2006年09月05日

(小説)「ぽち」

ポチ


2006/08/02



 私はパンを抱えて走った。
「待て、この泥棒。誰か捕まえろ!」
 パン屋のおじさんが後ろで叫んだ。商店街にいた人たちが私に注目した。
「嫌ね。またメイだわ。あんな奴餓死すれば良いのよ」
「メイがいるまでこの街は窃盗もなく平和だったのに……」
私は走った。走ったのはおじさんから逃げるためでもあるし、平和なおばさんたちの陰口から逃げるためでもあった。
私は路地裏に入った。路地裏は自分の家のようなもの。誰にも捕まるわけがない。後ろを振り返った。諦めたのだろう、もうおじさんは追ってこなかった。
路地裏を少し歩くと、粗大ゴミがまとめて置いてある空き地に出る。私は空き地に入り、手前のドラム缶の上に落ち着こうとした。
「よっ、メイ」
 壊れた食器棚や片足が取れた机の裏から、色黒の少年が三人現れた。背が高くて足の速いスロング、頭がきれてよく話すモブ、冷静で無口なクラスターだ。三人はこの路地裏を住処とする孤児で、いつも一緒に行動している。
「久しぶり」
 私はパンを背中に隠して三人に手を振った。折角の今日の収穫、取られてはたまらない。
「メイ、背中にあるもん何だ? 隠すなよ」
 モブが私に近づく。私はたじろいだ。
「これはあたしの収穫で、お前らの分ではない。お前らで取りに行けよ」
「非協力的な奴だよな」
 スロングがつぶやく。非協力的でかまわない。そう、私は決して三人の仲間にはならない。一人で生きていくしかない、私は一人で生きる。捨てられた時、そう決めたのだ。
「良いじゃねぇか。俺たちだって空腹なんだ」
「一人じゃ生きてけねぇって。同じ孤児どうし、仲良くしようや」
 冷静にクラスターがつぶやいた。三人が私を囲む。
「一緒? 馬鹿にしてくれるじゃん。パンは渡さないよ。このクズ群集!」
「頑固だよなぁ。まったく。やるか?」
 モブがそう言ったと同時に、三人が私に襲いかかろうとした。私は上手くそれをかわす。
 再び走って空き地を出た。三人も本気ではなかったのだろう。もう追ってこなかった。三人が追ってこなくなったところで私は足を止め、少し休んだ。
「パンを渡してもらおうか」
 背後から低い声がした。ビクッとして振り返ると、そこにいるのはパン屋のおじさんではない。黒いスーツを着た青年だった。
「このパンはお前のものじゃないぞ」
 私はパンをぎゅっと握った。空腹で、少しふらついた。
「ははは。空腹だろ。こんなもので君は満腹になれるかい?」
「ないよりましだ」
 青年が私の手をつかんだ。その手を離そうとしたが、彼の力は案外強い。彼は私に顔を近づけて言った。
「俺に飼われないか? 空腹の捨て犬なんかやめて」
 怒りはエネルギーになるようだ。
「はっ? あたしをなんだと思っている。もう一度言ってみろ!」
 ありったけの力で、彼の手を振りほどいた。怒りのせいで、案外腕はすぐにはずれた。路地裏の孤児や街の人から一匹狼と言われている自分にとって、今の発言は相当の侮辱。許せるわけがない。
 男は一瞬ひるんだが、また私に近づいて私の頭に触れた。
「考えてみろよ。もっと楽な方法を。ここで泥棒として生きるか死ぬかの生活をするのと、俺に飼われて裕福に暮らすのとどっちが賢明か」
 私は冷静になり、栄養のない小さな脳味噌で考えてみた。確かに彼の言っていることは間違ってはいない。
 一人で生きる、そう決めていた。一人で生きていける、そう思っていた。だが、心の奥底に孤独感と不安は確かに存在していた。
「何故そんなことをしたがる?」
 彼に問う。こんな奇妙なこと、いくら裕福でも考えられないだろう。
「飼い犬が知る必要ないだろう……敢えて言うなら、好奇心。それと、優越感が欲しい」
 こいつ狂ってる、そう思った。
「もう飼い犬扱いかよ。行くなんて言った覚えはないぞ」
 男は笑った。
「来るくせに……」
 路地裏を出たところに車があった。私は一人で後ろの座席に乗った。
 しばらくして男が帰ってきた。律儀にあのパンの代金は払われたらしい。
「ちきしょう……金さえあればパンもあたしも買えるのかよ」
 声にしたことで、自分の無力さを痛感した。独り言は誰にも聞かれず車の中で消えた。

