河合信和の人類学のブログ

 科学ジャーナリスト、河合信和の公式ブログ。人類学、先史考古学関連のニュースなどを随時掲載の予定。

インドネシア、カリマンタン島で4万年前のウシを描いた最古の具象画、手形ステンシル画は5万年前に

 インドネシア、カリマンタン島東部の洞窟で発見されていた石灰岩洞窟群に残る旧石器人の描いた動物壁画が、このほどオーストラリア、インドネシアなどの研究チームによって、世界最古の具象画の洞窟壁画ではないか、という分析結果が7日付『ネイチャー』電子版で報告された。

◎石灰岩のルバン・ジェリジ・サレー洞窟
 調べられた年代は、絵によって異なるが、ルバン・ジェリジ・サレー洞窟(右の地図の中央)で見つかった、この地域に今でも生息している野牛「バンテン」(ヨーロッパなどにいたオーロックスとは種が異なる)を描いたと考えられる彩画は、ウラン系列法で4万年前と測定された(写真=左下の動物)。

洞窟の












野生の牛とみられる動物(左下)が描かれたインドネシアの洞窟壁画

 この年代が正しければ、ヨーロッパの最古の動物具象画であるフランス、ショーヴェ洞窟より数千年は古い。
 さらに同洞窟に見られた、ヨーロッパにも広く見られる手形ステンシル画は、同じウラン系列法で最低3.72万年前、最高5.18万年前と測定された。

◎さらに若い年代の絵も
 なお研究グループは、ルバン・ジェリジ・サレー洞窟とそれ以外の3カ所の石灰岩洞窟の壁画のウラン系列法年代も得て、この地域の芸術の編年を可能にした。前記の壁画より新しく、一部を入念なモチーフで装飾された暗い紫色の手形ステンシル画は約2万年前、同色の、極めて稀少なヒトの彩画は、約1.36万年前という。
 こうした年代は、ヨーロッパの洞窟壁画と年代的に一致する。最終氷河期再寒冷期(LGM)に、ユーラシアと西端と東端でホモ・サピエンスの類似した芸術活動が展開された意味が、今後、議論されていくだろう。

◎スペインのラ・パシエガ洞窟との関連は
 なおこの2月、米科学誌『サイエンス』で、スペインのラ・パシエガ洞窟など3洞窟で見つかっていた抽象彩画、手形ステンシル画の年代が6.5万年前という報告がなされた。この年代の頃、ヨーロッパに早期ホモ・サピエンスはまだ到達していなかったので、ネアンデルタール人の制作と見られるが、その関連も興味深い。

南ア、ブロンボス洞窟で赤いクレヨンで斜交平行模様の付けられた磨製石器発見、最古の彩色図像

The_earliest_evidence_of_art_made_by_humans_dating_back_73_000 南アフリカ、ブロンボス洞窟ではこれまで様々な現代人的行動を示す文化遺物が発見されてきた洞窟だが、このほど赤色オーカーのクレヨンを用いて3つの斜交平行模様(cross-hatched pattern)を連ねたシルクリート製磨製薄片が発見された(写真)。
 ブロンボス洞窟で長年発掘調査を続けているクリストファー・ヘルシルウッドや南ア、ヴィッツの考古学者ルカ・ポラーロロらのチームが、イギリスの科学週刊誌『ネイチャー』9月12日号で報告した。

◎7.3万年前のMSAスティル・ベイ技術複合
 この薄片は、以前に見つかった貝殻製ビーズ、オーカー片に同じような斜交平行模様を線刻した遺物を備えたスティル・ベイ技術複合の石器群と同一層位から出土しているので、年代はほぼ7万3000年前の中期石器時代(MSA)に位置づけられる。
 研究チームは、顕微鏡観察と化学分析の結果、この斜交平行模様はヒトにより意図的に付けられたもの、と結論づけた。
 この発見は、これまでヨーロッパなどで知られていた洞窟壁画などの抽象的・具象的図像より少なくとも3万年はさかのぼるという。
 斜交平行模様の意味は不明だが、先に発見されているオーカーへの線刻と同様に、南部アフリカの早期ホモ・サピエンスが異なった技術を使って様々な媒体に意図的な画像デザインを制作する能力のあったことを示している。

ネアンデルタール人の母親とデニーソヴァ人の父親を持つハイブリッド第1世代の個体発見

 ドイツ、マックスプランク進化人類学研究所のV・スロン、スヴァンテ・ペーボらは、このほどシベリア、アルタイ山脈中のデニーソヴァ洞窟(写真)出土の「デニーソヴァ11号」人骨片から抽出したゲノムを提示した。研究チームは、ゲノム分析からデニーソヴァ11号は、デニーソヴァ洞窟一帯に去来したデニーソヴァ人の父親とネアンデルタール人の母親の混血第1世代だったと見られるとしている。

