2016年11月30日

サプライヤリストの公開とサステナビリティ

米国アップル社が主要のサプライヤリストを公開しているのは有名な話です。
日本企業では自社がどのようなサプライヤと取引があるかというのを自ら進んで
公開することはありません。ですから米国アップル社がサプライヤリストを公開した
当初は衝撃的なニュースだったと記憶しています。
http://www.agile-associates.com/2012/03/201235.html

しかしそれが最近の欧米企業では当たり前になりつつあるようです。

2016年11月21日付の日経新聞の記事でこういう記事が掲載されました。
「途上国の工場リスト公開」欧米企業「労働環境は健全」

記事の要約は以下の通りです。
『米ギャップは9月にバングラデシュやカンボジアなどの900近い製造工場のリストを
ネットで初公開した。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(米国)によると、今年
は独C&Aや英マークス・アンド・スペンサーなど少なくとも4つの大手ブランドがリスト
を公開した。従来であれば取引先企業の情報は自社の製品情報の漏えいリスクや、
優秀な技術を持つ取引先の情報が漏えいし他社に知られることで競争力が低下する
という2つのリスクから多くの製造業では取引先企業の情報を重用秘密としてきた。
特にギャップは「競争上の理由」として公開を拒んできた代表格だったが、そのギャップ
ですらサプライヤリストの公開を行った。これは「大企業が取引先の健全な労働環境を
確保する責任を負うべき」という考え方によるもの。』

この考え方は正にサステナビリティという概念そのものです。

記事によると米ナイキやスウェーデンのヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)、独アディダス
などは既にサプライヤリストを公開しているようであり、ナイキにいたっては各工場の
従業員数や女性・移民の比率も明らかにしているようです。
ナイキは1990年代後半に途上国の2次サプライヤで児童労働が発覚したもののが不買
運動にまでつながりました。また米国アップル社も中国のiphoneなどの組立て工場での
過酷な労働条件が問題となり、マスコミ等で取り上げられたりしています。

このようなCSR調達、サステナビリティの視点からのレピュテーション(風評)リスク以外の
観点からも各国などの法規制や近年の事案などからも特に新興国におけるサプライヤの
労働環境への配慮が重要視されつつあります。

2013年にはバングラデシュでH&Mなど多くの欧米アパレルの委託工場が入るビルが
倒壊し、千人以上が死亡したという事件がおきました。これを機会に「バングラデシュに
おける火災予防および建設物の安全に関わる協定(Accord on Fire and Building Safety
 in Bangladesh、通称:アコード)」が発足しました。
また、米国ではいわゆるコンゴ紛争鉱物規制でアフリカの紛争地周辺で産出した特定の
鉱物を製品に使っていないことの証明を上場企業に義務付けています。同じく米国の
カリフォルニア州では2012年に製造・小売業者に取引先の過酷労働防止策を公表させる
サプライチェーン透明法を施行。

このように特に欧米では「大企業が取引先も含むサプライチェーン全体のサステナビリティ
(持続可能性)に対して責任を持つ」ことがもはや当たり前な世の中になってきているのです。

サプライヤリストの公開が必ずしもこのようなサステナビリティ、CSR調達に直結するとは
言えませんが、サプライチェーンの透明性の確保と共に、サプライヤの囲い込みという
目的も同時に考えられます。しかし日本企業ではこのような取組みは遅れていると言わ
ざるを得ません。

一方で日本でこのようなサステナビリティ、CSR調達の取組みで進んでいる企業の代表は
ファーストリテイリングです。同社のHPでは「生産パートナー向けのコードオブコンダクト
(CoC)」の内容として、

  ・児童労働の禁止
  ・強制労働の禁止 

 他11項目を決めていて、その遵守を呼びかけるだけでなく毎年モニタリングを行いその
結果を掲載しています。具体的には労働環境モニタリングということで毎年取引先監査を
行っており、2015年度は472工場を対象にモニタリングを実施しています。またE評価
(即取引見直し)は2015年度には19件上げており、自社の問題についてもきちんと開示
しているなどその姿勢は評価すべきでしょう。
また同社はカリフォルニア州サプライチェーンの透明性に関する法律についての遵守状況
の記載や「バングラデシュにおける火災予防および建設物の安全に関わる協定」への
加盟もしています。

