カテゴリ: 番外編・SS

「キミカー」
名を呼ばれて振り返れば、教室の入り口で手を振る友人が見えた。
こちらに向かってくるので、笑顔で待つ。


「なに見てたの?」
べつに、と答えながらも再び視線はグラウンドに行ってしまって。

「まーた松下見てるんだ?」
からかうような口調で言われ赤面する。
彼は今体育祭に備えてグラウンドでサッカーをしている。



「べ、べつにそんなんじゃ」
「キミカ分かりやすすぎ」
友人は窓に寄りかかり笑う。

「告白しないの?」
「しないよ!するわけないじゃん!」
「ふーん?なんで?」
考えてみたこともなかった。

バサバサっと、恐らく自分で無頓着に切ったであろう髪、特に清潔感のあるわけでも汚ならしいわけでもないジャージ。
なのにどこか、色っぽい、松下コウキ。

「にしても、なんで松下かねー……もっといいのいっぱいいるじゃん」
けれど、誰もそのことに気づいていない。

確かに勉強もスポーツもできるけど、と言われて。
そんなことで人を好きになるものなのだろうか、と思った。


キミカが松下コウキを好きになったのは彼が放課後、誰もやりたがらなかった図書委員として誰も来ない図書室に一人で篭り当番ーーと言ってもいつでも松下しかいないのだがーーをしている姿を見たことや、
昼休みに一人で花壇に水をやっている姿を見たからなのだ。

決して学業や運動神経で好きになったわけではない。


「しっかりしてるし、優しいんだよ」
キミカの言葉に友人はそっか、と一言優しく呟いた。
キミカは友人のそういうところが好きだった。
人を馬鹿にしたりせず、気持ちを尊重してくれるところ。

「やっぱ、告白したら?」
「いや、そんな……」
「松下なら、モテるわけじゃないしライバルも少なそうだけど」
なによりキミカに告白されたら嬉しいと思うよ、と。


私に告白されて嬉しい人間なんているんだろうか。


「あーあ、私も誰か好きになりたいなー」
「……いないの?好きなひと」
「んー。なんかみんな幼稚でさ」
確かに友人は大学生の兄がいて、その友人もよく家に遊びに来るらしいからそんな人たちを見慣れていれば高校一年生なんて子供にしか見えないのかもしれない。

「先輩は?」
「んー、特にいないな。かっこいいな、と思っても中身知らないし」

外見だけでキャーキャー言うタイプじゃなくて、しっかりと相手を見る。
そんな友人。

この友人の言葉の通り、告白しておけばよかった、と後悔したのは夏休みが明けてすぐ。




「キミカ……」

想い人はいつの間にかどこか遠くへ行ってしまった。

「うっ……っふ……」
ただ泣く私を友人はずっと抱き締めてくれて。

告白しておけばよかった。
知らなかった。どこかへ行ってしまうなんて。
想像もしていなかった。

「うわぁぁぁあん!」
「キミカ……」


このとき私は決意した。
もう、こんな思いはしたくない。
もし次誰かを好きになることがあったら、そしたら思い悩んでないで行動しようと。

「……っふ、……ありがと……ごめんね、」
しばらくして落ち着いた頃。
泣いちゃった、と照れ隠しに笑えば友人はにこっと笑って。

「甘いもの食べ行こ」
おごってあげる、と。

その日はたくさん泣いて、けど友人のありがたみと優しさを再確認して。



私が一通のファンレターを書いたのは、数ヶ月後のことーーーーーー。




松下コウキさま


ずっとずっと、大ファンでした。





ーーーーー“コウキ”で活躍する彼の名字を入れたのは私に気づいてほしかったからなのかもしれない。

きっと返事は来ないけど、もし返事が来たら。
彼が水をあげていた花壇の写真を送るんだーーー。





水谷キミカ様

写真をどうもありがとう。

卒業まで、僕の代わりに水を撒いてくれたら嬉しいですーーーー。




おしまい





泣けない子供たち2の107ページでやらかしてました……。

コウキの高校は私服なのに、制服を着替えて~~と書いていました……。

申し訳ありません……。


もう修正済みです!

