2024年05月15日

サプライヤマネジメントからバーチカルチェーンマネジメントへ


前回のメルマガでは、近代的な調達購買にとって、3つのマネジ
メントの連携が非常に重要だということを書きました。
3つのマネジメントとは、1.カテゴリーマネジメント、2.ユー
ザーマネジメント、3.サプライヤマネジメントの3つです。

それぞれのマネジメントの手法は欧米型、日本型の2つのタイプ
があるものの、それぞれが発展&連携しているものの、現在は
サプライヤマネジメントの重要性がより高まっています。

何故なら、サプライチェーン全体での競争力強化のために、
従来のQCDだけの最適化ではなく、CSRや紛争鉱物関連、人権DD、
SCOPE3でのカーボンニュートラルの実現、その他の化学物質調査、
サステナビリティの確保など、サプライチェーン全体での情報
収集、管理、統制などが求められており、従来のようなサプラ
イヤを評価して、格付けしていくだけのサプライヤマネジメント
から、全般的なサプライヤマネジメントの重要性が増してきて
いるからです。

メルマガでも繰り返し発信してきましたが、サプライヤマネジ
メントは「戦略的サプライヤマネジメント」にレベルが上がっ
ています。ところが、昨今の状況を鑑みますと「戦略的サプラ
イヤマネジメント」だけでは、企業のサプライチェーンの最適化
には不十分な点があることが分かってきました。

おさらいになりますが、ベーシックな「サプライヤマネジメント」
は、4つのマネジメントで構成されます。SIM(サプライヤイン
フォメーションマネジメント)、SPM(サプライヤパフォー
マンスマネジメント)、SRM(サプライヤリレーションシップ
マネジメント)、SRM2(サプライヤリスクマネジメント)の
4つです。

これらのマネジメントを整備することで、どのサプライヤと
どのような関係性を築くか、ということが、従来の基本的な
サプライヤマネジメントでした。

一方「戦略的サプライヤマネジメント」は、これに追加し、
全社かつ、従来収集できていなかった情報の収集、分析、
活用の仕組み作りを行うことや、VoSなど従来できていなか
ったサプライヤコミュニケーションの推進が上げられます。

もう一点あげられるのが、川上を含むサプライヤのマネジ
メントの推進です。従来は直接調達購買を行っている企業だけ
を対象としていましたが、それを川上(川下も)まで拡大し、
マネジメントを進めることが「戦略的サプライヤマネジメント」
では、求められています。

昨今、サプライヤの力が相対的に強くなっており、また何らかの
地政学リスクや事案が頻繁に起こりうるVUCAの時代であり、1次
サプライヤだけでなく、その川上である2次サプライヤや3次
サプライヤまでを把握し、ボトルネックになっていないか、
を確認し、2次、3次サプライヤのマネジメントを含め、進めて
いかなければならないのです。

これらの点が、従来の「サプライヤマネジメント」から「戦略的
サプライヤマネジメント」への発展と考えていました。しかし、
近年「戦略的サプライヤマネジメント」だけでは不十分な時代に
なりつつあるのです。

サプライヤマネジメントとは別に、自社のバリューチェーンの
最適化という点から、サプライチェーンマネジメント(以下SCM)
という概念でも改革は進められてきました。SCMとは、自社の調達・
製造・流通・販売などの最適化を進める概念でしたが、その多く
は販売と製造・流通の最適化を進めるものだったのです。

しかし、これはあくまでも自社の現在の製品・サービスを前提
とした調達・製造・流通・販売などのバリューチェーン全体の
最適化が目的でした。

昨今、製品・サービスは複雑化、複合化しており、最終製品を
構成する要素には多くの技術が含まれ、これらを全て自社で
網羅すること自体が難しくなっています。例えばスマホですが、
構成部品一つ一つを製造・販売する企業があり、それらの構成
部品ごとにサプライチェーンがあります。

