、考えてるのはひしひしと感じるような議論はずいぶん、いろんな人とこの1年、2年、しましたねえ。

■拡大する歪み、その先は

小寺 一方で、中国ではキヤノン EOS 5D Mark IIとかがめっちゃ売れてるでしょ? で、多分機能もほとんど使ってないんだけど、一応買っとく、みたいな富の象徴みたいなところがあるわけじゃない。

そういうところの動きって、明らかに必要があって買ってるわけじゃないので、歪んでるわけじゃないですか。でも、その歪みがカメラ業界全体にに利益をもたらしている。

川上 ええ。

小寺 で、その歪みに応えていってると、将来的にはものすごく大きな形ではじけちゃうんじゃないか、っていう不安がものすごくあるんです。今考えられる、拡大による歪みの形って、どんなことが考えられますか。

川上 中国がすごく売れてるといってもまだまだ……なんて言うんでしょうね。人口的には一部の人しか持ってなくて、憧れのレベルになってる。さっきお話しされてた、歪みの部分が歪みじゃなくなるのは、憧れが憧れじゃなくなった時だと思うんですよ。そういう意味でいうと、まだまだすごーく階層があるので。

小寺 なるほど。まだ先があるんだね。

川上 ものすごくあるから、その人たちの自尊心を満足させられなくなるようなコモディティ化はまだ相当先までない。富の象徴であることは、なぜいいか、じゃないんですよ。持ってるのがいいんだ、理由なくいい、というものが多分ずっと続くと思うんです。

で、それじゃまずいと思う人たちもいっぱいいて。キヤノンなんかはすごく立派だな、と思うのは、そんだけ売れてる中で、ちゃんと地域のキヤノン写真教室みたいなのを相当やってんですよね。日本と同じように──日本の雑誌も撮影だけの雑誌じゃなくて、「レンズを愛でる」みたいな記事もいっぱいあって、それがカッコイイ、みたいな文化を持ってくわけですけど。

中国ではほとんど雑誌とかが自由に出せないので、メーカー側でやってるんですね。だから、日本に比べると、メーカーに情報を取りに行く人の率が高いんですよ。メーカーのWebサイトがすごく充実していくような形。だから必ずしも物を売るだけじゃなくて、キヤノンがそういう風に自分で活動もして、ただ単にステータスとして持ってるだけじゃない部分を一生懸命作ろうとはしてるように見えます。

それに対する他の会社は、そういう風にやってるように見えないので、そこは引っかかりますけど。さっき申し上げたように、まだ持ってない人がすごくいるので、しばらくは……歪みは事実としてあるんですけど……歪みのまま(笑)行くんだろうな……って。

小寺 あー(笑)。

川上 僕らからすると歪みですけど、ある意味僕らも昔、「いい車乗りたい」みたいなね、あったじゃないですか。

小寺 あっ、そうだよね。そうだった。それは歪みじゃなくて、消費者として洗練されてないっていうことなんだよね、きっと。

川上 おっしゃる通りだと。

小寺 洗練されてないままに経済が回る、というのが日本の80年代ぐらいまであって。要はあの状況なんだね。

という意味では、日本だけ、たぶん消費者は先に行きすぎたんですよ。アメリカでさえ、消費者ってそんなに洗練されてなくって、“ブームが起きる”ってこと自体が、消費者として洗練されてない証拠だと僕は思うんですよね。一斉に買う、みたいなのがあるってことは、大半がバカってことじゃないですか(笑)。

川上 はっはっは(笑)。誰かの価値観に依存しちゃうからね。

小寺 そうそうそう。それはやっぱ洗練されてないからだと思うんですよね。ある意味日本は先に行きすぎたところがあるから、いろんな国の遠い将来のモデルではあるかもしれないですけど、今の、ワールドワイドでビジネスするところにとっては、日本の市場を細かく分析することにあまり意味はないのかもしれないですね。

川上 今のおっしゃることは、よりメーカー側が思ってることかもしんないんですよ。売らなきゃいけないのにいちいちうるせえことばかり言いやがって、と。しかもクオリティも高くないと嫌だ、値段も下げろと言うと。そんなところのために一生懸命作れるか、みたいなことを──そんなこと言うとは思いませんけど、作り手としては思うだろうなと。

それよりもねえ、ちょっとデコレーションして、1万円ぐらいの値段にして、3世代前ぐらいのエンジンでも全然いいね、ってドッカン売れたら、「どんどん作れよ」というほうが、まあ普通の考え方だと思うので。そういう意味では日本のマーケットは特殊になっていってるのかな……。

面白いのは──サムスンさんは昔、デジタルカメラを日本でやってたんですけど、撤退したんですよね。でも彼らはずっと日本のことを見てる。ワールドワイドだと今、シェア4位ぐらいなんですかねえ。キヤノン、ニコン、ソニー、次にサムスンぐらいなんですけど。

で、いつかは日本でやりたいと思ってるんですけど──思ってることがアリアリなんですけど、「やるの?」って訊くと「いやあ……」って言うんですよね。だからおっしゃるような意味では、日本って特殊だし、やってもコストかかるなあ、って思ってる。だけどカメラの世界で言うと、日本で当たってるということが、ひとつの世界的な宣伝になると思ってる部分があるみたいなんですよね。

小寺 ああー、なるほどなるほど。「あんなうるせー奴らに認められたんならきっと良いだろう」と、洗練されてない国の消費者が思う、という構図ですね(笑)。“全米が泣いた”みたいなやつだ。