デニソワ洞窟遺跡の上から見下ろした、アルタイ山脈の渓谷120869

◎ハイブリッド第1世代は若い女性
 父親のゲノムは、ネアンデルタール人祖先の痕跡を持つものの、同洞窟の後の層位から発見されたデニーソヴァ人に関連した集団のものであり、母親のゲノムは、後のヨーロッパに展開したネアンデルタール人にごく近い集団由来だった。
 骨片は、9万~5万年前に死亡した若い女性のもので、死亡時の年齢は少なくとも13歳以上だったと思われるという。
 母親のゲノムは、同洞窟で発見されている早期ネアンデルタール人よりも前述のようにヨーロッパ後期ネアンデルタール人に近いので、母親の属した集団のようなネアンデルタール人のユーラシア東部と同西部間の遊動は12万年前以降に起こったようだ。

◎両集団の交配はありふれた出来事だった
 ちなみにネアンデルタール人とデニーソヴァ人は39万年以上前に分岐したが、その後もユーラシアで共存していて、両方の血を受け継いだ混血標本はこれまでにいくつか見つかっている。
 今回は、混血第1世代の個体が初めて発見され、ネアンデルタール人とデニーソヴァ人との交配を示す直接証拠が得られたことになる。
 研究チームは、ネアンデルタール人とデニーソヴァ人の交配は、両集団が出会った際にはありふれた出来事であった可能性があるが、そうした集団間の関わりは限定的であったため、遺伝的な独自性は維持できていたと推定している。

アフリカのサバンナ帯をスポット状に肥沃化させた新石器時代牧畜民

 サブサハラ(サハラ以南の)アフリカに、広大なサバンナが広がる。この一部は、今は数少ない野生動物の保護区や国立公園になっている。
 この野生動物の聖域は、実は人口増による圧力で徐々に狭められている。なぜなら降水量はともかく、土地は意外と肥沃だからだ。
 本来はアフリカは強烈な太陽光で腐植土が形成されにくく、土は貧弱なラテライトが多い。
 ところがそんなアフリカのサバンナでも、スポット的に意外と肥沃な草地が見られる。サバンナに点在する生産力の高いパッチ状の草地は、いったいどうして出来たのか。
 大型動物の糞の排泄、ブッシュファイアー(野火)、シロアリの塚生成などでも肥沃な土壌が出来るが、スポット状の肥沃な土地は、新石器時代牧畜民の家畜によって排泄された糞便の効果が大きかったことが、アメリカ、ドイツなどの国際チームの研究で明らかになった。9月20日号のイギリスの科学誌『ネイチャー』で報告された。
 研究チームは、ケニアの新石器牧畜民の遺跡5カ所(較正炭素年代で3700~1550年前)で、遺跡内の分解された糞便堆積物の化学分析、同位体分析などを用いて、ここには周辺土壌よりも栄養塩類が多く、特に高い窒素濃縮が認められた。
 家畜は、サバンナの草を食べ、長期にわたって排泄物を蓄積させ、土壌を肥沃化させていた。
 牧畜民というと環境収奪的な生活様式をとっていると考えられているが、実際はこうした牧畜民の居住が3000年間にわたってアフリカのサバンナ景観を肥沃化させ、多様化させてきたことが示された。

サウジアラビア北部の砂漠で8.5~9万年前の現生人類の指の化石

 サウジアラビア北部のネフド砂漠で2016年に発掘されたヒトの指の化石の解析結果から、現生人類ホモ・サピエンスは遅くとも8万5000年前にはアラビア半島に到達していたとする研究結果が4月9日付のイギリス科学誌『ネイチャー・エコロジー・アンド・エボリューション』に発表された。


◎成人中指の3.2センチ分の化石
 発掘されたのは、アル・ウスタと呼ばれる今はカラカラに乾いた砂漠地帯。指の骨の持ち主が住んでいた頃には多数の川や湖が点在する草原だったとみられ、研究チームはガゼルやカバといった動物化石800点以上の他に多数の石器も発見している。
 指骨は、形態からホモ・サピエンスと明らかな、成人の中指と見られる長さ3.2センチの化石(写真)。発見以来、研究チームは2年にわたって解析作業を行った。

09万年前の現生人類の手の指化石















◎ウラン系列法で年代測定
 研究チームがウラン系列年代測定法で指の骨の年代を解析し、骨は少なくとも8.5万年前、場合によっては9万年前のものであることが明らかになったという。サウジアラビアでは最古のホモ・サピエンス化石であり、またアフリカやレバント地域以外で見つかったものの中で年代を直接推定できた最も古い現生人類化石だという。
 年代が正しければ現生人類は、従来考えていた6万年前頃より2~2.5万年前も早くレバント越えでのアラビアへの移住が起こっていたことになり、あるいはまたレバント経由ではなく紅海からアラビア半島南方を経ての出アフリカの可能性も出てくるだろう。

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