小寺メルマガ「金曜ランチボックス」の中の対談部分を無償公開しています。毎週金曜日発行のメルマガから抜粋して、翌週の火曜日ぐらいに公開していく予定です。



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□対談:Small Talk

毎月専門家のゲストをお招きして、旬なネタ、トレンドのお話を伺います。

今月の対談、首都大学東京の日野キャンパスにある渡邊 英徳准教授の研究室にお邪魔して、震災に関連するプロジェクトのお話しを伺う4回目。今回が最終回である。

渡邊先生の研修室は、先の東日本大震災の折、ホンダ、トヨタの通常実績マップと、避難所の位置情報を重ねて見られるようにしたものをGoogle Earth上で公開するというプロジェクトをいち早く立ち上げたことで、世に知られるようになった。

現在そのマップは、すでに役目を終えたとして、「東日本大震災アーカイブ」というサイトになっている。

・東日本大震災アーカイブ
http://shinsai.mapping.jp/

今回は同プロジェクトを手がけた首都大学東京大学院 システムデザイン研究科 二年の佐々木遥子さん、計画停電MAPを作った同研究科 二年の北原 和也さんを交えて、震災後に立ち上がったプロジェクトに対する評価や意義、そして方法論の確立やモチベーションの問題など、目に見えないがプロジェクトを維持し続けるために必要不可欠な要素とは何か、そのあたりを伺っていく。

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震災が切り開いた、データマッシュアップの可能性《第4回》
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小寺 ウェブコンテンツを作るということは、人に多く見られなければ意味がないものを作るわけですから、そっち方向に行くのはある意味当然と言えば当然の流れですね。

渡邊 もともと人と人の間にあるものなんですよね。だから、絵を一人でじっくり描くというような作品制作はちょっと違ってるかな、という感じですね。

小寺 そうですね。

渡邊 「東日本大震災アーカイブ」を手伝ってくれた佐々木さんが面白いのは、別にここの研究室の人じゃないんです。

小寺 え、そうなの?(笑)

渡邊 スペースデザインといって、店舗空間とかをデザインする研究室の人。


DSC01881佐々木 空間デザインの研究室におります。

渡邊 さっきの震災アーカイブの話になると、あれ実は空間をデザインすることに他ならないんですよね。

小寺 そうか、そうですね。

渡邊 いろいろと示唆的な一年間だったなと僕は思っています。

佐々木 勉強になりました。

小寺 “空間”という意味が、「店の中」とか「建物の中」から外に出ちゃったわけですね(笑)。

佐々木 そうです(笑)。

渡邊 情報空間と物理空間が重なってきているんです。さっきの、iPadのARアプリ(*)がまさにそうだと思うんですけど。

(*)eARthquake 311 HD (AppStore)


小寺 ああ、そうですねえ。情報空間って、これまでは掴みようがなかったところを、掴めるようにした、という点では、写真を地理的に同一のところに置いた、というところに、何か特別な意味がある感じがしますね。

渡邊 よく感想をもらうのが、セカイカメラとかと使ってる技術は変わらないんですけど、使い方が良かった、という評価をされるわけですよね。

小寺 なるほど。

渡邊 震災以前とかは──セカイカメラってすごく面白いんですけど、どう使えばいいんだよ、という決定打がなかったとこに、ヒロシマ、ナガサキ、東日本大震災というのを作ったので、なるほどこういう使い方があるのか、と言ってもらえたわけです。

DSC01890あと、これはちょっと自慢……しちゃいけないんですけど。東北大が、何十億円もかけて、東日本大震災アーカイブを作ってるんですけど、まだ全然立ち上がってなくて、たくさんの企業がぶら下がってなんかやってる、っていう雰囲気でしかないんですよ。で、検索すると我々のがトップに出てくる、というのが、なんとなく……作り方が間違ってなかったな、と。

もちろん東北大のも素晴らしい試みだし、国の予算でデジタルアーカイブを作るというのはやるべきなんだけど、なんか、体制の作り方がちょっと古めかしい。

小寺 なるほど。あとね、情報の見せ方だと思うんですよ。多様なデータがあるじゃないですか。写真だけに限らず、動画があって、テキストもあり、音声データもおそらくある。そういう中で、それを一様にどうやって展開すればいいのか。あと、時間軸もありますよね。時間は積み重なっていくわけだし。そういうのを一度にどうやって見せていくか、ということが。

渡邊 ビジュアライゼーションもね。

小寺 ええ。これまでは資料館とか図書館にそういうものは積まれていってて、ある軸でしか分類されてないわけじゃないですか。そういうものを、デジタル技術を使って、いろんな角度からいろんなふうに貫いて見せる技術というのは、この渡邊先生の研究室の取り組みで、なんか飛躍的に前に進んだような気がするんですよね。