川上 あはは(笑)。まさに。IT系も“Made in Japan”に復帰するのが増えてる、っていうのは──よくそういう話をされますよね。レノボが結局中国で製造するのをやめて、またこっちで作るとか言いだしてたりする。あれもやっぱり、中国のメーカーであるというよりは、日本で作ってるんだ、みたいなことが、世界的には実はいい、という考え方も持つところが増えてる。

小寺 なるほど。今度は“ジャパン・セレクション”がブランドになる可能性があるということかもしれませんね。




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マーケットから見たデジカメの世界《第3回》

小寺メルマガ「金曜ランチボックス」の中の対談部分を無償公開しています。毎週金曜日発行のメルマガから抜粋して、翌週の火曜日ぐらいに公開していく予定です。

「金曜ランチボックス」は、この対談以外にも社会系コラムや製品レビュー、Q&Aコーナー、そしてこれまでブログで書いてきた小ネタなど沢山のコンテンツでお楽しみ頂けるようになっています。よろしければ、下記2箇所の配信先バナーからご購読をお願いします。

□対談:Small Talk

毎月専門家のゲストをお招きして、旬なネタ、トレンドのお話を伺います。

今月の対談のお相手は、インプレスジャパン刊『デジタルカメラマガジン』の編集長を務める、川上義哉氏にお願いしている。

昨今のデジカメマーケットを牽引しているのは、ミラーレス一眼のブームだが、その先に見えたトレンドがある。ひとつは女子カメラ、もうひとつは写真加工の世界だ。

マーケティング的視点から見たデジカメのトレンドは、どこへ向かっているのか。そんなことを考えていく3回目。

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マーケットから見たデジカメの世界《第3回》
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小寺 いま盛り上がってるのは“女子カメ”かなと思うんですけど。“女子カメ”みたいなのが言い始められたのが、やはりマイクロフォーサーズぐらいから、ってことでいいんですかねえ。

川上 ええと、言葉自体はけっこう前からあったんですよね。で、その時は一眼を使ってたイメージがあるんだよなあ……。EOS Kissとか小さいカメラがあったので。

小寺 ああ、Kissとかねー。

川上 雑誌はたぶん既にあったんですよ、僕がカメラ業界に行く前から……5、6年前からあったでしょうね。(注:雑誌『女子カメラ』は2007年創刊)

DSCF0682今はミラーレスで、「第二次」みたいな雰囲気なんでしょうかね。E-P1とかその他いろいろありますけど、ああいうのを使う人が爆発的に増えたと思うので。僕らの世界では、もう女子カメブームみたいなのは去った、と思ってる部分があるんです、実は。『デジカメWatch』ではまだやってるからなんとも言えないんだけど(苦笑)、ただ少なくともそれはブームというよりはもうある程度一定層を形成して、伸びてるかというと、そうでもないのかな? という気はしてますね。既にもう一定のボリュームはあるという感じですね。

小寺 あ、そうなんだ。なんか、外側から見てるとまだこれからパイがあるんじゃないか、っていうようなイメージをなんとなく受けるんですけど。デジカメの総体としての売上額から見れば、女性が買ってる割合なんか、まだ2割ぐらいしかないんじゃないかな、と。ということは、残り8割は男が買ってるわけじゃないですか。そう考えれば、男性に匹敵するぐらいの潜在需要はあるのかなあ、と。

川上 ただ、なんか僕……おっしゃるとおりだな、という想像もあるし、僕自身があまり女性向けの雑誌を作ってないので分析してるかというとちょっと疑問だ、という前提はあるんですけど、雑誌の伸び数とかを見てると、思ったような勢いはなくなっちゃって、安定しちゃってるな、ってのがひとつですね。

で、もうひとつは、そういう自分の趣味とか表現──ま、表現のような大げさなことは言わなくても、そういう積極的な女性たちにとって、やりたいことはカメラばっかりじゃないんですよね。たとえば山登っちゃったりとか。最近は釣りする人もいるみたいだけど。

あとはスマホでInstagram使ったりとかしても、いい写真は撮れてるわけですよね。で、それを使ってWebでコミュニケーションするほうが面白くて。レンズを変えて、こうしてああして……っていうような部分は、やっぱり一定以上はいかないのかな、っていうような気がしてるんですね。

(※著者注 Instagram :SNSと連携する写真共有サービス。アプリ上で写真をかっこよくフィルター加工することが受けて爆発的にユーザーが拡大した。 http://instagr.am/ )


小寺 なるほど。カメラ、写真機そのものにすごくコミットするわけじゃなくて、写真を撮る〜見せるまでの全体のワールドの中に女性が入ってきてると。だからカメラが売れるとか、カメラ雑誌が売れる、というのは、そのワールドの中のごく一部でしかないから、見えてこないのかもしれない。

■「女子」の写真

川上 たとえばなんですけど、ご存知の通り、「写真をやってます」という男性のイメージって、写真ばっかりお金かかってるけど、ある種、ほかはおざなりだったりするわけですよ。でも、写真をちゃんとやりたい女性は、たぶん写真だけじゃなくて、トータルでひとつのライフスタイルを持ってるので、もしかしたら写真のブームが去った時に残る人というのはやっぱり一定層以上はいなくて。次は同じ目的でもっと安くできるものとか、もっとスマートにできるものがあれば、そっちに行ってしまうのかな、という印象を持ってるんですよね。

小寺 こないだ、2月にCP+があって。その時にエプソンだったかな、どこかのブースで、手作りのフォトスタンドを作る、という体験セミナーをやってて。それが、女性客にものすごい人気になっててですね。

(※著者注 CP+ :カメラと写真映像のコンシューマ向けイベント。前身はPIE/フォトイメージングエキスポで、例年パシフィコ横浜で開催される。国内カメラメーカーは新製品のお披露目をこのタイミングに調整するようになってきている)