また、自動車製造販売では、最終製品の販売だけでなく、
カーシェアやカーリースなどの事業形態が発展し、カーナビから
発展したコネクテッドなビジネスが川下に広がってきました。

このように、従来の自社の製品・サービスを前提としたサプライ
チェーンの最適化だけでなく、川上や川下まで含むバーチカルな
チェーンの最適化が求められているのです。

そういう点から、私は「バーチカルチェーンマネジメント」と
いう表現が適切だと考えます。

「バーチカルチェーンマネジメント」とは、自社の製品・サー
ビスの川上から川下まで広く捉え、その中で、自社の製品・サー
ビスの競争力を強化するために、どのような事業を手の内に
するか、を再設計するものです。つまり、自社の製品・サービス
の競争力強化のために、供給チェーン内の複数の段階を所有
または制御することです。

業界によっては、川下側の流通販売が圧倒的な力を持ち、川上側
へ影響力を持っていました。一方で、多くの事業・製品は深い
サプライチェーンになっており、一般的には、最上流である素材
・原材料メーカーの影響力が強くなっています。

しかし、これは製品・事業によって異なります。自社の製品
・事業をバーチカルに捉え、その中で何を手の内におき、何を
除外していくのかを検討し、戦略に落とし込み、競争力
を最大化することが、バーチカルチェーンマネジメントです。

バーチカルチェーンマネジメントの事例は、現在でも多く
上げられます。

例えばテスラは、垂直統合型のモノづくりで有名な企業です。
バッテリーやバッテリーの主要材料について、鉱山会社と直接
契約を結んだり、半導体不足の際に内製でプログラミングを
することで、半導体不足を乗り切ることができた、などは有名
な話でしょう。

同じ自動車会社でもトヨタ自動車は自社をモビリティカンパニー
と捉え、川下事業では、カーシェア事業や、カーリース事業、
カーナビやカーナビへの情報提供など幅広く川下事業への
展開に力を入れています。

一方で、自動車会社のサプライヤである製鉄会社も、原料炭の
確保のために、自社鉱山比率を高めるなどの戦略を取り始めて
いるのです。

また、今後より重視される「サーキュラーエコノミーの実現」
ですが、これにはリサイクル材の供給元の確保が必須となります。
リサイクル材の供給元はバージン材とは全く異なるケースが多い
です。例えば樹脂などでは、回収し、分別し、再利用のための
加工が必要となってきますし、それらの機能を持つバーチカル
チェーンの中のプレイヤーもバージン材から変わります。

従来はリサイクルはコスト高になってしまい、競争力につながり
ませんでしたが、バージン材の供給難や社会的な要請から、
環境負荷の低下が競争優位になる時代となり、そういう背景下、
バーチカルチェーンの再構築が、たいへん重要な時代になりつつ
あるのです。

これらの事例のように、バーチカルチェーンマネジメントは
非常に重要な概念であり、既に多くの取組み企業があることも、
理解できます。

バーチカルチェーンマネジメントで重要なことは、何を手の内に
持つかです。チェーンの中で重要な機能を自社で囲い込むこと
で、競争力強化につなげていきます。そのためには、M&A、JV、
出資、戦略的提携、人的関係強化、など様々な方法が上げられ
ます。

これらの取組みは、全社の事業戦略、内外製戦略、コンポー
ネンツ戦略に沿って進めるべきものであり、企業としての
重要な意思決定となります。一方で、多くの企業は高度な
縦割り組織となっていることが多く、多くの日本企業では、
バーチカルチェーンマネジメントの戦略を企業横串の視点で
策定できるような部門は存在しません。

この点から、企業においては、バーチカルチェーンの中で
どのような戦略をとっていくのか、を策定する機能・役割を
持つ人や組織を、まずは、設置、育成すべきです。

また、具体的な取組みについては、従来のサプライヤマネジ
メントの取組みの延長として、調達購買部門も主導していく
必要があります。バーチカルチェーンマネジメントのコミュニ
ケーション窓口として、調達購買部門が関係性強化を主導的に
進めていく期待が高まっているのです。

