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震災が切り開いた、データマッシュアップの可能性《第4回》

小寺メルマガ「金曜ランチボックス」の中の対談部分を無償公開しています。毎週金曜日発行のメルマガから抜粋して、翌週の火曜日ぐらいに公開していく予定です。



「金曜ランチボックス」は、この対談以外にも社会系コラムや製品レビュー、Q&Aコーナー、そしてこれまでブログで書いてきた小ネタなど沢山のコンテンツでお楽しみ頂けるようになっています。よろしければ、下記2箇所の配信先バナーからご購読をお願いします。

□対談:Small Talk

毎月専門家のゲストをお招きして、旬なネタ、トレンドのお話を伺います。

今月の対談、首都大学東京の日野キャンパスにある渡邊 英徳准教授の研究室にお邪魔して、震災に関連するプロジェクトのお話しを伺う4回目。今回が最終回である。

渡邊先生の研修室は、先の東日本大震災の折、ホンダ、トヨタの通常実績マップと、避難所の位置情報を重ねて見られるようにしたものをGoogle Earth上で公開するというプロジェクトをいち早く立ち上げたことで、世に知られるようになった。

現在そのマップは、すでに役目を終えたとして、「東日本大震災アーカイブ」というサイトになっている。

・東日本大震災アーカイブ
http://shinsai.mapping.jp/

今回は同プロジェクトを手がけた首都大学東京大学院 システムデザイン研究科 二年の佐々木遥子さん、計画停電MAPを作った同研究科 二年の北原 和也さんを交えて、震災後に立ち上がったプロジェクトに対する評価や意義、そして方法論の確立やモチベーションの問題など、目に見えないがプロジェクトを維持し続けるために必要不可欠な要素とは何か、そのあたりを伺っていく。

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震災が切り開いた、データマッシュアップの可能性《第4回》
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小寺 ウェブコンテンツを作るということは、人に多く見られなければ意味がないものを作るわけですから、そっち方向に行くのはある意味当然と言えば当然の流れですね。

渡邊 もともと人と人の間にあるものなんですよね。だから、絵を一人でじっくり描くというような作品制作はちょっと違ってるかな、という感じですね。

小寺 そうですね。

渡邊 「東日本大震災アーカイブ」を手伝ってくれた佐々木さんが面白いのは、別にここの研究室の人じゃないんです。

小寺 え、そうなの?(笑)

渡邊 スペースデザインといって、店舗空間とかをデザインする研究室の人。


DSC01881佐々木 空間デザインの研究室におります。

渡邊 さっきの震災アーカイブの話になると、あれ実は空間をデザインすることに他ならないんですよね。

小寺 そうか、そうですね。

渡邊 いろいろと示唆的な一年間だったなと僕は思っています。

佐々木 勉強になりました。

小寺 “空間”という意味が、「店の中」とか「建物の中」から外に出ちゃったわけですね(笑)。

佐々木 そうです(笑)。

渡邊 情報空間と物理空間が重なってきているんです。さっきの、iPadのARアプリ(*)がまさにそうだと思うんですけど。

(*)eARthquake 311 HD (AppStore)


小寺 ああ、そうですねえ。情報空間って、これまでは掴みようがなかったところを、掴めるようにした、という点では、写真を地理的に同一のところに置いた、というところに、何か特別な意味がある感じがしますね。

渡邊 よく感想をもらうのが、セカイカメラとかと使ってる技術は変わらないんですけど、使い方が良かった、という評価をされるわけですよね。

小寺 なるほど。

渡邊 震災以前とかは──セカイカメラってすごく面白いんですけど、どう使えばいいんだよ、という決定打がなかったとこに、ヒロシマ、ナガサキ、東日本大震災というのを作ったので、なるほどこういう使い方があるのか、と言ってもらえたわけです。

DSC01890あと、これはちょっと自慢……しちゃいけないんですけど。東北大が、何十億円もかけて、東日本大震災アーカイブを作ってるんですけど、まだ全然立ち上がってなくて、たくさんの企業がぶら下がってなんかやってる、っていう雰囲気でしかないんですよ。で、検索すると我々のがトップに出てくる、というのが、なんとなく……作り方が間違ってなかったな、と。

もちろん東北大のも素晴らしい試みだし、国の予算でデジタルアーカイブを作るというのはやるべきなんだけど、なんか、体制の作り方がちょっと古めかしい。

小寺 なるほど。あとね、情報の見せ方だと思うんですよ。多様なデータがあるじゃないですか。写真だけに限らず、動画があって、テキストもあり、音声データもおそらくある。そういう中で、それを一様にどうやって展開すればいいのか。あと、時間軸もありますよね。時間は積み重なっていくわけだし。そういうのを一度にどうやって見せていくか、ということが。

渡邊 ビジュアライゼーションもね。

小寺 ええ。これまでは資料館とか図書館にそういうものは積まれていってて、ある軸でしか分類されてないわけじゃないですか。そういうものを、デジタル技術を使って、いろんな角度からいろんなふうに貫いて見せる技術というのは、この渡邊先生の研究室の取り組みで、なんか飛躍的に前に進んだような気がするんですよね。

でね、ひとつ──僕らでMIAU(社団法人インターネットユーザー協会)という団体をやってて、昨年の暮れに、仙台で年末特番をニコ生でやったんですね。その帰りに、「せんだいメディアテーク」というところに寄ってみたんですよ。そしたらそこは、「3がつ11にちをわすれないためにセンター」というのを展開してて、そこに地元の方が膨大なデータを集め続けてるんですって。要は、アーカイブとしてはどんどん貯まっていくんだけど、それをどうやって見せるんだ、というところで頓挫してる感じだったんですよね。

渡邊 集めたはいいけれど、ということですね。

小寺 本当に多種多様で、写真が好きな方は写真を撮ってるし、ビデオでインタビューをとる人もいるし。あとは、カメラを車に固定して、街をずっとドライブした記録というのもあるし。

渡邊 ああ、ストリートビューみたいな。

小寺 あるいは、音声だけのインタビューもあるし、で……そういうのをどうやって整理していくのかと。あとはもう長期保存という意味でのアーカイブですね。そのあたりが答えがないようなので、渡邊先生のこういう例を参考に、なんかできないかなと思ってるんですよね。

もうひとつ課題なのが、記録されてる記録者の方は当然アマチュアなんですけど、震災から一年も経つと、なんのためにやってるのか迷ってくるんですよね。

渡邊 ああー……「これってなんの役に立つんだろう」みたいな感じになっちゃうんですかね。

小寺 やっぱりゴールというかね、アウトプットの形が見えないからだというふうに僕は思うんですよね。このモチベーションの低下というのが一番の問題になっていて、そこはまだ解決されてないらしいんですね。

渡邊 ヒロシマ・アーカイブって、高校生に協力してもらったんですけど、その一年前と明らかに違ったのは、やっぱりGoogle Earth上のインターフェースって魅力的なので、そこに私たちが頑張って収録した証言のビデオが載るんだ、というのが、けっこう強いモチベーションになったみたいなんですよ。で、僕らも忙しかったんで、映像編集とかに時間が割けなくて、なかなか載せられなかったら、あっちの担任の先生から「まだですか」「まだですか」「楽しみにしてるんです」って、催促がきたりして(笑)。

小寺 (笑)。

渡邊 特に若い世代だから、高校生とか、大学生に言わせると、やっぱり最後にかっこよく出てほしいみたいなんですよね、言葉を選ばずに言えば。震災だから重苦しいとか、原爆の活動だから重厚だ、という論理ではやっぱり動かなくて。最後に、すごいかっこいい、地球の上に我々のが載って、世界中の人に伝わるんだ、というところが、けっこう大きく突き動かしてくれるみたいなんですよ。

小寺 やっぱアウトプット大事ですよね。アウトプットの見え方、っていうかな。

渡邊 それこそベタに、テレビに流れるようでもいいと思うんですけど。なんかその、どういう形で自分らの活動が、世界に伝わっていくのか、というのが見えてるとやる気が出るんだと思ってます。

小寺 たぶんね、多くのアーカイブプロジェクトってそこが欠けてるんじゃないかと思うんですよね。後世に残さなければならないという思いがどうしても強いので、プロジェクトの音頭を取ってる人はその使命感でやるんだけど、周りがだんだん脱落していくという感じになっているんじゃないでしょうか。

■研究と実用の狭間

小寺 そういえばこれ、何か賞をとりませんでしたっけ? 東日本大震災の。

渡邊 はい。Mashup Awards(マッシュアップアワード)。なんか、照れ隠しにここにトロフィーが……

小寺 (笑)。そんな無造作に! もうちょっとちゃんと飾ったほうがいいんじゃないすか(笑)。

渡邊 あと実は北原くんたちの「計画停電MAP」も、Yahoo!のインターネットクリエイティブアワードで、学生賞をとってるんですよ。ただ、あまり賞として誇るようなものでもないな、というふうに思うんですよ。テーマがテーマだけに。

小寺 うーん、なるほど。

渡邊 だから、なんかいつも……北原くんも僕もですけど、「ナガサキ・アーカイブやってるんですよ!」みたいな言い方をすることはあんまりないんです。

小寺 で、こっちのがYahoo!のアワードのトロフィー?

北原 本当は、これだけじゃなくて、名前が刻んであるほうと合体するんですけど。

小寺 ああ、これだけじゃないのね。これだけだと、何も書いてないもんね(笑)。

北原 これは台座なんです。

小寺 台座なのかよ!(笑)。本体はなんでないの?

北原 一緒に作った先輩が……欲しかったんでしょうね。持ってっちゃったんです(笑)。

渡邊 まあね。実は彼、今ヤフーに勤めてて。入社の一年前にYahoo!の賞をとった、というのはけっこう嬉しかったみたいなんです。

小寺 ああー、なるほどなるほど。

渡邊 審査の講評文も良かったよね。熱い。要は、「技術とか、クリエイションとしてはまだまだだけど、あのタイミングで計画停電MAPを作ってくれた君たちに感謝」みたいな、そういうコメントが書かれてて。良かったなと。

小寺 なんかこう……デザインって、時に実用性と離れちゃうところがあるんですけど、ウェブデザインって、役に立たないと成り立たないデザインなんですよね。そういう意味では、なんて言うんですかね……かっこよく見せることも重要なんですが、適切なタイミングに役に立つものを出すというのもひとつのデザインなのかな、と。プロジェクトデザインということになるんでしょうかね。

渡邊 活動のデザイン、ということでしょうね。完成度を上げたけど一週間後だったらもう、ちょっと今は必要じゃないよね、というようなものが多いような気がしますね。その点では、ツイートするタイミングとかと似てるかもしれないですね。

北原 先輩が、作った時のツイッターのタイムラインみたいなのをまとめてたりもして。

小寺 おおー。

北原 何時何分にこういう……

小寺 生々しい(笑)。「しつこくてすいませんが」って。

渡邊 彼、これを修論でグラフィカルにまとめたんですよ。何が起きて、どうなった、みたいなのを。

小寺 ああ、修論もそういうふうにデザインがされてるってこと自体がやっぱり、もういい加減世の中変わらないとね、っていうことかもしれないですね。

渡邊 論文、っていうフォーマットでやらなくても、って話ですね。そういうことでは、計画停電MAPだったら実物を示して、それで良かったかもしれないですね。

小寺 そうですね。あとはもうプレゼンテーションで。

渡邊 2人とも今、論文にはちょっと悩まされてるというとこですよ。M2だから、書かなきゃいけない。

小寺 論を書くというのは、なかなか……手を動かせばいいというものでもないので、物作りの人としてはちょっと勝手が違うでしょ?

北原 (苦笑)。

渡邊 僕も未だに大嫌い(笑)。仕事だから書いてるというというところはあるけど。ただ、重要だなと思うのは、さっきのように、計画停電MAP便利だったな、でとどめずに、あれは震災後の活動として有用であった、というふうに言うと、他の人により役に立つものになると思う。知見を多くの人に伝えるという意味では、論文とか研究というものはいいな、とは思いますね。それは僕、ここの大学に赴任して初めて知ったことですね。

■マッシュアップの「元」

小寺 あとは有用なデータ、一次ソースを持ってるところのデータの出し方みたいなものも、震災を教訓に少しずつ変わってきたような気がしますよね。こうやってマッシュアップして、他の人が利用できるようにもう一回、再加工というフェーズがあるんだということを理解してもらえた、というところも大きいかもしれないです。こういう活動がなければ、未だに多分、表組とか画像とかで出してくるんですよ。

渡邊 スキャンデータとか(笑)。

小寺 そうそう、スキャンデータ。紙をスキャンしたやつをそのまま出してきたり。それをさ、OCRにかけてテキスト化してくれる人とかもいたんですよね、当時。

渡邊 うん、いましたね。まあ、捏造する、っていう危険性はあるでしょうけど、最低限CSVとか、そのくらいで出してほしいな、って気はしますよね。東電の最初のスキャンデータ、曲がってたりしましたよ。

一同 (笑)。

北原 ただ、後になってExcelとPDFを公開してもらったんですけど……テキスト編集できないのが、なんかほんと……あれ、ちょっと悪意感じますよね。

渡邊 酷いね。なんのために公開したんだ、みたいな。

小寺 それ要するにコピーコントロールで編集権がないから、要はテキストとしてコピーできない、ということ?

北原 そうですね。

小寺 ……それはひどいね。要は、テキストをコピーして別のものに貼り付ける、みたいなことが禁止されてると。

北原 はい。

渡邊 それ以外でどうやって使うんだよ、というね。印刷して貼るのか、という話だよね。

北原 その時はどうやって使ったんだったかな……なんかいろいろ、OpenOfficeを通すと開けたりとか。

小寺 抜け道あるのかよ(笑)。

一同 (笑)。

渡邊 最近のXLSの、最後にXがついてるフォーマットのやつはあれ、XMLだからね。だから、最初のパスワード設定さえされてなければ、実は無理矢理処理はできる。

小寺 そうそう、できるできる。

渡邊 面白い。小寺さんの取材だと今みたいな話ができるのが楽しい。

小寺 ははははは(笑)。

渡邊 いろんな取材がくるんですけど、やっぱりたいていの方はそんなに技術には興味がないので、なんていうんですかね、どうしてもある面からの回答になりますよね。社会的な意義とか、そこで学生として何を得たのか、という面になるんですけど。

僕的に強調したかったのは、北原くんとか、多分僕よりずっとプログラミングスキルは上なんですよ。だから、「学生だから学生レベルのものを作る」みたいなのが、特にウェブに関しては全然通用しない時代だな、というのを、もうちょっと社会的に知ってほしいな、という気がするんです。

小寺 そうですね。計画停電マップのことで言えば、一次ソースから出てくるデータって、メディアからするとそれをそのまま載せることがある意味で義務ではあるんです。手を加えてない、正確に伝えるっていうね。

渡邊 あ、なるほどね。

小寺 メディアは伝播させることが目的なので、だからそのまま載せてしまうんですけど、でもやっぱりそれではどうしてもわからない人はもちろん大勢います。そのためには、次のフェーズとして誰かが一回飲み込んで咀嚼して、情報をかみ砕いて出さなければならない。人々が欲しいのは詳細な情報じゃなくて、「要するになんなんだ」が知りたいわけじゃないですか。

渡邊 一言で言うとなんなの、というとこですね。

小寺 そうそう。そこの、細かいデータに裏打ちされていながら、パッと一覧で見えるものが提供できる力。そこの──なんていうんですかね。学生だから、ということじゃなく、民でそうやって情報を整えて作っていく、というフェーズができたことというのが、新しいと思うんです。

渡邊 そうですね。

小寺 公共インフラを持ってるところって、情報を出す相手として対官公庁という部分と、対生活者という部分の二面があるわけじゃないですか。たとえば東電から出てくる情報を、生活者が「我々的にはこういうふうにそのデータを見るべきなんだ」ということが言えるかどうか。ここは昔のマスメディアしかなかった頃とは明らかに違ってきてますよね。

たとえばテレビでは、民間の人がテレビ番組をもう一回編集し直して撒く、なんてことって、あり得ないじゃないですか。

渡邊 うんうんうん。

小寺 テレビはある程度語弊があるかもというのは承知で、あれ以上わかりやすくできないぐらいに作っている。しかもコピーコントロールとかもあって編集できないようにしてるので、何にもできない。でもネットの情報はそうはなってない。もう再利用前提、という大原則がもともとあるわけじゃないですか。ま、それなのにプロテクトかけたりするわけですけど。