川上 ふんふん。

小寺 写真って、そこまでのフィニッシュをこれまでちゃんとやってなかったよね、というのを改めて感じたんですよね。で、たぶん男はそこまでやらないですよ。

川上 うん、やんない。

小寺 気に入った写真が一枚撮れたからといって、フォトスタンドを手作りで、厚紙切って作りましょう、みたいなセミナーやったって、まあ男は来ないじゃないですか。

川上 来ないですねえ。

小寺 来ないっていうか気持ち悪いじゃないですか。

川上 はははは(笑)。

小寺 でも、女性ってやっぱりそういう、手芸じゃないけど、ちまちまと作って玄関に飾りたいとか、そういうニーズというのはもうなんかこう、写真に限らずずっと変わらないものとして、ひとつ確立されたものがあって。そこに写真が入っていったのかな、というイメージを持ちました、その時。

川上 そうですね。そちらのほうがもっと大きくなると思うんですね。で、それを「写真好き」なのか、というと、たぶん違う。僕らが小さいころはパッチワークみたいな流行ったわけですけど、それをやった人のような層って必ず何割かいて、それが今はカメラを使ってそうしたい、とかいう感じには見ているんですよね。

さっきお話ししたように、6年ぐらい前から“カメラ女子”とかいう言葉ができて安定してるって考えると、うちの雑誌は面白くて。この3、4年、雑誌の内容を撮り方というか実用に振ったら、あるPOSのデータを取ると、25%ぐらい女性なんですよ。これも面白いなと思っていて。(『デジタルカメラマガジン』をめくりながら)見てのとおりそんなに楽しげなページはないんですけど(笑)。

小寺 カタいよね(笑)。

川上 いろいろ加工できるっていうのがデジタルのメリットですけど、それを使って飾るのが楽しい、って人もいるし、親子で何かクラフトをやったり。

その一方で確実に、一般に「ゆるい」というか、やわらかい写真じゃなくて、ちゃんと本格の写真を撮りたい、という女性もけっこう現れていて。ちゃんと機材を買わなきゃいけない、絞りも勉強しなきゃいけない、という人がこっちに来てくれてるような感じなので。

その“カメラ女子”というものの言葉に裏付けられるいろんなニュアンス──画一的なニュアンスがずいぶん変わって、そこの中にも差が生まれてるような感じに見ています。

小寺 きっちり撮りたい、という女性が出てくることはある意味当然のなりゆきかと思うんですが、最終的に飾りたい、飾るための写真を撮るということでは、きちんとした写真というよりは、もっとゆるかわ系の絵にしたいなというニーズはそれなりにあるんだろうと思うんですね。ただそれは、普通にカメラを向けたからって必ずしもそういう風に撮れるわけではなく、ある程度設定をいじんないと、ユルくも可愛くもならない。ということになると、カメラの機能をある程度把握しなければならなくなってきて、そこに「どうやって撮ればいいの?」という情報のニーズが生まれてるのかもしれないですね。

■「後処理情報」に求められるもの

小寺 この『デジタルカメラマガジン』って、方向性的にはどういう写真の仕上がりを目指してるんですかね?

川上 今ぼくらが捉えてるのは、写実的なものと心象的なものというのがおおよそ2つあるんですね。で、心象的なものが人気あるのは知ってるんですけど、真似できなかったり、良し悪しを語れないことがあるので、どちらかというと目の前にあるものを比較的写実に撮ること。だけど、大きい純風景という感じでもなくて、ちょっと行けば撮れるような、何気ない景色をちょっと印象的に撮るっていうレベルな部分が今ありますね。あんまりアートな方向にもしたくないし、従来からある純風景の、広大な風景を撮るような方向にも絞りたくはなくて。

ジャンルとしてはけっこう総花なんですけど、ほとんどとんがってないものが入っています。たとえばすごくきっちり撮れてはいるけど、ボケの感じとか、色の彩度の表現とか考えると、実はけっこう、スナップではあるけど心象的に見えなくはない。なんかこう、同じものがちょっとだけ違うよね、そんな写真が広く受け入れやすいし、イメージしやすいのかなと思っていますかね。

たとえば森山大道さんみたいな、昔からの大先生もスナップ撮りながら、その脇には20代の今すごくコマーシャルで人気のある、ちょっとゆるかわ方向の人をフィーチャーしたり。間口はできるだけ広げて、こういうものしか載せません、という感じにはしてない作りにしています。

小寺 うーん、なるほどね。でもほら、人が何を撮りたいかは本当に千差万別で。ひとりの人がひとつの傾向しか持ってないわけじゃない。結局やれるだけのことはやってかないと、ってところはやっぱありますよね。

川上 一応、アンケートは毎月とっていて。そうですね、「好きな被写体」っていうと、だいたいベスト3があって。自然風景、都市スナップ、ポートレートなんですよね。その割合が、まあ複数回答なんですけど、5対3対2、ぐらいな感じなんですよ。実はうちの雑誌って、女性のポートレートって、ほとんど載せないんですよね。だけど、うちのお客さんの好きな被写体のベスト3の中には人物も入ってくるので、本当はもう少しやんなきゃいけないな、と思ってます。載せるってのは“被写体”って意味じゃなくて、“表現法”っていう意味なんですけど。

表現はずいぶんいろいろ──デジタルだと現像でずいぶんいろんな方向に振れるんですよね。特に色味に関しては。露出は段数は短いんですけど、それでもドラマチックにしたり、浅くしたり、いろいろできますから。それはけっこうやってる。人気あるレタッチの記事とかもありますし。