このような取組みの多くが同社のWebサイトから発信されているのです。

日本企業の場合、実際に取引先のモニタリングや監査を行う企業は多くはありません。
何故なら実際のモニタリングや監査にはたいへん大きな負荷やコストがかかるからです。
ファーストリテイリング社の場合、それを非常に大規模かつ継続的に実施し、尚且つ多く
の情報を開示しています。そういう意味では日本企業を代表する先進的な事例と言える
でしょう。

日本企業はサステナビリティ、CSR調達に関しても欧米企業に比較して遅れてはいますが、
この流れは逆戻りできない状況です。しかし現在はこのファーストリテイリング社でも
サプライヤリストは公開していません。いずれ近い将来に日本企業でもサプライヤリストを
公開する企業事例がでてくると考えられるでしょう。

先日の接待問題など、日本企業のCSR調達の基本となるコンプライアンスの欠如という
サステナビリティやあCSR調達の最もプリミティブな姿勢が問題となりましたが、その記事
を読んで思い出したのは私が以前勤務していたGEでの経験でした。GEという会社は
コンプライアンス、インテグリティ、CSRに対してたいへん力を注いでいます。
毎年インテグリティに関するルールを全社員に配布し、サインして会社に提出します。
また中途入社時のオリエンテーションでもコンプライアンス、インテグリティに関してはCEO
自らが必ずオリエンテーションを行っていました。

そのオリエンで当時のCEOから言われたことが今でも記憶に残っています。
「GEという大会社は潰れることはない、と皆さん考えているでしょう。でもそんなことはない。
もし何らかの不祥事があった場合には一夜にしてGE程の大企業でも潰れてしまう可能性
があります。逆にどんな不景気が来ようが、コスト高になろうが、天災があろうが、GEと
いう会社がそれ以外の理由で潰れることはまず考えられないでしょう。だからGEはコンプラ
イアンス、インテグリティを大切にしているのです。」

考えてみると飛ぶ鳥を落とす勢いであったエンロン社やパワードコム社がチャプター11
入りしたのはこのような不祥事がきっかけでした。このようなことを考えても今後一層
サステナビリティやCSR調達はより重要視されていく方向であることは間違いないでしょう。

これは21世紀の企業像として「大企業が取引先も含むサプライチェーン全体のサステナ
ビリティ(持続可能性)に対して責任を持つ」というあり方が、ごくごく当たり前になってきて
いるからなのです。



nomachi0306 at 10:00|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2016年11月16日

ニュースとその感度

最近、調達購買関連のニュースがまた増えてきました。

例えばキリンビバレッジとコカ・コーラの物流・調達面での提携交渉が行われている件。
P社の海外で接待を受けた事により90人を超える社員の社内処分の発表。下請法の
50年ぶりの見直し。日産自動車の三菱自動車に対する資本投下とルノー・日産アライ
アンスへの参加の件など。

いいニュースも悪いニュースもあります。

いずれにしても初歩的なことから言いますと、まずはこういう(少なくとも調達購買関連の)
ニュースに対するアンテナを皆さんは高くしておくべきです。例えば下請法の改正に
ついてですが、どのような改正が行われるのか、直ぐに言える方がどれ位いらっしゃる
でしょうか。調達購買部門に働くものとして少なくとも下請法に関しては社内の啓蒙役に
ならなければならないのですから、知っていて当たり前です。

中堅バイヤーであればこういうニュースを自らの業務や仕事に役立てていくことが望ま
しいでしょう。多くの場合、ニュースはその時点では(大きく)取上げられますが、その後
どうなったかについては殆ど報道されません。しかしニュースで何らかの企業の活動が
取上げられるということは何らかの意味や意義がある訳ですし、リリースやニュースを
リークした側の意図もあるのでしょう。このようなニュースの背後にどのような真実や
深層があるのか考えてみたり、その活動が将来どのような決幕を迎えるのか、などを
想像してみることには意味があります。もっと言えば、ニュースから自分の業務や仕事
につなげて考える、アクションにつなげていくことが求められるのです。