■技術を持つ者の役目

渡邊 さっき言われた、「生活者が」というのは、すごく──特に、この2人にとってはまさにそうだな、と思いますね。千葉で暮らしてた人と、計画停電に出会った人、というのが、自分たちでコンテンツを作って他の人に伝える時代になったんだ、ということ。

それも、物凄いハイスキルが必要というわけではなくて、インターネット上のサービスを応用して作ることができる。建設的な話になるな、と思って、実際そうしていくと。「東電の情報はさあ」と文句をつけるんじゃなくて、「東電の情報はあれだから地図作ってみた」みたいな感じに持っていけるわけですよね。

小寺 そうですよね。

渡邊 東電をいくらつついても多分、地図は出てこない。

小寺 そこは、僕の考える脱原発ということに対する考え方と繋がるんです。僕はもともと技術者なので、イデオロギー的なことにあんまり興味ないんですよ。で、もし原発を動かさなかったら、その代替はどうするんだ、ってことを考えなければならないわけで、僕は今それを取材して記事化してるんです。そういう、エンジニア的な発想とすごく似ている感じがしますね。僕らは、「じゃあどうすんだ?」という問いに対して、答えを出す係の人なわけですよね。

渡邊 ブーブー言う係じゃなくて(笑)。

小寺 そうそう。旗を振って、人を集めて、扇動して、「電気より命のほうが大切!」って言う係の人じゃないんですよ、僕らは。

渡邊 たしかに。

小寺 もっと、なんていうのかな──ディレクターとかプロデューサーの人が、「小寺ちゃん、こっちの方向で間違いないんだよね? ないんだよね?」って言ったときに、ちゃんと調べる術を持ってて「大丈夫です(キリッ」って言う係の人だよ、僕らは。

一同 (笑)。

渡邊 いいですね(笑)。

小寺 そういう作業は、マスにいてパーッと目立つ人がやる仕事じゃなくて、もっと地べたを這いずり回って現場をうろつく人がやるべき仕事なので。僕は今、そういう仕事をしているということです。

渡邊 なんか、ぐっときますね。


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震災が切り開いた、データマッシュアップの可能性《第3回》

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#038 Sample

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□対談:Small Talk

毎月専門家のゲストをお招きして、旬なネタ、トレンドのお話を伺います。

今月の対談は、首都大学東京の日野キャンパスにある渡邊 英徳准教授の研究室にお邪魔して、震災に関連するプロジェクトのお話しを伺っている。

渡邊先生の研修室は、先の東日本大震災の折、ホンダ、トヨタの通常実績マップと、避難所の位置情報を重ねて見られるようにしたものをGoogle Earth上で公開するというプロジェクトをいち早く立ち上げたことで、世に知られるようになった。

現在そのマップは、すでに役目を終えたとして、「東日本大震災アーカイブ」というサイトになっている。

・東日本大震災アーカイブ
http://shinsai.mapping.jp/

今回は、同研究室がリリースした学生主導の別プロジェクト、「計画停電MAP」について実際に作成を担当したに参加している、首都大学東京大学院 システムデザイン研究科 二年の北原 和也さんにお話を伺う。

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震災が切り開いた、データマッシュアップの可能性《第3回》
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小寺 「計画停電MAP」も、当時はずいぶん多くの人に利用されたと思います。そもそもなんでこれを作ろうと思ったのか、そういうあたりからお話しを伺えればと。

北原 僕は、地震が起きたときは家にいたんです。すごく揺れたので、一人で家にいるのも怖いなと思って、学校に避難みたいな形でここに来て何日かいたんですけど。

小寺 ご自宅は近くなんですか。

北原 八王子です。

小寺 八王子だと、電車で来るってことですか。

北原 ええと、原付で。

小寺 なるほど。日野キャンパスまではびゃーっとすぐ来れる。

北原 そうですね。で、13日の夜に、計画停電が実施されるよ、というリストが公開された。当時は東北大の学生たちが、自分たちで安否確認のサイトみたいのを自主的に作ってて、それを見た時に、あ、僕たちにも自分たちでなんかできることがあるんじゃないかな、というのを感じたんです。

DSC01880僕と先輩で、何か役立てることしたいですよねと話してたら、ちょうどその時に計画停電の実施が発表されて。その時の資料が、本当にただテキストでばーって書いてあるだけで、僕たちが住んでるところも──というか、ここですね。それも地域に含まれてました。

でも、いつ停電するか全然これじゃわかんないなと。自分たちでもそう思ったので、これは困ってる人はいっぱいいるなと思って。それで、今までこの研究室でやってきた、位置情報系のコンテンツとかの経験を活かして、わかりやすく伝えられないかということで開発を始めました。

一番最初に作ったのが、本当にもう手作業で。Google Mapのマイマップに、「八王子市新町」とか、住所を突っ込んで、グループ分けも全部手動で一個一個行っていきました。で、13日の深夜ぐらいに作業を開始して、朝の……3時とか4時とかですかね。八王子市内と、東京都23区内を網羅したうえで、「こういったものを作っています」ってのを公開したところ、何件かコメントをいただきました。

・「計画停電MAP」初期バージョン
http://teiden.sou-sou.net/index2.html

応援して下さる方とかもたくさんいたんですけれど、このとき、「何かしたい」という気持ちの人が日本中に多分たくさんいた。その時にいちばん刺さったというか……感動したのが、「腕力では協力できないのでノウハウで協力させてください」という申し出で(笑)。

小寺 いいね(笑)。いいじゃない。

北原 僕らはその時、マイマップ使って、全部手動で一個一個打ってたんですけど、そうじゃなく、データベース使ってもっと自動化したら効率よく地図表示できるんじゃない? ということで、そのノウハウというのをコメント欄で教えていただきました。

小寺 で、その方法は役に立ったと。

北原 そうですね。それを一回僕のほうでちゃんと動くかやってみて、いけそうだったので……。その地図で作り直したのがこちらになってます。全部のデータをデータベースに突っ込んで、それからマップしてます。

・計画停電MAP
http://teiden.sou-sou.net/

小寺 網羅範囲が全然違いますね。

北原 そうですね。旧バージョンだと5、6時間かかって、八王子と23区内だけだったんですけど、こっちの場合は、データの処理──最初、東京電力が発表してる書類がコピー不可になってたりとか、扱いにくい状態だったんで、それの処理とかにけっこう手間取ったんですけど、そうですね……前のやつを作る何分の一の時間で全エリアが網羅できるまでになってます。

小寺 なるほど。

北原 これがかなりの人に見ていただきまして。一日で、20万とか30万とかのアクセスがありました。

■「社会が教えてくれる」という仕組み

小寺 これ、ベテランのエンジニアがもし作るとしたら、まず最初に方法論を探すところからいくので、わりと……最初からある程度のものはできるんでしょう。ただ学生が手作業でまずやり始めてパッといいタイミングで公開したから、情報、方法論が集まってくるというところもあるわけですよ。

そういう意味では、とりあえず作って公開してみる、というところまで含めて、またこれもソーシャル的なのかもしれないですね。いろんな人が情報をくれて、お互い成長できるというサイクルができるという点では、とりあえず動いてみるということは重要(笑)。

渡邊 そうですね(笑)。

小寺 特に学生にとっては(笑)。

DSC01891渡邊 学生たちだから、というのもあるし、応援してくれるんですよね。さっきみたいに、技術を持ってる方が、「君たち、頑張ってくれ! おれの技術は教えるから」みたいな感じで助けてくれる。

北原 たくさんコメントをいただけて。ほんと……やり方を教えてくれた方のおかげでできたな、と思ってますね。で、これで終わりじゃなくってですね。一番最新版が……まあ、もう今は生きた情報ではないんですけれど、前のバージョンを公開していると、たくさん企業の方が「うちも何か手伝いたいんですけれど」ということで、声をかけていただきました。で、ここパスデータになってるんですけれど、この地図の、北海道地図株式会社という会社の方が、好意で提供していただいてます。

小寺 それは、もともとそういうデータがあった?

北原 全然別で作成してたんですけれど、だったらこれ使えるじゃないか、ということで。

小寺 なるほど。

渡邊 その方にあとであるカンファレンスでお会いした時に聞いたら、もともとの彼らが作った計画停電マップが、どうやらもう集約的になってきてると。あと、エンジニアの方々は、デザインのスキル自体はお持ちでないので、デザインコースにいる北原君らのほうでまとめてくれたほうが、という判断もあったと言われてましたね。

小寺 なるほどね。

渡邊 僕はそれで良かったと思ってて。やっぱり君らが、実際に徹夜して。徹夜してというか、計画停電に遭いながら作った、という血が通ってる気がする(笑)。

一同 (笑)。

渡邊 今日いない、研究室の先輩と彼で2人で作ってるんですけど、その彼は修士論文をこれにしたんですよ。最初はデザイン手法みたいな話をしていたのが、最終的にはまず震災があって、その後ネット上でどんなアクティビティを展開していったかというのをまとめたんですよね。

小寺 なるほどね。ある意味、途中から社会論になっていると。

渡邊 そうです。こないだもさっきのナガサキ・アーカイブの件で、長崎放送の方が取材にきたんですけど、これを彼が話し始めたら、いま九州がちょうど計画停電が起きるかもしれない、と言ってるので、この作り方は参考になるかも、という話をして帰られました。

小寺 そうですね。いやあ、僕も実家が九州なので。

渡邊 ああ、そうですか。この2人もそうなんです。

北原 僕もです。

小寺 あ、そうすか(笑)。

一同 (笑)。

小寺 向こうの新聞とかに載ってる計画停電というのは、九電のサイトのほうもそうなんですけど、もう情報の出し方がひどいよね。なんか、ただの文字組みじゃない? こんなのどうやって探すんだよ、っていう。

・九州電力の計画停電情報
http://www2.kyuden.co.jp/kt_search/index.php/group_area/grouparea_pref/45

渡邊 全然把握できないですよね(笑)。長崎放送の方は、わざとわかりにくくしてるだろ、みたいな話をされて昨日は帰られましたけど。マップにするなんて、それこそ本当、学生たちにもできるぐらいの技術だと思うのに。

小寺 まあただですね、そこはいろいろ考えどころがあって。電力はライフラインなので、どういうエリアが固まって計画停電が起こるか、っていうマップを公式に出すと、いわゆる電力分配図ができるわけです。

渡邊 ああ、なるほどね。

小寺 そういう意味で、あんまり情報を可視化させたくない、というところも、もしかしたらあるのかもしれないですね。

渡邊 テロの対象になるかもしれないですしね。

小寺 そうです。もしかしたら図面化に関しては、法規制があるのかもしれないですね。実は今僕の家の目の前の空き地が宅地造成されようとしているんですけど、宅地開発とかの規模でも、周辺住民には上下水道の配管とか教えてくれないんですよ、役所は。やっぱりそこは黒塗りで。

渡邊 バックドアとして見られちゃうから、ということですね。

小寺 そうですそうです。……というところもやっぱりあるので、そこはある程度、ライフラインを持ってるところとしては仕方がないところかもしれないですが。ただねえ、こういう格好で情報を出されても、みんなが理解できないのではまったく本末転倒なので。

それはやはり民間というか、情報を受け取った側が、もう一回ちゃんと可視化し直すという作業は、やっていいことだと思いますね。

渡邊 そうだね。北海道地図さんがオフィシャルでやらなかった理由もなんとなく、わかる気がするね、今の話を聞くと。「学生たち」という、社会的に自由な立場の人たちがやった、というのが良かった。

小寺 うんうん。で、当然「研究」ということにつながるわけですし。

渡邊 そうですね。さっきの、震災発生後のアクティビティ、という話は、彼はそんなに詰め切らずに大学院を修了しちゃったんですけど。その「活動のデザインをする」みたいな切り口がすごく有用だなと思ったんです。さっき小寺さんが仰ってた、プロトタイプをまずウェブに上げて、声がけをしたら、たくさんの人がそこに力を貸して、どんどん完成度が上がっていく、っていう流れですよね。ここはもともとウェブコンテンツを研究するみたいな研究室だったのが、だんだん社会活動に寄ってきてるというのは、そういう意味もあります。


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震災が切り開いた、データマッシュアップの可能性《第2回》

小寺メルマガ「金曜ランチボックス」の中の対談部分を無償公開しています。毎週金曜日発行のメルマガから抜粋して、翌週の火曜日ぐらいに公開していく予定です。

☆夜間飛行様のご厚意により、試験的にepubも提供します。フォーマットは夜間飛行で配信されるメルマガと同じものですので、epubの表示テストなどにもお使いいただけます。

#037 Sample

「金曜ランチボックス」は、この対談以外にも社会系コラムや製品レビュー、Q&Aコーナー、そしてこれまでブログで書いてきた小ネタなど沢山のコンテンツでお楽しみ頂けるようになっています。よろしければ、下記2箇所の配信先バナーからご購読をお願いします。

□対談:Small Talk

毎月専門家のゲストをお招きして、旬なネタ、トレンドのお話を伺います。

今回の対談のお相手は、首都大学東京の渡邊 英徳准教授と、同研究室でプロジェクトに参加している、首都大学東京大学院 システムデザイン研究科 二年の佐々木遥子さんにお話を伺う。

渡邊先生の研修室は、先の東日本大震災の折、ホンダ、トヨタの通常実績マップと、避難所の位置情報を重ねて見られるようにしたものをGoogle Earth上で公開するというプロジェクトをいち早く立ち上げたことで、世に知られるようになった。

現在そのマップは、すでに役目を終えたとして、「東日本大震災アーカイブ」というサイトになっている。

・東日本大震災アーカイブ
http://shinsai.mapping.jp/

震災の記録を、民間で、しかもWeb上で誰でも閲覧できる形で残すということ。これを、国の助成も受けずに淡々とやれるのが、大学の力だと言えるだろう。

記録を残す意味や意義を、若い世代にどのように伝えるのか。震災後からはその意味も変わってきている。

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震災が切り開いた、データマッシュアップの可能性《第2回》
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小寺 当時作っていただいたマッシュアップのURLって、現在は東日本大震災アーカイブというのになってますよね。

・東日本大震災アーカイブ
http://shinsai.mapping.jp/

渡邊 さっきの速報的なコンテンツを作ったあとで、今度は東日本大震災という、我々の同時代の出来事を記録しなきゃな、という思いも出てきたわけですね。で、これはもうご覧になってすぐおわかりになると思うんですけど、今までのヒロシマ・アーカイブとかの手法と同じやり方で、被災者の方々の証言や被災の風景、これを今の地形に重ねて見れるようにした、というものなんですけど。

小寺 なるほど。

渡邊 さっき、ナガサキとかヒロシマの時に説明しなかった件があって。えっとですね……(操作する)……ヒロシマ・アーカイブの制作情報( http://hiroshima.mapping.jp/member.html )を見ていただくと、上はもちろんこの研究室とかメーカーなんですけど、下を見ていただくと、広島の高校生とか専門学校生がすごくたくさん加わっていて。で、彼女たちが何をしてるかというと、被ばく者の方にインタビューをしてもらったんです。

小寺 ああーそれはいいですね。

渡邊 だから東京の僕らが、ただデータをかき集めてマッピングしましたというだけじゃなくて、「記憶のコミュニティ」と僕は呼んでるんですけど。

DSC01888年長の方々と、我々制作グループと、あと、より若い世代とで、立場も、住んでる場所も、世代も違うメンバーで、記憶を継承するコミュニティを作ってくというのが、実は、この表に見えてるインターフェースの向こうで起きている一番重要なことだなというように気づいてですね。コンテンツを作るだけではだめで、それに主体的に関わったもっと若い世代を育てていかなきゃいけないんですよ。そうするとその高校生たちが、僕らの世代になったときに、また最先端のテクノロジーが生まれてる。それを使って継承するという活動をやってくれるかもしれない。

結局Google Earthを作って「はいどうぞ」だと、あまりにもショートスパンのプロジェクトになってしまう。で、東日本大震災のアーカイブのときも、当地出身の宮城大学の学生さんらが現地の方に話を聞いて、載せてくれたりといった活動に繋がっています。

実は、東京湾沿岸でもかなり被害が大きかったんですよね。たとえば浦安のあたりを見ていただくとですね……Yoko Sasakiというクレジットの写真がいっぱいあるんですけど。

小寺 うわー、液状化してるんだ。

渡邊 そうですね。あんまり、マスメディアではそんなに、取り上げられづらい被害ですけど、かなり甚大なわけですよね。で、学生たちに声がけをしたら、佐々木さん他、あと2名が、私たちも協力しますって言ってくれたんですね。じゃ、ちょっと佐々木さんから話してもらったほうがいいかな。関わった経緯とか。

佐々木 ええと……もともと、東日本大震災アーカイブというのは、昨年度の前期の授業で、渡邊先生がこういうプロジェクトをするよ、ということだったんですけれども。

DSC01875参加に至った経緯としては、自分は千葉県の出身でして、主にメディアで取り上げられるのは津波被害が甚大だった場所ですとか、あとはどうしても東北地方のほうに偏りがちで。液状化という言葉は出てきても、その実態がどういうものなのかとか、どういう範囲で広がっているかということが、きちんと出てきていなかった。ですからそういうのも含めて、情報の共有と、被害を把握するというところ、あとは「こういうことがあった」というのを後世に残すためにプロジェクトに参加したい、ということだったんです。

小寺 なるほど。自分たちも被害を受けているんだけれども、やっぱりメディアとしてはどうしても、いちばん大きいところを取り上げにいくので、誰もここの記録を残さないかもしれないという不安感というのはあったんですね。

佐々木 ありましたね。私が実際に歩いて写真を撮ってきたのは主に東京湾沿岸の幕張あたりと、あとは浦安に知人がいたので情報提供をお願いしてデータをいただいたのもあるんですけれども、他にも千葉県ですと、利根川沿いの香取市とか、佐原あたりも液状化になっていたりして。そこはちょっと今、写真とかデータは載せてないんですけれども。

cap003渡邊 これ、がれきだよね。

小寺 ああー。これは……どこのがれきですか?