 わりとすぐに車は止められた。男は慣れた手つきでハンドルをまわし、車を駐車場に入れる。わりと大きめの家だ。
 私は車から降りて男についていった。彼は玄関口に入った。
「おまえ、名は……」
「メイ」
 玄関のドアは閉められ、鍵がかけられた。鍵が閉まる音が耳に残る。男は靴箱の上から古い首輪を下ろした。
「捨て犬にも名前があるんだな。5月生まれか?」
 自分で決めたこと。それなのに彼の発言に、憎悪は増すばかりだった。
喋りながら男は私の首に首輪をつけた。嫌だったが、動かなかった。
「何月生まれかは知らない。メイってのは日本語で命、って意味らしい」
 話によると男は一人暮らしらしい。仕事は家で書き物をしている。そのためほとんど外出はしない。親が裕福でその財を継いだため、金に困ることはないという。そう淡々と語る男の視線が妙に影を帯びていた。
「気に入らないな。その名前……今日からお前はポチだ」
「意味は?」
 男が部屋に上がったので私も上がった。一人暮らしとは思えないほど綺麗で、物が整っていた。
「意味は特にない。日本人がよく犬につける名前と同じらしい」
 日本という言葉にどこかがズキッと痛んだ。自分の親が日本へ行く。そんな記憶があるのだ。それが何歳の記憶か分からないが、親との最後の記憶だった。
『ごめんね。日本はブッカが高いから、あなたを連れて行けないの』
 記憶の端で母親らしい女性が私の手を離した。当然、物価の意味を知らなかったし、母親がどうして泣いているか、これから自分がどうなるかも分からなかった。
「どうした?」
 男が私の顔を覗き込んだので我にかえった。
「いや、別に」
 曖昧に答えた。
「それより、私はポチだなんて嫌だぞ。今の名は気に入ってるし、自分がポチなんて認めないから……」
 私が言い終わらないうちに、ナイフが首筋にあてられた。私が顔を引きつると男はニヤリと笑う。
「飼い犬がそう吼えるなよ。俺はいつでもお前を殺せる」
 私は下を向いて黙った。この人についていって、こうして生きようと決めたのは自分なのだ。今更何も出来ない。それに、こうして大人しくするほうが賢明だと考えた。
 夕日が沈んで暗くなる頃、男は自分に「餌だ」と言い、サラダや肉を出した。普段、盗んだパンや木の実で命を繋いでいた自分にとって、「餌」とはいえ豪華すぎる食事だ。自分は必死で食べた。男はそれを机の向かい側から見ていた。目はやはり影を帯びている。
 その日の夜は男の命令で、男と寝た。