小寺 ふうん。

川上 どちらかというとだんだん教科書っぽくなってますね。連載の人はしょっちゅう内容を変えて、空をやったり、滝をやったり、いろいろやってますし。

小寺 この、「プリントしよう」とか「後処理しよう」みたいなのって記事が、そこそこの面積を覆うようになった、ってことは、やっぱり以前からのカメラ雑誌と変わってきてますよね。前はほら、撮るときが楽しいって人たちが買ってたんですよ。

川上 ああー。まあ、『アサヒカメラ』さんとか『日本カメラ』さんってのは、フォトコンテストを長くやっていて。もともとうちと違って、デジタルはあんまり積極的に推されなかった。ですから、プリントしか応募できませんと。なので、一応それなりにプリントの仕方は記事にしてやってらしたとは思うんですよね。

写真を撮って“どうする”って部分はデジタルになって、インターネット上でのコミュニケーションがすごく活発になった。うちも『GANREF』(http://ganref.jp/)ってのやってますけど。

小寺 なんかね、カメラはカメラで非常にいいプロセッサを積むようになった。オリンパスもそうなんだけど、撮ってるときのアートエフェクトみたいなやつで、ものすごいのができるじゃないですか。それをテストしていて感じたんですけど、こうやって撮るときにがんばれ、っていう派と、撮るときはRAWでプレーンで撮っといて、後処理でやったほうがいいよ、という派が二通りあるとすると、「後処理でやるから撮る時はプレーンでやっとけ」みたいなところって、プロフェッショナルすぎて、普通の人には理解ができないんじゃないか、っていう気がするんですよね。

川上 そうですね。

小寺 実は最近、動画の世界も一眼で撮るようになってから、動画もRAWで撮っとけ、というのが映画とかでメインストリームになってきてて。で、後処理をやりましょう、という風になってきたんだけど、日本ってそれまでそんなことをしてなかったから……映画産業が小さいから、っていうこともあるんですけど、誰もなんだかよくわからないままにとりあえずRAWで撮ってる、って現状があるわけです。

で、そんななかで、こないだ、オリンパスのOM-Dを使って──動画しか撮んないけど。

川上 あ、買われたんですか。

小寺 買ってない。レビューで。僕、デジカメ借りても動画しか撮んない。

川上 はっはっは(笑)。

小寺 こないだ3枚撮った、静止画。

川上 静止画撮るならフィルムで撮るだろ、みたいな感じでしょうか(笑)。

小寺 違うの、間違えてシャッター押しちゃったんだ。

川上 (笑)。

小寺 AF動かそうと思って半押ししようと思ったらつい押し込んじゃった。したら撮れちゃったの(笑)。それぐらい動画しか撮んないんだけど。でもやっぱOM-Dのフィルター触ってわかったのは、ここまでのものを、後処理で同じレベルまで持ってくのは、そりゃアマチュアじゃできないよな、と。

川上 そうでしょうね。

小寺 やっぱり現場でそれを見せてあげて、こんなんできますよ、っていうのを見せるから、じゃあ撮ろうか、ってことになるわけで。それまでね、僕的には──僕はほら、ポストプロダクション出身で後処理の人間だから、撮る時にいらんことすんな、ってのが鉄則なんですよ。だから僕、ビデオカメラとかのエフェクト機能とかも全然使ったことないんだけど、最近デジカメのエフェクト機能とか一応試すか、ってことで一通り撮る。そうするとなんかこう、あ、そういうのももしかしてアリかも、って最近ちょっと思い始めてきてるところはありますね。

川上 E-P1の評価が定まったのは、この1年ぐらいなんですよ。で、あれの功はなんだったのか、というときに、ああいう形で売り出せた、とか仕掛けが面白かったというのはあるんですけど、けっこう大きいなと思ったのは、小寺さんもおっしゃるエフェクトなんですよ。「アートフィルター」という名前で打ち出して。

当時も一部そういう機能はコンデジにも入ってたし、ニコンの一眼、ペンタックスの一眼にもデジタルフィルターとか入ってたんですけど、あれをカメラの撮影モードダイヤルにいれちゃった、ってのはけっこうすごいんですよね。

これは、カメラやってる人しかわからない話になっちゃうかもしれないけど、カメラやると、最初に使うのはモードダイヤルなわけですよ。絞り優先で撮るのか、オートで撮るのか、っていう、まず最初にアプローチするのはそこで、そこをいじってから構えて撮る。その時に「アートフィルター」ってのがあって、やったらアートが撮れちゃう。写真を撮るためのアクションの、一番最初からアートフィルターをやらせちゃうんですよね。撮った物を現像してこうしましょう、じゃなくて、その世界観で撮ってくれ、という。

しかもそれをオリンパスってもともとカメラメーカーとしての自負もある会社が……。コンパクトカメラならいいんですよ? 本格、レンズ交換型のカメラで、そのモードダイヤル一個に「アートフィルター」って書いちゃった。最初の説明受けた時に、僕もちょっとびっくりしたし、彼らも説明しながらちょっと逡巡してるような雰囲気があったんですよ。

小寺 (笑)。

川上 撮ったらすぐ見せられるのがデジカメの良さでしょ、っていうことを、言われてみればその通りなんだけど、初めてやったのは大きいですよね。やってみて、評価が定まって、今になってるわけじゃないですか。変な話、今フィルター載ってないカメラなんて面白くないじゃん、ぐらいの雰囲気になるとは思わなかったですよ。それぐらいみんな楽しんでやってるんだな、と思いました。



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マーケットから見たデジカメの世界《第2回》

小寺メルマガ「金曜ランチボックス」の中の対談部分を無償公開しています。毎週金曜日発行のメルマガから抜粋して、翌週の火曜日ぐらいに公開していく予定です。

「金曜ランチボックス」は、この対談以外にも社会系コラムや製品レビュー、Q&Aコーナー、そしてこれまでブログで書いてきた小ネタなど沢山のコンテンツでお楽しみ頂けるようになっています。よろしければ、下記2箇所の配信先バナーからご購読をお願いします。