佐々木 これは銚子のあたりで……

小寺 千葉もこのぐらいにはなってたんですね……。

渡邊 そうなんですよね。津波5メートルとかだったんじゃないかな。

佐々木 はい。千葉県は震源地から遠いこともあって、あまり報道されなかったんです。津波がきたのは、仙台、宮城あたりですと、地震が発生してから30〜40分後というふうにはよく聞くんですけれど、千葉県の沿岸にきたのが大体2時間後だったらしくて。で、地震が発生したあとはみなさん一旦高台に逃げるんですけれど、津波来てないから大丈夫だね、って戻ったところで被害に遭われた方がすごい多いという話を聞きました。

小寺 このへんも、記録する人がいたからこうやって残るわけですね。そうじゃない地域はもちろんもっとたくさん、きっとあるんですね。これ、何日ごろに撮ったやつですか?

渡邊 これは、5月って書いてあるから。

小寺 あ、だいぶ経ってますね。

渡邊 全然片づけられてない状況ですよね。どうしても陸前高田とか、石巻とかが報道ではよく出てくるんですけど、それこそ東京の我々の間近で、こういうことが起きてる、ってのが、草の根的な資料収集でわかってきたというのがけっこう良かったことじゃないかなと思ってるんですよね。

佐々木 写真は全部、さきほど先生が言っていたように、写真の中に手がかりとなるような電柱の地名とか、お店の名前とかを探して、ひとつひとつ場所を探して……。

小寺 (笑)。え、GPSデータはなかった?

渡邊 たいていついてなかったんです。

小寺 えー今どきの写真なのについてないんだ。

佐々木 探してマッピングしていたんですけれど。どうしても千葉県のあたりを中心にマッピングしていると、なんかどうしても東北のほうの写真を見比べた時に、何かこう、ジレンマというか、葛藤を抱きながらずっと作業をしていました。

小寺 わかります。ただそうはいってもこれ、土地勘がないとなかなか探せないんじゃいないですか?

佐々木 そうですね……知ってるところはありました。あとは、しらみつぶしと言ったら変ですが(笑)、Google Earthですとか、ストリートビューも活用して。

小寺 でも、一枚をそうやって合わせるのにどれぐらい時間がかかるんですか。ま、すぐ分かる、象徴的なものが写ってたらすぐ分かるんでしょうけど。

渡邊 僕は慣れてるんで、20分ぐらいですかね。

小寺 1枚20分ですか。

渡邊 ええ。で、学生たちは最初たぶん何時間もかかってたと思います。

佐々木 場所を見つけるところから始めると、1枚で1時間ぐらいかかってしまったりはしました。恥ずかしい話なんですけど、東北のほうだと、震災があるまで知らなかった土地名がすごくいっぱいあって。

でも、全部津波で流れてしまったあとですと、もともとそこにどういう施設があったとか、どういう街が広がっていたかというのを把握できないので、被害後の写真をネット上にぱっと見た時に、すごい衝撃は伝わってきても、それがどこの写真なのかというのを見つけ出すのは大変でした。

渡邊 こことかだと──これは陸前高田の──有名な写真ですよね。物凄い被害に遭ったあとの写真なんですけど。

cap006小寺 これ、空撮ですよね。

渡邊 空撮です。これは、共同通信が提供したのをウェブ上から引っ張ってきてるんですけど。ここで、昔の街の姿を見ることができちゃうので。だから、こういう街がこうなっちゃったんだという比較を我々はすることになるんで、かなりしんどい作業ではあるんですね。

小寺 なるほど。

渡邊 で、今みたいな活動をしてたら今度は、二宮章(にのみやあきら)さんという方がいらして。パノラマジャーナリストなんですよね。で、快くこれの掲載を許可してくださったりとか。

小寺 あ、パノラマ写真をね。

渡邊 さっきお話しした、コミュニティがどんどん、ネット上で形成されていったんです。

■共有される記憶と体験

小寺 このプロジェクトは、最近もずっと続いてるんですか?

cap007渡邊 最近の動きとしては、朝日新聞さんが、記者たちが1000人の声を集める、という活動をされているので、そのデータを提供してもらって。たとえばここが福島原発ですけど、この周りの、避難された方々の証言を読むことができたりとか。

もうひとつはこれ。僕のほうでちょっとテストをして集めたものなんですけど、地震発生のときに何をしていましたか? というアンケートをネット上でとって、マッピングしたものですね。800件ぐらい。

小寺 ああ、面白いですね。

渡邊 震災の思い出、というと、その後に起きた出来事を話すことが多いわけです。だけど、地震が起きたときにあなたは何をしていたか、というデータを集めてマッピングすると、こういう、ちょっと気の抜けた回答があったりするんですよ。

cap008小寺 はっはっは(笑)。

渡邊 実は、ちょっとした日常の中に突然起こる出来事なんだ、ということがこれでよく表現できるんじゃないかな、という。

小寺 (あちこちクリックしながら)……秘書検定か。いろいろやってるなあ。

渡邊 で、今のを、ARで見れるようにする、というアプリをちょっと作ってまして。

小寺 おお。

DSC01877渡邊 今朝方アップデートされたんですけど、地図でまずこれが見れると。そこでARにして、カメラをこう、かざしていただくと。

小寺 おお!

渡邊 ちょっと待っていただくとですね、方角と距離が。

小寺 ホントだ! 方角と距離が。

渡邊 で、タッチするとその内容が。こんな感じですね。

小寺 「家で寝ていた」か。なるほどなるほど。

渡邊 東北に行けば、この写真とか、被災者の方の証言もそこに重層されて。

小寺 「ジアスでパチンコ」(笑)。なるほどなあ、面白い。

渡邊 (笑)。“ふつう”なんですよね。このへんの人たちはやっぱり──やっぱりというか当たり前ですけど、地震が起きるなんてことは想像もしてなかったということがよくわかる。

小寺 これはなんというアプリです?

渡邊 これはですね、東日本大震災アーカイブで検索すると出てきます。

・eARthquake 311 HD
http://itunes.apple.com/jp/app/earthquake-311-hd/id486784514?mt=8

iPad版だけ、さっきの、800件のが入ってます。iPhoneだと重くなっちゃうんです。

小寺 あ、そうですよね。

渡邊 あとこれが……もうひとつ、うちの研究室中心にやったもので。日本財団さんのボランティアの方々が、避難所に行って足湯を振る舞うという活動をされてたんですよ。で、その時に、避難してる方々が、ぼそっと本音を言ってくれるそうなんです。つまり、「つらいですか」とか言って揉んでると、東北の人って我慢強いので、遠慮してるんですよ。でも、その時にぼそぼそと仰ったことを、個人情報をなるべく隠すかたちでつぶやき続けるbotですね。

・足湯のつぶやきBOT
https://twitter.com/AshiyuBot

小寺 でもそれって人力ですよね。あ、入力されたのをランダムで繰り返してるのかな?

渡邊 無作為に、一定時間おきにつぶやくんですね。で、こういう、匿名のキャラを介すと、人々に伝えやすくなると。地味なbotなんですけど、けっこうフォロワーさんがいてですね。で、フォロワーの方を見ると、けっこう本気モードの人が多い。

小寺 あ、@nobi(林信行)さんだ(笑)。

渡邊 知らぬ間に(笑)。一日に1、2回、被災者の方々の話が入ってくるというのが重要なんだろうな、と思って。

小寺 ずっと在り続けるということね。

渡邊 だから、震災アーカイブみたいな、言ってみれば派手な。

小寺 まあ、そこを目指してみんなが行くコンテンツですよね、あれは。これはそうじゃない、ということですね。

渡邊 ちょっとした折に思い出せるようなコンテンツ、ということで、これを作ったんです。これはけっこう好評だったですね。これも学生たちだけで作ったよね、基本的には。

佐々木 はい。


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震災が切り開いた、データマッシュアップの可能性《第1回》

小寺メルマガ「金曜ランチボックス」の中の対談部分を無償公開しています。毎週金曜日発行のメルマガから抜粋して、翌週の火曜日ぐらいに公開していく予定です。

☆夜間飛行様のご厚意により、試験的にepubも提供します。フォーマットは夜間飛行で配信されるメルマガと同じものですので、epubの表示テストなどにもお使いいただけます。

#036 Sample

「金曜ランチボックス」は、この対談以外にも社会系コラムや製品レビュー、Q&Aコーナー、そしてこれまでブログで書いてきた小ネタなど沢山のコンテンツでお楽しみ頂けるようになっています。よろしければ、下記2箇所の配信先バナーからご購読をお願いします。

□対談:Small Talk

毎月専門家のゲストをお招きして、旬なネタ、トレンドのお話を伺います。

今回の対談のお相手は、首都大学東京の渡邊 英徳准教授の研究室にお邪魔して、お話しを伺うことにした。渡邊先生の研修室では、先の東日本大震災の折、ホンダ、トヨタの通常実績マップと、避難所の位置情報を重ねて見られるようにしたものをGoogle Earth上で公開するというプロジェクトをいち早く立ち上げたことで、世に知られるようになった。

それまでは、それぞれの情報がバラバラに存在したのだ。僕は震災後、最初にGoogle Map上に公開されたホンダの通行実績マップと、別のMapとして公開されていた避難所情報を2つの画面に出し、左右を見比べることで、孤立している避難所がわかるのではないかと考えた。

最初は両方とも同じ縮尺にして、スクリーンキャプチャを取り、画像編集ソフトでレイヤーに重ねて見るという作業をしていたが、これでは日々更新される情報に追いつけない。また僕だけがその作業をやっても、その結果が正しいかどうかを検証してくれる人もいない。

こんなことならば、誰かが情報をひとつの地図上にオーバーレイして見られるようにしてくれないか、とTwitterで声をかけた。3月21日の夜ことである。

するとそれを見た渡邊先生が、その日のうちに着手してくださった。翌朝には、かなり完成度の高い状態で一般に公開されていた。

現在そのマップは、すでに役目を終えたとして、「東日本大震災アーカイブ」というサイトになっている。

・東日本大震災アーカイブ
http://shinsai.mapping.jp/

渡邊研究室では現在も、Google Earth上に位置、方角、時間の情報を加味しつつ、写真、動画、音声といった複合的なデータをマッシュアップさせるという手法を通じて、そこから見えてくる新しい価値、そして新しいデータアーカイブの形を研究している。

今月のシリーズは、そんな新しい情報の見せ方の可能性について、伺っていきたい。

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震災が切り開いた、データマッシュアップの可能性《第1回》
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小寺 まず渡邊先生の研究室は、基本的には何を教えてるかというところから。

渡邊 ここはですね、ネットワークデザインスタジオというように呼んでいまして、もともとはウェブコンテンツを中心に制作するというコンセプトでした。僕が着任して今年で5年目なんですが、徐々にインターネットでできることを追究するというよりは、社会活動を行なうためにインターネットの技術を応用して展開していくというコンセプトに変わってきてますね。

小寺 ああ、なるほど。最初はウェブコンテンツを作ろうということで、プログラム、Javaとかを教えていくところからスタートしたような感じですか。

渡邊 そうですね。あまり技術開発を積極的に行なうんではなくて、たとえばGoogle Earthというプラットフォームが既にあるんであれば、それを応用してより多くの人がアプローチできるようなコンテンツを実践していく、という活動が中心になってきています。

小寺 なるほど。昨年、大きな震災があって、そのときに大きくその技術が役に立ったということだと思うんですけど、その前というのは、社会的に役に立つようなプロジェクトというのは何かやってらっしゃったんですか。

渡邊 少し順を追ってお話しするんですけど、もともとはですね、2009年に制作した、このツバル・ビジュアライゼーション・プロジェクトというのが、社会貢献系のプロジェクトの第一弾です。

・TUVALU VISUALIZATION PROJECT
http://tv.mapping.jp/

これはですね、2009年ごろにちょうど地球温暖化が話題になっていて、ツバルが水没する、というふうに言われていたんですよね。でも、現地で支援活動をしてらっしゃる写真家さんとお話しして、ツバルの人たちの生身の声を聞いてみてから、それから温暖化とかの議論をしないと失礼なんじゃないかという話をしていて。

小寺 なるほど。

DSC01890渡邊 で、これは実際ツバルの方々に10年かけてインタビューしてきた記録を、ツバルの情景に浮かべてみることができるというものなんです。この発言されてる内容を見ると、もちろん、“Sea level rise”って言ってる方もいるんですけど、子どもたちはわりと「大人になったら野球選手になるんだ」とか、日本の子どもたちと変わらないんですよね。

だから、今回震災で津波によって我々がもしかしたら逆の立場になったかもしれないんですけれど、国対国じゃなくて、人対人でまずコミュニケーションしてみないか、というメッセージを。で、一人ひとりに実はメールを送ることができるんですけど、送るとですね、送った人とその人の間に線が結ばれる。だから、世界中の人とツバルの人が、P2Pで会話をしてる様子が可視化されるという、そういうコンテンツになってます。

小寺 ああ、面白いですね。

渡邊 ここからにわかにうちの研究室は社会活動的なニュアンスが深くなってきて。これがその翌年に、被ばく3世の若者の方から依頼があって制作した、ナガサキ・アーカイブというコンテンツで。

・Nagasaki Archive
http://nagasaki.mapping.jp/

たぶんもうすぐにコンセプトはおわかりになると思うんですけど。さっきのツバル・プロジェクトのプラットフォームをそのまま応用して。長崎の被ばく者の方々の証言や写真資料を、Google Earth上で閲覧できるようにしたというものですね。このひとつひとつの証言は、原爆投下時に立っていらした場所に掲載されてるんです。あとこの時から使い始めた技術なんですけど、これで写真を見ていただくと、写真に写った地形と地図上の地形がぴったり重なってるんですよ。

小寺 あ、なるほどなるほど。

渡邊 こうやると、2012年の長崎の街と、原爆投下直後の街を重層して見ることができるわけですよね。

で、この時のコンセプトは2つあって。まずひとつは、原子爆弾の情報というのは今までは資料館等に行かないと見れなかったものを、インターネット上で誰でも見られるようにするというコンセプトです。で、もうひとつは、自分から離れたものではなくて、普段過ごしてる街と地続きの出来事なんだというのを、直感的に理解しやすくしたかったわけです。なので、この一枚一枚の写真を、3次元的にぴったり今の街に重ねて見れるようにする、という工夫をしてるんですね。

小寺 なるほど。でも、これマッチングさせるのってどうやって……

渡邊 手作業です(笑)。

小寺 手作業。見た目で「こうに違いない」と(笑)。ま、当時の写真のほうに位置情報とかないですからね。

渡邊 ないんですね。今のであれば、GPS情報がついてたりするので合わせやすいんですけど、結局、昔の古地図を入手して、そこで場所を同定しながら合わせていく、という、けっこう気の遠くなるような作業を……(笑)。

僕的に重要だな、と思ってるのは、見た目はすごいデジタルで、ハイテクで動いてるように見えつつ──結局一枚一枚を丹念に見ながら我々が学んでいくというコンセプトが重要だなと思ってるんですね。それで最後にこういう力強いものができるんじゃないかという。

小寺 なるほどなるほど。

渡邊 その翌年が2011年で、今のを使って今度はヒロシマ・アーカイブを作っていたわけです。

・Hiroshima Archive
http://hiroshima.mapping.jp/

小寺 あ、なるほど。

渡邊 で、その打合せが3月11日だったんです。

■運命を変えた3.11

小寺 ああ、まさにそれをやってるとき。広島にいらっしゃったってことですか?