 そんな日が幾日か続いた。首輪が外れることはなかったが、毎日充分な食事はもらえる。言葉はきついし、時々傷つけられる。でも、言うことに歯向かわなければ殺されることはないと分かった。テレビを見ることも許される。ここは裕福で安定していた。ただ、自由だけが私から消えた。外出を許されることはなかった。
 ある日、男がめずらしく外出していて私一人の時があった。私は家でテレビを見ていた。テレビの中で、いろんな人が笑っていた。厚い化粧で、空っぽな笑顔が視界をチラつく。
 ちっとも面白くないが、テレビ以外に見るものはなかった。教育を受けていないので、字が読めない。だから本も新聞も読めない。
 それに、外のことが知りたかった。外のことを知ると、自分がまだ自由な気がするのだ。もちろん、そんな気がするだけだと分かっている。
「あーぁ。つまんねぇ……」
 その時、窓をトントンと叩く音がした。曇り窓なので外は見えない。
「誰?」
 声は聞こえなかった。窓を叩く音だけが響いた。
 窓を開けてはいけないことになっていた。そりゃそうだ。私は監禁されているのだ。でも、今この家に男はいない。私は窓をあけた。すると見覚えのある顔が三つ、仲良く窓に並んでいた。路地裏に住んでいる三人の孤児たちだった。
「よっ、メイ」
 久しぶりにその名を聞いた。
「どうしてここが分かった?」
「お前が男と車に乗っていたのを、俺たちずっと見ていたからな」
 そういえば路地裏とここは近いはずだ。三人とも目は良いし、すぐに私の居場所が分かるだろう。三人とも、食べ物が欲しくてここへ来たのだろうか。
「情けないよな。メイも」
 モブがにやにやして言う。あとの二人も笑っている。
「一匹狼がポチにランクダウンだぜ」
 三人が声を上げて笑った。私はむきになって立ち上がった。
「黙れクズ群集! 私は情けないと思ったことはない。寧ろこちらのが賢明だ」
 少し嘘をついた。情けないと思ったことはある。
「自由と生を交換した。私の正当な生き方だ」
 分かってしまったのだ。いや、元々分かっていた。本当に生きたければ、何かを捨てなくてはいけない。
 私がズバズバと言ったので、得意げな三人の顔が少し曇った。
「飼い犬が何か吼えてるぜ」
 つまらなそうにスラングが言った。
 その時、車が止まった音がしたのだろう。クラスターがハッとした。
「おい、お前ら。帰るぞ」
 三人は姿を消した。遠くで、まだガサガサと垣根を越える音が聞こえる。
三人が消えてからでも、モブの悪態は耳に残った。
『一匹狼がポチにランクダウンだぜ』
 思い出すたびに苦しかった。無理やり締め付けてる何かが心の奥底で暴れだしそうだった。
「生きることにそんなに固執する必要があるのか?」
 その『何か』はそう私に問いかけた。答えられなかった。

 玄関のドアの開く音がした。男が帰ってきたのだ。私はまた、一匹の飼い犬に戻るのだ。
 男が私の部屋に入ってきた。
「さっき誰か来ただろ」
 男は不機嫌だった。
「なんで窓が開いているんだよ」
 私は反射的にかがんだ。それと同時に男の蹴りが横腹に入る。
「痛いっ」
「当たり前だろ。痛くしてるんだ」
 首筋をつかまれた。私は力なく男に顔を向けた。
「誰か来ただろ。音がした。しかも窓が開いているんだ。開けていいと誰が言った?」
 男の張り手が見事に頬に当たる。くらくらした。
 彼がここまで怒るのは当たり前だ。私が飼われていることが外部にバレたら、彼は逮捕され、私はまた餓死寸前に逆戻りだ。下手すると本当に餓死するかもしれない。
 私が命令を聞けないと、男はいつもナイフをつきつける。今回もそうだ。
「何度言ったら分かるんだ? それとも死にたいのか? 俺はいつでもお前を殺せる」
 首筋に冷たいものが当たる。ナイフだ。この感触には慣れない。いつも、本当に殺される気がしてならない。
私の怯えた目を見て、男は満足げにナイフを下ろした。
彼は、私を殴る時も、脅す時も、寝る時も、私の怯える目を見ると満足するようだ。それが多分、最初に聞いた『優越感』なのだろう。