例えばキリンとコカ・コーラの共同調達の件。共同調達は様々な形態がありますが、私が
知る限り上手く行ってる事例はあまり多くはありません。だからと言って否定的になる
必要もないのです。何故なら上手く行ってる事例もあるから。上手く行ってる事例の
共通項はトップダウンかリーダー役が存在することだと私は考えています。

そういう点から今回のニュースをどう読み解けばよいでしょうか。コカ・コーラは元々フラン
チャイズ制であり、ボトラー間の共同調達は進めたくても地場サプライヤとの取引を重視
することなどから中々上手くいかなった時期があったと聞いています。しかし、ボトラーの
統合を繰り返し、今ではコカ・コーラウエストとコカ・コーライーストジャパンの2大ボトラー
となり、来春にはウエストとイーストジャパンの2大ボトラーが統合することが決まって
います。また、新会社には米国のTCCC(The Coca Cola Company)が出資することが
決まっているようです。

米国企業にとって集中調達・共同調達は当り前のスキーム。ボトラー商売は地場産業
であり、互恵の塊りとも言えますが、それに対しコカ・コーラ側が米国的なトップダウンで
リーダー役となり、両社の共同調達を進めていくことも考えられるでしょう。
また、報道によると今回の件はキリンHDが提携交渉をしていることを認めているようです。
キリンは元々近畿コカ・コーラの大株主であり、現在もコカ・コーラウエストの社長は近畿
コカ出身の方です。キリンは現在はウエスト社の株主として名前は出てきませんが、
ウエストの社長とキリンHDはかなり近い立場の方がいらっしゃるのではないか、と想定
されます。そうするとリードするのはコカ・コーラよりもむしろキリン側かもしれません。

いずれにしてもトップダウンないしリーダー役の存在が上手く機能すれば共同調達の
成功事例として将来紹介されるようなスキームになる可能性があるでしょう。
今後はこういった共同調達を見据えた提携のケースが増えてくるのは間違いありません。
このようなニュースや事例から自社のユーザーマネジメントや集中購買推進にもヒントが
隠されているでしょう。

P社のニュースからは何を考えるべきでしょうか。

最近は多くの企業で接待は原則禁止となっています(いると思います)。しかしその実態
は把握されていません。実際にバイヤーの声を聞くと日本国内はともかく中国などの文化
が異なる国では一緒に宴席を設けないと仕事にならないという声も多く聞かれます。
そうすると当然ながら例外が多くなります。P社でも詳細は不明ですが、ホームページなど
を閲覧した限りでは接待禁止というのが基本ルールとして明示されていたのでしょう。
例外が多いとしても許可すべき例外と許可できない例外をどのように切り分けていたのか
その基準があったのか、なかったのか、それとも一切禁止だったのか、興味があるところ
です。これは他の企業やバイヤーにとっても興味がある点でしょう。

また自社としてどのような対応をすべきなのかも検討すべきです。接待に関するルールに
ついては購買ネットワーク会等でも何度か話題になったことはありますが、どういう業界で
どのようなルールが一般的である、等の情報は殆ど共有されていません。どういうルール
ややり方がスタンダードなのかが判っていないのが実情ではないでしょうか。

そもそも今回のP社のニュースソースは同社の広報からというように書かれています。これ
も興味深い点です。どんな企業も自社の不祥事などはできれば隠したがるのでしょう。
それを敢えて公開し「便宜供与などの不正は見つかっていない」というのはやや不思議な
感じがします。(様々な穿った見方もできます)

このように様々な疑問がでてきますが、結論的に言うと日本企業の調達購買部門の接待
の実態について、そもそも理解できてないなと、言うことなのでしょう。

そこで、今回は改めてこのタブーとも言える「接待・贈答の現状について」アンケート調査
をします。

−−−−緊急アンケート調査!!−−−−−−−−−

「調達購買部門の接待・贈答についてのアンケート」
https://questant.jp/q/koubai

皆様のご協力をお願い申し上げます。
(御社名、お名前等のご記入は任意です)

よろしくご協力の程お願い申し上げます。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



nomachi0306 at 10:00|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2016年11月02日