このようにサプライヤマネジメントからSCMへ、また、そこから
バーチカルチェーンマネジメントの最適化へ、と企業における
外部資源の優先順位付けと取込みや、今後一層重要となり、
企業の競争力の源となってくるでしょう。


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2024年05月14日

調達購買の3つのマネジメントの連携

私の講演や研修、コンサルティングの現場などでも、よく話し
ていることですが、近代的な調達購買にとって、3つのマネジ
メントの連携は非常に重要です。

3つのマネジメントとは、1.カテゴリーマネジメント、2.ユー
ザーマネジメント、3.サプライヤマネジメントの3つです。

(以下、あくまでも私個人での見解であり、一般化された手法
ではありませんことをご留意ください。)

1のカテゴリーマネジメントは、企業が調達購買活動をカテ
ゴリー毎に管理するプロセスです。カテゴリーとは、樹脂
成形品、プレス部品、焼結部品、ITなどの購買品種や業種の
ことです。特定のカテゴリー(品種やサービス)にカテゴリー
戦略の策定や、サプライヤーの選定と管理、価格交渉、リスク
管理、調達プロセスの改善などを進めていくマネジメント
手法になります。目的は、カテゴリーごとの最適な戦略を
策定し、効率的な調達プロセスを実現し、対象カテゴリーの
購買品のQCDの最適化を図ることです。

カテゴリーマネジメントは、従来はQCDの中でもC(コスト)に
フォーカスすることが多く、コスト削減戦略とも言われて
きました。カテゴリー毎にコスト削減戦略を策定し、都度案件
毎ではなく、年間の契約や全社の契約をまとめてソーシング
(サプライヤ、価格の決定)することで、メリットを引き出す
ことが主眼とされていたのです。またこのようなコスト削減の
進め方を戦略ソーシングと言っていました。

カテゴリーマネジメントは欧米では、ごく当たり前な概念です。
日本でも会社によっては当たり前の手法となっています。
しかし、日本では、まだカテゴリーマネジメント、カテゴリー
戦略か定着していない企業も少なくありません。一方で、最近
は、コストだけにフォーカスするだけでなく、供給戦略やBCP
戦略も重要視され始めており、カテゴリー戦略策定の目的も、
従来からやや変わってきているように感じます。

2のユーザーマネジメントですが、これは、調達購買を行う
企業内の利用者や関係者との関係をマネジメントする手法
です。ユーザーとのコミュニケーションにより、ニーズを
把握し、仕様の提案やサプライヤの標準品などの提案を行った
り、最適なサプライヤの紹介や、新しい技術の情報提供を行い、
QCDの最適化につなげ、最終的には自社製品・サービスの
競争力の強化につなげることが目的となります。

ユーザーマネジメントは一部の業種や企業では、VE活動、
原価企画とか、開発購買と呼ばれ、日本企業では結構以前
から取組みが進んできました。何故なら、大きなコスト削減
を実現するためには、仕様や設計が固まってしまう前の、
開発上流段階での検討や関与が必須であり、コスト競争力で
グローバルで競争優位を持っていた多くの日本企業にとっては、
欠かせない取組みだったからです。しかし、開発購買活動には
課題もあり、多くの企業がその取組み方法に悩んでいます。

一方で、欧米では開発購買に該当する英語表現をあまり聞いた
ことがありません。これは私も聞いた話なのですが、欧米
では役割分担が明確であり、仕様の最適化や決定は、開発や
技術などのユーザー部門の責務であり、調達購買部門は決め
られた仕様を実現するためのサプライヤ選定やコスト削減など
のソーシング活動を行うことが役割である、という考え方が
あり、開発購買は、あまり積極的には取り組まれていない、
といのことです。