もしどこかでまた矛盾を見つけられましたらこそっと教えてください(>_<)



お詫び番外編です。
時期はコウキが来て少し経った頃で、まだ仕事はしていません。





「ねぇコウキ」
「ん?」
明日はお互い休みの金曜の夜。

「明日遊園地行かない?」
きっとコウキは行ったことないだろうなって。

「行きたい!俺行ったことないんだ」
キラキラした目。
誘ってよかった。

「そか、じゃあ行きましょ」
でも、理由はそれだけじゃない。


顔、性格、スタイル、頭脳、運動神経良しの完璧男の弱点が知りたい!
怖がるところを見てみたい!

私は絶叫マシン大好きだし、まぁもしコウキが絶叫平気でも普通に楽しめるし。

私も遊園地は久しぶり。
楽しみ。





翌日。

コンコン!
コンコン!

「ヨウコ~!起きて!」
朝。
……早朝。
時計を見ればまだ6時。

遊園地だって遠くない。
電車でちょっと。
なのに、この時間……。


「コウキ……あんた……」
そう言いながらドアを開けて、コウキの顔を見た瞬間文句なんてどこかへ消え去ってしまった。

そうだよね、まだ15歳。
初めての遊園地。

「おはよ。コウキ」
「おはよ!」

まぁ、結局することもなくて、二人でコーヒー飲んで、少し早めに家を出た。


「はい、これフリーパス」
「ありがとう!」
私は首から下げて、コウキはピンで留めて。

まず乗ったのは、軽めのジェットコースター。
コウキは全然平気そう。
ってことで、どんどんハードなのを乗っていき、最後のひとつ……も。

「はーっ!楽しかった!今の一番楽しかった!」
…………くそぅ。


「あ、ヨウコ、これで全部乗ったよね?」
「あ、うん」
くそー。

「じゃあ次はこれだね!」
コウキがマップで指したのは、お化け屋敷。

「あー、うん、それはやめよう」
「なんで?」
「んー、ほら、せっかく遊園地来たんだし、ジェットコースターの方が楽しいよ」
私、映画とかならまだいいけど実物?は苦手。

「ふーん……じゃあ、これは?」
コウキが指したのは観覧車。

「それは最後」
夜の方がきれいだしね。

「じゃあこれ」
「……あんまり回さないでね」

コーヒーカップ。
ぐるぐるぐるぐる。
ぐるぐるぐるぐる。


そんなに沢山回したわけじゃないのに。
そもそも回したのは私じゃないのに。


「…………ぅ……」
「ほら、お水」
キャップを開けて、ペットボトルを渡す。
喋れないコウキは少し手を上げて受け取った。


うーん、三半規管が弱いのか。
でも乗り物は普通に乗ってるし、そこまで弱いわけじゃないだろうからすぐに治まるだろう。



コウキの気分が落ち着いたところでテンション上げるためにジェットコースターに乗って、ご飯を食べて。


「すげーきれい!」
観覧車。

コウキは立ち上がり、窓に張り付いて外を見ている。

「あ!」
「どうしたの?」

やべって顔できちんと座った。

「どうしたの?」
「ひとつ後の中でキスしてた……」
目、合っちゃった、と。

大人しく遠く見てなさいって言えば、はーいといい子な返事。

「……」
「……」

別に、意識する予定なんてなかったのに。

静かになったこの狭い空間にコウキと二人。


ちょっとだけ、ドキドキしたーーーーー。



「帰ろっか」
「うん」

「楽しかった?」
「うん!」
ありがとう!と言うコウキに、また来ようねって約束して。


ちょっとだけ、手を繋ぎたいと思ったのは内緒の話ーーーーー。



おしまい!

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