前回のエントリーで、東海テレビが放送した検証番組を見ての疑問点を列挙したが、のちに文書の形で報告書が出ていることを知った。先のエントリーを書くときにこの報告書を読んでいればいろいろ解釈も変わったと思われる。筆者の情弱っぷりを深くお詫びするものである。

今回はこの報告書が示す現場の状況から、もう一度放送局と制作プロセスの問題を考えてみたい。

前回のエントリーでは、問題のテロップを作ったということと、放送に出てしまったことは別の問題であるとしたが、この部分は変わっていない。もちろん相互に関係しているが、ここでまた新たな課題が浮き上がったように思える。

■問題のテロップ
報告書によれば、制作会社男性の評価として、

「東海テレビでの仕事は通算30年以上である。周りからは無口でおとなしい、とっつきにくいとの評価が多く、また仕事については、「手が遅い」「ややスキルに難がある」などと評価は高くなかった。スピードと判断力が要求されるニュースの担当から、3年前に「ぴーかんテレビ」の担当になっていた。 「ぴーかんテレビ」の担当になってからも、一部スタッフの間からは仕事が遅いなどの評価を受けていた。こうした声は所属する制作会社にも届き、会社幹部は近い将来、緊張感を要求される生放送番組の担当から、比較的自分のペースで仕事ができる、生放送以外の番組への配置転換を考えていた。 「ぴーかんテレビ」のスタッフの中では、最年長であるが、目立たず、リーダー的存在とは程遠いおとなしい性格であった。しかもテロップの修正依頼などが殺到すると、いわゆる「テンパる」ことがよくあり、周りの様子がよくわからなくなることがあった。」

とある。人事評価としては、かなり厳しい。検証番組の中ではこの事実が含まれていなかったので、筆者はこの男性を、仕事ができるゆえに残さざるを得なかった人材ではないかと解釈した。テレビ業界には、そういう人は多いからである。

しかしこの評価を見ると、その予想はまったく違っていた。放送局側としては、もっと仕事ができる人材を欲しかっただろうが、外部から派遣という形で入っている以上、そこまでの人事権は放送局側にはない。もちろん要望はできるだろうが。

一方制作会社は、この男性をどう扱っていいのか苦慮していたことがわかる。これまで小さなミスはあっただろうが、大きな問題を起こしたわけではない場合、むやみに解雇するわけにもいかない。

テレビ業界においての一般論だが、実際に大きなミスがあった場合でも、減俸や降格、配置転換などの処分はあっても、解雇までにはなかなか至らないものである。特にテレビ関連事業は拘束時間が異常に長く、労働基準法に抵触するケースが多発するため、労働基準監督署からもきっちりマークされている。実は筆者が働いていた会社にも、入社2年目の時に労働基準監督署から監査が入ったことがあった。労組問題がこじれて裁判にでもなれば、それこそ業界内風評被害で倒産するケースもあるので、解雇には慎重であるのが普通である。

制作会社では、ニュースから情報番組、さらには生放送ではない部門への配置転換を検討していたという。30年間も雇用し続けた理由としては、長年勤めて貰っているということから、ある分野に向いていなくても、配置を換えればなんとかやっていけるのではないか、という温情の部分がかなりあったのではないかと推測する。

問題のテロップを制作した初期段階では、これを見たアシスタントプロデューサーがかなり強い口調で不見識であると批難したとされている。“テロップ制作者は手が震えていたくらいだから、すごく怖がっていましたよね”という証言があるぐらいだから、NGであるという意図はかなり明確に伝わっていると考えなければならない。

ではなぜ制作社はそのまま放置したのか。普通ならそこまで怒られれば、真っ先に訂正にとりかかるのが普通である。これは推測にしか過ぎないが、やはりそこには業界に長く勤めているプライドが邪魔をしたのかもしれない。

女性AP兼TKさんは、以前から予想してきたとおりフリーランスであることがわかった。番組に深くコミットしていけば、有能であれば、自動的にアシスタントプロデューサーぐらいの地位にはなるだろう。これは以前も書いたが、有能なTKさんは大抵、仕事ができないヤツに対しては怖い存在である。ただし新人には優しい。仕事を知らなくてできないのと、仕事を知っていてできないのを明確に区別するからである。

また新人TKさんは、「外部スタッフ」と書いてある。別の制作会社からの派遣であれば、テロップ制作の男性同様、そう書くところであろう。そこを外部スタッフと書くところからすると、東海テレビが直接雇用したアルバイトなのかもしれない。

実はNHKにも似たような制度がある。全国のNHKで現地採用される「NHKスタッフ」という制度がそれである。主に技術スタッフやアナウンサー、レポーターなど現地の人材を3年間雇用する制度で、近年で有名なのは「スイカップ」として人気を博した古瀬 絵理アナウンサーだろう。彼女はNHK山形放送局のNHKスタッフであった。