調達購買改革を巡る誤解 まとめ

前回までの4回で調達購買改革を巡る誤解について考えてきました。具体的にはこの5つの誤解です。1.「集中購買」=「サプライヤ集約」=「コスト削減」の誤解2.「サプライヤ評価」=「サプライヤマネジメント」の誤解3.「複数社発注」=「リスクマネジメント」の誤解4.「部品集約」=「コスト削減」の誤解5.「競争化」=「コスト削減」の誤解「集中購買」「サプライヤ集約」「サプライヤ評価」「複数社発注」「競争化」これらの改革のキーワードは多くの企業でスローガン的に取上げられてきました。改革の初期においてはこれはとても重要なことです。何故ならシンプルでわかりやすいキーワードは改革を進めていく上で推進力になったから。一方で今回の誤解シリーズで述べてきたことは、これらの活動はあくまでも手段だったりツールであり、目的ではないこと、また定義が曖昧で各人の捉え方が全く違ったりすること、それから必ずしも全ての品目で両辺のイコールの公式が直結しないこと、を述べてきました。今回の誤解シリーズを通じて私が言いたかったことはこのようなキーワード型改革は既に時代遅れであるということなのです。日本企業の調達購買改革は多くの企業で90年代後半くらいから取組みが始まりました。ぞれは属人的業務との戦いです。企業全体の調達力を強化するために、プロセスの標準化を行い、人材の育成を行い、インフラの整備を行い、カテゴリー戦略を立て、ユーザーマネジメントを行い、サプライヤマネジメントを行ってサプライヤとの関係性を見直してきました。キーワード型改革は推進力が求められますので、今までの初期的な改革段階においては、このような進め方は効果的であり多くの日本企業がキーワード型改革を推進してきたのです。例えば「集中購買」ですが、当初は同じものを違うサプライヤから異なる価格で買っている状況でしたから、それを集めて同じサプライヤから買うようにすれば、(そりゃあ)安くなるわけです。でもこういう活動はやればやるほどネタが枯渇してきます。そうすると集中購買しても「サプライヤの原価低減にもつながらず、それほど大きな効果にもつながらない」状況に陥ります。また品目毎の状況によってもコスト削減効果がでる品目とでない品目があるでしょう。コスト削減効果がでなくなると改革自体の有効性を疑い始めます。結果的に(効果がでないなら)集中購買はしなくてもいいのでは、みたいな話になってくるのです。私はやはり集中購買、集中契約は進めるべきと考えます。集中購買はコスト削減効果だけを求めるものではないからです。例えばスキルの育成や集中化、それから社内統制面や業務コストの最適化、支出最適化の状態を保っておくには集中購買が望ましいから。そういう意味ではコスト削減効果が薄れてきたから集中購買やめましょうというのは乱暴な議論です。いずれにしてもここに上げたようなキーワード型改革は既に限界にきています。これは今日現在は調達購買改革の初期段階ではなく、次の改革に向けての発展段階になってきているということでしょう。キーワード型改革はシンプルでわかりやすい。しかし、「競争化」=「コスト削減」の誤解でも取り上げましたが、「競争できないものを無理やり競争させてしまう」ようなリスクも内在しています。また繰り返しになりますが、キーワードの定義が曖昧でそれが誤解やミスコミュニケーションにつながるリスクもあります。また目的・ゴールと手段やツールを取り違えてしまうリスクも少なくありません。シンプルで推進力につながりやすいが、このようなリスクが内在することは理解しておく必要があります。それでは今後はどのような改革が必要なのでしょうか。ポイントは「層別化」と「考えられる組織」です。これまでの誤解シリーズでも述べてきましたが、品目や品目群の市場構造や環境は重要であり、全ての品目を同じでように捉えるのではなく、層別化して捉え、どのように重点をおき効果的な改革をするか、という重点志向が求められます。戦略的重要性とスイッチングコストの2軸で考えてみましょう。マトリクスを考えた場合戦略的な重要性が高くスイッチングコストが高い領域、これは例えばマイコンなどが当てはまります。こういう領域は複数社発注でリスクマネジメントしたい領域ですが、新しいサプライヤで全く同じものを作らせるには開発費用などの投資負担が大きくコスト的にあいません。このような品目群に対してどのような手法をとれば良いでしょうか。「競争化」?こういう品目は競争できないものを競争させてしまいトータルコストがかかりすぎてしまった、なんていうことにつながります。基本的な手法は関係性強化、囲い込み戦略でしょう。リスクマネジメント手法としてはマルチファブ化や在庫を持つという手法が向いています。戦略的な重要性が高いがスイッチングコストがあまり高くない領域は、例えば汎用半導体などがあてはまりますが、この領域は複数社発注でリスクマネジメントと同時に競わせていく領域です。戦略的な重要性が低いがスイッチングコストが高い領域は、カスタマイズ品で例えば樹脂成形品やプレス板金などが代表的な品目として上げられるでしょう。この領域は例えば通常サプライヤが分散しているケースが多いのでサプライヤを集約することで設備稼働率を向上させコスト削減につなげやすい領域になるでしょう。気を付けなければならないのはサプライヤのスイッチングコストが高いため、集約を行うのは新規案件からとなります。最後はスイッチングコストが低く尚且つ戦略的な重要性が低い領域です。ここは品目としては梱包材やケーブルなどが上げられますが、競争化が当てはまりやすく競争の結果サプライヤが集約されている、という領域です。このように品目毎に何をやらなければならないか、また重点をどこに置くべきなのかは品目によって異なります。これはサプライヤも同様です。同じ品目群のサプライヤであってもどういう関係性をつくっていくかは、サプライヤ毎に異なるからです。層別化して重点志向することにはエンパワーメントが必要です。意思決定するのは調達購買担当者だからです。キーワード型改革ではこのような考え方や課題はありませんでした。キーワード型改革から脱却すると意思決定の方向も場面場面で異なります。権限移譲をおこない、状況に応じて「考えられる組織」づくりが必要です。そのためにはスキルの向上もジョブローテーションもやらなければなりません。担当者がカテゴリ毎の改革を自ら考え進めていく必要がでてきます。状況に応じて(これが難しい)考えられる担当者が必要であり、それを支える組織や仕組みが必要です。調達購買改革はこういう時代になっちゃったいました。要するにステージがあがったのです。ステージが上がったからそのステージにあった改革を進めなければなりません。新ステージの調達購買改革は、より一層カテゴリマネジメントとユーザーマネジメント、サプライヤマネジメントを同期させていかなければならないのです。