最後に、3.サプライヤマネジメントですが、これは、企業と
サプライヤとの関係性を管理するマネジメント手法です。サプ
ライヤの選定、評価、契約、評価の改善などが含まれます。
サプライヤマネジメントの目的は、優れたサプライヤベースの
構築と維持、サプライヤとの協力関係の構築による、リスク
管理、コスト削減、品質向上などです。

サプライヤマネジメントは、比較的外作比率が高い、日本企業
では特に重要視されてきました。トヨタ自動車のグループ経営
や協力会組織、コマツの農耕民族型サプライチェーンなど、
特にサプライヤとの関係性を強化し、協働する、という考え
方は、従来から日本企業の得意分野だったと言えます。

一方で、サプライヤを評価し、推奨サプライヤを認定し、
ランク分けする。ランク分けしたサプライヤ毎に差別化し、
契約管理を行う、などのマネジメント手法は日本企業はあまり
得意としていなく、どちらかというと欧米型の手法であり
ました。

サプライヤピラミッドという手法はサプライヤの評価に基づき、
サプライヤを推奨先、一般、非推奨などに区分する手法であり、
欧米企業は、サプライヤの改善や推奨先との関係性強化を
目的に、このような手法を取り入れることが一般的だった、
と言えます。

一方、日本企業はサプライヤ評価はISOの規定に入っている
ので、義務的にやっているものの、便宜的にやっているだけ、
といった状況にありました。

このように3つのマネジメントの発展経緯など、それぞれ異な
った発展をしてきましたが、現状は日本企業も欧米企業も共通
して、これらの3つのマネジメントを連携をしていくことが
マストとなってきています。

具体的にはカテゴリー毎の戦略に基づき、サプライヤ戦略を
策定し、関係性強化すべきサプライヤを明確にし、それを行う。
評価の改善が求められるサプライヤとは、課題を共有し、改善を
進めていく。また、カテゴリー毎のユーザーを明確にし、彼らの
ニーズを吸い上げ(VoC)それを満たすためのサプライヤ選定や
サプライヤ評価につなげる、また優れたサプライヤの提案や
サプライヤそのものの採用をユーザーに働きかけて、実現する。

こういった3つのマネジメントの連携で、カテゴリー戦略の実現
につなげていくことが求められているのです。

昨今では、サプライチェーン全体での競争力強化のために、従来
のQCD最適化だけでなく、CSRや紛争鉱物関連、人権DD、SCOPE3
でのカーボンニュートラルの実現、その他の化学物質調査、
サステナビリティの確保など、サプライチェーン全体での情報
収集、管理、統制などが求められており、従来のような、
サプライヤを評価して、格付けしていくようなサプライヤ
マネジメントから、サプライヤ全般のマネジメントの重要性が
増してきています。

そういう意味では、事業環境や社会環境の変化で3つのマネジ
メントの中でもサプライヤマネジメントの重要性が、より高まっ
ていると言えるでしょう。

メルマガでも発信してきましたが、サプライヤマネジメントは、
戦略的なサプライヤマネジメントが求められ始めています。
特にこの点については、従来の延長線上の施策や手法では
限界があり、新たな手法が求められているでしょう。次回は
このような一歩先を行くサプライヤマネジメントのあるべき姿
について今後の動向を含めて述べていきます。

nomachi0306 at 17:27|PermalinkComments(0)

2024年04月03日

官製値上げとブランドバッグ

日産自動車が下請法違反で公正取引委員会から勧告をうけ
マスコミ各社が大きく取り上げています。マスコミの論調
としては、ここぞとばかりに「下請けいじめ」だ、大企業
の横暴であり、けしからん、というものとなっているよう
です。

今回の日産自動車の件は、「自動車部品の製造を委託」して
いる企業に対する下請代金の減額を強いたもの、とされて
おり、そういう点からは購買部門の担当であることが推察
されます。詳細は分かりませんが、あれほどの大手企業の
購買部門であれば、下請法に抵触するかどうかは、事前に
絶対にチェックしていたはずです。

