2025年06月20日

ブルーオーシャンは幻か?

歴史的に有名な戦略書の「孫子の兵法」では、「最高の戦略は
戦わずして勝つこと」と書かれています。また、著名な経営学者で
あるハーバードビジネススクールのマイケル・ポーター教授は著書
「競争の戦略」の中で、3つの基本戦略の1つとして「差別化戦略」
をあげました。2005年に出版された「ブルーオーシャン戦略」では、
競争自体を無意味なものにする「ブルーオーシャン」を創造する
ことが、熾烈な競争環境を生きる企業が繁栄しつづけるための唯一
の方法、と述べられています。

このように、古今東西の経営書で、「戦うな、ブルーオーシャン
を目指せ、オンリーワンを目指せ」ということが戦略上大切なこと、
と言われ続けました。

本当に、それが正しいことなのでしょうか?

前回の私のメルマガ「起業苦楽記」の中で、起業を成功させるため
のコツとして、「成功のためには能力(体力も含む)3割、運3割
です。そして最後の4割は「時流(波)に乗る」こと、と述べました。
「時流(波)に乗る」ことは、とても重要なことです。そういう
意味で、真っ赤なレッドオーシャンに入って勝負することは目指す
べきではないですが、全くのブルーオーシャンで勝負することには、
リスクも伴うのではないか、と考えます。

ブルーオーシャンは、マーケット自体が、未だ確立されていない、
ということです。そういう意味で、そもそも市場がない、という
リスクが伴います。

私は20数年前に調達購買のBPO事業を、立上げるために起業しました
が、その当時は、時期的にまだ早く、市場創造の時期ではなかった
ことを実感しました。特に、B2Bマーケットでは、ある程度市場や
サービスが確立していない限り、企業が良いと感じても、モノや
サービスの購入(導入)の意思決定には至りません。

「時流(波)に乗り」市場を創出するためには、ある程度の大きさ
の資本や人材、スキル、仕組みなどがないと、難しいのです。
それを自身の起業経験から、実感しました。こういう点から、
ブルーオーシャンも失敗につながるリスクもあります。

先日、私の尊敬するMr.Zが、自身のメルマガ「ニッポン製造業と
グローバル調達最前線」で以下のことを書かれていました。
https://www.mag2.com/m/0001697307

『賃加工業者が目指すべきは、知見のない不得意なセットメーカの
領域に進出することではない。また、俗にいう“オンリーワン”
 (他社にできない加工やその加工技術)を磨くことでもない。
目指すべきことは、汎用的な加工を競合他社が真似できないほどの
突出した効率で加工する技術である。』

『競合のない世界が、“お花畑”なのは一瞬だけだ。その対価が、
高額であればもちろん、リーズナブルであっても、特定の1社でしか
できない技術は、排除の対象になる。なぜなら、供給安定性の観点
でアウト、つまり特定の1社から割りあてられる生産キャパシティ
が、自社の生産キャパシティを制約してしまうからだ。』

『競合がいないことは、良いこともあるが、原価に対して、適切な
利益だけしかオンしていないのに「高い、高い!」とネゴられる
リスクを孕む。繰り返すが、賃加工業者が目指すべきは、汎用的
な加工を競合他社が真似できないほど突出した効率で加工する
技術の獲得である。』 と。

かつて、日本の製造業のグローバル化に伴い、製造拠点が海外に
移転し、従来の中小製造業者が、特に量産品について、コスト
競争力を失った時がありました。この時には、日本の中小製造業は、
熟練技術による高品質な試作や単品ものへのシフトや、自社ブランド
(OEM)品への挑戦などが、勧められたのを記憶しています。しかし、
このような対応で、ブルーオーシャン、オンリーワン企業になった、
という話は殆ど聞かれません。

Mr.Zに言わせると、「B2Bのビジネスでユニークな技術をもって
いる場合でも、陳腐化する。競合のない世界が、“お花畑”なのは
一瞬だけ。」なのです。

調達の現場では、こういうことが起こっています。

昨今、日本企業は一部の企業を除き、セットメーカーは自動車も
ハイテクもグローバルでの競争力がなくなってきました。日本企業
で力があるのは、Tier2以下の原料、素材メーカーです。

一方で、グローバルで見ると、元気があるのは、米国のGAFAで
あり、BYD、TSMC、NVIDIAなどの、力を持つオンリーワン企業で
しょう。ずっと時流(波)に乗り、オンリーワンで居続けるため
には、そのための投資、技術開発が必要となります。もしくは、
汎用的な加工を競合他社が真似できないほど突出した効率で、加工
する技術を獲得し、圧倒的なコスト競争力で勝負する必要がある
でしょう。