渡邊 えっとですね、八王子被爆者の会という証言保存の団体の方がいらして。大学の近くで打合せをしてたんです。その時、京王線に乗っていて、初台を通過したあたりで起きたんですね。

小寺 ああ、まだ都心ですね。

渡邊 そうですね。で、地下なんで全然揺れなくて。

小寺 あ、そうなんですか? そういうもんですか。

渡邊 揺れなかったんですよね。周りの人たちがワンセグを見ていて、「宮城で震度7だ」って言ってて。今日はいないんですけど、このヒロシマ・アーカイブの制作メンバーの一人が、当時仙台に住んでたんです。大丈夫かな、とかいう話をしていて、地上に出たら例の騒ぎになっていてですね。

そのとき原発の状況とかまったく来ていなかったので、どうしたのかな、というのを、翌朝に思ったんですね。翌日が、僕、大学の入試の業務で。

小寺 あ、3月ですもんね……。

渡邊 そうなんです。作業ができない日だったんですよ。で、翌朝になったら突然「福島原発から何キロが避難範囲になりました」みたいなことをわいわいニュースが言っていて。で、原発からの距離の同心円のデータを、Google Mapで配信したら、多くの人の役に立つんじゃないかというように考えたんです。で、自分のサーバで立てると絶対に落ちてしまうので、マイマップを使って。

・福島第一・第二原子力発電所からの距離
https://maps.google.co.jp/maps/ms?ie=UTF8&brcurrent=3,0x6020efcb3edec50d:0x84ba4122ed907c54,1&oe=UTF8&msa=0&msid=217380486463122398257.00049e44fc78c64c2b769

小寺 なるほど。

渡邊 ただ、実作業ができないので、どうしようかなと思って、ツイッターで「ポリゴンデータを作ってください」と。そしたら僕のほうでマイマップで公開しますというふうに打診したら、あっという間に、たくさんのジオ系のエンジニアの人が手伝ってくれてですね。

小寺 ポリゴンデータってどういうふうに使うんです?

渡邊 ポリゴンはですね、「マイプレイス」というとこから「インポート」ってやると、ポリゴンデータを地図に乗せることができるんです。

小寺 この同心円はポリゴンでできてるってことですか?

渡邊 そうです。

小寺 そうかなるほど! ポリゴンにしないと、ズームした時に表示がついてこないということですね。

渡邊 まあただ、20km、30kmって切った意味が今やなかったというのはよくわかってるんですが。当日は、やらなきゃ、と思っていたわけです。これで2つ、僕は得られたなと思ってて。

ひとつは、緊急時にソーシャルメディアで情報発信するだけじゃなくて、たとえばこういうジオ系のポリゴンデータを作ることができるエンジニアさんに声が届くということですよね。で、みんな自分の技術を使って何か役に立ちたいと思ってるとこに、そういうミッションが降りてくると、「じゃあやろう!」って言って、どんどんどんどん手を差し伸べてくれると。

小寺 なるほどなるほど。渡邊先生の呼びかけでそういう人が集まるし、渡邊先生自身も、もっと大きなアクションの中の一部として動いていくという、巨大なツリー構造の中で当時は動いてたってことですね。

渡邊 はい。3月11日の前後で全然変わったんです。さっきの、ナガサキやヒロシマの仕事をご存じだった人が、フォローしてくれてたんですね。で、「渡邊さんからこういう打診があるから作ろう」っていって、一回も顔を合わせないで作ったものが、これだけの人(現時点で222万人強)に見られた、というのは、かなり……いい意味で自信につながったんです。

小寺 自分ひとりで全部をやらなくても、コーディネーションすればなんとかなると。

渡邊 そういうことです。これがいい一例ですね。2時間ぐらいでできたと思うんですけど(笑)。なんか、ほんとに……あの頃はみんな、恐慌状態になっていたというか、焦ってたんですけど。「自分に何ができるか」って思ってる人がたくさんソーシャルメディア上にいたってことなんでしょうね。

小寺 うんうん、なるほどね……。

渡邊 で、この後に作り始めたのが、小寺さんがいちばん深く関わってくださってる──もう今はコンテンツを閉じちゃってるんですけど、「通行実績情報」のマップですね。

その前に、うちの学生が「計画停電MAP」というのをを作ってまして。あとで作った子が来ますんで、話を聞いてほしいんですけど。ここ(東京都日野キャンパス)、計画停電エリアだったんですよ。

小寺 なるほど。

渡邊 自分たちが停電して困ってるから作り始めたというコンテンツで。要は、東電が最初に配信した情報が非常に不親切だったんですよね。スキャンデータの図でPDFだったと思うんですけど。で、まったく、自分のとこが何時に停電するのかわからない、っていう状況で。

これも……もうなんか、死にもの狂いで作った結果、相当なページビューになって、たくさんの人に届いたんですね。作り方の軌跡も非常に興味深くて。

・計画停電MAP(旧バージョン)
http://teiden.sou-sou.net/index2.html

彼らは最初、各エリアの境界線を手で打ってたんです。で、「絶対おっつかないよ!」って言ってたら、ネット上のエンジニアの方が、Google Fusion Tablesという方法があるよ、というふうにコメントで教えてくれて。

で、学生たちがこういうのを作り始めたんで、僕も何かしなきゃ、と思ったのがきっかけなんです。

小寺 なるほど。そういう風に繋がるわけですね。

■マッシュアップから見えてくるもの

小寺 「通行実績情報」のマッシュアップ作業は、研修室でやってたんですか。

渡邊 僕のは全部家です。都心はたまたま計画停電範囲対象外だったんですよね。23区内で。

これは、小寺さんが紹介してくださったり、いろいろ打診してくださった結果で育っていったと僕は思ってるんですけど。結局、ホンダさんが配信しはじめたデータだけでは、有用なものにならない、というように僕は直感したんですよ。結局、いろいろなデータと複合して重ねることで、ルートの情報というのは役に立つわけですよね。

だから──前日に通れた道を表示できるようになりました、という報道がなされて、まずGoogle Earthで表示してみたんですよね。でも結局道って、どこかに到達するための手段であって、俯瞰してどこが通れたかという分布を見る、というのは、ちょっとこう、表示のレイヤーが俯瞰的過ぎる気がしたわけです。

小寺 なるほど。

渡邊 僕のほうで、当時得られる、ほぼすべてのジオデータがついてるデータを収集して、マッシュアップして、重ねてみたわけですね。そうするとたとえば、避難所に行くためにどの道がアベイラブルか、というのがミクロな次元で見えてきたりとか。

あと──これ面白いんですけど、東電の車が走ったルートが残ってたりするんですよ。東京電力が毎日作業してます、っていうニュース自体は伝わってくるんですけど、この当時みんなすごい不安だったと思うんですよね。もうみんな逃げ出しちゃったんじゃないか、とか、水をヘリコプターで撒いてるけど、なんかまったくかかってないように見えるじゃないか、とか(苦笑)。

でもまあ、少なくとも現地に毎日通ってる人たちがいて、必死に何かやってるんだということは透化されて、見えてくると。こういう副次的な効果があったんです。

小寺 なるほど。当時このデータって、毎日更新されてたんですか。

渡邊 毎日更新されてましたね。もちろん、リツイートしていただいた結果だと思うんですけど、たくさん評判が上がってきて。一番僕が個人的に嬉しかったのは、石井先生が褒めてくれたっていう(笑)。

・石井 裕(いしい ひろし) 日本のコンピュータ研究者、MIT教授
http://twitter.com/ishii_mit

渡邊 やっぱり、切り口がわかってくださってるなと思っていて。要は、通行実績マッシュアップというのは、それぞれ個別に配信されてた多元的な情報を、一元化したというに過ぎないですよね。僕自体は何ひとつデータを作ったわけではなくて。世の中の人が「たくさんの人に届け」と思って配信していたものを、かき集めてGoogle Earthに乗せる、ということをしただけなんです。

小寺 なるほどです。でも、重ねることではじめて意味を読み取ることができる人が出てくるわけじゃないですか。

渡邊 そうです。

小寺 そこが大きいですよね。これはこういう資料だ、というふうに提供するんではなくて、いくつかレイヤーがあって、自分が必要なのはこれとこれで、それによってこういうふうな情報を得ることができるはずだ、という具合に、見る側がある狙いを持って選ぶことができる、というところが。特に地図って、それまではまあ、「Google Earth面白いよね」「ストリートビュー楽しいよね」ぐらいのことだったんですけど、それが本当に役に立つ、というか、ある意味、命に関わってくる。

本当にライフラインである“道”というものが可視化されたということでは、震災とここのプロジェクトのあり方というのは、すごく象徴的な出来事だったような気がしますね。

渡邊 不思議なことに、それまでGoogle Earthって、すごく仮想世界に見えてたと思うんですね。

小寺 そうですそうです、はい。

渡邊 あんなにぐりぐり動いて、ビルも建ってて、すごいな!っていう。現実の我々の世界と乖離して見えたものが、震災という命に迫ってくるような出来事が起きると、急に接続されて。

それが実はヒロシマ・アーカイブとかで我々がやろうとしていたことに他ならないな、というように。

小寺 あっ、そうですよね。現在と過去との接点。土地の記憶がそのまま写真として残っていて、現在と接続してるということがわかるということが、プロジェクトのひとつのテーマなんですもんね。


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3DCGブームはどこへ行った? 《第4回》

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「金曜ランチボックス」は、この対談以外にも社会系コラムや製品レビュー、Q&Aコーナー、そしてこれまでブログで書いてきた小ネタなど沢山のコンテンツでお楽しみ頂けるようになっています。よろしければ、下記2箇所の配信先バナーからご購読をお願いします。

□対談:Small Talk

毎月専門家のゲストをお招きして、旬なネタ、トレンドのお話を伺います。

今月お相手願っているJag 山本氏は、(株)イーフロンティアで、プロダクトマーケティング、マネージメントグループを指揮している人物だ。過去Shadeの開発会社にいたこともあって、CGのクリエイティブシーンにも詳しい。

CGを作る作業が「手作り」だった時代は終わり、立体化からアニメートまでオートメーション化が進んでいる。イメージがあればすぐに形にできるよ、というのが、今CGというツールが一番果たさなきゃいけない役わりということなのかもしんない。現場に行って写真を撮るよりも、もっと早い手段。表現手段としてはもはや絵筆やカメラと変わりないところに到達しつつあるわけだが、それを使って何をやるのかで、今猛烈に行き詰まっている。

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3DCGブームはどこへ行った? 《第4回》
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小寺 なんかこう、映像に対しても、感覚の日米差というか、基本の違いが差として大きくなりすぎちゃった感じがするんですよね。

山本 そうですね。変な話、我々が旅行に行ったときに撮ったビデオって、後で編集しづらいじゃないですか。でもアメリカ人とか欧米人とかが撮ったビデオって、すごくよくできたビデオがありますよね。

ドイツ時代に社員旅行に行ったときに、そういうの好きな奴がコンテみたいなのを持ってて。自分のビデオ用ですよ?(笑) 「Jag、ちょっとそこでジャンプして」とか言って、撮っちゃう。行く前から「こういう絵が欲しい」ってプラン作って持ってきたりするわけですよ。だから当然ちゃんとしたものが出来上がるじゃないですか。そういう作りかたってまだまだ日本にはないなと思って。

小寺 ないねえ。向こうの人は勝手にレポートしたりね。みんな好きだよね、ああいうことが。

山本 そういう撮影テクみたいなところの基本の楽しみ──いわゆる映研とか、8ミリで特撮を撮る、みたいな、撮影テクが楽しい時代ってあったじゃないですか。ああいうのが楽しいってことの普及が、だいぶ止まっちゃってるのかな。

小寺 止まっちゃってますね。普通の人がみんなカメラを持ってコンテンツを作り始めてるのに、誰も方法論を知らない。

出来上がったものから学べるものってのもあるんだけど、それも読み取り方の基礎がないとそれも限られるわけで。現場にいたことがないから、みんな想像でやってるわけです。まあ想像から手法を再発明するってのもひとつの学習の仕方かなとは思うんだけど、なんで学ぶ道がなくなっちゃったのかな、という気がしますね。

山本 自分が関わってきたところの贖罪で言うと、Shadeの使い方の本とかもそうなんですけど、ビデオ編集ソフトの使い方の本ってあるじゃないですか。で、載っているのはソフトの使い方で、映像の撮り方が一切書いてないんですよね。

DSC00096b『ズームイン!!朝!』じゃないですけど、ミニテクニックで、ビーチボールをひとつ持ってって、「じゃあ次よろしくね」って投げて、受け取るところでカットをつなぐと……みたいな、昔からのテクがあるじゃないですか。あんなのひとつ挟むだけで出来上がりが全然変わるのに、それはビデオ編集ソフトの本に1ページも割かれてないわけですよね。だから、そりゃ編集するの大変だよな、っていう(苦笑)。

小寺 そうだよね。撮っちゃったものをなんとかしてくれ、っていうニーズのほうがやっぱり多いんですよ。

山本 そうですよね。ギターで言えば、コードは押さえられるけど曲は一切弾けない、みたいな状態になっちゃってると。

小寺 でもね、それも難しいところがあって。マニュアル本を作るのはソフトウェアメーカーの資本なので、ソフトの説明しないで撮り方の説明してどうすんだよ、っていうね。

山本 いや、だからそこがメーカーの贖罪なんです(笑)。

小寺 (笑)。一部ね、自分でできる人たちもいるんですよ。でもそういう人たちは、現場が楽しい、という人なので、最初からある意味、もうテレビ屋さんみたいなもんです。それはどういうところに生息しているかというと、USTREAMみんなでやろうぜ、的な感じの世界観がそうなんですよ。現場で撮影クルーとわーわー言ってやるのが楽しいよね、みたいなところでは、ハウツーってすごく共有されてるんですけど。

山本 好きな人は多いはずなんですよね。昔のアナクロな手法とかを教えると、知らなかった、みたいな人もけっこういますから。先ほどのボール投げもそうですけど、なんかあった時用に、6色ぐらいの4×4の紙を貼っとけばあとで位置情報がわかるから、なんちゃって3Dで合わせるのも簡単だよ、みたいなこと。マーカー4つ貼るだけでどうにかなるよ、とか言うと、「あ、なるほどね」とか。別にあとで消せばいいんだから、みたいに言っても、「考えたことなかった」みたいなことも多くて。

そういう基本情報の伝達が──まあ当たり前ですけど学校で教えることじゃないんで、共有できてないのかな、という。

小寺 USTとかの放送でも、後ろをクロマキーバックにしてはめ込むよ、っていった時にさ、いちいちトライキャスター持ってきちゃうのよ。

山本 (笑)。

小寺 そんだけだったらトライキャスターじゃなくてもいいじゃねえかよ、っていう(笑)。綺麗に抜ける理屈って、昔雑誌で連載とかもしてたんだけど、誰も読んでなかった(笑)。

■批評とムーブメントの関係

山本 今危惧するところは、技術が進んでいるんで、ここまで来ると今度はCG作りをCGから真似するんじゃなくて、リアルから真似するわけですよね。この時に、特撮の人たちが作ってきたノウハウ、ここをパッと教えてあげないと、きっと動くだけで全然つまんない作品とかが出てきちゃう。そこをなんかブリッジしないとな、使い方を教えてる場合じゃないな、みたいなところはありますよね。

小寺 それはあれだね、最終的にはもうソフトウェアの使い方云々じゃなくて、コンテンツを面白くする方法論みたいなところに収斂しちゃうんじゃないかと。一億総批評家みたいにはなってんだけど、いざ自分が作る側になったときにぜんぜん面白くない、っていう状況に今なりつつあるな、というのを感じるんですよ。

山本 わかります、わかります。

小寺 2ちゃんねるまとめサイトですごい人気だったのが、転載禁止食らったとたん超つまんなくなったり(笑)。お前自力で文章で書いたらこの程度なのかよ、みたいなのに直面して、逆にビックリしました。お前そこまで自分でモノ作る才能なかったのか、みたいな。人が作ったものをまとめてるというだけで、やり方が巧い人はそこそこ稼いじゃってるわけですから。

山本 そうですね。

小寺 自分で作るよ、ってなった時の力量のなさっていうところって、どうやってカバーしていけばいいのかな、というのが……自然には覚えないんだろうな。でもなんかのきっかけでガーッといくんだろうな、と思いつつ、なんかあんまり思いつかないんですよね。