男の家には、めったに客が来なかった。近所づきあいも全くないらしく、私は近くにどんな人が住んでいるかも知らない。人が来るのは月1回、それも新聞の集金だった。
 ところがある日、玄関のチャイムが鳴った。ちょうど男が外出している時だった。私は、窓の件もあり、怖かったのでドアを開けなかった。
「すみませーん」
 よく通る、はっきりとした男の声だった。この家の主でも、新聞の集金でもない。
「すみませーん」
 何度も何度も、玄関先から声が聞こえた。気になる。誰なのだろう。でも、ドアはあけられない。私は気を紛らわすためにテレビをつけた。ちょうどニュースが流れていた。
「××市、少女監禁事件」
 テレビに流れるテロップを私は静かに見ていた。無表情のアナウンサーが、事実を黙々と述べる。
「××市で、少女が監禁されるという事件がありました。市内の大通り裏の孤児が発見し、昨日警察へ通報があったところです」
 しばらく何のことだか分からなかった。
「すみませーん」
 まだ、外から声が聞こえる。私は黙っていた。すると、ドアを開ける音がした。
「あ、なんだこれ、鍵開いてるじゃん」
 そんな声と共にガヤガヤと群集が入ってきた。
 テレビニュースは中継と繋がった。小さな部屋で、あちこちに傷の付いた女の子が座っていた。首には古い首輪がついていた。
「あの……君がメイさんですよね」
 目の前の男も、テレビの前の男も、同じことを言った。部屋にはガヤガヤと警察も入ってきた。自分が孤児だった時、彼らは敵だった。今は、どっちなんだろう。
目の前の男はレポーターなのだろう。いろいろと、カメラに向かって話しかけている。彼は、部屋の周りや窓の鍵が簡単にはずれることを確認してから、私に尋ねた。
「何故逃げなかったのですか?」
「……った」
 声にならなかった。久しぶりに自分の欲望を、自分のやりたかったことを言うのだ。体がその機能を忘れていた。
 テレビの中で、傷だらけの少女が、小さな声でどもりながら一言だけ話した。
「生きたかった」


おわり





こめんと
これ、いちお雪のペパ用に作った♪長いかも…
はじめてこんな汚い話書くね。。。だからリアリティないね
(あっても微妙だけどさ)



noisy_crazy at 22:08|この記事のURLComments(2)

2006年07月11日

(小説)アリとキリギリス

アリとキリギリス

2006/07/11



 ある夏の日のことでした。
 公園は、今日も親子がたくさんいます。夏休みだからでしょう、小さな子供の姿が目立ちます。アリたちはその子供たちが落としたお菓子を、冬の食料として家に運びます。
 運んでいる途中、一匹のキリギリスに会いました。キリギリスは歌いながらギターの練習をしていました。
「キリギリスさん。今は食べ物にも困らないけど、冬になったらどうするんだい?」
 アリは心配して言いました。
「君たちこそ、今は賑やかに暮らせるけど、冬になったらどうするんだい?」
 キリギリスは言い返しました。そしてまた歌い始めました。
 アリは呆れて、食料集めを続けました。

 アリの家には食料がたくさん集まりました。
 キリギリスは日に日に、歌もギターも上手になりました。

 こうして夏が終わり、秋が過ぎて、虫たちの恐れる冬が来ました。
 アリは食料をたくさん備えていたので何不自由なく冬の始めを過ごすことが出来ました。夏にたくさん働いた分、冬は好きなものを食べて、好きなことをして暮らしました。
 ところが、食料はたくさんあるのにアリたちは何か物足りない様子でした。お腹いっぱいでも幸せにはなれないようでした。
 外からは北風の音が絶えず聞こえます。その音が消えない限り、アリは外に出ることができません。そんな状況の中、一匹のアリが言いました。
「こう、北風の音ばかり聞いていちゃ、二度と春が来ない気がするよ」
 不安は一気にアリたちの中で広がりました。二度と春が来なくなったら……? アリは元気に働くことができません。食料もいつか尽きるでしょう。
 それでも北風は止みません。

 トントン
 アリたちの家の戸を叩く音がしました。戸をあけると、夏に会ったキリギリスでした。
「今更何の用だい?」
 アリは少しいらだって言いました。
「食料を分けてほしい」
 キリギリスは頼みました。
「いいや。あげないよ。君は夏に遊んでばかりいたんだ。ぼくらが忠告したのに。君も食料を集めて真面目に働ければよかったんだ」
「じゃぁ、せめて家の中に入れてくれないか?」
 あまりにも熱心に頼むので、キリギリスを部屋へ通しました。部屋ではアリの不安は更に広がっていました。泣き出すものもいました。
 キリギリスはお構いなしに、自分のギターケースをあけました。そして、ギターを弾きながら歌い始めました。
 それは、夏の歌でした。暑くて明るくて楽しい、希望の持てる歌でした。
 アリはキリギリスの歌に、しばらく聞きほれていました。いつの間にか不安は消えていました。