でね、ひとつ──僕らでMIAU(社団法人インターネットユーザー協会)という団体をやってて、昨年の暮れに、仙台で年末特番をニコ生でやったんですね。その帰りに、「せんだいメディアテーク」というところに寄ってみたんですよ。そしたらそこは、「3がつ11にちをわすれないためにセンター」というのを展開してて、そこに地元の方が膨大なデータを集め続けてるんですって。要は、アーカイブとしてはどんどん貯まっていくんだけど、それをどうやって見せるんだ、というところで頓挫してる感じだったんですよね。

渡邊 集めたはいいけれど、ということですね。

小寺 本当に多種多様で、写真が好きな方は写真を撮ってるし、ビデオでインタビューをとる人もいるし。あとは、カメラを車に固定して、街をずっとドライブした記録というのもあるし。

渡邊 ああ、ストリートビューみたいな。

小寺 あるいは、音声だけのインタビューもあるし、で……そういうのをどうやって整理していくのかと。あとはもう長期保存という意味でのアーカイブですね。そのあたりが答えがないようなので、渡邊先生のこういう例を参考に、なんかできないかなと思ってるんですよね。

もうひとつ課題なのが、記録されてる記録者の方は当然アマチュアなんですけど、震災から一年も経つと、なんのためにやってるのか迷ってくるんですよね。

渡邊 ああー……「これってなんの役に立つんだろう」みたいな感じになっちゃうんですかね。

小寺 やっぱりゴールというかね、アウトプットの形が見えないからだというふうに僕は思うんですよね。このモチベーションの低下というのが一番の問題になっていて、そこはまだ解決されてないらしいんですね。

渡邊 ヒロシマ・アーカイブって、高校生に協力してもらったんですけど、その一年前と明らかに違ったのは、やっぱりGoogle Earth上のインターフェースって魅力的なので、そこに私たちが頑張って収録した証言のビデオが載るんだ、というのが、けっこう強いモチベーションになったみたいなんですよ。で、僕らも忙しかったんで、映像編集とかに時間が割けなくて、なかなか載せられなかったら、あっちの担任の先生から「まだですか」「まだですか」「楽しみにしてるんです」って、催促がきたりして(笑)。

小寺 (笑)。

渡邊 特に若い世代だから、高校生とか、大学生に言わせると、やっぱり最後にかっこよく出てほしいみたいなんですよね、言葉を選ばずに言えば。震災だから重苦しいとか、原爆の活動だから重厚だ、という論理ではやっぱり動かなくて。最後に、すごいかっこいい、地球の上に我々のが載って、世界中の人に伝わるんだ、というところが、けっこう大きく突き動かしてくれるみたいなんですよ。

小寺 やっぱアウトプット大事ですよね。アウトプットの見え方、っていうかな。

渡邊 それこそベタに、テレビに流れるようでもいいと思うんですけど。なんかその、どういう形で自分らの活動が、世界に伝わっていくのか、というのが見えてるとやる気が出るんだと思ってます。

小寺 たぶんね、多くのアーカイブプロジェクトってそこが欠けてるんじゃないかと思うんですよね。後世に残さなければならないという思いがどうしても強いので、プロジェクトの音頭を取ってる人はその使命感でやるんだけど、周りがだんだん脱落していくという感じになっているんじゃないでしょうか。

■研究と実用の狭間

小寺 そういえばこれ、何か賞をとりませんでしたっけ? 東日本大震災の。

渡邊 はい。Mashup Awards(マッシュアップアワード)。なんか、照れ隠しにここにトロフィーが……

小寺 (笑)。そんな無造作に! もうちょっとちゃんと飾ったほうがいいんじゃないすか(笑)。

渡邊 あと実は北原くんたちの「計画停電MAP」も、Yahoo!のインターネットクリエイティブアワードで、学生賞をとってるんですよ。ただ、あまり賞として誇るようなものでもないな、というふうに思うんですよ。テーマがテーマだけに。

小寺 うーん、なるほど。

渡邊 だから、なんかいつも……北原くんも僕もですけど、「ナガサキ・アーカイブやってるんですよ!」みたいな言い方をすることはあんまりないんです。

小寺 で、こっちのがYahoo!のアワードのトロフィー?

北原 本当は、これだけじゃなくて、名前が刻んであるほうと合体するんですけど。

小寺 ああ、これだけじゃないのね。これだけだと、何も書いてないもんね(笑)。

北原 これは台座なんです。

小寺 台座なのかよ!(笑)。本体はなんでないの?

