電子書籍について考えている。今回は、本を出す著者側に立って考えてみたい。とはいっても僕は文芸作家ではないので、自分が知っているPC・IT系出版社の話になってしまう。その辺をあらかじめお含み置きいただきたい。

今、書籍の出版は、モノカキにとっても非常に敷居の高いものとなっている。なかなか本を出させてくれないのだ。

もちろん、書けば書くだけ飛ぶように売れるような人は別だが、僕のようにこれまであまり書籍を出していない著者は、敬遠される。とはいっても、これでも過去に20冊ぐらいは出しており、中には5万部も売れたものがあるので、一応技術系のモノカキとしては優良な書き手だと思うのだが。

なぜ本を出させてくれないかというと、今出版は大不況のさなかであり、編集者がうんといっても営業がダメ出しするのである。

例えば僕と津田大介氏と共著で出した「Contents Future」は、もう3年前の本である。すでに今はいろいろ事情も変わってきているし、我々もこの3年でいろんなキーマンと知り合いになったので、同じ手法で「Contents Future 2」をやったらどうか、と相談がまとまって、出版社に話を持って行った。

今をときめく津田大介の本ということもあって、編集者はもちろん乗り気だったが、営業からNOと言ってきたのでこの話は「なし」になった。津田大介のあまりの遅筆に恐れをなしたのだろうか。それはないよとは僕も自信を持って言い切れないとことがあるが、主な理由は最初の「Contents Future」が初版で終わっているからである。

この本は、日本の著作権に携わるキーマンに多大な影響を与えたと言われており、現に総務省、経産省、文化庁で、コンテンツ系のことに係わっている人間なら読んでないヤツはモグリ、とまで言われ…ごめんなさい僕は嘘をつきました。見逃してください。

「2」を出す意義は大いにあると思うのだが、今出版社で出版Goの判断を握っているのは、内容や意義ではなく、数字しかないという悲しい現実がある。ある意味出版社も今は、本を出す組織としてはもう終わっているところも少なくない。

「現代ビジネス」の記事にも、有名な「出版社を経由せずに本を出す作家」のことが書かれており、出版社を震え上がらせている。しかしいくら作家が直接Amazonと契約できるとは言っても、編集者の助けなしに本が出せるわけではない。著者がわーっと書いた生原稿がそのまま本として通用するほど、世の中甘くはない。

技術系にしても社会論的なものにしても、資料の裏付けや動作検証、注釈、さくいん、校正、DTPなど、本として世に出るためには沢山の人の目と手を通る必要がある。編集業務は、電子書籍の時代になっても無くならないわけである。もちろん小さな編集プロダクションやフリーの編集者も居るが、編集者を多く抱えているのはやはりなんといっても出版社だ。

そういう意味では、出版社の業務は多少変容するだろうが、無くなってしまうわけではない。むしろ出版費用のリスクが下がることで、手がける作品数が増え、書籍編集業務は活性化するはずである。これは丁度、映像がネットに乗るようになって、テレビ局も放送局ではなく、制作局に変容すべきではないか、という議論と似ている。

記事中では日本文藝家協会の三田誠広さんが、電子書籍になると初版分の印税が支払われなるので、最低補償額の不安を述べられている。三田さんぐらいの大作家ともなれば初版分の全額をいただけるのだろうが、悲しいかな、こと技術系出版社と貧乏ライターの間では、もうすでに初版分の全額を支払わないという形態も出てきている。僕の知っているところでは、初版の40%のみ保証、あとは売れただけ、という契約書になっている。もはや出版の世界では、クリエイター側もそれぐらいのリスクを背負わされるところまで来ているのである。

もちろん初版部数を40%に減らせば全額ということになるが、そこまで減らすと全国に配本するには足りないので、結果的に露出が減って売れないという負のスパイラルになるため、初版の撒き数は減らせないのである。

これなども、単に物理物である制限から来るもので、電子書籍になれば配本や在庫部数の処理もいらなくなるため、もっとフレキシブルに書籍が動くようになるはずである。初版分の最低補償額は、最初にまとめて貰うか全額印税にするかで、印税率を調整すればいいことである。

電子書籍は、終わった出版部門にとってはもやは乗るしかない話だ。だってこのまま何もしなければ、事業部が閉鎖になるか、会社ごと潰れるだけだからである。

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