「すまなかった。ぼくらは君が夏の間中遊んでばかりいたと思っていたよ。君は、こんな素晴らしい歌を作っていたんだね」
 アリは丁寧に謝りました。
「君がこんな素晴らしい歌を作っている間に、ぼくらは何をしていたんだろう……」
「君らは食料を集めていたじゃないか。立派な仕事だよ。ぼくは歌作りが得意で、君らは食料集めが得意。これでいいじゃないか」
 それから、キリギリスは食料をもらい、アリはキリギリスの歌を聴き、辛い冬はあっという間に過ぎていきました。
 春はもうすぐそこです。


FIN







コメント



英語の課題で「絵本を書け」と…


…んなもんが出来るかぼけぃっ!!!



とか思いつつ書いたのがこれ。
長年のお付き合いの方は分かると思うんだけど
好きなんだよねぇ…ぱくり(違
てか、これを頭の固い英語教師に見せるとなるとやだな。
やっぱ別の書くべきかなぁ。。。

英語意識で書いたから文章が簡潔で硬いね。
それはちょぃとお許しを…

noisy_crazy at 13:32|この記事のURLComments(2)

2006年07月03日

(詩)ぽち

あたしそこまでアホじゃない
首輪のはずし方なら知ってる
はずした途端 死ぬのも知ってる

さぁさぁ交換条件よ
あたしに食事を与えなさい
あたしに家を与えなさい
代わりにあたしの自由をあげる

行動範囲は鎖の長さ
半径1メートルの円
あたしは半径∞で死ぬより
半径1メートルで生きたいの

尻尾振って舌出して
自由の変わりに生を貰う
惨めじゃなくて正当な生き様


noisy_crazy at 19:39|この記事のURLComments(0)

2006年07月01日

(詩)電子信教

電子信教



闇の中の小さな明かり
その向こうは虚無かあなたか
明かりに向かってコトバアソビ

定かではない電子の向こう
電子からのコトバアソビに
不覚にも体は熱くなって
体は電子に支配された

だって
頼るしかないじゃない ここに明かりは一つだから
明かりの向こうのあなたが仮に あなたじゃないとしたとしても
確かにあたしに返事をくれる 確かにあたしを知ってくれる
あなたは明かり? 虚無? 電子?
あたしには関係ないわ

定かではない電子の向こう
電子から来ぬコトバアソビ
不覚にも息は苦しくなって
心は電子に支配された

だって
信じるしかないじゃない ここにあたしは一人だから
明かりの向こうのあなたが仮に 虚無だなんて知ったとしたら
虚無に向かってコトバアソビ 愚かなあたしはやっぱり一人
あたしは一人? 二人? 一人?
信じても良いでしょ 一人は嫌なの

信じてみるね 電子の向こう
電子の向こうが虚無だとしても
信教の向こうが虚無だとしても
信じてるから 虚無じゃないでしょ





* * *


テスト前に何やってんだ!?というツッコミはスルー♪

noisy_crazy at 09:56|この記事のURLComments(0)

2006年05月14日

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前のが大きすぎたので変えました汗
これで見やすくなったかと…

noisy_crazy at 09:01|この記事のURLComments(1)報告とか 

2006年05月10日

half bitter

 

 コーヒーは少し苦いくらいが調度良い。
 ちょっぴり背伸びした私は、彼にこう話したことがある。甘すぎるコーヒーは口に残る。後味がべとべとして気持ち悪いの、と。
――そう。甘すぎるものはべとべとして気持ち悪い。だから私は苦いほうを選択したの。それだけでしょ。
 さっきまで恭のいた空席を見つめていた私自身を、そう慰めた。
 原稿の中の失恋には慣れていた。どんなに仲の良い男女も、愛し合っていた恋人たちも、筆の動き一つで別れさせた。言葉一つで別れさせた。
 現実の恋も言葉一つで簡単に終わるんだ。まだ別れた実感はなくて、原稿の中の出来事のようなな気がしていた。

