直立二足歩行というロコモーションを確立していたアウストラロピテクス・アファレンシス(アファール猿人)は、それでもなお樹上適応を残していたことは、古人類学者に広く信じられているが、ひょっとすると想像以上に地上化していたかもしれない。

第4中足骨の示す足の「土踏まず」
 アファール猿人出土地で有名なエチオピア、ハダールで最近に発見された約320万年前のアファール猿人の中足骨化石の分析から、彼らに現生人類の足のようなアーチ(土踏まず)のあったことが示唆された。アメリカ科学誌『サイエンス』の2月11日号で、シカゴ大学のキャロル・ワードらが報告した。ハダールのパイオニアのジョハンソンも名を連ねている。
 これまでアファール猿人が直立二足歩行をしていたことは分かっていたが、「どの程度」かについては論議があった。318万年前のメスの「ルーシー」骨盤のように、全体的には直立二足歩行に適応しているが、なお古代的な形態を示し、手の指の湾曲度、小型の体型と石器を持たないことなどから、まだ樹上に適応してことは確実だと見られている。
 だが、今回見つかったほぼ完全な左足第4中足骨をチンプ、ゴリラ、ヒトの骨と比較したところ、「土踏まず」に相当するアーチが形成され、物を把握する能力を失っていたことが示唆された。

足のアーチは直立二足歩行に重要
 中足骨の遠位と近位の端が足のアーチを形成するような形態を示し、また足根骨との接合面などは、類人猿的な形状ではなかった。アーチを持つ現生人類と似た特徴が見られた。アーチは、足を蹴り出す梃子にもなり、もまた着地した衝撃を吸収する役割も持つ。ここからワードらは、アファール猿人の足の機能は現代人的で、地上性の二足歩行を行っていたと推定した。
 報告に対して諏訪元・東大教授は、「足の他の骨の分析からアーチがあると判断した研究はこれまでにもあるが、今回のように甲の部分の保存状態がいいものはめったにない。完全な素晴らしい骨で、二足歩行に特化していたとの説を支持するものだ」とのコメントを寄せている。

アレムゼゲドらが昨年発表したカットマーク付き獣骨の意味
 さてそうなると、アファール猿人はどうやって生き延びられていたのか、新たな疑問が湧く。
 性的二型は大きかったが、最小個体のメスの「ルーシー」では身長約1メートルだった。第4中足骨の形態から洗練された直立二足歩行を行っていたとすれば、すでにサバンナに進出していたことになるが、チンパンジーのような長く鋭い犬歯もなく、ゴリラのようなオスの巨体も持たないアファール猿人が捕食者のうろつくサバンナで生きていくのは、大変だったのではないかという疑問が湧く。
 ここで思い出されるのは、昨年、イギリスの科学誌『ネイチャー』8月12日号にエチオピアのゼレゼネイ・アレムゼゲドらが発表した石で付けられたカットマークと打撃痕のある2個の獣骨である。年代は、339万年前のもので、アレムゼゲドらはアファール猿人が石器を使っていたホミニン最古の証拠としたが、私は疑問視していた。
 肝心の石器は見つかっていないので、アファール猿人が石器を製作し、また使用していたのかどうか、なお議論の余地がある。
 それでもこの2つの発表を相互に関連づけると、アファール猿人もある程度はサバンナで暮らし、死肉漁りをして、石(石器かどうかはまだ不明)を使って肉食をしていたことになる。
 アファール猿人像の見直しが迫られている。