確かに、日本企業の中でも、ブルーオーシャン戦略で成功している
企業は多くあります。しかし、ブルーオーシャンで勝ち続けるためは、
人、技術、金などの、多大なリソースが必要です。

果して、日本企業はどこに向かっていくのでしょう。また、その
中で、調達購買部門はどのような役割・機能を果していくべきで
しょうか。とても興味深いです。


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2025年02月03日

第1回Procurement Summitの開催

皆様、先日1月18日(土)にProcurement Summitを開催いたしました。
ご参加された皆様には改めまして御礼申し上げます。

今回は80名定員で、割と大きな会議室を用意して、オンサイトのみで
実施させていただきました。結果的に80名お申込みいただき、8名が
キャンセルとなり、72名の参加者となり、インフルエンザが大流行
しており、キャンセルがもっと増えると考えておりましたが、想定
よりも多くの方にご参加くださった次第です。

懇親会には参加者の約半数である35名の方がご参加され、活発な議論
が各所で行われていたようで、とても有意義な会となりました。

本会では所用で参加できなかった岩城さん、体調不良で参加できな
かった西嶋さんを除く、5人のレジェンド(坂口さんには「未だ、
レジェンドではない」と怒られましたが)の方のご講演と、パネル
ディスカッション実施しました。

全員の講演をサマライズするのは、難しいですが、共通するテーマ
としては、「調達購買部門は、従来のコストダウンが限界となり、
新たな課題に主体的に対応するための時間創出が必要となってくる、
そのためにはテクノロジーが有効である」というものでした。

レジェンドのご講演で、私が個人的に感じた(感心した)ことは、
皆さんの「言語化能力」がとても高いな、という点です。先般の
メルマガでも取り上げましたが、その言語化能力の高さを今回も感じ
たのです。

「時間創出」「主体的な対応」「経験をデザインする」「庭師」
「志」「AI対AIの戦い」「JIC(Just In Case)」「構え」
「あがき」「セレンディピティ調達」「スピード」「テクノロジは
民主化されている」「熱情とIT」と言ったワードがあげられます。

また、もう1点、皆さんの講演で共通していたと感じたのは、
「主体的」「自発的」「伝書鳩バイヤーになるな」「構えがある
ところに素敵な偶然が生まれる」「好奇心」などの言葉に代表
されるように、とにかく自分から動くこと、自分事として捉える
こと、これが大切だ、というメッセージです。

今回のレジェンドの方々は、若い時に購買ネットワーク会に参画
され、その後、企業のマネジメントや著名なコンサルタントとして、
ご活躍されています。これらの方の共通したメッセージとして
「自分から動く」ということが、とても重要なことであることを
再認識させていただきました。

坂口さんと私は、2008年に「だったら、世界一の購買部をつくって
みろ!」という本を書きました。そのとき、周りから、「野町さん
にとって『世界一の購買部』ってどういう組織ですか?」と
聞かれた際に、私は「『自立的な組織』ですね」と答えたのです。

今回のレジェンドからも、同様の重要性を教えていただき、
改めて「自ら動く」重要性を感じさせていただきました。


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2025年01月08日

調達トリレンマからの脱却ー今年の調達トレンド予想−

皆様あけましておめでとうございます。

昨年は円卓コンフィデンシャルというTV番組に、人生初めて出演
させていただきました。事前にインタビューを受け、それを元に
台本を作っていただき、収録数日前に渡されたのですが、収録
では台本の通りには、あまり進まず、あれ、今度何を質問される
かな、と内心ドギマギしておりました。

その台本の中で「調達トリレンマ」という言葉が使われていて、
昨年の調達環境を表現するのにとても適しているな、と思い
私もその後、講演やセミナーなどで使わせていただきました。

トリレンマとは三者択一という意味もありますが、ここでは
三重苦という意味でつかわれています。調達を巡るトリレンマ
は1.調達クライシス(調達難)2.価格高騰(市況高騰、円安、
人件費高騰による)3.サプライチェーンにおけるサステナビリ
ティ重視の3つです。

確かに昨年までの構造的な変化は、調達環境のトリレンマの
状況だったと言えます。それでは今年はどうなるでしょうか。
間違いなくトリレンマの状況からは、徐々に脱していくで
しょう。一方で新しいトレンドも出てくることは間違いあり
ません。

2025年でもっとも日本の経済環境に影響を与える出来事は、
米国の大統領にトランプ氏が就任することでしょう。これは、
ある意味従来の路線であった環境配慮、サステナビリティ重視
にブレーキがかかることも予想されますし、円安が緩和される
ことも予想されます。また、ミクロでは、EVやバッテリー関連
の需要がひと段落することも予想されます。

しかし、前回のトランプ政権を振り返ると、それほどドラス
チックな方向転換はしていなかったこともあり、トランプ氏は
大統領以前に優秀なビジネスマンであることも考えますと、
従来の方向をまるっきりひっくり返すようなことにはならない、
と私は考えます。

