Twitterでお題を貰ったような気がするので、久しぶりのブログ更新である。

東海テレビが生放送中に、スタッフがふざけて作ったテロップを誤って23秒間放送したことで、様々な波紋を呼んでいる。もちろん、不謹慎にもほどがあるし、関係者が激怒するのも当然だろうと思う。ただ元放送技術者としては、なぜこういう事故が起こったのか、ということのほうが気になるところだ。

東海テレビのシステムがどうなっているのかは知らないのだが、当該の番組は情報バラエティの生放送だということなので、制作は報道局だろう。送出は情報番組用のスタジオとそれに付いている副調整室を使って行なっていたと想像される。

問題のテロップは、CGで制作されたものと聞いている。この手のテロップは、すべてデータとしてファイル上でやり取りされる。フリップ専用機で制作され、そのファイルはテロップなどの静止画を順次送出するためのこれまた別の専用機に送られる。この送出機で、台本の順番通りに送出順に並べ、ほとんどの場合は単に「TAKE」とか「送出」とかいったボタンを押すだけで順番に1枚ずつ呼び出される仕組みだ。

それをどのタイミングでテレビ放送画面に出すのかは、TD(テクニカルディレクター)がスイッチャーと呼ばれる画面切り替え器を使って、操作している。ただTDがカメラ割りなどで忙しい場合は、テロップだけはサブの技術スタッフが入れる場合もある。スイッチャーは、そうやって手分けして作業できるようにも作られている。

こういった電子テロップ装置では、フリップのような紙ものになるタイミングはない。内容の確認は、放送開始前の技術打ち合わせで確認するのが普通だが、そのときはスタジオのフロアとかで行なうので、副調整室内にあるテロップ送出機の内容や順番は確認はしていないのではないか。おそらく放送直前に担当ディレクターが、画面上で一通りチェックするというというワークフローになっているのだろう。

Wikipediaの記述を信じるならば、不祥事となったテロップは、プレゼントの発表とは無関係の内容の時に誤って送出されたという。一番考えられるのは、最初からテロップの並び順が間違えていたか、放送中にコーナーの順番を入れ替えるなどしたために、テロップの順番変更がおかしくなったか、というところだろう。

プレゼント発表のテロップがダミーとなっていたのは、放送中に抽選するために、事前に当選者を入れ込んでテロップが作れないという事情があったのかもしれない。そのあたりは、放送を毎週視聴していた人に聞くしかない。

ダミーのテロップは、普通ははっきりダミーとわかる内容で作っておくものである。しかしいくらダミーとはいえ、ああいう不謹慎ネタを仕込むのは、いくら外注の制作スタッフとはいえ、モラルが問われて当然だ。

しかし謎はまだ残る。まったく無関係のコーナーで該当テロップが、23秒間ものあいだ送出されたという点だ。23秒というと、皆さんも時計とか見ながら測って貰えればわかると思うが、相当長い。特にテレビ的な「間」としては、かなり長い。この間、誰も間違っていることに気づかなかったのか。

間違いに気づけば、ディレクターがTDに指示を出して、いったんスタジオカメラに戻すなどの措置ができるはずだ。普通「ヤバい!」と思ったら、5秒以内でそれらの判断、措置はできておかしくない。早ければ3秒。秒数が問題ではないのだが、それでも傷口は最小にできる。

これは想像だが、もしかしたら出すテロップを間違えたのではなく、テロップに切り替えるタイミングではなかったものが、誰かが誤って別の系統のテロップ送出ボタンを押したのではないか。テロップは、同時に2枚出すこともあり得るので、通常は2系統ないし3系統の送出ができるようになっている。

今回送出されたのは、画面内にスーパーインポーズされるテロップではなく、画面全体を取り切るタイプのフリップだ。普通画面全体を取り切るものは、カメラ回線などと同じようにラインそのものを切り替えるのが普通だが、キーヤーと呼ばれる合成用の機能でも同様に画面に出すことができる。

キーヤーは複数の段階にわかれて用意されており、信号の流れ的にどのキーヤーがONになっているかは、メインの操作を行なっているものが把握するのが普通である。ただ、DSK(ダウンストリームキーヤー)と呼ばれる最終ブロックのキーヤーは、生放送では時報とか緊急テロップなどに使うため、あまり積極的に使わないケースもある。(これは各局のシステム運用がどうなっているかによる。時報や緊急テロップは、スタジオ副調のさらに後ろにあるマスター調整室で入れることもあるだろう。)

おそらく23秒間もテロップが放置された原因は、スイッチャーのどこでこのテロップがONされたのか、瞬時に把握できなかったことが原因ではないか。普段は使わないはずのキーヤーのボタンを誰かが台本か何か置いた拍子に押されてしまったら、TDとしてはたまったものではない。

もちろんすべての元凶は、ふざけたテロップを作ったスタッフ、それを容認してきたスタッフのモラルである。ブラックジョークは時には人を和ませ、精神を健全に保つ働きもあるが、それは口だけにして、実際に作っちゃったらさすがにダメだろう。

今回事件を教訓として、民放各社はワークフローの見直し、スタッフのモラル向上に務めていただきたいと思う。


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