なぜ3年間なのかというと、それ以上同じ職種で雇用を続けると、退職金の支払い義務が発生するからだそうである。詳しくは労基法に詳しい方からご意見があるだろうが、以前NHKは雇用したアルバイトがやめるときに退職金を請求され、それを拒否したために裁判になったことがある。それが元で、アルバイトは原則同じ部署に3年間まで雇用、というルールになったのだと聞いた。

このTKの女性も、ADを3年間経験したのち、本人の希望でTKに転身したとある。まあ単なる偶然かもしれないが、関係があるとすれば、上記のような理由が考えられる。アルバイトで雇用しながらフリーランスのTKさんへの弟子入りをさせているということであるならば、まあちょっとなあなあなところがないではないが、東海テレビはかなり温情のある、いい会社なのかもしれない。

これら現場から優遇されている女性TKさんらに、うだつの上がらない50代男性が怒られまくったわけである。今これを読んで「うわぁ」と思っただろうか。筆者も書いててそう思った。そこまでわかれば、あとはもう細かく書く必要もないだろう。

■テロップ送出の技術的な視点
次にテロップの送出についてである。前回のエントリーでは、なんでDSKをONにしっぱなしなのか、という点を指摘したが、報告書の中では完パケの通販番組放送中にも、番組ロゴをここで出していたということがわかった。

事故のあった番組のうち、問題のテロップが出る直前と直後を比較したところ、事故前に左肩に小さな番組ロゴがあり、事故後はなくなっているということが確認できた。

テロップ前

テロップ後


今更言ってもしょうがないことだが、かなり小さい。かなり番組にコミットしていないと、こういうものを今現場で出してるよ、というのが認識しづらいレベルである。まあ小さくてもテロップには違いないので、テロップチェンジすれば次のものが出てしまうわけだが。

ただ報告書によれば、問題のテロップはスタジオ送り用のT2の中には見当たらず、OAに出るT1の中にあったという。これをわざわざ見つけて出してしまったというのだから、新人TKさんもT1とT2の使い分けをよく把握していなかったのではないか。さらにテロップというものが、どのようなルートで出されているのかの技術的な理解をしていなかったのではないか。

さらに悪いことに、テロップ制作者の男性も、T1とT2がどのように使い分けられているのかを把握していなかったと証言している。しかしそれでは、現場は大変だろう。なにせOAで使うものとスタジオで使うものが、区別なくどっちかのテロッパーに入っているだけなのである。送出現場でテロップの整理をするプロセスがあったのだろうか。それに関しては報告書の中にも記載がない。

昔のNHKの経験では、テロップ発注伝票の中にこのテロップはどこに送る、という指示も付けていたような記憶がある。そうすれば、テロップ制作者までが送出システムの構造まで把握しなくて済むからだ。東海テレビではどのテロップをどこに送るといった指示がどのようになされていたのか、気になるところである。

報告書に記載のシステム図を見ると、T1とT2はほぼ同じの配線になっていることがわかる。つまりどちらのテロッパーも、OAに出せるし、スタジオモニタにも出せるようになっている。実際には2枚のテロップを同時に画面に出すこともあっただろうから、T2は常にスタジオ用というわけでもなかったようだ。

まあこれを使ったテロップ送出を、技術者とは言えないTKさんにやらせるというのは、まあちょっと難しいんじゃないかと思う。以前のエントリーでスタッフ構成の問題として指摘した部分だが、そういうのはアシスタントクラスでも構わないから、技術者がやるべきなのではないか。

技術畑の人間同士であれば、システムを把握しているかどうか、常に上司にチェックされる。しかし制作系のスタッフの場合、技術的な理解はチェックされる機構がない。できるよね? 前やったことあるでしょ? ぐらいで済まされるケースも多い。

まあ出ちゃったものはしょうがないが、マスター担当者も結構杜撰なところがある。このときは2名が勤務していたそうだが、映像監視の担当者が次のCMの順番を確認するため、予定表に目を通していたという。この2名も派遣社員だというが、OAの監視で2人とも目を離したらダメだろう。そのための2名体制なのだ。2名で目を通さないとCMチェックがやりきれないのなら、3名体制にしなければならない。

筆者がポストプロダクション勤務の時は、素材上げ(収録用テープから編集用テープへのダビング)の際でもモニターから目を離すなと厳しく言われたものである。素材なんてこういっちゃなんだが、OAで使われる量の20倍から100倍ぐらいの映像量がある。それを全部、単なるダビング時にも目を離さず監視しているわけだ。そのおかげで今でも、食事時にテレビが点いていると、ついつい目を離さずしっかり監視してしまう。テレビを食い入るように見てオマエは子供かと、妻に笑われっぱなしである。

それなのに一番OAに近い技術者がそう簡単に目を離しちゃったら、過去オレ達が目を真っ赤にしてやってきた20年は一体なんだったの? と問いたい。

最後に、一度にすべての資料に目を通してからエントリーを書けば良かったのだが、断片的な情報を元に書いたものが続いてしまう結果となった。東海テレビにも間接的ながらご迷惑をおかけしたことと思う。ここに改め謝罪させていただく。

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