北原 一緒に作った先輩が……欲しかったんでしょうね。持ってっちゃったんです(笑)。

渡邊 まあね。実は彼、今ヤフーに勤めてて。入社の一年前にYahoo!の賞をとった、というのはけっこう嬉しかったみたいなんです。

小寺 ああー、なるほどなるほど。

渡邊 審査の講評文も良かったよね。熱い。要は、「技術とか、クリエイションとしてはまだまだだけど、あのタイミングで計画停電MAPを作ってくれた君たちに感謝」みたいな、そういうコメントが書かれてて。良かったなと。

小寺 なんかこう……デザインって、時に実用性と離れちゃうところがあるんですけど、ウェブデザインって、役に立たないと成り立たないデザインなんですよね。そういう意味では、なんて言うんですかね……かっこよく見せることも重要なんですが、適切なタイミングに役に立つものを出すというのもひとつのデザインなのかな、と。プロジェクトデザインということになるんでしょうかね。

渡邊 活動のデザイン、ということでしょうね。完成度を上げたけど一週間後だったらもう、ちょっと今は必要じゃないよね、というようなものが多いような気がしますね。その点では、ツイートするタイミングとかと似てるかもしれないですね。

北原 先輩が、作った時のツイッターのタイムラインみたいなのをまとめてたりもして。

小寺 おおー。

北原 何時何分にこういう……

小寺 生々しい(笑)。「しつこくてすいませんが」って。

渡邊 彼、これを修論でグラフィカルにまとめたんですよ。何が起きて、どうなった、みたいなのを。

小寺 ああ、修論もそういうふうにデザインがされてるってこと自体がやっぱり、もういい加減世の中変わらないとね、っていうことかもしれないですね。

渡邊 論文、っていうフォーマットでやらなくても、って話ですね。そういうことでは、計画停電MAPだったら実物を示して、それで良かったかもしれないですね。

小寺 そうですね。あとはもうプレゼンテーションで。

渡邊 2人とも今、論文にはちょっと悩まされてるというとこですよ。M2だから、書かなきゃいけない。

小寺 論を書くというのは、なかなか……手を動かせばいいというものでもないので、物作りの人としてはちょっと勝手が違うでしょ?

北原 (苦笑)。

渡邊 僕も未だに大嫌い(笑)。仕事だから書いてるというというところはあるけど。ただ、重要だなと思うのは、さっきのように、計画停電MAP便利だったな、でとどめずに、あれは震災後の活動として有用であった、というふうに言うと、他の人により役に立つものになると思う。知見を多くの人に伝えるという意味では、論文とか研究というものはいいな、とは思いますね。それは僕、ここの大学に赴任して初めて知ったことですね。

■マッシュアップの「元」

小寺 あとは有用なデータ、一次ソースを持ってるところのデータの出し方みたいなものも、震災を教訓に少しずつ変わってきたような気がしますよね。こうやってマッシュアップして、他の人が利用できるようにもう一回、再加工というフェーズがあるんだということを理解してもらえた、というところも大きいかもしれないです。こういう活動がなければ、未だに多分、表組とか画像とかで出してくるんですよ。

渡邊 スキャンデータとか(笑)。

小寺 そうそう、スキャンデータ。紙をスキャンしたやつをそのまま出してきたり。それをさ、OCRにかけてテキスト化してくれる人とかもいたんですよね、当時。

渡邊 うん、いましたね。まあ、捏造する、っていう危険性はあるでしょうけど、最低限CSVとか、そのくらいで出してほしいな、って気はしますよね。東電の最初のスキャンデータ、曲がってたりしましたよ。

一同 (笑)。

北原 ただ、後になってExcelとPDFを公開してもらったんですけど……テキスト編集できないのが、なんかほんと……あれ、ちょっと悪意感じますよね。

渡邊 酷いね。なんのために公開したんだ、みたいな。

小寺 それ要するにコピーコントロールで編集権がないから、要はテキストとしてコピーできない、ということ?

北原 そうですね。

小寺 ……それはひどいね。要は、テキストをコピーして別のものに貼り付ける、みたいなことが禁止されてると。

北原 はい。

渡邊 それ以外でどうやって使うんだよ、というね。印刷して貼るのか、という話だよね。

北原 その時はどうやって使ったんだったかな……なんかいろいろ、OpenOfficeを通すと開けたりとか。

小寺 抜け道あるのかよ(笑)。

一同 (笑)。

渡邊 最近のXLSの、最後にXがついてるフォーマットのやつはあれ、XMLだからね。だから、最初のパスワード設定さえされてなければ、実は無理矢理処理はできる。

小寺 そうそう、できるできる。

渡邊 面白い。小寺さんの取材だと今みたいな話ができるのが楽しい。

小寺 ははははは(笑)。

渡邊 いろんな取材がくるんですけど、やっぱりたいていの方はそんなに技術には興味がないので、なんていうんですかね、どうしてもある面からの回答になりますよね。社会的な意義とか、そこで学生として何を得たのか、という面になるんですけど。