「秋野さんの小説って、恋愛の切ない部分を上手に切り取るから、十代、二十代の女性に人気がありますよね。恋愛経験豊富なんでしょうね」
 以前、出版者の人にそう聞かれたことがあった。
「いやいや、私自身は恋愛が苦手なのよ。冷静に自分や相手を見ちゃうから全然楽しめないの。甘い恋とか苦手だしね」
 私が相手に夢中になるのは最初だけ。あとは妙に冷静で、夢中になっている自分や相手に嫌気がさす。好きなのに楽しめない、好きなのに嫌になる。損していると思う。
「へぇ。意外ですよ。見た目も文章もそんなクールな人じゃないのに……」
「職業柄、恋愛を冷静に見ないといけないからかなぁ。それに恋愛してる時ほど、良い小説が浮かんでこないの」
 彼女は目を丸くした。それから笑った。
「あらら。私の立場じゃ秋野さんの恋、応援出来ないじゃないですか。これからも良い小説書いてもらわないと困りますから」
 実際、自分の経験を書いたことがなかった。それでも生まれてくるのだ。他の誰もが気付かないような些細な二人の物語が。
 そんな時、いつも自分が二人いる錯覚に陥る。もう一人の自分が私に話してくれるのだ。それを私が文章にして、一つの恋愛小説が出来上がる。彼女が私に話しかけると何かに取り付かれたように筆が走る。
 もう一人の自分は自由だった。社会に潰されている自分と比べて、ちょっぴり羨ましく感じることもある。彼女には目に見えないものが見える。街に行けば甘酸っぱい気持ちを抱える少女が見えるし、港に行けば海に混じる思い出の涙が見える。私は彼女の代弁者のように彼女が見たもの、感じたものを文に出来るのだ。
「恋愛してる時ほど、良い小説が浮かんでこないの」
 それは自分に精一杯になって、もう一人の自分を忘れるせいだと思う。恭と付き合いはじめてから、私は一つも小説を書き上げていなかった。

 家に戻って机に向かう。恋は終わったはずなのに、筆はちっとも進まないし、もう一人の自分は出てこなかった。原稿と向き合って五分もたたないうちに私は机を離れた。もう恋だの愛だのうんざり。気持ち悪い。考えたくもない。
 彼女は夜に現れた。
 私は一人、ベッドに倒れていた。今日は恭にうまく考えが伝わらなくて疲れた。嫌いなわけじゃないのに、結局勘違いされたまま私たちは終わってしまった。小説家が、こんなに言葉がうまく使えないなんて、ちょっと問題だと思う。
 今からは気力を回復させるため、死んだように眠る予定だった。
 そんな時、彼女が些細な物語を見せてしまった。主人公は自分だった。
 頬に暖かいものが触れ、それは髪を静かに滑った。恭の手のひらだ。血液の温度が少し上昇した気がするが、それは恭の手にドキドキしているのとは違い、傷口に触れられている痛みに似ている。
「やめてよ! 思い出させないで。苦しめないで」
 心の叫びは自分でも驚くほどスルリと体を抜け、声になった。もちろん返事はない。この声を誰かが聞いていたら、ただの寝言である。
 私には分かっていた。これは彼女が見せる幻想で、現実ではない。目を開ければすぐに現実に戻れ、恭の手の温度は消えてしまう。
 それでも私は目をあけなかった。まだ恭と一緒にいるような錯覚に陥る。しかも、本当に恭と付き合っていた頃より、鮮明に暖かさや優しさを感じる。
 別れてから相手の大切さに気付く――そんな小説を私は何度も書いた。その小説の意味を自分で書いておきながら、今やっと分かった。なかなか上手いこと書くじゃないか、私。
 その晩はもう一人の自分が作り出した恭に、溺れることにした。夜が明ける頃には、目を開けていても恭の存在が消えずに残るほどになった。