山本 僕がひとつ、そこにヒントを感じたのは、評価をされるべきところの評価レベルが低いんだと思うんですね。

たとえばやっぱり初音ミクとかはわかりやすいじゃないですか。評価されるのもわかるし、「すごい」というのも言いやすい。それが結局どうなってくかというと、評価されやすいものに人は寄っていきますよね。

そうした時に、小寺さんとか僕とか、業界側にいる人たちが、わかりづらいものをもっと評価してあげないといけないのかなと。それが新しくものを作るためのきっかけになるんだろうなと。ま、牽引側というか、経験者側が、非常に抽象的なものとかをどんどん評価していくと、たぶん──「評判の店」で、素人が「美味しかったよ」と言うんじゃなくて、識者がバイアスをかけてでも評価をしていけば変わるな、と思うんですね。

というのは、CGの世界に抽象概念というのがまだ非常に少ないんですね。テリー・ギリアムの映画でハリウッドまでいけば「凄い」と言いますけど、あのぐらいバイアス作って、「あれがいいんだよ」って言ってあげないと、「あれなんか気持ち悪いね」「よくわかんないね」だと終わっちゃうわけじゃないですか。

今ShadeやLightWaveで抽象画を描いたところで、たぶん識者は、「これは新しい試みだ」とか、いい色だとか、格好いいというところで評価できるじゃないですか。でも普通にニコ動にいる人の多くは、評価できないはずなんですよ。なぜかと言ったら、見たこともないしどう評価したらいいかもわかんないし、「つまんね」と言って終わっちゃうと思うんですね。

そういうのを発見し次第、即、ウェーブ作って評価する、あるいは評価する場所を作ってくと、あれが評価されるんだ、ってことでそっちに来るんだと思うのね。

小寺 なるほどねえ。その考え方はすごくよくわかるんだけど、実際に評価で食ってる側からすると、それはすっごいデンジャラスなんスよ!(笑)

山本 わかります、すごいわかりますよ!(笑)

小寺 「あいつあんなもん評価してるぜ」とか言われて、こっちの評価が落ちる、ってところがあってですね(笑)。

山本 そうですよね。そこはだからもう、徒党を組まないとダメですよ(笑)。のっけから。

小寺 そう、おかしいのがさ、良いものを良いってちゃんと評価してるのに、悪口書いてないと、「こいつ金もらってる」とかって妙に勘ぐる奴がいるんですよ。

山本 わかります。年を取ると、というか、こっち側になってくると、そこの辻褄合わせをしとかないと、単独だとできないっていう(笑)。

小寺 そう、単独だと刺されるというところあるかも(笑)。

山本 やっぱり仲間うちで──それも別に、握れ(手を組む/口裏を合わせて全員で同じこと言おう)って意味じゃなくて。それこそたとえば、「あの変な緑色のやつはいいよね」ってなったら、「今年は緑だよね」って。それはパリコレですよね。みんなでこうやって、ある程度モードの擦り合わせをして。

小寺 そうだね。

山本 そういう意味で言うと、モードの発信の仕方、やり方ってそうじゃないですか。それがないんですよ、今。モードが全部下からくるものだけになってて。

上から落とすものは秋元康さんとか、プロデューサーの世界。音の世界とかではありますけど、絵の世界とか、ビデオの世界、いわゆる目で見る物の世界では、モードのムーブメントを作る側の仕掛けの流れがない。

そこをかつてはテクノロジー側が持っちゃったりしてたんですけど、コンテンツ側でなんかしてかないと……。

小寺 そうですね。多分ね、昔はあったんですよ。映画評論家が映画のシーンを育ててるっていう世界があって。それはやっぱり映画評論家もちゃんとした権威を持って、責任を持っていたという時期があって。ちゃんと批評が成立してたという、健全な時期というのがあったわけですけど。

山本 そうですよね。

小寺 批評が今ね、誰でも批評できるようになっちゃったんで、難しくなってきてて。それがうまく機能してない、というところがあるのかもしれないですね。

山本 でもそこでまたね、晋遊舎の『MONOQLO』とか『家電批評』って雑誌が売れてるのって、Webがそうやってなんにも信じられなくなった時に、批評家・評論家・テスターが本当にやると、広告ないのに一番売れてる雑誌になった、みたいなことが起きたじゃないですか。

そのへんは読者、というか、消費者側もわかってるんじゃないかな。

小寺 そうね。そういう評価軸が成り立つ世界って、そろそろ戻ってくるのかもしれないですね。最近まで妙にみんな、2ちゃんねる信じ過ぎというか、「お前2ちゃん見過ぎ」っていう感じに全員がなってきてるところがあった。

それに気づけない人はずっともうそのままなんだろうけど、そことは離れて、もうちょっとちゃんとメディアが突っ張って出してる情報を真っ正面から見ようよ、っていう人たちも現われてきたというところがあるのかもしんない。

■評価とマネタイズのスパイラル

山本 この前、あるとこにコラムで書いたネタなんですけど。

『じゃらん』の口コミサイトが、やばいことになってて。なんでやばいかと言うと、あれって泊まった人しか書けないことになってるから、すごくいい評価が多いんですよ。なんだけど、そこの評価を、『利用』する。違うサイトで予約取っちゃう人がすごい増えて、結局『じゃらん』にお金が還元されない。さらに『じゃらん』で予約しないから口コミが増えない……という、悪いスパイラルが起こるわけですよ。

で、リクルートはどうするかというと、結局クーポンサイト、ポンパレみたいなとこで、「今日安い」とかで売り始める。でもポンパレやグルーポンみたいなのは評価欄がないから、とんでもない宿に泊まる可能性もすごい高い。誰がこの状態を作ったの? と。

小寺 (苦笑)。

山本 で、さっきの評論の話と近いんですけど、『利用しよう』とするとそういうことになるけど、『参加しよう』としたらそうならないんですよね。

小寺 あ、なるほどね。

山本 自分がそこの、『じゃらん』の口コミサイトを作ってる参加者だという気持ちだったら、『じゃらん』から離れられないじゃないですか。「参加するからいいことがある」という当たり前のことを、なんかこう、もう一回ちゃんと言ったほうがいいのかな、とか。

小寺 やっぱりネットに「普通の人」が大量に入ってくると、もうカリスマ的な人が理屈抜きに方向を引っぱってやらないと、加速度的にベクトルが散乱するということかもしれないですね。誰かが羊を追わなきゃいけない。それまではルールがなくてもみんなが自立してうまいことやれてた世界は、もう帰ってこない。


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3DCGブームはどこへ行った? 《第3回》

小寺メルマガ「金曜ランチボックス」の中の対談部分を無償公開しています。毎週金曜日発行のメルマガから抜粋して、翌週の火曜日ぐらいに公開していく予定です。

「金曜ランチボックス」は、この対談以外にも社会系コラムや製品レビュー、Q&Aコーナー、そしてこれまでブログで書いてきた小ネタなど沢山のコンテンツでお楽しみ頂けるようになっています。よろしければ、下記2箇所の配信先バナーからご購読をお願いします。

□対談:Small Talk

毎月専門家のゲストをお招きして、旬なネタ、トレンドのお話を伺います。

今月お相手願っているJag 山本氏は、(株)イーフロンティアで、プロダクトマーケティング、マネージメントグループを指揮している人物だ。過去Shadeの開発会社にいたこともあって、CGのクリエイティブシーンにも詳しい。

僕ら90年代の3DCGブームを知っているオジサンらにとって、CGというのは自分で作るものだった。だが今や、すでにモデルデータはソフト中にあって、それで何をするか、何をさせるかを指示するだけという時代になっている。ブームから15年ぐらいを経過して、今最先端のCGソフトはバカみたいに低価格で、バカみたいに簡単にものすごいことができるようになった。

ただ最大の問題は、そうなっている事実を誰も知らない、ということである。

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3DCGブームはどこへ行った? 《第3回》
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小寺 僕も今は物書きになってるんですけど、もともとCG屋だったので。なんかね、モノの仕組みの図版とか作るときに、「これ、LightWaveで作ったら簡単じゃん」って時があるわけですよ(笑)。「これパワポで作るのか面倒くせ…」みたいなところがあってですね。

山本 わかりますわかります。や、そのへんも……。僕もびっくりしたのは、CrazyTalk Animator(クレイジートークアニメーター)というソフトがあってですね。これはもともと口パクソフトでして、人間の写真に目だとかのパーツの位置情報を入れると、しゃべりに合わせて動く……というのが、CrazyTalkというソフトだったんですけど、これがAnimatorのとこまで進化したんですね。

・CrazyTalk Animator Video Gallery
http://www.reallusion.com/crazytalk/animator/animator_videogallery.aspx

まず写真を撮りますよね。既にこの時点でもう顔だけじゃないですよね。

小寺 全身撮るのか。

山本 全身撮れば、自動でボーンが入っちゃうんですよ。顔の口パクをやってたものが、もう身体まで行っちゃってて。ここまで来たら、別にちょっとしたミュージックビデオぐらいなら、別にモデリングの知識とかある必要はない。

小寺 自分で写真撮ればいいのか。

山本 で、これ、口パクも、リップシンク機能がついてるんですね。だから、自分で作った曲で、これに乗っけて、後ろの背景作って……。ひとつビデオが、ほとんどCGとかグラフィックの知識なくてもできちゃうと。で、これ2.5Dで、横から見るとレイヤーになってるんですね。

小寺 ああー。

山本 なので、隠れたところから出てくるとかも、2.5Dならできると。このビデオ、全部CrazyTalk Animatorで作ってるんです。ま、動画の導入部分は違いますけど。

これは10年前に、僕が日本で最初から2番目ぐらいに扱ったことがあって、紆余曲折あってまたイーフロンティアで再開することになったんですけど、「え、いつの間にこんなに進化したの?」みたいな(笑)。

小寺 (笑)。これ、あれだよな。ちょっとした教育番組とかこれでオッケーだよね。

山本 これ、10万しないソフトなんですよ。うちではいくらだったかな……商品を扱いすぎてて、値段が……。

小寺 値段が出てこないのね(笑)

山本 (自社サイトで値段を調べつつ)Proで14,800円ですね。

小寺 安っ!

山本 びっくりしちゃうでしょ!? これ、別に7万ぐらいしてもいいんじゃないかとかね。で、CGやってる人ならこの値段でこの機能すげえってのがわかるんですけど、普通の人には伝わらない。

小寺 伝わらないんだ。

山本 なぜかと言うと、さっきのビデオとか──どこまでこのソフトで作ってるか、わかんないんですよ。凄すぎて。

小寺 ああー。

山本 逃げちゃうんですよ。店頭デモとかやると、凄い勢いで、「え……?」って。でもヨドバシとかだとバックが白いところがあるんで、ちょっと黄色いシャツとか着て、抜きやすい恰好だけしとくと、店頭で写真撮って、今のがすぐ出来ちゃうんで。「えっ、ええ……」みたいな。

小寺 そうだよね。知るきっかけがあれば、みんなやりたいと思うんだろうけど、なんか、考えることがありすぎるんでしょうね。多分ね。そんな簡単なわけない、みたいな。

山本 そうですね。これなんかは、実際、友達のバンドとかがこれでPV作り始めたりしたんですけど、ミュージシャンなのに、Logic(老舗のシーケンスソフト)のほうが難しいと。

小寺 ははは(笑)。まあ、そりゃそうかもしんないな。

山本 昔、こんなことやろうとしたら、ちゃんと円とか球とかからちょっとずつ作って、ねえ。

小寺 少なくとも、ボーン(CGにおける「骨」のこと。この骨ツールを動かすことで形状が変形する)を入れるのも大変でしたよねえ。人体の骨格の構造とかさ、ツリー構造が理解できてないと、ボーンをただ入れりゃいいってもんじゃないから。しわになっちゃってポリゴンが割れたり、変なとこで折れたりして。

山本 これはパーツ分けもしないでぴゅーって出来ちゃうんで。本当に、1日、2日でなんか面白いビデオ作ろうと思ったら、こういうものもあるわけですよ。……凄すぎて、伝わってない、というのがけっこう残念というか、もっとやれるとこなんですけども。

■価格破壊を起こした3GCG

小寺 なんかよくお店のメニューとかで、いかにもこれパワポで作ったろ、みたいなのがあって。すっごいオシャレな店なのに本日のランチがだっさい3Dフォントだったりして脱力しちゃうんだけど。

ああいうのってさ、知らないだけなんだよね。これパワポのほうが高いじゃないですか、どう考えても。あんなんで作るより、1万ちょいで買えるCGソフトとかのほうがよっぽどいいのに。

山本 Shadeでキュッてやってもらうだけで、全然違いますよ。iCloneというものなんかは、アニメーションのPoserみたいな形で、人体モデルがあって、動きのバリエーション、アニメーションのテンプレートがいっぱい入ってるので、「こける」とかみたいなのもすぐできちゃう。

・iClone5 Video Gallery
http://www.reallusion.com/iclone/iclone_videogallery.aspx

小寺 あー、そうなんだろうなあ。

山本 たとえば絵コンテなんかもこれでできちゃうんですよ。

小寺 ああー、いいかもしんないね。そうだよね、動きができるしね。

山本 そうなんですよ。岩井俊二さんがあのコンテ描かなくて済む、っていう。

小寺 そういう使い方もあるよねえ、たしかに(笑)

山本 人体が揃っちゃってるんで、モデリングしなくていい。動きのパターンだけで1000近くあるので。

小寺 へえー。たいてい何とかなるわけだ。

山本 そうですね。これもまた、2万円ぐらいなんですよ。

小寺 安!(笑)。なんでそんなに安くなっちゃったんだろ。何が起こったんでしょうね。

山本 値付け感も……僕、言えることと言えないことがあるんだけど(苦笑)。3Dは本当に安くなってるんですよ。

小寺 うん。

山本 逆に、写真レタッチ製品がなんであんなに高いの? って思うぐらい──って言っちゃうとまたいろいろ問題があるんですけども。

小寺 今のは問題発言(笑)。

山本 ま、まあ、まあ……大丈夫です。……だから、清水の舞台から飛び降りたつもりで買っていただいても1万いくらだし、さらに体験版もある。

■飛躍的に進化した3DCGの今

山本 小寺さんも、僕もですけど、多分5年前と今でも物凄い変わってるぐらい
ですから、テライユキの時代からもう10年近く経ってる。あの時に挫折したり、難しかったよね、しかもあんな高かったのに、みたいに思ってた人たちの、“悪い印象”だけが残ってる気もするんですよね。

小寺 あーそれはあるかも。あの時は、相当たくさんの人がチャレンジしたんだけど、結局仕事になんないってところもあり、マスターできないってところもあり。あと昔は、作ったけどどこで発表するんだよ、っていう。人に見てもらうチャンスがなかったわけですよね。

山本 そうですねえ。

小寺 まだパソコン通信時代だもんね、あのとき。

山本 今はもう……ねえ。こうやってウェブに出せますから。伸びしろ的に言うと、このCrazy TalkとかiCloneの、モデリングしないCGソフトというのはひとつ面白いかなと思ってるんですよね。PhotoshopとIllustratorだと、やっぱりPhotoshopのほうが入りやすいじゃないですか。

小寺 もとの写真が土台としてあるからね。

山本 そう考えると、LightWaveもShadeも、ゼロから作んなきゃいけない。そのへんを解決するものとして、こういったものが出てきてるというのが今。こんなのが2万円ぐらいで買える時代が来る……来てるって思ってない人が、すごいいると思うんですよね。

小寺 市場はあるよねぇ。だってほら、昔はモデリングできない人が、いわゆる景観シミュレータみたいなやつをいじってて、あれも相当売れましたよね。

山本 そうですね。Vueとか、Bryceとか。Vueも今はもう、うちの主力製品のひとつですけども。たとえば、絵を描いた後ろの背景とか、年賀状ひとつとっても、海に行ってなくても海っぽくするとか、いくらでもできちゃうんで。Vueのビデオなんか見ると、今すごいです。Vueでできるものも、もうなんか恐ろしくなりすぎて。映画で使われてる雲なんかはもう大体、かなりVueですね。

・Vue 7 Video Presentation
http://www.youtube.com/watch?v=C8mLPEsUYiM

小寺 ……これ全部CGなの?

山本 全部CGです。

小寺 はっはっは(笑)。

山本 もうやんなっちゃう。

小寺 やんなっちゃうね。なんでもアリじゃん、もう。これは要するに、選んでレンダリングするだけなんでしょう?

山本 そうですね。だからもう……MYSTみたいなのをすげーすげー言ってた時代が、なんだかよくわからない。あれはなんだったんだろう。

小寺 なんだったんだろうね、あの大苦労は。

山本 (笑)。

小寺 (3分20秒ぐらいのシーンを見ながら)えー、こういう物理演算とかもできちゃうの、これ?