繰り返し、詳細は分かりませんが、下請法の11の禁止事項
の中で、「買い叩き」の禁止、「下請代金の減額」の禁止
などは、禁止事項の解釈が曖昧であることが、過去から
言われてきました。日産自動車の今回のケースがあてはまる
かどうか、繰り返し不明ですが、法の解釈が担当部局や
担当者、時代によって変わる、ということは企業の調達購買
部門で働くバイヤーにとっては、とても分かりにくく、
常にリスクを感じながら業務をすすめなければなりません。

また、下請法は調達購買部門だけでなく、会社全体にかか
わる法律なので、調達購買部門はユーザー部門に対しても
遵守させる役割をもっています。私は法律が曖昧であること
が問題だということを言いたいわけではなく、このような
状況下で、調達購買部門やバイヤー個人が法の理解を深めて、
自身や自部門だけでなく、会社全体に対して、それを説明、
浸透させることが必要であり、そのために、日々苦労して
いる、ということを言いたいのです。

一方で、公正取引委員会や中小企業庁の取り組みは過去に
ないほどの勢いです。

2022年12月27日の「独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に
関する緊急調査の結果について」では13社の企業名を公開
しました。また、2023年11月29日には「労務費の適切な転嫁
のための価格交渉に関する指針」の公表で、労務費転嫁に
ついてのガイドラインを発表したのです。2024年に入って
からは、1月12日に中小企業庁が「価格交渉促進月間
(2023 年9月)フォローアップ調査の結果について」を公表
し、220の発注企業の評価を発表しました。

また、直近では、2024年3月15日に公正取引委員会は
「独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に係るコスト上昇分
の価格転嫁円滑化に関する調査の結果を踏まえた事業者名の
公表について」で10社の企業名を公表しています。

注目すべきなのは、2022年末や24年3月に発表された企業名に
ついては「当該事業者名の公表は独占禁止法又は下請法に違反
すること又はそのおそれを認定したものではない。」と注記
されていることです。つまり、法律違反はしていないけど、
ちょっと危ないから公開しますということです。

このような流れは政府が賃金を上げたいという想いがあるから
でしょう。23年の春闘による大企業中心としたベア率は3.58%
で24年はそれを超えると言われています。一方で中小企業は
いまだ賃上げが追いついておらず、それは価格転嫁が進んで
いないからであり、大企業側は価格転嫁を認めるべきだという
政策をとっているのです。まさに官製値上げと言えます。

私は官製値上げを否定するつもりはありません。賃金アップ
や適正なインフレは日本経済に活力を与えますし、以前の
メルマガでも書きましたが、適正な値上げや価格転嫁はする
べきでしょう。

一方で、下請法違反の勧告や企業名の公開が増えている=
「下請けいじめ」が増えている、というような単純な構図
ではないということも明らかでしょう。

しかし、今回の政府の働きかけの根底にある考え方は、
「大企業は下請け企業をイジメるもの」という既成概念に
よるものは間違いありません。しかし、私が知っているバイヤー
や調達購買部門で「下請いじめ」などやってる企業は
ありません。むしろ官製値上げを働きかける国に対して、
右往左往している、のが私が知っているごく普通の調達購買
部門なのです。

このようなことを考えている中、先日こんな記事が目に
はいってきました。筆者の名誉のためにリンクを貼ること
はしませんが、要約すると、こんな内容です。

精密機械メーカーの購買課長は購買一筋30年過ごしてきている。
その課長は、ほぼ毎日お昼時に納入業者を引き連れてランチに
出向いている。また、スマホが最新のiPhoneに変わったり、
ボロボロの通勤カバンがハイブランドになったりしている
など、納入業者との関係に問題があったようだ。
ところがある事件がきっかけとなり、この会社では、購買課
という部署が廃止され、部署ごとによる資材調達制度に切り
替えられた。当の課長さんは、孫請け会社の運送会社へ転籍
させられた。