 今まで、もう一人の自分はいくつかの物語を同時に見せてくれることがあった。それを重ねたり、別の物語に貼り付けたり、並行させたりするのが私の腕の見せ所。いくつもの物語を見ることで、私の小説には肉が付き、厚みが増した。
 だが、今は恭の物語しか出てこない。これはある意味厄介だった。机に向かっても筆はちっとも進まない。原稿用紙だけが日焼けして、少し疲れたようだった。そのくせ物語が見える時間や場面はぐっと増えた。そして、もっとハッキリと恭が見えてきた。そのせいで私はいつでも明後日の方向を向いている危険な人物と化していた。
 それでも私は恭の物語を受け入れた。寧ろ望んだ。甘すぎて近すぎる恭との恋に、嫌気が差していたことなどすっかり忘れて、恭に夢中になった。
 夢中になるのは最初だけ。そんな今までの法則も、恋には終わりがあることも、今では「昔の考え」になっていた。現実で恭と別れても、彼女が見せてくれる思い出では別れたりしない。思い出せば、いつでも恭は戻ってくる。

 休日は思い出の恭を連れて遊びに出かけた。彼女の見せる物語は完璧だった。どんな細部もハッキリと私に提示してくれた。いつものゆるい口調も、くしゃっと潰したような笑顔も、落ち着いた息遣いも、私と手を繋ぐとオセロみたいになる黒い肌も、全部そのままだった。
 ただ、問題は決して彼に話しかけてはいけないことだった。彼は自分の見ている物語の中の人間で、実在する人物ではないのだ。話しかけたら、それこそ私は危険な人である。
 私は恭の言葉を黙って聞いた。それは一度聞いたことのある話で、古いビデオテープを再生しているようだったが、ビデオのように画質や音質が悪くなったりすることはなかった。出来ればもう一度再生したかったが、一度流れた物語が再生されることはなかった。そこは現実に忠実だった。冷静な自分が再生ボタンを押せずにいただけかもしれないが。

 その日の休日のデートは地元のカフェでお茶をした。小さなカフェだったが、落ち着いた雰囲気で、私も恭も気に入ってた。少し暗めの照明や、静かなクラシック音楽、洒落た壁や家具が洗練された空間を演出していた。
コーヒーの味もなかなかものもで、甘すぎず、少し苦めの大人の味だった。恭が初めてこの店を教えてくれたときは、苦すぎて飲めなかった。それでも「少し苦いくらいが良いの」と、背伸びした覚えがある。今では慣れて余裕の大人顔で飲める。
開いている席に座り、少し苦めのコーヒーを頼む。昔はどうしても飲めなかった味だが、今はすっかり苦味に慣れてしまった。
現実の苦味にも慣れることができたら……
私は現実逃避している、という現実に向き合った。恭が心配そうに私の顔を覗き込む。私は慌ててネガティブな感情をリセットした。シックなこの店の短所は、センチメンタルになりやすいところ。
奥に一組のカップルが座ってコーヒーを飲みながら静かに話していた。女の子のほうは落ち着かない様子で何度もカップに目を落としていた。そんな女の子を男の人が心配そうに見ている。
下のほうでくるくると巻いた茶色い髪、スポーツとは無縁の青白い肌、化粧で少しきつくなった目、それは私だった。
――何見せてるのよ。
 心の中で呟いた。いや、もう一人の自分に訴えたのだ。これから何が起こるか、急に思い出したのだ。
――やめて、せっかく夢中になってるの。毎晩泣かずにすんでるの。壊さないで。
 彼女は私の訴えを無視した。物語は続いていく。
 私はこの店を出ようかと考えた。しかし、頼んだコーヒーはまだ来ない。それに、体が椅子にくっついたように離れない。仕方ないので奥の二人の話を聞かないように鞄から文庫本を出した。
「違うの。分かってよ。だから、私は恭が嫌いになったんじゃないの」
「そんな、慰めてくれなくても良いよ。好きじゃないって素直に言えばいいのに」
「だから、違うんだってば……」
 少しも本に集中できない。嫌でも二人の会話は聞こえた。いや、もう一人の自分が私に聞かせているのだ。本に逃げるのは無駄だった。
 冷静な私のことだ。こうなることは分かっていたのかもしれない。彼女が見せてくれるのは繰り返されただけの恭との恋。恭との恋は終わるのだ。私が終わらせたのだ。分かっていた――分かっている。
「今でもきっと恭が好きよ。でも、近くにいると恭に対して負の感情しか出てこないの。これ以上お互いに険悪な空気にしたくないの。このまま付き合っていたら、もっと恭を傷つけることになりそうなんだもん。分かる? ……やっぱり分かってくれないか」
 今思うと無茶苦茶な日本語だし、言い訳がましい。小説家として、もっと分かりやすくて綺麗な言葉は出なかったのだろうか。
 いや、綺麗な言葉にはならないだろう。現実は小説と違う。現実はもっと汚いものなのだ。恋愛にも好き嫌い以外の事情が絡むのだ。
「ごめん。俺、柚希みたいに小説家じゃないし、思ってることは言葉にならないし、柚希の言っていることも、全部は分からない。分かったのはやっぱり、別れたいってことくらいだよ。ごめん。分かってあげられなくて本当にごめん」
 奥にいる私は唇を噛んで震えを止めようとしていた。私は結果を知っている。止まらない。それどころかそのうち涙も出てきて、アイメイクが酷いことになるのだ。
私の予想は少しはずれて、少し当たった。奥の私より先に、私の目のまわりで、血液の温度が上がってきた。氷が溶けたかのように目尻から熱いものが流れた。それは冬の終わりを告げる、雪解け水のようだった。
 いつの間にか目の前にいた方の恭は姿を消していた。
「別れてからも、また会えるかな」
「ふられた女に何もなかったかのように笑顔で会えるほど、俺は器用でも強くもないよ」
 奥の私はまた唇を噛んだ。必死だ。状況が分からない人から見れば滑稽な姿だろう。
「泣くなよ。最後の最後まで女泣かせちゃった、って、俺が後悔するだろ」
 私も、奥の私も、鞄からハンカチを取り出して目の周りをふいた。ハンカチには、マスカラの黒い跡が傷痕のように残った。
 しばらくして、恭は立ち上がり自分のコーヒーの分の代金を財布から取り出した。途中、手を滑らせて小銭を落とした。
 知っている。彼も目が濡れて手が震えて小銭が出せなかったのだ。
「じゃぁ、最後の最後まで分からず屋でごめん。小説頑張れよ。……泣くなよ。俺まで泣けてくる」
「もう泣いてるくせに……」
 恭は泣きながら無理やり笑ってして、店を出て行った。
 私はカウンターでコーヒーの代金を支払い、恭を追うようにして店を出た。ドアを丁寧に閉めてから店の前の並木道を見渡した。もちろん恭の姿はなかった。
 窓から店の中を覗いた。奥の席には、誰もいなかった。