山本 何かオブジェクトがやってきたらこうなるとか、みんなついちゃってるんで。

小寺 すげえなあ。

山本 本当に、今見るとなんか……吐き気がするレベルなんですよ。

小寺 ははは(笑)。そうだね。昔はさ、景観シミュレータとかで山とか作ってみたんだけど、なんかごま塩みたいな木がしょぼしょぼ生えてるだけで(笑)、これ山なのかよ、っていう感じだった。

山本 音楽ソフトがここ4、5年で全部バーチャルシンセ化して、プロも本当のシンセを捨て始めましたけど。初音ミクが音声合成を歌い始めて、もうSFの世界だったものができちゃったじゃないですか。

一方CGってレンダリングとかがあるから、まだそこまで来てないんじゃないかな、と思ってたら、グラフィックボードが速くなってるわけですよね。CPU以上に。

小寺 ああー、うんうん。

山本 なので、ずっとCPU、CPUってみんな思ってたんで、GPUのほうが根底を支え始めた瞬間に……。まあそりゃ、PS3が3万円で、あんなことできるんだから、できるよね、っていう(笑)。

小寺 ま、できるよね(笑)。

山本 意外とそこにつながってなかった、という。

小寺 なるほどね。解像度で欲張らなければ、リアルタイムレンダリングでどんどんいくんだろうな、こういうの。


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3DCGブームはどこへ行った? 《第2回》

小寺メルマガ「金曜ランチボックス」の中の対談部分を無償公開しています。毎週金曜日発行のメルマガから抜粋して、翌週の火曜日ぐらいに公開していく予定です。

「金曜ランチボックス」は、この対談以外にも社会系コラムや製品レビュー、Q&Aコーナー、そしてこれまでブログで書いてきた小ネタなど沢山のコンテンツでお楽しみ頂けるようになっています。よろしければ、下記2箇所の配信先バナーからご購読をお願いします。

□対談:Small Talk

毎月専門家のゲストをお招きして、旬なネタ、トレンドのお話を伺います。

今月お相手願っているJag 山本氏は、(株)イーフロンティアで、プロダクトマーケティング、マネージメントグループのリーダーとして、3DCGソフトをはじめとするクリエイティブツールの販売を指揮している人物だ。過去Shadeの開発会社にいたこともあって、CGのクリエイティブシーンにも詳しい。

僕もモノカキになるまではCG屋として仕事していたこともあり、久々のCG談義となった。

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3DCGブームはどこへ行った? 《第2回》
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小寺 今、3DCGを教える学校ってどんな状況になってますか。

山本 やっぱり、建築パース系とかが多いんですよ。

小寺 ああ、そうなんだ。

山本 じゃなければゲームですね。CGといったら、ゲームデザイン。映像系もあるんですけども、映像コンテンツのシェアというものが、残念ながら日本はまだまだ……。アニメはあるとしても、あんまりないですよね。

小寺 一時期、テレビ局にはすごい入ったんですけどね。外注の人もものすごく沢山いて。僕なんかその世界で一時期食ってた時期があるんですよ。

ちょうど、ソフトイマージがマイクロソフトに買われてWindows版が出た頃に値段がガバッと下がって、動くマシンもWindowsでいい、ってことになって。それまではシリコングラフィックスのワークステーションじゃなきゃ動きませんでしたからね。それでハウスにいたCGの人間がみんな辞めてフリーランスになって。自分のレギュラーの仕事を持って、独立していくんですよ。で、自宅とか共同でオフィス借りて、そこでテレビの情報番組とかのCGを作って、それで食ってるというような時期がありましたね。あれはたぶん、98年ぐらいかな。

山本 たぶんソフトイマージの頃ですからそうですよね、きっと。……いやあ、僕、どっかのポジティブなこと言わなきゃってずっと思いながらしゃべってて、そこが困ってんですけど。

小寺 (笑)。ポジティブなことあんまりないの?(笑)

山本 いや、なくはないんですよ! あのー…… ……いやあ。

小寺 ないんだ?(笑)。

山本 いやいや! 無理矢理言う、という意味じゃなく、あるんです。たぶん一瞬でひっくり返るようなキラー表現というか、「こんなスタンスがあったんだ」、あるいは「原点回帰していいんだ」ということが──やっぱりコンテンツですから、あるきっかけで急に来る。そういう中で言えば、すごく近いところまで来てるんですね。ただ、これが難しくて。コンテンツ側から技術が生まれるのか、技術側からコンテンツが生まれるのか。

DSC00102我々ツール屋さんのほうで言うと、ツール側からくる表現というものには、もうそろそろ、突拍子もないものというのはあまり出てこないんですね。それまではパーティクルですとか、モーフィング。例えばモーフなんていうのは、実写にない表現のひとつでしたから。あとは、生体シミュレーション。うちで扱ってるVueの最新版とかだと、恐ろしいのは、木の種類によって幹の硬さとかまでシミュレーションされてるんですね。

小寺 ええー(笑)。

山本 それこそ映画、『猿の惑星』みたいなやつで、猿がこうやって、ひとつずつ手をかけて、雲梯みたいにしていくじゃないですか。あれは、リンゴが生ってるところはリンゴの枝の硬さになってたり。あと、折れたりもするじゃないですか。松の木が折れるのと、樫の木が折れるのって、折れ方が違うわけですよ。そういう設定が入ってるんですね。それぐらいまで来てる。
あとはもう作り手さんが、そこの機能の裏技とかに気づいていただいて、ってところまでもう来てる。ひとつの機能だけで1アーティストさんが4年ぐらい食えるんじゃないかと。ただそこになかなか踏み込んでもらえるところまで……。進化が早すぎて、何をやったらすごいのか、何やったら面白いのか、というところとの紐づけが今はできてない感じですね。

小寺 うーん、なるほど。

山本 今はどっちかっていうと、開発者側発信のフェーズが多く感じますね。当然、映像の作り手のリクエストでできてる機能もたくさんあるんですけど、やっぱりまだまだ踏み込めてないないな、って気がしますね。

■LightWave的表現の行方

小寺 LightWaveの話を聞きたいんですけど。LightWaveのユーザーって今── どういう人が使ってんのかなって。

山本 いや、LightWaveはやっぱり映像系が多いですよね。

小寺 ああ、やっぱそこは強いんだね。

山本 やっぱりビデオトースター時代から、アミーガで来て、伝説のソフト……ま、ちょっと空間も空きましたけど。コストパフォーマンスではずっとリードしてきてるソフトじゃないですか。やっぱり、途中でMayaがでてこようとエイリアスが出てこようと、この値段でこれができるの?! ってのはずっとLightWaveがやってきたところなので。今度、LightWaveばかりを使った映画が公開されるんですよ。

小寺 へええ。そんなの久しぶりだな…。昔『バビロン5』とか、『シークエスト』とか、ああいうのぐらいしかなかった。

山本 『アイアン・スカイ』っていうんですけど。ま、いろいろとつっこみどころがあってですね……(参考:http://gacchi.jp/movies/iron-sky/ )あ、日本語のページもできてますね。

小寺 これは……(苦笑)。「ナチス軍、月面より宣戦布告!」。どうなんだろうなこれは(笑)。

山本 ちょっと、これ……違うモードのインタビューがあったらまたぜひいろいろと話したいんですけども。

小寺 どんなモードなんだろ(笑)。

山本 CGの好きな人って、戦争ものが好きな人が多いんですよ。やたら。

小寺 あー、そうね。バトルものですよね。ま、武器と宇宙と言ったらCGの独壇場だからね。

山本 まず、ドイツはあれだけアニメが来てるのに『ガンダム』来ませんからねえ。これ、何がすごいかというと、製作自体がほとんど十何人で作ってるんですね。CGで全部映画作っちゃったっていう。

小寺 実写ないんだ?

山本 ありますよ。でも製作は本当にすごい少ない人数で。このぐらいのものがLightWave一本でできちゃうよ、っていうのが、LightWaveの代表的な使われ方ですね。あと……『アバター』のCG技術監督の、ロブ・パワーズって人間がいるんですね。この人が今、Newtek、LightWaveの役員で入って。

小寺 へぇ。

山本 コンテンツ側、映像側の人間をもう一回入れ直して、舵取りをするような状態に今なってます。

小寺 実写と組み合わせるなら、普通はスーパーリアルなCGを使うんだけど、逆に今の『アイアン・スカイ』みたいなやつって、あれもうホント、画がLightWaveくさいじゃないですか(笑)。

山本 はいはい。

小寺 LightWaveでも今ならもうちょっとうまくできるだろ、って思うんですが、あれはあえてそこに行ってないんですかね。あんなんになっちゃうのか、狙ってああなのか。

山本 えっと、狙ってだと思いますね。

小寺 狙ってなんだ。

山本 多分スーパーリアリズムに行こうと思ったら行けるんですけど、多分、LightWaveのツールとして出る味が好きなんだと思うんですよね。

小寺 ああ、なるほどね。

山本 それが折り返し点のひとつになってんのかな、とは思うんです。車のクラシックカーじゃないですけど、やっぱり技術的な限界があって作ったもののほうがデザイン的に味がある、みたいなところに戻る、ひとつのポイントだとは思うんですよね。

小寺 なるほどねえ。

山本 どっちかと言うとこれは、90年代のCGを綺麗にレンダリングしてるだけなんで、と言うと怒られると思うんですけど。

小寺 ははは(笑)。

山本 まだ様式美的に、90年代、2000年代に作られたものが、スーパーリアリズムを求めすぎてただけにしょぼかったり、味だったりというところを振り返るまでの余裕に来てないんですよね。余裕に入ると、テクノと同じで、ちゃちさや味というものが見直されてきて。

8ビット、16ビットも、かっこいいって言い始めたのって、MIDIの楽器だらけになって、CVゲートの楽器がなくなった頃にやっと。映像も、ファミコンがスーファミをこえてサターンぐらいになって、「なんかやっぱり8ビットかわいいよね」みたいになったじゃないですか。8ビットの最中で8ビットやると……

小寺 当たり前じゃんって(笑)。それしかないんだから。

山本 そういう意味で言うと、今もうスーパーリアルに向かって一直線に来ちゃったんで、なんか、8ビット、16ビットは振り返れても、64ビットでちょっとレンダリングが遅かったものとか、その時代にあったモデリングの仕方とかはまだ…。

小寺 一周回って来てないと。そういう意味では90年代末の3DCGの何が凄かったかというと、やっぱアニメーションができたことが凄かったんですよ。それまでは1枚ずつレンダリングしてVTRにコマ撮りだったところが、メモリーに入れてポンだしできるようになった。そこがやっぱりLightWaveの原点というか、「CGが映像になる」というところが画期的だった。

ところが今はもう、動くほうのCGというのは実写の中に埋まっていっちゃって、それを自分で作ろう、という気持ちにはあんまりみんなならなくて。どっちかと言うともっとデザインっぽい、静止画でいいのでちょっとデザインっぽい感じで、“絵筆”としてCGを使いたい、というふうになってきてんのかな、という気がします。

山本 そうですね……いや、なって「いくはず」です。

一同 (笑)。

小寺 これからか。

山本 こういうのって、あっという間に変わるので。ただ今まだもぞもぞしてるのは、主流はまだそこではないんでしょう。ただ、ツール好きの人たちはもう、そういう気持ちに移ってるんじゃないかなと。そういう層と3Dのツールがまだ出会ってないですよね。

あともう一つは、YouTubeを見ても、ニコ動を見ても、オリジナル作品がすごく少ないじゃないですか。基本的に、テレビをそのままアップしちゃってる人とかが多い。違うのは唯一、ミクミク系のものだけど、それで面白いのはやっぱりMadなわけですよね。

そう考えると、今はクロマキーも簡単ですし、別に完全に真っ青、真緑じゃなくても、今のパソコンだったら抜けますから。友達のバンドのビデオをクロマキー引いてやって、後ろをShadeやLightWaveで作るとかは、すごい簡単なんですけども、今YouTubeとか見ても、アマチュアバンド系でCG練り込んで入れてるのはまだまだ少ないですね。

小寺 ないですねえ。今はやっぱね、撮影が面白いから、みんなそこに行っちゃってるところはありますね。

山本 そうですね。これも、もうちょっとしたら変わってくるだろうなと。確信的に思っているのは、iPadとかのカメラも解像度がめちゃめちゃ高くなってるじゃないすか。そうすると、ジャイロとか位置情報が動画に入れられるので、クロマキーで撮ったものの位置情報を取っとく。

それこそお腹にiPhoneを巻いといて、歌わせといて、撮るほうにBluetoothで位置情報を取りながらやるだけで、簡単なハリウッドスタジオができちゃうわけじゃないですか。それをShadeに食わせれば、カメラに一緒にグラフィックがついてきますから。今はまだソフト側がちゃんとなってないので、タブレット端末についてるカメラとの組み合わせる。あとソフト側にもジャイロがついてくる傾向もあるので。

それによって、合成がすごい勢いで来るんだろうなと。なんとなくやっぱり、バンドやってる人とかがビデオを作ってるのを見て、その話をするとすぐ「したい!」と。でもShade覚えるのって何ヶ月かかるんだろ…、みたいなことを言うんで、触ってもらうと「あ、できそうだね」みたいな。

僕自身も何年もCGから離れてたので、久々にツール界に来て、「5年ぐらいでこんなに進化しちゃうんだ!」と思ってるところです。



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3DCGブームはどこへ行った? 《第1回》

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□対談:Small Talk

毎月専門家のゲストをお招きして、旬なネタ、トレンドのお話を伺います。

最近対談の人選が「呑み会で会って仲良くなったおもろい人シリーズ」になってきている。2か月前のメルマガでお送りしたコブラのプロデューサー古瀬さんもそうだが、今回お話しをお伺いするJag 山本氏もそうだ。

山本氏は、(株)イーフロンティアで、プロダクトマーケティング、マネージメントグループのリーダーとして、3DCGソフトをはじめとするクリエイティブツールの販売を指揮している人物だ。イーフロンティアは最近はソフト販売会社としての地位を確立しつつある。

現在扱っているラインナップとしては、LightWave、modo、Poser、Shade、Anime Creator、SketchUpPro、CINEMA4D、CARRARAなどなど。クリエイターの中には、ああ、あれもそうなの? と言うものもあるだろう。オーディオでは、以前ヤマハが代理店だったKlipshのイヤホンやスピーカーなどのハードウェア製品も一
手に引き受けている。

山本氏はヨーロッパでのビジネスの経験も長く、世界のソフトウェアマーケットに精通しているという、日本では珍しい人物だ。今クリエイティブソフトウェアの世界はどういう業界地図になっているのだろうか。そのあたりからお話しを伺ってみたい。

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3DCGブームはどこへ行った? 《第1回》
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小寺 今いわゆるパソコンソフトの販売って、どうなってるんでしょう? 昔は3DCGとかに強い、専門性の高いショップがあって、そういうところにエキスパートが集まってラウンジっぽくなってくるみたいなこともあったんですけど、今はそういう専門ソフトってメーカー直販でダウンロードで買ったりというケースの方が多いんじゃないかという気がするんです。

その一方で、なんか名だたる3DCGソフトの販売がイーフロンティアに集まってきているという現状もまたあるわけですよね。こういうPCソフト販売の流れって、やはり昔からは変わってきてるんですかね?

山本 たとえばイーフロンティアの会社の業種はなんですかと言われると、Shadeっていう3DCGソフトのベンダーであるんですけども、ベンダー以外だと「パブリッシャー」という言い方をしてるんですね。

DSC00101やっぱりいまだに、ヨドバシ、ビッグカメラ、ヤマダ電機みたいな店頭でのソフトウェアの売上というのは、比率的にはけっこうあるんですよ。「けっこうある」という言い方がすごい抽象的なんですけども、たとえば……ウイルス対策ソフト。あれは更新ビジネスがメインなんですが、新規の購入との比率でいうと、少なく見積もっても6割ぐらいは店頭なんですね。

小寺 ああー、そうなんだ。やっぱりレガシーなソフトウェアのありかたって、売り方も変わってないんですね。

山本 うーん、今はそうです。ただ、今はウイルス対策ソフトの話をしましたけど、ドイツのウイルス対策もちょっと知ってるもので。それで言うと、2年ぐらいの隙間で──2008年から2009年のたった2年間のあいだで、PCのソフトウェアコーナーというのが40%縮小ぐらいしちゃったんですよ。

小寺 えっ、すると60%になったということ?