□対談:Small Talk

毎月専門家のゲストをお招きして、旬なネタ、トレンドのお話を伺います。

今月の対談のお相手は、インプレスジャパン刊「デジタルカメラマガジン」の編集長を務める、川上義哉氏にお願いしている。

川上氏はデジカメ好きが高じて編集長にまでなった、というタイプではなく、本、雑誌セールスの手腕を買われて、カメラ誌の編集長に抜擢された人物である。よく新製品の発表会でも一緒になるが、いつもそのカメラでどういう市場が作れるのかに注目している点で、異質でもある。

その視点から見たデジカメのマーケットとはどのような形なのか、そのあたりを伺っていく。
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マーケットから見たデジカメの世界《第2回》
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小寺 いやあ4年前、川上さんが『デジカメマガジン』に移籍するって話を聞いて、「今厳しいからテコ入れなんだろうな……」って思ったんですよ。デジカメがちょうど行き着いたところまで行き着いて、これ以上何があるの? っていうところで、みんなちょっとデジカメに飽き始めてきたような。たぶん、『デジカメマガジン』も売上下がってんだろうな、ってのがなんとなくわかるような、そんな時期でしたよね。

で、あれからカメラ業界が持ち直した、最初の波ってなんですかね?

川上 ……ああー、持ち直した、って言うと、やっぱりミラーレスかな。

小寺 そこまで行っちゃいますか。

川上 うん、一気に行っちゃうと思う。

小寺 コンパクトデジカメ全盛の時代はない?

川上 こっちの業界に入って思ったことは、一眼レフよりもっと先にコンパクトデジカメのほうが、あっという間に「ああ、面白さがなくなっちゃってる」という感じでしたね。画一化されてるというか、どこのメーカーでも同じようなカメラになっちゃう、みたいなことが、コンパクトカメラは当時もう既にあって。

DSCF0670ですから、コンパクトで伸びてる、って感じは、その時はしなかったですね。おっしゃるような停滞感みたいなことはあったんですけど。

ただね、2007年に「D3」というニコンの一眼カメラが出たんですね。あれは35mm判のフィルムサイズのセンサで、飛びぬけてISO感度が上げられたんですよね。当時6400までいけたんじゃないかな。それは実は、コンパクトも既にもうつまんなくなっちゃってるよ、という時期に、突出してたんですよね。

ニコンはそのあとに、それを技術的に下に降ろしてくるわけですよね。それがすごかったですよ。高感度だと夜に強い、夜に強いと撮れる世界が変わっちゃうので。そういう意味では写真の世界はすごく伸びた。

つまり何を言いたいかというと、コンパクトカメラで夜に撮れるから嬉しい、というのは、けっこうレベルが高いわけです、意識としては。だって皆さん行楽に行くために買うでしょ。夜はどうせ宴会ぐらいなんで、フラッシュ炊けばいいじゃないか、と。それに対して、夜景を撮りたいとかっていうのは、ちゃんと三脚立ててスローシャッターで……っていうレベルなんで。

ですから、トレンドとしては「D3」というのが大きくて、それから2年ぐらいかけて下がっていって、大丈夫かな……という時に、オリンパスの「PEN」が出てくる。これが3年前の2009年なんですよね。

小寺 ああー、「PEN」なのかー。(今から45年ほど前に、35mmフィルムを節約して2倍撮れる「ハーフサイズ」と呼ばれるカメラ群が大ヒットした。それを牽引したのが、オリンパスのPENシリーズである。実際に筆者が産まれてから3歳ぐらいまでの写真は、すべてPENで撮影されている。その後シリーズは成長し、ついにハーフカメラ初の一眼レフ、「PEN-F」に到達する。ここで語られるデジタル時代に復活した「PEN」とは、このPEN-Fがモチーフになっており、絶妙なおっさんホイホイであった。またちょうど発売年の2009年には、オリジナルPENの設計者である米谷美久氏が没し、奇しくもデジタルPENはそのメモリアル的な意味合いも強く感じさせた)

■「E-P1」の衝撃

川上 僕らはちょうどその時、浮上のきっかけをつかみかけてた時に、オリンパスさんと一緒にキャンペーンを打って、どーんと伸びていくわけです。僕の印象の中でもやっぱり「PEN」というカメラ、最初は「E-P1」ですよね、これはすごく印象深いカメラだったと思います。

小寺 なるほど。オリンパスはその前からすでに、フォーサーズは(レンズマウント規格だが、名前の由来はセンサーサイズが4/3インチだったことから)やっていた。センサーは小さいんだけど、でも普通にフル35mmサイズ並のミラーのあるカメラを出してた。

まあ比較的小さいカメラではあったと思うんですけど、それではやっぱり火がつかなかった。ミラーを取っ払うマイクロフォーサーズ規格が誕生するまでは。(マイクロフォーサーズは、センサーはフォーサーズと同じながら、レンズマウントの規格を変更してミラーレスで行けるように小型化したもの。オリンパスとパナソニックが採用している)

川上 もう少し言うと、フォーサーズなんてダメ……とか言ったら怒られちゃうけど(苦笑)、そういう雰囲気がすごくあったんですよ。なんのメリットもない、と。

もともとフォーサーズになった時点で、要するにセンサーサイズがフル35mmの半分なんですけど、なんでボディが半分の大きさにならないの? ってのがあって。元々センサーとミラーボックスがでかくて、これ以上は小さくならないよ、って言うからセンサーを小さくしたわけで、それならミラーも外してちっちゃくしちゃえばいいじゃん、っていう話はすごくあったんです。なのにずっとやらなかったんですよね。

