2016年06月30日

英国のEU離脱からわかった3つの気づき

先週末のことです。
英国の国民投票でEU離脱が過半数をとったのです。またそれと同時にキャンベル首相は
辞意を表明しました。
英国のEU離脱が今後のEUや世界経済、日本経済、日本企業やサプライチェーンにどの
ような影響を与えるかについては色々な方が語っていますので、ここでは今回の件から
私が気がついた点についてポロポロと述べていきます。

今回、EU離脱派が過半数をとった理由としてまず上げられているのは移民の問題です。
実際に英国の移民人口はEUの中でもドイツに次ぐ841万人と言われています。
これは総人口比ですと13.0%でドイツの12.6%を超える数字です。また、移民人口の全人口
に占める比率は2000年には7.9%だったものが、特に2007年以降増加し2015年には13.0%に
まで上昇していることを見るとこれは相当のスピードで移民が増えているんだな、ということ
がわかります。特に英国はEU域内からの移民人口でEU諸国の中でもずば抜けて多い28万
人が移民してきている(2014年)ことからも、やはり英国では移民は相当増えており、日々の
生活の中でもそれを実感する機会が多くある、というのが理解できるでしょう。

ちなみに日本には移民人口という統計自体がありませんが外国人人口比率は2010年で1.3%
となっており、比較にならないことがわかります。
英国同様にドイツ、フランス、スペイン、イタリアなどのEU主要国でも移民人口は500万人
を超えています。また人口比率で見てもドイツ、フランス、スウェーデン、スペインなどの
EU諸国では全人口の10%を超える人が移民です。またこれは2000年代中盤以降特に増加
しているようす。

移民が多いことには理由があります。

これはEU域内での労働力の流動化を促進している政策によるものが一つの理由です。
EU(厳密に言うとEEA+スイス)では、労働移動の円滑化と権利保護のための法整備が
されています。具体的には各国の労働市場は他の加盟国の労働者に原則として開放されて
いることをEU法で規定しているのです。これはある経済理論を元にしています。

皆さんは「最適通貨圏の理論」というものを聞いたことがあるでしょうか。
「最適通貨圏の理論」とは、「最適通貨圏を決定する考え方の基本には、共通通貨圏に
おいては、各国間の経済的格差を為替相場の変動によって調整することができないため
他の手段によって調整しなければならない。こうした他の手段を持った地域であるかどうか
が、最適通貨圏の要件となる。」というものになります。

他の手段とは生産要素価格(財や労働力など)の伸縮性があるかどうか、でありまた財政
による所得分配も、その手段となりえます。あとは生産要素の移動性の高さです。
例えば日本の場合、東京も沖縄も同じ円を共通通貨として使っている訳ですが、地域に
よって所得額や生産性も異なるので、それを調整しているのが地域間の賃金等の格差で
あったり、財政の地方への交付金であったり。また今の日本が全くその世界になっています
が、所得が高い地域へ労働者が集まるとか、コストが安いところに資本を投下する
(工場を地方に作る)などで同じ通貨を同じ価値で使うことを成り立たせています。
これが「最適通貨圏の理論」です。

EUの場合は財政機能がないので財政による所得再分配はできません。また価格の伸縮性
についても賃金は下方硬直性がありますので、例えばギリシャはEU内でも生産性が低いから
今以上に賃金を下げましょう、ということは難しくなります。そうすると生産要素の移動によって
地域間の調整を行わないとなりません。

当初EU統合する際には特に製造業は労働コストが低い東欧に移転するだろうと言われて
いました。しかし蓋をあけてみると業種や国によって異なるものの業種の棲み分けは進んだ
ものの、ドイツ、フランスなどの先進国側に工場は依然残っているようです。また2004年の
EU拡大までは労働力移動、つまり移民ですが、これもそれほど進まなかったと言われて
います。当初の評価はそのようなものだったのです。

そこで英国(EU)は様々な積極的な移民受け入れ政策を行い、2004年のEU15カ国から25カ国
への拡大が重なって流入する移民は意図を超えて急増していったのです。またこれは英国で
当時政権を握っていた労働党政権の政策にもよるものでした。

移民は自国の労働力人口の増加につながります。その面では経済にプラスの効果をもたら
します。しかし自国の所得につながる反面、元々の国民の仕事を奪うことにもつながります。
ですから移民に対する国民のイメージは必ずしもよくありません。
手元にISSPという期間が2013年におこなった調査がありますが、それによると英国では
「移民に仕事が奪われているか」というアンケートに対して51.3%の方がそう思う、どちらと
いえばそう思う、と答えていることからも移民に対する印象が悪いことがわかるでしょう。

今回の英国のEU離脱の理由として移民問題があげられていることにはこういう背景が
あるのです。ここまで述べてEU統合の条件として労働力の移動性が上げられていた訳ですが、
それが過ぎたために英国のEU離脱(決議)につながってしまったという皮肉な結果となっている
ことに気がつかれたことでしょう。