山本 そうです。今まで2列あったところが、1列と面だけ残ってる、みたいな感じになっちゃったんですよ。「そういう日が来る、来る」とは言われながらまだ平気だろうと思ってたら、ある日、ある時からもう出荷ができなくなっちゃうと。

小寺 (笑)。やめてくれ、ってこと? 出せないの?

山本 特にドイツなんですけど、ドイツの場合、Saturn(ザトゥーン)というのと、Mediamarkt(メディアマルクト)という2大ショップがありまして。

小寺 それはチェーン店なの?

山本 チェーン店ですね。Mediamarktが、日本で言ったらヤマダみたいな郊外型、Saturnがビック、ヨドバシみたいな感じなんですけど。この2大ショップが合併しちゃって。

小寺 へええ。

山本 もう、大巨頭なんですよ。ライバルにコンラッドとか、ま、ソフマップみたいなのもちょっとあるんですけど、そっちはだいぶちっちゃくなっちゃっていて。

で、そこがもう家電量販のほとんどを持っちゃってんですね。そこが返品しないで頑張ってたんですけど、ある日方針で──「こんな状態だったら携帯電話置いたほうがいいね」という、会社としての流れになりますよね。そういう大方針が決まっちゃうと、「悪いけど、ちょっと返品受けて」となって、出荷が受けられなくなって。

ドイツの場合なんかだと地方分散ですから、アキバ・新宿みたいな街がほとんどないわけですよ。ま、ベルリンとかミュンヘンとか大都市はありますけど、ミュンヘンのソフトウェアコーナーが、デュッセルドルフの5倍あるかというと、そういうわけじゃないんですよ。なので、全部がばーってなくなっちゃった。

小寺 日本はどうなんです? PCソフトの取次みたいな業態ってあるんですかね?

山本 日本で家電量販店にソフトを流通させてるのは、ほとんど一社の流通さんなんですね。直でやられているソースネクストさんとかもありますけども、その一社が方針をもし急に変えたらもうそこまでです。

小寺 うん。

山本 ただシェアがそれだけあるといっても、シェア比は昔より、当然減ってます。ダウンロードが増えてるので。でもそれに食われたぶんだけではない、市場の縮小も出てきてます。それでもお店で買っている人がいる大きな理由は、さっき言ったウイルスソフトと、年賀状(作成ソフト)がいちばん売れるソフトなんですけど、この2つのソフトというのは、実はダウンロードよりお店で買ったほうが安いんです。

小寺 あーそっか、そうだよね。ダウンロードだと直販になっちゃうから値引きないもんね。

山本 そうなんですよ。あとはマイクロソフト系、Officeとかも、実はダウンロードよりお店のほうが安い。MSなんかはダウンロードとお店のMSRP(メーカー希望小売価格)は同じにしてるのに、店頭だとヨドバシポイントがつき、販売推進で○%引き、というのがつくので、そっちのほうが安い。

ポジティブに言うと、やっぱりお店に来る意味があるんだという動きはある。海外のベンダーは、ダウンロードなら自分たちでやれると思われてる方たちもいらっしゃるんですけども、じゃあお店にはどうやって届けるんだ、と。流通さんに直接ポンと送ったらやってくれるのかというと、そういうわけでもない。棚を作ってくれないですし。するとやっぱりパブリッシャーに売ってもらうっていう、レガシーなとこになってきますね。

小寺 なるほど、そういう構造なんですね。ソフトを売るというのは。

山本 あとはやっぱり、昔から言う「サポート、日本語化」のコストを誰がどう持つか、というところですね。アドビさんとかシマンテックさんみたいに、あのサイズになれば、本社にローカライズ部署を作ってやればいいでしょうけど。日本人に安く売ったとしても、じゃそのサポートを誰が受けるの? と。

そうなると、今度はマーケティングも伴ってくるわけですよね。たとえばうちですとPoserというソフトとかやってますけども、「Poser」と検索して来る人と、「人体ソフト」で来る人に分かれるわけですね。で、取っていきたいのはこの「人体ソフト」というように、マッチングワードでやるところだと。そうすると、本国のSEO部隊、SEM部隊はとんちんかんなわけですよ。何をサーチエンジン対策に入れたら売れるのかと。

じゃあ日本のSEM、SEOが強いところに頼もう、と。でも、SEMとSEOだけ強いところに頼んでも、今度は「Poser」に引っかからない。となると、そこに詳しいところはどこだろう、ということで、3Dソフトを扱ってるとこ……みたいなことで、また集まってくると。

小寺 なるほど、そういうことで、加速度的にイーフロンティアに3Dソフトが集まってきちゃってる現状があるんですか。

山本 そうですね……他のもそうなんですけどね、音楽ソフトにしても。ま、ポジティブな話をすれば、Shadeをやりながらmodoを売ってたりする、というのは、決してカニバルじゃない、というところなんですよ。やっぱり、文房具や絵を描くツールもそうですけど、「ここまでは三菱の鉛筆で描いて、でもこっちはタッチが違うからトンボ、ここはこの色鉛筆で」とかはよくある話で。

小寺さん自身も以前はLightWaveを使われてたということでおわかりだと思うんですけど、やっぱり3Dソフトってそれぞれにクセがあるんで、「こういうことやるなら別の思想のほうがいいな」とかある。私たちがユーザーさんに、メールマガジンとかキャンペーンで、Shadeを買った人にLightWaveとか、LightWaveを買った人にmodoとか勧めるんですけど、これだけで年間何億みたいな売上があるんですね。つまり、この人たちは乗り換えてるんではなくて、両方使っていただいていると。まあ、いうなれば3DCGの『世界堂』みたいな感じですよ(笑)。

小寺 ははは、なるほど(笑)。なんでも扱うと。

■3DCGはどこへ行った?

小寺 いま、3DCGって、どんぐらいのユーザー人口なんだろうな……90年代半ばから後半ぐらいにかけて、すごくブームになった時期があるじゃないですか。

山本 はいはい。

小寺 ああいう人たちが一時期雑誌なんかにすごく出て、牽引した時期があるわけですけど、結局みんなどこ行っちゃったのかな? あんだけみんな散々やってたのに、今は誰もやってない、みたいなところが。

山本 いくつか波があって。近いところでいちばんマイルドに投げると、テライユキとかがShadeの流れになりましたけど。(テライユキ:1998年発表の、Shadeで作られたキャラクター。バーチャルアイドルの走りであった)

ま、その前は「スペースシップ・ワーロック」ですとか(笑)。あの時代、94、95年のときのマルチメディアブームの、「デスクトップでCGができるよ」ってなったときの流れですよね。

まず、「CGってなに?」ってところからなんですけども、たとえで言うとテクノにすごく近くてですね。今のテクノミュージックって、ヘビメタと同じで、形式化して、様式化した、本当にビコビコしてないとテクノじゃないじゃないですか。でも、YMO、クラフトワークの出たYMOの時代ですと、今聴くとYMOなんて、どこがテクノなのかわからないぐらい、フュージョンで。「シンセを使ってたらテクノ」でしたよね。

そういう意味で言うとCGも、クラフトワークよろしくですけど、「CGらしいCG」がCGだったんですけど、今のCGってたとえば、今のハリウッド映画とか見ても、どこにCG使ってんの? っていうとこまで来て。しかも、だいたい映画とかで言ったらスピルバーグのA.I.あたりから、実写とリアルをくっつけたとこの境目がわからなくなって、CGという言葉の醍醐味がわかんなくなっちゃったんですよね。

テクノの場合、シンセを使って、人間がやってんのかシンセなのかがわからなくなったところから、逆に戻ってレトロで今みたいにビコビコに戻りましたけど、今CGをCGらしくと言ったら、8ビット、16ビットにしないと、ということになる。でもまだ、8ビット・16ビットみたいな、CGの原点回帰がまだ起こってないんですよ。じゃあCGでできる作品ってなんだろう、って考えたときに、言葉は悪いですけど、本当にテクノの世界と一緒で、今はいったん、リアリズムに行き着きすぎて……「写真でいいんじゃないか」「本当に作ればいいんじゃないか」とか、と思っちゃう人がけっこう増えたと。

小寺 なるほど。

山本 「消えた」というのは、CGやってた人たちでうまく行ってた人たちは、いわゆる白組ですとか、ROBOTさんみたいに、もうそれがCGなのかプロダクションなのかわからないようなとこに行ったので、目立たなくなっちゃったんですよね。残ってる人たちというと言葉が悪いですけど、今もやられてる方々は、たとえば初音ミクみたいに、もともと出てくる物の対象が二次元的なものだからモデリングしたほうが早い、とかいうところにけっこうフォーカスされるはずです。そういう意味でいうと初音ミクは唯一現存している手法のCGらしいCG。でもあれも、“らしい”と言ってるのは多分見た目じゃなくて、声が音声合成っていうほうですもんね。

小寺 そうだね。今Shadeの販売広告として、どっちが写真でどっちがShadeでしょう、みたいな広告展開してるじゃないですか。いわゆるスーパーリアリズムのほうへ振ってると思うんですけど。

ああいうスーパーリアルなものを作るのって、昔はすごく大変だったわけじゃないですか。昔はマッピングとかのネタも含めて自分で全部用意して、ラジオシティでのレンダリングなんかも1枚の静止画で丸一日かかったりと大変だったんだけど、今はだいぶプリセット化が進んでいて、わりと誰でも、「選べばいい」ような感じになってきてるんじゃないかなと想像するんですが。

山本 そうですね。そこはひとつ大きいですね。あともうひとつは、テクスチャ自身がデジカメで高解像度ですぐ撮れるようになっちゃったんで。昔テクスチャ集とか買ってたじゃないですか(笑)。

小寺 買ってた買ってた(笑)。

山本 あと、テクスチャシンセとか使ってましたけど。いまは木目だったら、そのへんのテーブルをデジカメで撮っちゃえば終わっちゃうんで。そのへんはすっごい早いですよね。

鉛筆のどっちがリアル? という広告もうちのスタッフが作ったものなんです。あれは間違い探し的にしなきゃいけないところが凄く時間がかかったんですけども、それなしで作るんだったら15分ぐらいでできちゃうんですね。レンダリング含めて。なんで、そのへんはものすごい手軽になっている。

あと、レンダリングのラジオシティですとかの品質もすごい上がってるんで、楽しみ方がわかるとすごいことなんですけど。ほんとに、スーパーリアリズムが「だからどうなの?」ってところも含めて(笑)。

小寺 これ同じ写真が撮れるんだったらそっちでいいんじゃないの? っていう(笑)。

山本 そうそう(笑)。あと、たとえば、マグリッド的なね、シュールレアリズムをやるにしても、あそこまでリアルなものの静止画だと、本当に今度はイマジネーションになっちゃうんですよね。『アリス・イン・ワンダーランド』の中に出てくるテリー・ギリアムの気違いな世界とかって、あれはCGが凄いんじゃなくて、あれの元絵のスケッチができるからあの世界観ができるじゃないですか。だから、『アリス・イン・ワンダーランド』の中にあるような1シーンなんかは、Shadeでちょっと頑張れば、しかも静止画でステージだったら、たぶん初心者の人でもちょっと勉強すればできちゃうわけです。イラレであのレベルのものをあげようと思ったら無理ですし。

ですから、まあ、ただそのへんのファインアート感というか──Shadeはゼロから生みだせるツールなのに、意外とそういう方にまだ広がってない……まあ、日本という国の土壌もあるんですけども。なかなかファインアートの本とかもないので。

たとえば『プレイボーイ』とか開いてもね、向こうだと、水着のお姉さんの後ろがすっげーカッコイイ書割っていうか、すごいシュールな写真だったりするじゃないですか。なんか、そのへんに転がってるものがいちいちかっこいいとか。日本だと本当に、なんか貸しスタジオでこうやってる、みたいな。アート感がある絵があんまり、まだまだ人気がないので。イメージもできないし、イメージしたものを作って喜ぶ人の顔も見えないんで作り手も増えない、というのが今のところだと思うんです。

ただ少し期待しているのは、ファインアート系の人たち、やっぱり20代ぐらいの子たちはだいぶ変わってきている。彼らの世界だとファインアートも、リアルも、オタクも、あんまり垣根がないので、それこそ『アリス・イン・ワンダーランド』みたいなものを作品だと思って作れるところの精神状態まで来てるんですね。でもやっぱり、20代ぐらいなんですね、やっと。30代、40代ぐらいは、それを絵にした作品のイメージがグローバリゼーションになってないので、あんまり作り手がいない。ここが変わってくると、変わるのかな、とか思ってるんですけども。でもなかなか……。本当はあんなものを作れるツールなんだけどなー、と思いながら。


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マーケットから見たデジカメの世界《第4回》

小寺メルマガ「金曜ランチボックス」の中の対談部分を無償公開しています。毎週金曜日発行のメルマガから抜粋して、翌週の火曜日ぐらいに公開していく予定です。

「金曜ランチボックス」は、この対談以外にも社会系コラムや製品レビュー、Q&Aコーナー、そしてこれまでブログで書いてきた小ネタなど沢山のコンテンツでお楽しみ頂けるようになっています。よろしければ、下記2箇所の配信先バナーからご購読をお願いします。

□対談:Small Talk

毎月専門家のゲストをお招きして、旬なネタ、トレンドのお話を伺います。

今月の対談のお相手は、インプレスジャパン刊『デジタルカメラマガジン』の編集長を務める、川上義哉氏にお願いしている。

デジカメ盛衰のあれこれを語りながら、今後のトレンドを紐解く最終回。世界の国の中で、こんなにたくさんカメラを製造しているメーカーがひしめき合っている国はない。国内市場が旺盛だった時代に支えられてここまで来たわけだが、もうそんな時代は過去のものだ。メーカーの統廃合も徐々に進みつつある中で、日本のカメラはどういった戦略で生き残れるのか。

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マーケットから見たデジカメの世界《第4回》
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小寺 カメラにフィルターが乗るっていう流れ、それはある意味、コンパクト一眼、ミラーレス一眼どまりなんですかね? この流れは本格一眼までいくのか。

川上 ここはまだ、業界的には議論はあるんですけど。

中井精也さんという、鉄道写真家で有名な方がいて、彼の書籍をつくったんですよ(著者注:『世界一わかりやすいデジタル一眼レフカメラと写真の教科書』)。それはすごく売れたんですけど。なんと、今日9刷とか決まって、びっくりしちゃったんですけど。

小寺 ほお。

川上 すっごく売れてるんです。で、その本はRAWの話……1ページしか載ってないんですよね。やれるんですよ、もちろんプロの方だから。でも編集会議のとき、これを最初の一冊にしたいから、カメラの設定だけ、撮った瞬間そこに出てきたものが見た目と変わる喜びを出そう、っていうんで、カメラ内で設定をさせて、それから撮りましょう、ってやってるんですよね。

それがこんだけ本として売れちゃうと……どっかでやっぱり、一歩踏み出す時が、上の機種でもある。まだまだ、メーカーとしては決めにくい状況ではあると思いますけど。

小寺 そこで気になるポイントがあって。アートフィルターをかけて撮って、最初にみるビューが、カメラの後ろ側の液晶モニタじゃないですか。で、液晶モニタの表示が果たしてそんなに正しいのか、っていうことが気になるんですよ、テレビ屋さんとしては(笑)。

川上 なるほどね。

小寺 テレビ屋さんってほら、マスターモニタ以外では色は作れない世界なので。でもカメラの液晶モニタって、なんか標準規格もないし、機種ごとに発色なりコントラストがかなりが違うので、そんなのでいじっちゃって、フィニッシュがどういうイメージになるのかわかってんのか。僕なんかはそこの不安感がどうしてもあるんだけど、そんなことは杞憂なんですかね?

