河合信和の人類学のブログ

 科学ジャーナリスト、河合信和の公式ブログ。人類学、先史考古学関連のニュースなどを随時掲載の予定。

ネアンデルタール人の母親とデニーソヴァ人の父親を持つハイブリッド第1世代の個体発見

 ドイツ、マックスプランク進化人類学研究所のV・スロン、スヴァンテ・ペーボらは、このほどシベリア、アルタイ山脈中のデニーソヴァ洞窟(写真)出土の「デニーソヴァ11号」人骨片から抽出したゲノムを提示した。研究チームは、ゲノム分析からデニーソヴァ11号は、デニーソヴァ洞窟一帯に去来したデニーソヴァ人の父親とネアンデルタール人の母親の混血第1世代だったと見られるとしている。

デニソワ洞窟遺跡の上から見下ろした、アルタイ山脈の渓谷120869

◎ハイブリッド第1世代は若い女性
 父親のゲノムは、ネアンデルタール人祖先の痕跡を持つものの、同洞窟の後の層位から発見されたデニーソヴァ人に関連した集団のものであり、母親のゲノムは、後のヨーロッパに展開したネアンデルタール人にごく近い集団由来だった。
 骨片は、9万~5万年前に死亡した若い女性のもので、死亡時の年齢は少なくとも13歳以上だったと思われるという。
 母親のゲノムは、同洞窟で発見されている早期ネアンデルタール人よりも前述のようにヨーロッパ後期ネアンデルタール人に近いので、母親の属した集団のようなネアンデルタール人のユーラシア東部と同西部間の遊動は12万年前以降に起こったようだ。

◎両集団の交配はありふれた出来事だった
 ちなみにネアンデルタール人とデニーソヴァ人は39万年以上前に分岐したが、その後もユーラシアで共存していて、両方の血を受け継いだ混血標本はこれまでにいくつか見つかっている。
 今回は、混血第1世代の個体が初めて発見され、ネアンデルタール人とデニーソヴァ人との交配を示す直接証拠が得られたことになる。
 研究チームは、ネアンデルタール人とデニーソヴァ人の交配は、両集団が出会った際にはありふれた出来事であった可能性があるが、そうした集団間の関わりは限定的であったため、遺伝的な独自性は維持できていたと推定している。

アフリカのサバンナ帯をスポット状に肥沃化させた新石器時代牧畜民

 サブサハラ(サハラ以南の)アフリカに、広大なサバンナが広がる。この一部は、今は数少ない野生動物の保護区や国立公園になっている。
 この野生動物の聖域は、実は人口増による圧力で徐々に狭められている。なぜなら降水量はともかく、土地は意外と肥沃だからだ。
 本来はアフリカは強烈な太陽光で腐植土が形成されにくく、土は貧弱なラテライトが多い。
 ところがそんなアフリカのサバンナでも、スポット的に意外と肥沃な草地が見られる。サバンナに点在する生産力の高いパッチ状の草地は、いったいどうして出来たのか。
 大型動物の糞の排泄、ブッシュファイアー(野火)、シロアリの塚生成などでも肥沃な土壌が出来るが、スポット状の肥沃な土地は、新石器時代牧畜民の家畜によって排泄された糞便の効果が大きかったことが、アメリカ、ドイツなどの国際チームの研究で明らかになった。9月20日号のイギリスの科学誌『ネイチャー』で報告された。
 研究チームは、ケニアの新石器牧畜民の遺跡5カ所(較正炭素年代で3700~1550年前)で、遺跡内の分解された糞便堆積物の化学分析、同位体分析などを用いて、ここには周辺土壌よりも栄養塩類が多く、特に高い窒素濃縮が認められた。
 家畜は、サバンナの草を食べ、長期にわたって排泄物を蓄積させ、土壌を肥沃化させていた。
 牧畜民というと環境収奪的な生活様式をとっていると考えられているが、実際はこうした牧畜民の居住が3000年間にわたってアフリカのサバンナ景観を肥沃化させ、多様化させてきたことが示された。

サウジアラビア北部の砂漠で8.5~9万年前の現生人類の指の化石

 サウジアラビア北部のネフド砂漠で2016年に発掘されたヒトの指の化石の解析結果から、現生人類ホモ・サピエンスは遅くとも8万5000年前にはアラビア半島に到達していたとする研究結果が4月9日付のイギリス科学誌『ネイチャー・エコロジー・アンド・エボリューション』に発表された。


◎成人中指の3.2センチ分の化石
 発掘されたのは、アル・ウスタと呼ばれる今はカラカラに乾いた砂漠地帯。指の骨の持ち主が住んでいた頃には多数の川や湖が点在する草原だったとみられ、研究チームはガゼルやカバといった動物化石800点以上の他に多数の石器も発見している。
 指骨は、形態からホモ・サピエンスと明らかな、成人の中指と見られる長さ3.2センチの化石(写真)。発見以来、研究チームは2年にわたって解析作業を行った。