ちなみに移民と難民は違うものです。難民というのは自国の政治上の問題から身の危険
があり逃げざるを得ない人達のことを指します。シリアから多くの人がヨーロッパに逃げて
きているのが難民であり、どうしてもそのシーンを想像してしまいますがそれは移民の
問題とは直接結びつきません。

それでは今回の件からの気づきは何でしょう。

労働力人口の増減はその国の経済環境に極めて大きな影響をもたらすということは言う
までもありませんし、ドイツなどは1972年より人口が自然減の状態であるのに対し移民の
純流入によりその減少をカバーしています。また、人の移動にともなう労働力流動の自由は
EU法の4つの自由にも上げられており、「最適通貨圏の理論」から考えても経済学的には
正しいでしょう。しかし「経済学だけで世界が動いている訳ではない。」というのが一つ目の
気づきです。

先ほどの移民に仕事が奪われているかというアンケート調査結果もそうですし、ドイツの
意識調査でも移民は問題か、それとも機会拡大をもたらしているか、という設問に対して
問題だと答えた方の比率が英国では64%にも上っています。このように様々な誤解や認識
不足はあるものの移民や労働力の移転に対してネガティブな印象があることは紛れもない
事実です。

2点目は労働力移動は極めて容易に起こり得る、ということです。これは実際に圧倒的な
勢いでEU域内で後進国から先進国への人口移動が行われていることからも言えます。
EU域内では資本の移動の自由も基本原則になっていますが、資本の移動なんかより
圧倒的なスピードで人は移動するものです。これはインターネットによる情報伝達スピード
や物的流通のスピードアップにより世界が小さくなったことも要因となっています。人の移動
は従来に比較するとそれほど高いリスクを感じることもなく、実際に移り住むことも、もはや
大きなハードルではなくなった、ということです。

3点目は労働力人口の政策的なコントロールは極めて難しいということ。現状日本では
全人口の自然減が始まっており、労働力人口を増加させるために女性や高齢者の
活用や出生率を上げることを政府は目指しています。しかし現状の日本の社会の中で
これらの全員が活躍できるような機会を作っても限界があるでしょう。
一方移民を受け入れるとなった場合には、どのような目的でどこからどのような人を受け
入れていくか、というしっかりした政策があっても(実際にEUにもブルーカード制などが
ありますが)中々流出入をコントロールすることは難しいということです。

これらの3つの気づきは日本の今後の経済政策を考える上でも役に立ちます。
私は日本は今後の経済成長や活力を向上させるためにもっと移民を受け入れるべきだと
考えています。その上で現状の英国をはじめとしたEUの状況を参考になる機会として捉える
べきでしょう。



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2016年06月17日

トヨタの復旧支援活動に見る能力の源泉

手元に非常に興味深い資料が2つあります。一つは2007年の中越沖地震時のRi社に
対するトヨタ自動車の復旧支援に関する資料であり、もう一つは2011年の東日本大震災
時のRe社に対するトヨタ自動車の復旧支援に関する資料です。

今回はこの資料の中からトヨタの復興支援のやり方や危機管理のあるべき姿について
トピックスを紹介していきます。

まずは復旧時の基本方針です。
トヨタの復旧時の基本方針は「一に人命、二に地域、三に生産」。まずは人道支援、地域
の早期復旧を行った上で、生産復旧を行う、というのが基本方針となっています。

それから、これは平時でも同様のトヨタの文化とも言えますが、やはり「現地現物主義」を
徹底しているとのこと。具体的には、判断は被害状況が一番わかっている現場に任せ
本社は口出しをしないという方針です。

次は生産復旧の基本的な考え方ですが、「被災工場の生産再開が最優先」という考え方
を持っています。それがどうしても難しい場合は「同一仕入先の他工場へ生産移管」。
それも難しい場合のみ「新規開発による代替または発注先の変更を行う」という方針が
明確になっていてあくまでも生産復旧をさせて平常時に戻すことに注力するのです。

このような基本方針、基本的な考え方によって、2011年の東日本大震災時のRe社の
復旧支援が行われました。
ここからはこの東日本大震災におけるRe社の復旧活動の進め方についてポイントを
上げます。まずは先遣隊メンバーが入ります。今回の事案では他自動車メーカーとの
合同チームと言う形で約20名のメンバーが現場に入り、復旧チームや復旧計画づくり
に取りかかっていきました。その上で復旧戦略・計画に基づき復旧活動を進めていく
のです。

復旧活動における一つ目のポイントは「安全」を最優先にすることが上げられます。
具体的には工場内の「見える化」を行い構内ハザードのマップ化をして、どこにどの
ようなハザードがあるか、小学生でもわかるレベルにして掲示する。また復旧時には
24時間体制で診てもらえる診療所を設け、何かあった時に対応できる体制を整える
等復旧チームの人命や安全を第一に優先したとのことです。