 そのまま家に戻って鏡を見た。酷い目をした自分だけが映る。最近は、鏡を見ると後ろに恭の姿も映っていたが、もう見えなくなっていた。自然と、悲しくはなかった。
 久しぶりに机に向かった。日焼けした原稿用紙が、新しい物語が書かれるのを今か今かと待っている。
 もう一人の自分が見せてくれたものを、また書かなきゃ。
 自然にペンが動き、物語ははじまった。今度の物語は私と彼女の合作だな、と一人、口元が緩む。いや、私と彼女と恭の合作だろう。
 隣に恭はいなかった。でも寂しくはなかった。





   完



参考

ハーフビター
和製英語。half bitter。ほろ苦いさま。英語ではbittersweet。PGの曲のタイトルとかぶるからやめた。

コメント

自分の失恋から立ち直る為に書いたんだけど。
や、なんかもぅ、気になさらないでください。
自己満ですから。あたしのために書いた小説ですから。
そのうち勝手に推敲するかもです。そしたらお知らせします。

noisy_crazy at 21:16|この記事のURLComments(0)

こんにちは。

はじめまして。今日学校で風邪引いてやすんだ涙です。
趣味で小説を書いているのですが
なかなか表に出す機会がないので
ブログで投稿することにしました。


多忙な日々をすごしている管理人ですので、
おっそろしいくらい更新しないと思います。
まぁ、許してくださいね。
時間に余裕が出来たら(きっと一生ない)
サイト作りにも挑戦したいのですが…


感想等、BBSで受け付けます。
書いてくれたらホント嬉しいです。
あと、ネット上のお友達も募集☆


よろしくお願いしますね。

ぼくこんな人
何人来たかな