このような経済環境下で、私が考える2025年の調達トレンド
予測を4点ほど紹介していきましょう。

1.AIの活用(AIは個人に欠かせないツールとなる)
2.官製値上げの継続(人件費高騰と下請法改正)
3.「川上と川下企業が中間企業を選ぶ」時代は続く
4.「サステナビリティ重視」も続く(特にリサイクル材調達)

1.AIの活用(AIは個人に欠かせないツールとなる)

昨年10月のメルマガで、私はAIの活用について、やや否定的な
ことを書きました。しかし、その後、色々な経験や多くの方々
からの教えを踏まえ、やや考え方が変わってきたのです。

AIの活用は今後もおそらく進んでいくでしょう。2025年はその
黎明期になるのではないかと考えます。あと数年経つと、AIは
普通のツールとして、活用されていくでしょう。しかしそれは
ビジネスとしての活用というよりも、個人が便利なツールと
して、使っていくイメージです。一方で使わない人、使えない
人との差はますます開いていくでしょう。

これはインターネットが出てきたころと全く同じです。ネット
の黎明期は一部のマニアのツールだったのですが、Webの技術
とWindows95の登場から一気にインターネットが普及しました。
このころにはインターネットを活用して、情報収集をする人と
そうでない人のデジタルデバイドが広がったと言われています。

AIについても生成AIの技術とCopilotなど、使いやすい環境と
なったことで、個人の便利なツールとして活用が進んでいくで
しょう。

2.官製値上げの継続(人件費高騰と下請法改正)

2023年11月29日に「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に
関する指針」が政府から公表され、2024年はその実行フォロー
が続く1年でした。

私はこれを「官製値上げ」と呼んでいますが、この傾向は
2025年も続くでしょう。人件費だけでなく、原材料費用や
エネルギー費用の高騰、また円安による輸入物価の高騰など、
官製だけでない購入費用の高騰は続きます。

今年の通常国会では約50年ぶりの下請法改正案の成立が目指
されるとの報道がされています。改正内容については、公正
取引委員会の公表資料や企業取引研究会の報告書を参考
にすると、おおよそ把握できますが、従来難しいと言われて
いた「買いたたき」要件の行為類型を明確にする等が言われ
ています。

ここでは親事業者が、一方的に下請代金を決定して、下請
事業者の利益を不当に害する行為を規制対象とすることを
検討しているようです。ポイントとしては、製造工程における
温室効果ガスの排出量の削減を要請することなども問題視
されるかもしれないということです。

現在、様々な情報収集をサプライヤから定期的に実施して
いる企業は多く、ごく一般的ですが、拡大解釈すると、その
ような調査への協力依頼を一方的にすること自体が禁止される
恐れもあります。

他には、支払手段として紙の手形による支払は認めない他、
電子手形やファクタリングでの支払いの場合も支払期日まで
に下請代金の満額の現金と引き換えることができること、と
いう内容も、バイヤー企業にとってインパクトが大きいかも
知れません。

このように大きな意味での「官製値上げ」は今年も続くで
しょう。

3.「川上と川下企業が中間企業を選ぶ」時代は続く

従来の、サプライヤマネジメントは直接取引のあるTier1の
サプライヤを管理したり、関係性を構築することが中心で
した。一方で、昨今の経営環境変化に伴い、チェーンの
多層構造化が進むとともに、多くの分野で、川上側と川下側
のプレイヤが相対的に力を持ち始めています。この傾向は
今後、一層進んでいくでしょう。

最近の世界企業の状況を見ますと、多くの分野で、独り勝ち
が進んでいるように感じます。時価総額ランキング(2024年
11月末現在)では、1位がアップル、2位はエヌビディア、
3位はマイクロソフト、テスラが8位、TSMCが10位に入って
います。

企業の競争戦略で一番ベストなのは、「競争しないこと」
ですが、これらの企業は卓越した技術開発力などで、それを
実践しているのです。またこれらの独り勝ち企業の事業分野
を見ると川上と川下の企業なのがわかるでしょう。

日本企業の多くは、中間企業であり、自社だけで圧倒的な競争
優位を勝ち取ることができにくくなっています。しかし、独り
勝ち企業は圧倒的な優位であり、中間企業はそういう企業との
関係性を強くするしかありません。

例えば、川上企業に対しては、バイヤー企業として選んで
もらう、川下企業に対しては、提案力を強化し、自社を指定
してもらう、というように。

こういう経済環境は続くだけでなく、ますます進展していき
ます。

4.「サステナビリティ重視」も続く(特にリサイクル材調達)

