2006年01月10日

夢のかけら

47a1d551.JPG■第47回 『STRANGER THAN PARADISE AND THE RESURRECTION OF ALBERT AYLER』JOHN LURIE

ジム・ジャームッシュ監督作の『ストレンジャー・ザン・パラダイス』を初めて観たのはもう10年以上も前のこと。
その頃僕にはよく一緒に遊んでいた友達がいた。
彼と僕はその頃文学や音楽に夢中で、いつもそんな話ばかりしていた。
ある時は中上健次や坂口安吾の文学の凄さについて、またある時はソニックユースやダイナソーJRの音楽の素晴らしさについて。
僕らは暇さえあれば会い、酒を飲み、夜の街を歩き、朝焼けの空を横目に泥のように眠った。
彼の部屋にはたくさんの本が山積みになっていて、常に彼は色々な本を読んでいた。
僕も負けじとたくさんの本を読み、お互いにその作品や思想を延々と語った。
マンションとは名ばかりの古びたうすら寒い彼の部屋で僕らはいつも熱く語っていた。
ある日彼が人から借りた映画のビデオを観せてくれた。それが『ストレンジャー・ザン・パラダイス』だった。
ストーリーはあまり覚えていない。ストーリーらしいストーリーもなかったような気がする。
3人の男女が一時を共にし、ふとしたことでバラバラになってしまう。その程度しか覚えていない。
ジム・ジャームッシュの作品は好きで、その後も「ナイト・オン・ザ・プラネット」や「ダウン・バイ・ロー」、「デッドマン」に「ゴースト・ドッグ」と色々観たが彼の作品の魅力は物語ではないので僕が覚えてないのではなくて本当に、3人の男女が一時を共にし、ふとしたことでバラバラになってしまう、というただそれだけの映画だったのかもしれない。

あの頃僕らには夢があった。
それは夢と呼べるような大それたものではなかったのかもしれない。
アテも無く手段もわからなかった僕らは漠然と、ただ漠然とそこへ向かおうともがいていた。
僕らは無力だった。
僕らは無力さをひた隠しにするために、お互いのベクトルを確認しあってばかりいた。
僕らは無力だった。不安で、強がってばかりいた。
僕らは無力だった。だけどそれを補って余るぐらいの純粋さがあった。

彼との連絡が途絶えてもう8年以上になる。
最後に会った時、彼は新しい仕事を始めたばかりだった。
僕は彼の行く道が彼の夢とはかけ離れたもののような気がして少し悲しかった。
だけど今はもう悲しくはないんだ。
僕らの向かう場所はそんなちっぽけな事に左右されないんだって分かったから。
元気でやってるかい?
このあいだ偶然、お前と一緒に観た映画のレコードをみつけたよ。
お前のことを真っ先に思い出して、懐かしくなって買ったんだ。
初めて聴くアイラーのメロディーはどこか懐かしくて、あったかくて、ちょっと切なかったよ。
元気でやってるかい?
色々話したいことがあるんだ。何から話そうか。
元気でやってるかい?
カッコいいレコードをみつけたんだ。
元気でやってるかい?
おれはあの頃といっしょで今でも無力なまんまさ。
だから何だって言うんだ。そんなこと構いやしないのさ。そうだろ?
元気でやっているかい?
元気でやっているかい?

おれはもう魂を安売りするような真似だけはしないって決めたんだ。
お前はどうだい、元気でやってるかい?


『STRANGER THAN PARADISE AND THE RESURRECTION OF ALBERT AYLER』JOHN LURIE

01:BELLA BY BARLIGHT
02:CAR CLEVELAND
03:SAD TREES
04:THE LAMPPOSTS ARE MINE
05:CAR FLORIDA
06:EVA & WILLIE'S ROOM
BEER FOR BOYS
EVA PACKING
07:THE GOOD AND HAPPY ARMY
08:A WOMAN CAN TAKE YOU TO ANOTHER UNIVERSE;
  SOMETIMES SHE JUST LEAVES YOU THERE
09:THE RESURRECTION OF ALBERT AYLER




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