nomachi0306 at 08:00|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2016年10月17日

調達購買改革を巡る誤解 その5

その5.「競争化」=「コスト削減」の誤解

過去四回で調達購買改革を巡る様々な誤解について取上げてきましたが、今回はその
最終回です。「競争化」について取上げます。

どこの企業もしくは公共のどんなバイヤーや契約担当者でも2社以上のサプライヤを競わ
せることは当たり前のようにやっているでしょう。いわゆる競争入札、入札、相見積、コンペ、
ソーシング、等々様々な呼び方がありますし多少手法も異なりますが、基本的には2社以上
のサプライヤを競わせるいわゆる「競争化」という購買手法の基本になります。
この購買手法の基本となる「競争化」はバイヤーや契約担当者だけでなく全社員に対して
徹底させるように、全社員の購買規則である購買規程にも「相見積」「コンペ」の徹底を徹底
している企業は多いです。つまり購買部門だけでなく、全社の支出管理、購買管理の基本的
なルールと言えます。

しかし、競争化が必ずしもコスト削減につながるかというとそうでもありません。単に見かけ
上のコスト削減でしかなく実際にはコストが上がってしまった、ということも少なくありません。
例えば一時期の公共情報システム開発案件で一般競争入札を行いサプライヤを選定した
ものの、最終的に「動かないシステム」ばかりになってしまい、「安物買いの銭失い」状態に
なったという話はその典型的な事例です。これも比べられないものを無理やり比べようとして、
結局は立ち行かなくなり、高くついてしまったという事例と言えます。

それでは「比較できない」「競争させられない」ことの理由はなんでしょうか。ようするに1社
特命にならざるを得ない理由です。

まず最初に思いつくのは、例えばユニークな技術やソリューションを含む製品サービス
でしょう。ユニークなモノであり、ここから買うしかないという理由になります。しかしよく考える
と、このようなユニークなサービスや技術がそこここに存在する、というのも考え難いこと
です。