僕はその時のサイドストーリーをいろいろ聞いてますけど、相当抵抗があったみたいですよね。ミラーを外してああいう形にする、っていうのは。

小寺 ああー。

川上 で、E-P1を出す時に、これをどうやって売ってくのか、とか、写真家に受け入れてもらえるのか、ということを悩みながら恐る恐る出したら、どーんとヒットしちゃった。今じゃミラーレスというカテゴリが、一眼というカテゴリ全体の中の40%以上ですから、こんな風になるとは思ってなかったんじゃないですかねえ。

小寺 あ、でも、マイクロフォーサーズという規格はE-P1が出る前からあったよね?
パナソニックがマイクロフォーサーズのカメラ「DMC-G1」を出し始めた時は、どーん、って感じはなかったわけですか。

川上 いやG1が出たときに、「なんでこの形にこだわるのか」ってのは質問したんです。

小寺 ああ、なるほどね。今までの一眼レフカメラと形がちっちゃくなっただけのデザイン。

川上 ──じゃないか、と。ただそれはそれで彼らからすると、マーケティング調査をした結果、やっぱりカメラというのはカメラの形が大事なんだ、シンボリックな形が受け入れられる要素なんだ、と言ってG1を出すんですね。それでもちっちゃかったんですけど。日本でもそこそこ売れたみたいですけど、CMがちょっとおかしなことをやって……

小寺 (笑)。

川上 おかしいとか言っちゃいけない(笑)。女性向けのCMをやってて、ちょっと早かった。ただ北米ではすごく売れたみたいです。北米ではやっぱりこうやって「覗いて撮る」というのがあるみたいで、だからあの形で良かったっていうことをあとで聞きました。

小寺 やっぱり、ビューファインダーがあるからいいんだ。

川上 ただもう最初から、マイクロフォーサーズという規格が世の中に出てきた時から、僕らの業界では「E-P1のようなカメラが出てしかるべきだ」と思っていたので。

ちょうどそのときのフォトキナ(※編注:カメラ関連の展示会。ドイツで開催される)かなんかで、オレンジ色の革張りでコンセプトモデルが出てきたんですけど、すごい熱狂したんですよね。僕らにとっては、コンパクトカメラが面白くなくなっていく中で、あそこに一気にコンパクトじゃ物足りない人が来たんじゃないかなと。

実は、あの後のBCN(POSデータに基づく実売調査会社)とかの調査を見ると、一眼レフはそんなに落ちてこないわけです。震災とかいろいろありまして一時期落ちましたけど、結果的には伸びてるんですよね。で、コンパクトはより落ちているから、明らかにこちらの一部の人は、ミラーレスのE-P1に行ったと。あのスタイルに行ったんだな、というふうに見てます。

小寺 要するにコンデジで使ってた方が、ミラーレス一眼にそのまま移行して、フルの一眼を使ってた人はそのまま変わらず、というような地殻変動が起きたということなんですね。

でもそんなにコンデジに対してのミラーレス一眼のメリットを、購入者はちゃんと理解してたのかな。だって値段的にも相当上がりますよね?

川上 高かった、高かった。

小寺 そこを押してまでいくメリットって説明していくと大変なんで、むしろそのイメージ的な魅力というのを、メディアなりメーカーなりが演出していった部分はあると思うんですけど。その時のポイントはなんだったわけですか。

川上 いろんな分析があるんですよね。E-P1がなぜヒットしたのか、って話だと思うんですけど。ひとつは、女性のファッショナブルな──女性とはいっても中性的っていうんですかね。宮あおいさんをフィーチャーして、ずっとイメージを揃えてった。あの子って、男性にも女性にもそんなに嫌われないので、そのへんのキャスティングが面白かった、っていうのがひとつ。

それとオリンパスとしては、アーリーアダプタというか、「あの人はカメラを知ってるよね」と言われるような人がリーチしているような雑誌やメディアに、相当プロモーションをかけたんですよね。で、うちは『デジタルカメラマガジン』という名前からしても、そういうデジタルカメラの“らしい”進化したものは大歓迎なので、それをかなり推した部分もあって。

まあ、我々がどこまでそれを携われてたかわかりませんけど、相当話題にはなったんですよ。日本には10誌ぐらいカメラ誌があるんです。その中でベスト5に入ってくる雑誌が強く推して。読んでる人ってのはコンパクトカメラ買う人じゃないわけですけど、その人たちが職場ではカメラに詳しい人ってポジションになっていて、「あれってどうなの?」って聞かれたときに、「や、あれはダメだよ」と言わないような雰囲気を醸成するようにしたんだと思うんですよね。

小寺 うんうん。

川上 で、かなりのプロの方が、普段から提げてるシーンをたくさん見た。あれはどういう風に仕掛けたかわかりませんけど、やっぱり一目置かれるプロの方々のサブ機、普段持ちのカメラに使ってもらえるようなアクションを、メーカーとしてしたんだと思うんですね。そういう両面があったので、伸びたんじゃないかと。

小寺 うん。でも女性へのアプローチという点では、パナソニックの読みもあながち間違ってはなかった。

川上 逆にパナソニックだってヒットする可能性があったかもしれないけど、パナソニックの戦略としては思いっきりこう、中年以上の女性層をターゲットにしたわけですよね。たぶんあのイメージは、旦那さんがカメラ好きで、奥さんは一緒に旅行に行くのが好きで、撮るのは撮るんだけどあんまりカメラは真剣にやってないと。