川上 そこは、フィニッシュとは何か、みたいなことが、さっきの話からつながってくると思うんですけど。ものすごく希薄になってると思う。

小寺 うん。

川上 正直、プリントする、っていうのが撮影枚数に比例して伸びてるかというと、逆だと思うんですよ。すごく減っちゃってる。ま、ここぞ、ってものはあるかもしれないけど。

うちの読者アンケートをとっても、RAW現像、RAWを知っていて、やったことある人って9割近くいるんですけど、じゃあみんながそれをいつもRAW現像してますか、っていうと、してる頻度というのは少ないですよね。たくさん撮って、ここぞというものの一部をRAW現像して、叩いて仕上げはするけど、全部はやってはいない。それでなに何かやるかっていうと、プリントもほとんどしなくて、「『GANREF』のフォトコンテストにアップする」みたいな(笑)。

小寺 ああー。

DSCF0675川上 ……流れだったりする。PCのディスプレイでも見るんでしょうけど、その違いに気づいてるかっていうのもなかなか。ま、環境光も違いますよね。元は外で撮ってるわけだから。もちろんディスプレイのガンマの問題とか、輝度の問題があっても、気にしてない可能性が高くて。

逆に言うと、カメラメーカー側がなぜアートフィルターみたいなものをその場で設定できるようにしちゃったかのひとつの理由には、もしかしたらそこがあるかもしれないですよ。どっちにしたっていくらか合ってないんだから、カメラの液晶で満足したらそれでいいじゃん、みたいなね。「それが出力なんだ」と。

小寺 ああ、なるほどね。

川上 ……という割り切りもね、あるのかな、と思ったりはします。

■「アウトプット」という意味

小寺 フィニッシュの絵を大きく見たいというニーズは、どうなんでしょうね。プリントつったってせいぜいL判じゃないすか。ただ多くのデジカメにはHDMI端子がついていて、HD解像度でテレビで見ろよ、ということを促している中で、でっかく見たいというニーズが本当にどこまであるのか、というのが、今のとこよくわかんないんですよね。

動画を撮れば、動画のディスプレイはテレビ以上がないので、テレビ繋ぐのはわかるんだけど、写真をテレビで見るというモチベーションって、カメラメーカーさんが皆さん仰るように、本当にあるのかなー、というのが僕にはよく見えないんですけど。そのへん……

川上 ない、って思います。

小寺 ないか(笑)。ないんだ。

川上 僕もやったんだけど。僕はなんか、かみさんの親にずいぶんお世話になったんで、クリスマスはうちの実家へ、年末年始はあっちの実家みたいな感じで。

そうすると、年末年始におせちを作ったりなんだりして年越しをするときに、僕の仕事は、一年間の子どもの成長をですね、スライドショーにして。でかいテレビにですね、夕飯、年越しのときに流しながら飯を食う、なんてことをここ2年やってるわけですけど。あ、こういうのってあるんだなとは思いました。

イメージだけで言えば、仲間内で、家族4組ぐらいでキャンプに行きました、と。帰ってきたらまた集まりがあるじゃないですか。お父さんたちが撮ってたものをガッチャンコして、子どもたちが遊んでて、お父さんたち酒飲んでる、みたいな。奥さんたちは悪口言ってて。

小寺 (笑)。

川上 そういうシーンで流れてる、ってのはあるだろうと思うんですけど。ま、そういう世界ってのがもう、どんどん死に絶えてくというか……。人は関係性を持ちたがる存在であることは変わらないんだけれども、生々しいそういう集まりとか、家族関係みたいなものがどんどん希薄になってる。結婚しない人も増えてるし、子どもなんかいない人もいっぱいいるし、そもそも近所付き合いしないし、みたいなことが増えてく中では、あんまり大きい画面でみんなで見て共有するようなことを求めるシーンがないんですね。

小寺 うんうん。

川上 で、個人的なものであれば、携帯で見るか、パソコン使って流しながら見てる、っていうんで全然よいので。テレビというのは……意思決定する人たちの世代ではたしかにいいと思うんです。40代、50代、60代の人には。でもこれから30代になってく人、いまの20代、30代の人には、ほとんど効かないんじゃないかなぁ。それはよく小寺さんも仰ってたように、もうテレビからどんどん人が離れていくでしょう、ということとつながるんではないかと思うんですけどね。

小寺 アメリカとかの事情を考えると、アメリカ人って、本物のスライドショー指向というか。写真をポジで撮って、スライドにして、部屋を暗くして、プロジェクタで上映、みたいのって昔から一般家庭で普通にやられてたみたいなんですけど。

川上 そうですね、ええ。

小寺 宗教的な理由もあるのかもしれないですけど、ファミリーが集まってなんかする、みたいなのをすごく大事に思っているところがある。そこの、ファミリーに対しての情熱というかガッツ感みたいのが、どうも日本と違うんじゃないかな、という気がするんですよね。

川上 おっしゃるとおりですね。ま、でもアメリカの話を聞くと、あそこはより格差というか、地域ごとに違うみたいで。今の共和党と民主党の勢力図みたいなもんですけど、民主党系って言うのかな。今の南部の保守的な地盤の人たちは未だにそういうのがあって、そこで生まれ育った人は、都会に行っても、「やっぱりクリスマスは家に帰るでしょ!」みたいなことらしいんですよ。

それに対して、4、5年前にすごく売れた『Sex and the City』みたいなね(著者注:『Sex and the City』のTV版の放映時は1998年から2004年。映画一作目の公開が2008年)。都心で働く女性で、シングルで、という人たちはそういう価値観がなく生きてる可能性が高い。単純には言えないですけど。

小寺 以前さ、ニコンがプロジェクター付きのカメラを出したじゃない(著者注:最初のモデルはCOOLPIX S1000pj、2009年発売)。あれは、うまくいかなかったの? なんか最近あんまり噂にならないってことはうまくいかなかったのかなあ。

川上 こないだ──去年新モデルが出たんです。それが相当良くなって。以前はやっぱり出力が弱くてですね、役に立たねーじゃん、みたいなことがあったみたいです。……まあ、市場作れたほどではないんですが、そういうところもいま、コンパクトカメラが煮詰まってる、というんでしょうね。

小寺 そうなんだ。ビデオカメラの世界では、逆にソニーさんがプロジェクターの機能をほとんどのラインナップに載せてきてですね。いま上位モデルのほとんどがプロジェクターが載ってるんですけど。

川上 え、じゃあ、撮ったらそこでびゃーっと観れる……?

小寺 あのね、寝るときに、家族で川の字になって、天井に打つんだって。

川上 あっ、すごい……!

小寺 それを発見したら、ユーザー間でものすごく広がって。これはいいね! って話になって。

川上 いいですね。

小寺 でね、小さい子とか特に、自分が映ってるのを観るのが大好きなので、寝かしつけに最高なんだって。

川上 あー、ちゃんと寝てくれるのか(笑)。

小寺 そうそう、だまーって上観てるから(笑)、そのうち寝ちゃうのよ。

川上 いいねえ。しかもずーっと観てたら退屈だしね、たぶん。わははは(笑)。

小寺 そうそうそう。寝かしつけに最高のソリューション、っていう。

川上 それは面白いなあ。カメラだって、あっていいですけどね。さっきの子どもの話ですけど──ま、こういう仕事やってるんで、たぶん人よりも……一年で数千枚撮っちゃうんですけど。で、それを整理してるじゃないですか。すると子どもが来てずーっと見てますからね。

小寺 見たいんだね。

川上 見たいんでしょうねえ。たとえば数百枚撮ったのをずっと流しとけばいいですし。電源的にもちっちゃいですもんね、カメラ。あらー、それは言うてやろ、ニコンさんに。

小寺 (笑)。ああそうそう、それとね、ドラマチック感というかね、演出感が凄いのがよくわかった。暗くするとさ、体のすぐ脇からプロジェクタの光がこう、放射状に出てるのがわかるじゃない?

川上 まわりが暗くて、ぼやーっと。

小寺 なんかイベント感があるのよ、すごく。毎日がイベントみたいな感じがあるのね。

川上 夜寝るのが楽しみな時間になっちゃいますもんね。すごい。それはすごいなあ。

■どこへ行くカメラメーカー

川上 あの……ビジネスの流れみたいな話で最近注目してんのはやっぱり、メーカーと販社が分かれてるケースが多くて。そうすると、日本の販社の肩身がどんどん狭くなってる感じがしますね。

小寺 ふうん。というのは?

川上 やっぱり日本は台数出せないので。中国のマーケットとかだと、10倍ぐらいあるわけですよね。北米も大きいし、EUとかもどんどんやってると。

でも限られたラインでカメラ作って出してると、世界で同じ時期に発売するわけです。中国が「うちは100台売るよ」っていうときに、日本は「10台押さえといてね」って言っても、「いや、あんたのとこは3台にして、7台こっちに持ってきてよ」みたいな戦いがあるみたいで。

小寺 ああー。

川上 何が言いたいかっていうと、肩身が狭いというよりも、「日本のマーケットでこういうものが必要だから作ってくれ」って言うじゃないですか。たぶんその意見がだんだん……

小寺 ああ、通らなく……

川上 なってくる。それでも日本のメーカーだから日本の声には敏感だと思うんですけど、でもそれがワールドワイドでコストを考えていったときに、そこをやるとぼーんと値段が上がっちゃうようなことを選ぶか、っていうと、もう難しくなってくると思うんですよね。

小寺 日本人のニーズを突き詰めていくと、ワールドワイドレベルからすると過剰品質になるじゃないですか。

川上 ほんとですね。

小寺 だけど、それを満たさない限り、日本の市場ではあんまり評価が高くなくなっちゃう。世界では売れてるんだろうけど、日本でのイメージはイマイチ、みたいな感じになっちゃうところが、これから出てくると思うんですよね。最初から国内を見ていないメーカーとか出てきてもおかしくない。

たとえば、iPhoneとかで、けっこうよく撮れるようになっちゃったじゃないですか。

川上 なっちゃった。よく撮れますよ、あれ。

小寺 で、あんなんでいいよねっていう層は、確実にいるわけじゃないですか。しかも、ネットワークに常時つながるから、コミュニケーションツールとして写真が使える。こないだ、CESの時にポラロイドが出してたカメラが、もうOSがAndroidそのものなんですよ。

川上 ほお。

小寺 アプリも自分で入れられる、本当のAndroidマシンなんだけど、デジカメの形してんですよ。「これかー」って気がしましたね(笑)。

川上 僕自身もいろんな各メーカーの、キーマンまで行かないけど中堅の方々と、非公式にはよく意見交換をしてるんですが。共通してみんな言ってるのはそこの部分ですよね。ただ単にiPhoneなりなんなりがコンパクトカメラの市場をとるのかとらないのか、というレベルじゃなくて、それはどの部分がいちばん効いてるのか、と。加工の部分の面白さとか、アプリケーションをしょっちゅう変えられるとか。

メーカーがやるとですね、メーカーが全部アプリケーションまで提供するわけですよ。それでは競争できないわけですよね。AndroidってOSは作るけど、あとはユーザーが勝手に自分の責任でアプリ入れてくれて、加工で遊んでる。もう、コストも競争力も全然違うよねと。スキームが全然違いますと。

で、それをニコンさんがやれないの? やるの? まあニコンさんに限らず、他のメーカーでも、やれないの? やるの? ってのはすごい議論してるんだけれども。

正直日本は、キャリアとの絡みとか、物の供給の問題とか、関係者の問題でできないことを考えると、海外でできるんだったら海外でやる可能性は高いと思うんですよね。それで生き残るのであればやっちゃう。そんなことをはっきり言う知り合いは一人もいませんけど、考えてるのはひしひしと感じるような議論はずいぶん、いろんな人とこの1年、2年、しましたねえ。

■拡大する歪み、その先は

小寺 一方で、中国ではキヤノン EOS 5D Mark IIとかがめっちゃ売れてるでしょ? で、多分機能もほとんど使ってないんだけど、一応買っとく、みたいな富の象徴みたいなところがあるわけじゃない。

そういうところの動きって、明らかに必要があって買ってるわけじゃないので、歪んでるわけじゃないですか。でも、その歪みがカメラ業界全体にに利益をもたらしている。

川上 ええ。

小寺 で、その歪みに応えていってると、将来的にはものすごく大きな形ではじけちゃうんじゃないか、っていう不安がものすごくあるんです。今考えられる、拡大による歪みの形って、どんなことが考えられますか。

川上 中国がすごく売れてるといってもまだまだ……なんて言うんでしょうね。人口的には一部の人しか持ってなくて、憧れのレベルになってる。さっきお話しされてた、歪みの部分が歪みじゃなくなるのは、憧れが憧れじゃなくなった時だと思うんですよ。そういう意味でいうと、まだまだすごーく階層があるので。

小寺 なるほど。まだ先があるんだね。

川上 ものすごくあるから、その人たちの自尊心を満足させられなくなるようなコモディティ化はまだ相当先までない。富の象徴であることは、なぜいいか、じゃないんですよ。持ってるのがいいんだ、理由なくいい、というものが多分ずっと続くと思うんです。

で、それじゃまずいと思う人たちもいっぱいいて。キヤノンなんかはすごく立派だな、と思うのは、そんだけ売れてる中で、ちゃんと地域のキヤノン写真教室みたいなのを相当やってんですよね。日本と同じように──日本の雑誌も撮影だけの雑誌じゃなくて、「レンズを愛でる」みたいな記事もいっぱいあって、それがカッコイイ、みたいな文化を持ってくわけですけど。

中国ではほとんど雑誌とかが自由に出せないので、メーカー側でやってるんですね。だから、日本に比べると、メーカーに情報を取りに行く人の率が高いんですよ。メーカーのWebサイトがすごく充実していくような形。だから必ずしも物を売るだけじゃなくて、キヤノンがそういう風に自分で活動もして、ただ単にステータスとして持ってるだけじゃない部分を一生懸命作ろうとはしてるように見えます。

それに対する他の会社は、そういう風にやってるように見えないので、そこは引っかかりますけど。さっき申し上げたように、まだ持ってない人がすごくいるので、しばらくは……歪みは事実としてあるんですけど……歪みのまま(笑)行くんだろうな……って。

小寺 あー(笑)。

川上 僕らからすると歪みですけど、ある意味僕らも昔、「いい車乗りたい」みたいなね、あったじゃないですか。

小寺 あっ、そうだよね。そうだった。それは歪みじゃなくて、消費者として洗練されてないっていうことなんだよね、きっと。

川上 おっしゃる通りだと。

小寺 洗練されてないままに経済が回る、というのが日本の80年代ぐらいまであって。要はあの状況なんだね。

という意味では、日本だけ、たぶん消費者は先に行きすぎたんですよ。アメリカでさえ、消費者ってそんなに洗練されてなくって、“ブームが起きる”ってこと自体が、消費者として洗練されてない証拠だと僕は思うんですよね。一斉に買う、みたいなのがあるってことは、大半がバカってことじゃないですか(笑)。

川上 はっはっは(笑)。誰かの価値観に依存しちゃうからね。

小寺 そうそうそう。それはやっぱ洗練されてないからだと思うんですよね。ある意味日本は先に行きすぎたところがあるから、いろんな国の遠い将来のモデルではあるかもしれないですけど、今の、ワールドワイドでビジネスするところにとっては、日本の市場を細かく分析することにあまり意味はないのかもしれないですね。

川上 今のおっしゃることは、よりメーカー側が思ってることかもしんないんですよ。売らなきゃいけないのにいちいちうるせえことばかり言いやがって、と。しかもクオリティも高くないと嫌だ、値段も下げろと言うと。そんなところのために一生懸命作れるか、みたいなことを──そんなこと言うとは思いませんけど、作り手としては思うだろうなと。

それよりもねえ、ちょっとデコレーションして、1万円ぐらいの値段にして、3世代前ぐらいのエンジンでも全然いいね、ってドッカン売れたら、「どんどん作れよ」というほうが、まあ普通の考え方だと思うので。そういう意味では日本のマーケットは特殊になっていってるのかな……。

面白いのは──サムスンさんは昔、デジタルカメラを日本でやってたんですけど、撤退したんですよね。でも彼らはずっと日本のことを見てる。ワールドワイドだと今、シェア4位ぐらいなんですかねえ。キヤノン、ニコン、ソニー、次にサムスンぐらいなんですけど。

で、いつかは日本でやりたいと思ってるんですけど──思ってることがアリアリなんですけど、「やるの?」って訊くと「いやあ……」って言うんですよね。だからおっしゃるような意味では、日本って特殊だし、やってもコストかかるなあ、って思ってる。だけどカメラの世界で言うと、日本で当たってるということが、ひとつの世界的な宣伝になると思ってる部分があるみたいなんですよね。

小寺 ああー、なるほどなるほど。「あんなうるせー奴らに認められたんならきっと良いだろう」と、洗練されてない国の消費者が思う、という構図ですね(笑)。“全米が泣いた”みたいなやつだ。

川上 あはは(笑)。まさに。IT系も“Made in Japan”に復帰するのが増えてる、っていうのは──よくそういう話をされますよね。レノボが結局中国で製造するのをやめて、またこっちで作るとか言いだしてたりする。あれもやっぱり、中国のメーカーであるというよりは、日本で作ってるんだ、みたいなことが、世界的には実はいい、という考え方も持つところが増えてる。

小寺 なるほど。今度は“ジャパン・セレクション”がブランドになる可能性があるということかもしれませんね。




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プロフィール

小寺信良
WEBに巣食うモノカキ。
原稿依頼、取材などのご連絡は、nob.kodera(at)gmail.comまでお願いします。

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