他にも「比べられない」ことの様々な理由が考えられます。

例えば、比較するサプライヤを探していない、探す時間がない。
切替えに時間や手間やコストがかかるので切替えられない、もしくは切替えをあきらめて
しまう。これもよく聞かれる話です。
次は、仕様が固まっていないので特定者しかできないということ。特定者は多くの場合で
既存のサプライヤになります。
あとは、例えば美味しい商売でないので特定の会社しかやりたがらない、というのも特命
の理由としてあげられるでしょう。

このように考えると理由は様々ですが身の回りの案件でも比べられないものが意外と多い
ことがわかります。もちろんその理由によって、探していない、とか仕様が固まっていない、
明確でないなどはやり方によっては競争させることが可能です。

調達購買の仕事は、最適なサプライヤと適正な価格決定なので、もし競争化しなくても最適
なサプライヤを選定し、適正な価格であれば問題ありません。ですから新しいサプライヤを
探して競争できるようにする以外にも、コスト分析を行って妥当性を検証し適正価格を担保
させる等のやり方もあります。いずれにしても様々な場面で柔軟に対応すべきということで
しょう。

先の公共調達の事例などは、競争させるよりも一社指定でプロジェクト全体のコストを如何
に抑制し円滑なプロジェクト推進を目指していくべきかが重要であったにも関わらず、無理
に比較しようとするから無理がでてきたと言えます。無理に比べることによって最悪の場合
には安かろう悪かろうという状態に陥ります。

またこれはオークションなどでよくある事例ですが、4社候補がいたとしても1社が圧倒的な
競争力を持つような場合に、1社しか入札ができず結果的に高止まりしてしまったということ
もあり得ます。これも無理に競争させることの弊害の一つです。

仕様が固まっていない、明確でない場合での競争化の場合は、既存サプライヤしか仕様を
理解できず、また他サプライヤはどうしても保険をかけて高い見積りを出す傾向となりがち
です。こういうケースでは多くの場合、最安値サプライヤは既存サプライヤになってしまい
ます。しかし最安値と思って選定したものの、仕様変更でどんどんコストが上がり、結局
「あのコンペは何だったんだろう」と言うような事態に陥ることも多々見受けられます。
これでは競争化により「見かけ上のコスト削減」だけ実現しましたということになりかねま
せん。

もっと酷いケースだとここに発注したいと想定しているサプライヤがいて、例えば要求元が
裏でシナリオを作り最安値見積りなるようにする、もっと言えばそれにバイヤーも協力して
いるという状況です。それでも(一応)「相見積りとってるからルール通りだし問題ないでしょ」
、という言い訳作りにつながります。これを私は精神的癒着状態と表現しています。

ここに上げたようにやはり「競争化」できないものは多くありますし、それを無理に競争化する
と、見かけ上のコスト削減だけで実際の「コスト削減」にはつながらない、ということがわかる
でしょう。

それではどうすればいいでしょうか。まずは「競争化に適した品目」と「そうでない品目」を
層別化することです。また競争化に適しているにも関わらずサプライヤを探していなくて
競争化できないようなものについては競争環境をつくりだすことがバイヤーの役割です。
これは今回の「誤解シリーズ」に共通する「何もかも同じキーワードで括る調達購買改革の
間違え」という考え方につながります。

またもう一つ推進しなければならない取組みは「価格妥当性の評価」です。

競争化しているから価格の妥当性評価はやらなくても良い、ではダメです。自身が購入する
ものがどのようなコスト構造や市況環境を持ち様々な方法で評価をやっても高すぎない
(安すぎない)ことを検証しなければなりません。公共調達の予定価格制度のような取組み
ですが、このような視点は欠かせません。そうでなければ調達購買の仕事は相見積を取る
だけの誰でもできる(将来的にはロボットにも)仕事となってしまうでしょう。

次回は、今回の「誤解シリーズ」の総括をしていきます。



nomachi0306 at 12:30|PermalinkComments(0)TrackBack(0)