やがて八人が掌を挙げたままの姿勢でくるくると体を旋回させ始めた。白い衣裳はしたがスカートになっているから、旋回とともに裾がふくらみ、美しい円錐形となった。それは白い花の大輪がパァッと一斉に花開いたようだ。
音楽のテンポが上り、踊りの旋回のテンポもそれにつれて上っていく。左足を軸に右足を少し蹴ってくるりくるりと回る。右手を上に左手を下にいつまでもいつまでも、続くかと思われる旋回だ。彼らは少し小首をかしげ宙を見ている。目の焦点は宙を漂い、その視界の中に彼らは神を見ているようだ。
長い長い祈りの舞踊だった。旋回は一時間くらい続いたろう。音楽が終わり、旋回がとまり、八人の修道士達は再び両手を胸に交叉させて深々と頭を下げ静かに部屋を出ていった。静寂の時が訪れ、僕はと言えば、僕も修道士のように頭を垂れその場を暫らく動かなかった。「セマ」のあと僕はいつも金縛りに会ったように動けなくなる。
いつの日か、12月のコンヤを訪れ彼らの本当の「セマ」を見たいものだ。僕はそう思った。残余の命いくばくもない僕に、その機会はあるだろうか?
イスタンブール滞在もあと一日を余すのみとなった。明後日、僕はアタチュルク空港から成田に向けて飛び立つ。
明日一日をどう過ごそう。多分、明日も今日と同じに「ハマム」と「セマ」だ。
「ハマム」は今日みつけた「庶民派ハマム」へ行く。明日は力づくのマッサージも受けよう。きっと体がガタガタになること受け合いだが。
「セマ」は、オリエンタル急行終着駅のイスタンブール駅に行って観る。歴史ある古い駅の一室だから、今夜のセマよりももっと見応えがあるかもしれない。
いずれにしても、明日は今日と同じようなことをする。だから明日の旅日記は余程の出来事がない限り今日と同じようなものになる。よって、「チュニジアの旅」の日記は今夜をもってペンを置き稿を閉じることにする。【チュニジア編・了】