僕的に強調したかったのは、北原くんとか、多分僕よりずっとプログラミングスキルは上なんですよ。だから、「学生だから学生レベルのものを作る」みたいなのが、特にウェブに関しては全然通用しない時代だな、というのを、もうちょっと社会的に知ってほしいな、という気がするんです。

小寺 そうですね。計画停電マップのことで言えば、一次ソースから出てくるデータって、メディアからするとそれをそのまま載せることがある意味で義務ではあるんです。手を加えてない、正確に伝えるっていうね。

渡邊 あ、なるほどね。

小寺 メディアは伝播させることが目的なので、だからそのまま載せてしまうんですけど、でもやっぱりそれではどうしてもわからない人はもちろん大勢います。そのためには、次のフェーズとして誰かが一回飲み込んで咀嚼して、情報をかみ砕いて出さなければならない。人々が欲しいのは詳細な情報じゃなくて、「要するになんなんだ」が知りたいわけじゃないですか。

渡邊 一言で言うとなんなの、というとこですね。

小寺 そうそう。そこの、細かいデータに裏打ちされていながら、パッと一覧で見えるものが提供できる力。そこの──なんていうんですかね。学生だから、ということじゃなく、民でそうやって情報を整えて作っていく、というフェーズができたことというのが、新しいと思うんです。

渡邊 そうですね。

小寺 公共インフラを持ってるところって、情報を出す相手として対官公庁という部分と、対生活者という部分の二面があるわけじゃないですか。たとえば東電から出てくる情報を、生活者が「我々的にはこういうふうにそのデータを見るべきなんだ」ということが言えるかどうか。ここは昔のマスメディアしかなかった頃とは明らかに違ってきてますよね。

たとえばテレビでは、民間の人がテレビ番組をもう一回編集し直して撒く、なんてことって、あり得ないじゃないですか。

渡邊 うんうんうん。

小寺 テレビはある程度語弊があるかもというのは承知で、あれ以上わかりやすくできないぐらいに作っている。しかもコピーコントロールとかもあって編集できないようにしてるので、何にもできない。でもネットの情報はそうはなってない。もう再利用前提、という大原則がもともとあるわけじゃないですか。ま、それなのにプロテクトかけたりするわけですけど。

■技術を持つ者の役目

渡邊 さっき言われた、「生活者が」というのは、すごく──特に、この2人にとってはまさにそうだな、と思いますね。千葉で暮らしてた人と、計画停電に出会った人、というのが、自分たちでコンテンツを作って他の人に伝える時代になったんだ、ということ。

それも、物凄いハイスキルが必要というわけではなくて、インターネット上のサービスを応用して作ることができる。建設的な話になるな、と思って、実際そうしていくと。「東電の情報はさあ」と文句をつけるんじゃなくて、「東電の情報はあれだから地図作ってみた」みたいな感じに持っていけるわけですよね。

小寺 そうですよね。

渡邊 東電をいくらつついても多分、地図は出てこない。

小寺 そこは、僕の考える脱原発ということに対する考え方と繋がるんです。僕はもともと技術者なので、イデオロギー的なことにあんまり興味ないんですよ。で、もし原発を動かさなかったら、その代替はどうするんだ、ってことを考えなければならないわけで、僕は今それを取材して記事化してるんです。そういう、エンジニア的な発想とすごく似ている感じがしますね。僕らは、「じゃあどうすんだ?」という問いに対して、答えを出す係の人なわけですよね。

渡邊 ブーブー言う係じゃなくて(笑)。

小寺 そうそう。旗を振って、人を集めて、扇動して、「電気より命のほうが大切!」って言う係の人じゃないんですよ、僕らは。

渡邊 たしかに。

小寺 もっと、なんていうのかな──ディレクターとかプロデューサーの人が、「小寺ちゃん、こっちの方向で間違いないんだよね? ないんだよね?」って言ったときに、ちゃんと調べる術を持ってて「大丈夫です(キリッ」って言う係の人だよ、僕らは。

一同 (笑)。

渡邊 いいですね(笑)。

小寺 そういう作業は、マスにいてパーッと目立つ人がやる仕事じゃなくて、もっと地べたを這いずり回って現場をうろつく人がやるべき仕事なので。僕は今、そういう仕事をしているということです。

渡邊 なんか、ぐっときますね。


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