でもだんだん中高年になってけば、趣味に何かしとくのにカメラっていいよね、っていう時に、「旦那のこんなでかいカメラは使えないけど、ちょうどいいカメラ」ってイメージがはっきりしたマーケットがあったので、そこに売ったという。

小寺 なるほど。売れる層を完全に読み切ってから出した。

川上 両面があったんですよ。イメージもちゃんと作って。「E-P1」は、宮あおいちゃんじゃなかったらどうなってたんだろうな、とちょっと思ってるんですよね。もっとセクシーな子だったりしてもいいわけだし、もっとキャリアウーマンっぽくてもよかったと思うんですけど、あの人は働いてる雰囲気もないし、遊んでる雰囲気もないし。女優としては大河ドラマ『篤姫』主演ですごくヒットしちゃったり、成功してるわけじゃないですか。そういう人を押さえられてた、というのは、カメラのブランドをどう作っていくかが上手だったのかな、というふうに見てます。



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マーケットから見たデジカメの世界《第1回》

小寺メルマガ「金曜ランチボックス」の中の対談部分を無償公開しています。毎週金曜日発行のメルマガから抜粋して、翌週の火曜日ぐらいに公開していく予定です。

「金曜ランチボックス」は、この対談以外にも社会系コラムや製品レビュー、Q&Aコーナー、そしてこれまでブログで書いてきた小ネタなど沢山のコンテンツでお楽しみ頂けるようになっています。よろしければ、下記2箇所の配信先バナーからご購読をお願いします。

□対談:Small Talk

毎月専門家のゲストをお招きして、旬なネタ、トレンドのお話を伺います。

今月の対談のお相手は、インプレスジャパン刊「デジタルカメラマガジン」の編集長を務める、川上義哉氏にお願いした。実はデジカメマガジンの編集長になる前は、インプレスの看板である「できる○○」シリーズの編集長を務め、僕の本もずいぶん担当して貰った。

さらにその時代、津田大介著「だからWinMXはやめられない」を世に出した人物でもあり、「あの原稿を書かない津田大介に原稿を書かせた」ことで一躍スター編集者に上り詰める先駆けとなったのが、川上氏である。そしてその打ち上げの席で、僕は津田大介に初めて引き合わされる事になるのである。

僕もカメラは一通りいじくってきた方だが、技術者として見ている部分が大きい。一方川上氏の視点は、「デジカメ市場の中でどうメディアとして生き残っていくか」である。激動のデジカメシーンの中で泳いできた、その視点から見たものを伺っていく。

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マーケットから見たデジカメの世界《第1回》
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小寺 川上さんの場合は、デジカメが好きで好きで『デジタルカメラマガジン』の編集長になったわけじゃない。そういう意味ではほら、カメラ雑誌でたたき上げの編集者とは微妙に違う立ち位置じゃないですか。そういう視点で、デジカメのマーケティング的なものとか、ビジネス的に「どういう方向に紆余曲折あって今ここにある」みたいなところのお話ができたらな、と思って。

川上 はい、わかりました。

小寺 ほら、以前は『できる』シリーズの編集長だったわけじゃないですか。で、僕のやつを担当してもらったりとかして。で、ある日『デジタルカメラマガジン』に編集長で行かないか、という話になったわけですよね。あれは何年ぐらいの話でしたっけ。

川上 実は『できる』をやってた時期が長くて。で、『できる』に来て初めて担当したのが小寺さんの本だったんです。

小寺 そうですね、『できるVAIO』シリーズ。

川上 よく売れましたけど(笑)。あれからデスクやって、副編編集長って、編集長までいって、編集長が実は2年しかやらなくて、異動なんです。

小寺 ああ、2年なんだ。

川上 それが今ちょうど、『デジタルカメラマガジン』の編集長になって5年目に入ったとこで、移動になったのは4年前、2008年の2月ですね。

小寺 まだ4年しかなってないんだ。なんかもうずいぶんやってるような気が。

DSCF0680川上 ま、どこの部署に行ってもそういう風に言われますけど(笑)。ただまあ、編集長みたいな仕事は、媒体によりますけど、4、5年経つとひとつこう、一巡しちゃう。そろそろまた、ぴょいと(笑)、違うところへ行っちゃうかもしれませんけど。

小寺 なるほど。『デジカメマガジン』という雑誌自体は、ずいぶん前からあったわけですよね。

川上 4年もやってると編集長らしいことも言うんですけど、一応、創刊して15周年なんです、今年。

小寺 あ、そんなにやってんだ。

川上 98年ぐらいに季刊で創刊してるんですよね。で、当時は、やっと100万画素とか出てくる時代で。QV10AとかQV30とか──CASIOさんのね。あれが大ヒットしてた時期なんですよ。

小寺 ああ、あんな頃なんだ。

川上 で、当時のデジタルカメラとカメラって、完全に別の物で。要するに、写真作品というような意味合いじゃないですよね。もっと言うと、パソコンの入力デバイス的な時期で、僕も楽しくて使ってたのを覚えてるんですけど。
そういう時に、マーケットもどんどん大きくなっていくし、インテルのCPUのように倍々ゲームで画素数が大きくなっていく時期にちょうど創刊していくわけですよね。

ただあの時──僕も雑誌を引き受ける時に創刊号とか読んだんですけど、アプローチとしては面白くて。意外に思ったのは、「パソコンのある種の周辺機器、入力デバイスだ」っていう意味合いの面白さというのは当時もあったし今もあるんですけど、一方で“カメラの世界、写真を撮る世界”においては、昔から記録性というものを最も重要視する考え方がやっぱりあって。