まさか、今どきこんなバイヤーはいないでしょう。
割と最近の事例ですが、2016年にある大手電機メーカーの
バイヤーが中国で過剰な接待をうけ、会社から処分を受けた
ことが、報道されました。この事案は多くの企業で接待や
贈呈品などについて、法遵守やそれ以外も含むコンプライ
アンス遵守を徹底するきっかけになったのです。

しかし、この筆者は何をもってこういう記事を書いたので
しょうか。私もかなり前ですが、購買実務の経験はあります。
その当時は、接待や中元、歳暮などはありましたが、過剰な
ものはありませんでした。また、接待は、むしろ貴重な
情報交換やコミュニケーションの場と考えていたくらいです。
また、私が実務をやっていたころは、バブルの時代と重なった
ため、新規発注しようにも、受けてもらえない時代でした。

「野町さん、もうこれ以上の受注は無理です。」
「受けてもらえる会社がないから、お願いだから受注して
もらえませんか。」とお願いをする毎日が続きました。

このように実態は、下請けイジメとか、過剰な接待など、
全く違う世界でしょう。これが実態ではないでしょうか。
マスコミや一般の社会、国や政府もそうですが、もっと実態を
理解してほしいと、とても強く感じます。

また、それとともに、バイヤーの方々、調達購買部門に従事
されている方々には、「下請けいじめ」や「過剰な接待」など、
これが一般社会の見方だということを理解してほしいのです。
そして、自らをより一層律して欲しいのです。

このような想いを強く感じる今日この頃でした。

nomachi0306 at 10:00|PermalinkComments(0)

2024年02月14日

何故調達購買部門はROIを気にするのか

先日、調達購買業務DXのセミナーで講演をしました。そこで、
いくつか質問されたのが、ROIについてです。具体的には、
調達購買業務DXでどうやってROIを出していくのか、という
質問でした。

最近はあまり、そういうことを聞かれることも少なくなった
ように(少なくともコンサルティングプロジェクトでは)感じ
ていましたが、やはりまだ根強いROI志向があるようです。

私は長い間調達購買の専業のコンサルタントなので、他の分野
についてはあまりよく知りませんが、IT企業さんなどと話をして
良く聞くのは、特に、調達購買部門はROI志向が強そうに感じ
ます。

何故でしょうか。

いくつか理由は上げられるでしょう。
従来、調達購買部門はコストセンターと位置付けられていま
した。ですので、最低限のコストや投資を抑えるべき、という
考え方が強い。
予算面では、昔の調達購買部門には、コスト削減の予算は
あったものの、投資の予算はなかった、という歴史的な背景も
あるでしょう。
営業部門などは、費用や投資を抑えられることで、売上げが
減ったらどうするんだ、という論理が通りやすく、一方で
調達購買部門は費用や投資をしたら、いくらコストが削減
できるんだ、と目に見える効果が求められやすい、ということ
も、その理由と言えます。
また、社内での部署としての重要性の低さも上げられます。
あとは、費用や投資を抑えることは、比較的統制が簡単である
ということも上げられるでしょう。

以前聞いてビックリしましたが、ある創業者会長がいて急成長
した会社が、1万円以上の支出については、全件会長まで必ず
決裁を取る必要があるということです。統制面では、先進的
事例とも言えますが、意思決定やビジネスのスピードという
観点では大きな阻害要因となっているとも言えます。

このように、調達購買部門の費用や投資に対するROI志向の
強さには、様々な理由が上げられるでしょう。

このように、コンサルティングやDXなど特に日本企業において
投資対効果をみて判断をする、近視眼的な意思決定が本当に
よいことなのか、疑問に感じることも多いです。

DXやコンサルティングは主に仕組みを作るものです。仕組み
づくりはいわゆる必要不可欠なインフラです。以前、私が
ある外資系企業に勤めていた時に、CIOが私に、情報システム
は人間の身体に例えると血液だ、と言っていたのを思い出し
ます。血液が悪い(ドロドロとかサラサラすぎるとか)と
人間の身体は蝕まれます。しかし、始末に負えないのは、
一気に蝕まれるのではなく、じょじょに蝕まれるのです。また
自覚症状もあまりないことが多く、知らない間に重症化し、
気が付いた時には、手遅れとなることがあります。

