どうして「昔トンボの旅日記」なのですか?と何人かの人に聞かれた。

「昔とんぼ」は日本とヒマラヤにしか住まない「生きている化石」と言われるトンボだ。僕なんか「生きている化石」と同じようなもんだから、それで自分の旅日記に「昔トンボの旅日記という題をつけた。「昔トンボ」に興味のある方は以下の文章をよまれたい。

1『ムカシトンボ(ムカシトンボ亜目ムカシトンボ科)』

翅(はね)を広げると60センチにもという巨大な化石トンボ「メガニウラ」をはじめとする原始トンボ類は、古生代の二畳紀(2億9千万年前〜2億5千万年前)までに絶滅し、そこから分岐した子孫が進化を重ね、今日のトンボ類を形成した。

ところが中世代の三畳紀(2億5千万年前〜2億前)ジュラ紀(2億前〜1憶4千万年前)に栄えた古代トンボの一群に形態的に似ており、ほとんど進化が止まったような状態で現存するのが「生きた化石」と呼ばれるムカシトンボだ。

トンボ類を大別すると、前後の翅がほぼ同大の均翅亜目と、後翅が少し幅広い不均翅亜目に分かれるが、それからをミックスしたような特徴を持ったため、ムカシトンボ亜目という独立した分類が与えられている。

たとえば、黒地に黄色模様の胴体は、翅を広げて静止する不均翅亜目のサナエトンボ類に似るが、翅は均翅亜目のイトトンボ類に形態的に似ており、静止時には翅を閉じる点も似ている。静止姿勢は垂直に近い姿勢でぶら下がる懸垂型だ。飛翔が非常に素早いことや成虫の胸部が毛深いこともこの種の特徴である。

ムカシトンボ亜目として日本固有種とヒマラヤムカシトンボの1科1属2種が知られているにすぎない。全長約50ミリの中型種で北海道から九州までほぼ全国に分布する。山間の渓流に生息し、産卵は交尾後にメスが単独で河岸に面したやわらない生きた植物の茎の中などに行う。

幼虫は急流の早瀬の石の下などにへばりついて暮らす。幼虫期間は他のトンボ類が1−3年であるのに比べ、7−8年と非常に長い。幼虫期間の呼吸は直腸の内壁に気管の末梢が集まっててできるエラで行う。さらに、他のトンボ類と異なるのは、幼虫が羽化に先立って水辺を離れ、1カ月前後も陸上で生活すること。この期間、幼虫は胸の気門で呼吸する。

成虫の出現時期は温暖な地域で3月下旬から5月下旬、寒冷地では6月中旬から7月中旬だが、出現期間は短く1カ月程度という。

分布域が広くなじみがあることから環境省の指定昆虫であり、太古から生き残ってきたといわれるムカシトンボだが、林道工事や河川改修などの影響で急速に数を減らしている。都道府県単位でみると、準絶滅危惧種、希少種、留意種に指定されている場合が多い。【終】