もっと言うと、「目で見るように、感じるように撮れ」みたいな言い方をする“スナップショットの世界”があって、見て「素敵だな」と思って撮ってるんではもう遅いよ、と。そうするときに、フィルムというのはやっぱり速写性とか、再現性──そこでパッとすぐ見れるわけじゃないし、フィルムを36枚とか、24枚とか、もしかしたらもっと短い。そういうものに比べてデジタルカメラって、画素は10万画素だったり30万画素だけど、枚数はけっこう撮れるわけですよね。で、すぐここで確認できて。

だから、目で見てるものをどんどん記録できる面白さを、当時でも「先生」と言われたクラスの写真家が撮っている。それを巻頭でやってたりしてた。まだ定まらない価値の商品をどういう風に捉えるか、ということを一生懸命アプローチした雑誌だったみたいですね。

小寺 なるほど。ただね、フィルムカメラは雑誌みたいな紙メディアに耐えるけど、当時のデジカメって、とても印刷に耐えられる解像度じゃないじゃないですか。センサなんかもビデオ用のやつだったりして。それでも紙媒体でやってた、っていうのは、まあ当時はメディアが紙しかなかった、ってことですかね。

川上 そうですね。ですから最初の数年までは、紙媒体のカメラマンと言われる人たちが、デジカメに行くか行くまいかという時期があった。そして2001年ぐらいに、キヤノンがEOS D30とか、要するに300万画素以上のものを、それなりに安く提供してくる時期がくるんですよね。で、そこで一気にプロが買い始めて、1000万画素のEOS-1Dならそれなりに使えるよね、と。

ただそこで問題なのは、RGBで撮ってる画像なので、それをCMYKにできるの?とか、入稿する方法がほとんどの業界にスタンダードがないってことがあったり。まさにあの当時の大事な問題は、ホワイトバランスってどうするの、ってことなんですよ。

小寺 うんうん。フィルムってそもそもホワイトバランスないからね。

川上 で、それをどう撮るか。そのあとRAWデータで撮るってのが出てきて、ってのはあるんですけど。その時に『デジカメマガジン』の主要なお客さんは、仕事でカメラを使わざるを得ないプロの写真家の方、っていう時期が長かったんですよね。
小寺 へえええ。

川上 だからものすごくハイエンドなことが書いてあるんですよね。仕事で導入するのに情報がない、インターネットもそんな情報が載ってるものはなかったんで、この雑誌がひとつの踏み台というか。人柱になった人のレポートがいっぱい載ってるわけですよ。

■フィルムカメラに取って代わる時代

小寺 そこから雑誌の購入層というのは、そこからどういう風に変わっていくわけですか。

川上 ええと皆さんもよく覚えてらっしゃると思いますが、2006年にEOS Kiss Digiral Xという、キヤノンのエントリー機ですけど、あれが1000万画素を超えた。それから1200万画素前後で停滞して、そんなに倍々で大きくならなくなってきた時期から、「そんなに画素いらないんじゃない?」っていう風にみんな言い始めて、急に変わっちゃって。

それまでは雑誌が新製品情報をいっぱい載せて、どんどんどんどん買い替えをさせてた時期があったわけです。そういう人が本を買わなくなったんでしょうかね。いや買わなくなったとは言わないけど、カメラ側の進化が停滞し始めると、そういうモチベーションで買う本じゃなくなっちゃった。

で、もっと言うと、うちも広告もらったりしてるので、そんなに噂レベルでぱっと載せるわけにもいかない。しっかり検証して、裏付けもしっかりしなきゃいけないんだけれども、その裏付けが、すごくレベルが上がっちゃってですね。さっきのホワイトバランスの問題もしかりですけど、レンズとか、画像処理エンジンのいろんなパラメータもある。あと、ISO感度の問題もあるし、単純にこういう絵になってます、っていうのが、簡単に出せなくなった。

興味があって読みたい情報というのが、雑誌に載るタイミングがどんどん遅くなってくるわけですよね。メーカーさんともコミュニケーションしながらやってるから、変なデータがが出てきたら載せる前に確認したりとかすると、どんどん遅れていったりするようなこともあって。

一方でアマチュアでそういう内容を知りたい人なんかは、どんどんウェブに行っていくようになった。そこでこの3年ぐらいはずっと、カメラを買いたい、新製品を知りたい、っていう要素は少なくなって、持ってるカメラをどう使うか、とか、どういう写真を撮りたいか、どうすれば撮れるか、という方向の記事を増やしていきました。それに呼応して部数が増えてるんで、写真を「撮る」ほうの特集がやっぱり当たるようになってるんですね。

小寺 なるほど。一方ウェブのほうには、同じグループ会社で『デジカメWatch』があって、そこでカメラの一番新しい情報が見れる中で、同じグループ会社の中で雑誌をやってかなきゃいけない。向こうも特集は特集でやってるわけだし、どう棲み分けるのか。

川上 そうですねえ。それについてはずいぶん社内でも議論もあるし、自分自身も考えるんですけど。結局ニュース的に、出たのをすぐ出して、知らしめていくものと、それをどう捉えるかだったり、検証が必要だったり、という、少し時間をかけないと出てこない情報ってあると思うんですけど。

さきほどの実用誌方向に舵を振る時に、やっぱり自分の中でも覚悟というか……。ニュースはやる時はやるんですけど、それで勝負しないようにしようとはしてますね。深いインタビューをとってきたり、実際に検証した結果をそのまま結果として載せたり、ということは、まだまだ雑誌、マンスリーでやる意味もあるし。だから、昔に比べると最新情報を『デジカメWatch』と競るようなことはもうないですね。



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プロフィール

小寺信良
WEBに巣食うモノカキ。
原稿依頼、取材などのご連絡は、nob.kodera(at)gmail.comまでお願いします。

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