企業のインフラも全く同じであり、インフラへの投資を抑えて
しまうと、次第に仕組みが陳腐化し、知らない間に事業や会社
の競争力が蝕まれてしまうのです。

もちろん無駄な投資は排除すべきです。しかし、無駄かどうか
の捉え方もRの捉え方次第となってしまいます。短期的、
近視眼的にRを捉えてしまうと、Iを抑制する方が簡単ですし、
個別案件毎のROIを見て意思決定する方が、やりやすくなり
ます。

早稲田大学ビジネススクール教授の根来龍之氏が、あるインター
ネット記事でこう言っていました。

「ROIは分母の「インベストメント」(投資)を減らせば当然
上がるわけで、分子(成果)を増やすのではなく、投資を減らす
方向にいくことがあるので、注意が必要です。加えて、ROIを
プロジェクトごとに評価していることも問題です。

 本来、ROIは個別プロジェクト単位ではなく、事業単位で
考えるべきです。優れた企業は、個々のプロジェクトの採算管理
はしっかり行いながら、事業全体の長期的なROIを優先的に考えて
いると思います。

 何が事業全体の長期的なROIを高めるかといえば、結局のところ
競争力です。競争力があるからROIが上がると考えるべきであって、
ROIを上げること自体を目的化すると、かえって競争力が劣化する
可能性があります。投資を減らせば短期的なROIは上がるからです。

 仮に短期的なROIは低くても、事業全体の競争力向上のために
必要ならば、投資判断を下すべきです。」
(出展:DHBR 2022.07.01「AI活用の成果に内外格差。その
ギャップをどう埋めるか」)

このように、個別のROIはあくまでも手段であり、目的ではなく、
最終的なゴール(目的)は企業の競争力を引き上げること、と
いうことはとても納得感があります。

仕組みづくりは企業のインフラという話をしましたが、例えば、
経理システム導入の場合にROIを求めることは、しないでしょう。
経理システムの導入の目的は、早期決算や、企業の信頼性を
高めるためのものであり、効果を定量的に計算することは
難しいです。

企業の競争力の要因としては、意思決定や変革のスピードが
上げられますが、スピードが上がったことを定量的な効果として
示すことは難しい。最近はこれに加えて、コンプライアンス
などの統制、CSR、サステナビリティやGXへの対応などの
非財務価値がESG投資などにもつながり、企業の競争力の源泉に
なりつつあります。本来であればこれらの非財務価値も定量化し、
効果を定量的に算出すべきですが、これには限界があるでしょう。

最近は教育や人材採用を投資として捉え、人的資本ROIという
考え方も出てきています。人的資本投資の見える化をすることは、
重要です。しかし、これを投資ではなく、コストとして捉える
ことは危険なことでしょう。何故なら、人的資本にはスキルや
経験と言った費用だけでは評価できない要因が入ってくるから
です。

言うまでもなく、経営とは、資本を投入して最大限の効果を得る
ことが目的となります。言い換えますと、自社の競争力強化に
つながる投資を見極め、推進することで、Rを最大化することが
経営です。

日本企業の場合、サラリーマン社長が多いため、どちらかという
と短期の収益に焦点をあてる経営者が多く、投資を見極めること
よりも、投資を抑制することにフォーカスしがちになります。

そういう意味では、全社的DXがブームになっている今は、DXや
企業改革をコストではなく、投資と捉え、中長期の競争力強化
のきっかけとする良いチャンスと言えるでしょう。企業内の
改革推進者はこのチャンスを活かすために、覚悟を決めて、
頑張って改革やDX化を進めてもらいたいと考えます。



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