トランプ氏が米国大統領に就任することで、温室効果ガスの
排出量削減や環境配慮などの方向は、鈍化するかも知れま
せん。しかし、サプライチェーンにおけるサステナビリティ
重視は、3の独り勝ちしている企業たちの価値観(パーパス)
が変わらない限り続くでしょう。

一方で、日本国内には資源がありません。有限である資源を
最大限に活用するためには、リサイクルを進めるしかありま
せん。日本企業はリサイクルに活路を見出していくでしょう。

リサイクルは、昔は高コストだが、社会的視点から進められて
きました。一方で、今後は「新たな供給源」「サステナブル
重視に合致」「エコで競争力につながる」の一石三鳥を実現
するものと捉えられるでしょう。

そのためには、リサイクルしやすい製品設計、回収物から
リサイクルする技術、リサイクル材料の調達ルートという、
2つの技術とサプライチェーンの確立が必須です。そういう
点から、調達部門が特にサプライチェーン確立に携わる
ニーズは高くなっていくでしょう。

先進企業では、既にサステナブル材料の使用比率の社内目標
をKPIとして設定し、サステナビリティ重視を進めています。
このような取組みが今後も続くだけでなく、一層進んでいく
でしょう。

長文になりまして申し訳ございません。
本年もよろしくお願いいたします。


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2024年12月25日

実行力と言語化能力

今年最後のメルマガです。

本年も様々な方やお客様に支えられ、過ごすことができました。
誠に有難うございます。

そういった中で、特に感じたことを今回はお伝えします。それは、
「優れたリーダーには実行力と言語化能力がある」ということです。
特に今回それを感じたのは、懇意にしている調達購買部門のトップを
務められている方々との会話の中ででした。

これらの優れたリーダーたちに共通する点は、まずは改革などの実行力
を持っているということです。過去の実績や行動について話を聞くと
その実行力にまずは驚かされます。

それと同時に、これらの改革を説明する能力がとても高いです。
それは表現力というよりも言語化する力(言語化能力)という方が
より適切なものでしょう。言語化能力が優れていると、メンバーにも
伝わりやすく、また影響も与えやすくなります。

今回は、リーダーたちのいくつかの具体的な言葉を取り上げてみましょう。
 ・「組織のアート系スキル」を変える
 ・「脱属人化」から「変化対応」そして「これから」
 ・「自ら学びお互いに学び合う」
 ・「サプライヤを自社のファンにする」
 ・「経営に直結するバリューづくり」
 ・「おそば感」
 ・「買い込み」
 ・「転がりながら味方を見つける」
 ・「事業よりも先回りする」
などです。

解説する必要もないかも知れませんが、ちょっとずつコメントを追記
していきます。

 ・「組織のアート系スキル」を変える
組織改革には科学系スキル(プロセス、ルール、戦略など)だけでなく、
カルチャーや文化、想いなどのアート系スキルが重要であり、そこを
変えていくことが組織改革につながる、という意味。

 ・「脱属人化」から「変化対応」そして「これから」
組織改革の進め方を三段階で説明。どんな企業の組織改革でも当て
はまりそうです。

 ・「自ら学びお互いに学び合う」
「変化対応」を進めるためのキーワード。リーダー自身も含めて自律的
に学ぶ姿勢や学ぶ場づくりが重要という言葉。

 ・「サプライヤを自社のファンにする」
調達購買部門の重要なミッションはこれ。そのためにはサプライヤの
ことを好きになる、そして何より自社のことが好きになることが必要。
私の大好きな言葉です。

 ・「経営に直結するバリューづくり」
調達購買部門のKPIだけに縛られず、枠を超えて、事業や全社の視点で
活動することが必要。

 ・「おそば感」
海外拠点など、本社からは遠いが、物理的な距離感がある中で、その
拠点の近くの自身の価値観をいかに高めるか、が重要であり、意識
すべきであり、価値があるという意味。

 ・「買い込み」
サプライヤに近いという強みを活かし、何もない時こそ、サプライヤ
と会って、関係性を作り、「買い込み」に取り組む必要がある。そう
すれば、トラブルが起きた時などに初動が圧倒的に早くなる。

 ・「転がりながら味方を見つける」
初めてやることに対して、周りはとにかく否定的。そういう中で、
小さくてもよいから成功事例を作っていくことで、自然と周りに成果
が認知され、味方が増えていく。

 ・「事業よりも先回りする」
アンテナを常に高くして、調達購買をきっかけで価値を生むこと。
例えば全く新しい地域にあっても、カンバンを出せば自然と仕事が
回ってきたりする。

他にも色々と伝わりやすく、重要な言葉がありますが、今回は
これらの言葉を、クリスマス及び年末の皆さんへのプレゼントに替え
させていただきます。

それではメリークリスマス&良いお年をお迎えください。


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