09万年前の現生人類の手の指化石















◎ウラン系列法で年代測定
 研究チームがウラン系列年代測定法で指の骨の年代を解析し、骨は少なくとも8.5万年前、場合によっては9万年前のものであることが明らかになったという。サウジアラビアでは最古のホモ・サピエンス化石であり、またアフリカやレバント地域以外で見つかったものの中で年代を直接推定できた最も古い現生人類化石だという。
 年代が正しければ現生人類は、従来考えていた6万年前頃より2~2.5万年前も早くレバント越えでのアラビアへの移住が起こっていたことになり、あるいはまたレバント経由ではなく紅海からアラビア半島南方を経ての出アフリカの可能性も出てくるだろう。

北スペイン、ラ・パシエガ洞窟壁画の年代は約6.5万年前、ヨーロッパ最古、ネアンデルタール人の作?

 世界遺産に登録されているスペイン北部の洞窟壁画の1つが、遅くとも6万4800年前に描かれていたことが分かった、とドイツ・マックスプランク研究所などのチームが22日、発表した。現生人類がアフリカから欧州に進出する2万年前だから、壁画を描いたのはネアンデルタール人という。論文は米科学誌『サイエンス』に掲載される。

◎エル・カステージョ例を2万年以上さかのぼる
 研究チームは、このラ・パシエガ洞窟で、赤いはしごのような模様が描かれた部分に付着した炭酸塩(炭素化合物)を採取し、含まれているウランとトリウムの比率から年代を測定し、上記の年代値を得た。またスペインの別の2カ所の洞窟壁画も、同様の年代と判明したという。
 これまでヨーロッパ最古の洞窟壁画は、約4万年前に描かれた同じスペインのエル・カスティージョ洞窟の壁画とされてきたが、今回は2万年以上さかのぼったことになる。なお南アフリカと東アフリカの早期現生人類が残した古い線刻などの年代はまだ未確定なので、ラ・パシエガ洞窟壁画が世界最古とまでは言えない。

◎ネアンデルタール人制作か
 ラ・パシエガ洞窟壁画(写真)は、幾何学模様やウマ、シカ、鳥などの動物、人の手などが描かれている。このモチーフは、従来知られていた初期の壁画と類似しており、これらとの関連も注目される。すなわち年代測定を進めれば、同様の年代値を示すものが出てくる可能性がある。

000ラ・パシエガ洞窟の壁画20180223-OYT1I50021-L さてそれでは、ラ・パシエガ洞窟壁画などの例は、ネアンデルタール人にも象徴化能力があったことを例証するものと言えるのだろうか。少なくとも現生人類ではないから、年代が正しければその候補はネアンデルタール人しかいない。

◎なぜ滅んだのか、ネアンデルタール人
 またスペインを含む西ヨーロッパで、中東から進出してきた現生人類ホモ・サピエンスは、人口を漸減させつつあったネアンデルタール人と長くとも5000年は共存していた。ネアンデルタール人が最終的に絶滅したのは、彼らの個体群が孤立して細りつつあったところに、勢いづく現生人類との生存競争に敗れたためと考えられるが、もし6.5万年前までに象徴化能力を身につけていたネアンデルタール人がなぜ滅んだのかも、今後、検討する必要がある。

38.5~17.2万年前のインド南部の中期旧石器、アッティランパッカム旧石器遺跡で年代

0発見された、中期旧石器時代の石器 インド南部、タミール・ナド州の古くから知られていたアッティランパッカム(Attirampakkam)遺跡の層序におけるルミネッセンス年代測定から、ここでアシュール文化の終焉と中期旧石器時代の文化の出現を示す複数の過程が38万5000±6万4000年前に起こったことが明らかになった、と英科学誌『ネイチャー』2018年2月1日号でインドの研究チームが報告した(写真=発見された、中期旧石器時代の石器)。


 この年代は南アジアにおける従来の想定をはるかにさかのぼる。
 なおアッティランパッカム遺跡では、中期旧石器時代は17万2000±4万1000年前まで続いた。
 アフリカとヨーロッパから遠く離れた地域での中期旧石器文化の年代は、同文化の起源と初期の発展をうかがうのに、さらには現生人類やそれより古いヒト族との関連、先行したアシュール文化とのつながり、そしてルヴァロワ技術の広がりを理解する上でも極めて重要である。
 インドでの豊富な中期旧石器文化記録は、こうした問題に取り組むのに理想的だが、発掘された遺跡とヒト族化石の少なさと地質年代学的な制約により進展が制限されている。
 今回の研究で、アッティランパッカムにおける、両面加工石器の漸進的消滅、小型の石器の多さ、特徴的で多様なルヴァロワ剥片技法や尖頭器技法の出現、そして石刃の要素は、先行したアシュール文化の大型剥片技術からの顕著な移行を浮き彫りにしているようだ。
 これらの知見は、インドで38万5000年前に起こった大規模な行動変化の過程を示しており、この過程がアフリカおよびヨーロッパで記録されている類似の過程と同時期のものであることを裏付る、としている。
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