2つ目のポイントはチームの一体感作りのための仕組みと仕掛けづくり。今回の事案
での総支援者数はインフラ復旧フェーズで約5000人/日にも上ったということで、これら
のチームを運営していくために様々な仕組みを用意したとのことです。まずはチームで
共有できるスローガンを作っています。
対策本部スローガンとして「早め、大目の手配、大いに結構!」「会社の枠を超えろ!」
などを掲げ、全活動部屋にスローガンを貼り、判断・行動の拠り所にしていたとのこと。
また日程の一元管理と見える化を推進しネック工程を見える化する他、チーム組織の
人員情報などは壁一面に名刺を貼り、携帯番号を書いておくことで、すぐに連絡が取り
合えるような仕掛けを用意したそうです。またチーム内の情報共有のため、様々な
ミーティング連日行っており、この密なコミュニケーションの仕掛けが様々な企業の人材
で構成されるチームの信頼関係をつくることにつながったとのこと。合わせて情報管理に
ついてはトヨタの「大部屋」方式や「見える化」方式を採用し、全員参加の「情報共有」、
「即断即決」、「異常だけを報告し、皆で集中し知恵出し」をポリシーとして共有を図って
いたそうです。

Re社の復旧活動は戦略立案からスタートし、インフラ復旧、そこから装置復旧、製品
生産再開というステップで推進されました。最終的な製品生産再開の段階では復旧の
ポリシーとして「顧客に関係なく、品質・技術に難度の高いものから取りかかる」ことを
実行し、支援者が自社で使う製品にこだわることがないように全て暗号化して進めた
とのことです。

このような復旧支援の活動により当初は12月末と見込まれていた生産再開が6月末の
復旧を可能にし、全面生産再開も当初計画比で約6ヵ月の短縮につなげることができ
ました。

このような早期復旧を可能にしたのはリーダーシップを持つ特定の人がいたからでも、
優秀なコンサルタントがいたからでもありません。過去の災害時の対応や日頃から
発生する問題に対し即改善していくことができる能力を日々鍛えられているからできた
ことなのです。

それを裏付けるように2007年の中越沖地震の際のRi社への復旧支援についてもトヨタ
は同様の手法をとっています。この事案でもトヨタから一番最初にRi社にかけつけた
のは、約20名の先遣隊でした。そのチームには自衛隊やレスキュー隊の経験者だけ
でなく、宿舎や食事、車などの手配を自前で行うための総務部門もいたそうです。

またこの時も当時の渡辺社長は「無理して操業を維持する必要はない。生産ラインが
止まることは覚悟の上である。」とコメントしていたとのこと。正に復旧時の基本方針や
考え方が受け継がれていると言えます。

その底流にあるのは緊急時においても定常時においても共通するこの考え方です。
「トヨタは目先のラインを止めないことを第一義的な目的にするのではなく、自分たちが
やってきたトヨタ生産方式を守りぬくことが目的なのです。そのためには早く復旧させて
定常の状態で工場を動かすこと、これを最大の目的とする。」

また「定常の状態で工場を動かすこと」という意味には、自社の製品生産のためだけに
復旧支援活動をしているということではなく、自社の生産に直接関係しないような設備
の復旧に関しても支援をしています。これは中越沖地震の際にも言われており、他社の
中には「自社製品に使う生産再開が大丈夫であれば問題ない」という対応が一部見られ
たのに対して対照的であったと言われていました。
これは東日本大震災時にも受け継がれました。東日本大震災の際に復旧チームでは
「自社の製品の話をした者は帰れ」ということが合言葉になっていたそうです。「定常の
状態で工場を動かす」という対象は正に被災した工場全体を意味しているのです。

このように「トヨタ生産方式を守りぬく」という大きな目的や価値観の共有が全社員に
できていること、また日常的な問題解決能力や現場力の強化、取引先との信頼関係が
構築されているからこそ、このような危機管理能力や素晴らしい復旧活動が実現できて
いるのでしょう。

今年の4月から起きている熊本大地震や部品工場での災害など、サプライチェーンが
断絶する事案が昨今目立っていますが、それでもトヨタを初めとした日本製造業は
日々その危機管理能力や復旧能力を高めており、自社の強みにつなげていることが
理解できるでしょう。



nomachi0306 at 11:39|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2016年06月03日

異業種格闘技がもたらす将来

今回も調達購買からやや離れ、前回のメルマガでもふれた異業種格闘技について書き
ます。

早稲田大学ビジネススクール教授である内田和成先生が2009年に執筆された本である
「異業種競争戦略」(日本経済新聞出版社)は非常に興味深い本です。この本は、従来
であれば業界内での企業間競争であったものが、様々な技術革新やビジネスモデルの
進化により事業連鎖(製品や事業をまたがる、より広範な事業間のかかわり)の中で
異業種企業間での覇権争いになりつつあること。また、そこに目を向けていかないと
企業や業界の競争優位を保てなくなる、という内容です。

この本は2009年に発刊されたもので本の中ではカメラ業界や音楽業界などにおける
構造変化を事例として取り上げています。7年経った現在ではこのような異業種格闘技
は我々の身の回りで当たり前のように起きていることを実感できるのです。

先日エンタメ業界のバイヤーと話をしていて出てきた言葉は「競合相手はスマホゲーム」
ということでした。またある食品メーカーのバイヤーとの話題ではコンビニのPB
(プライベートブランド)品のことであり、PB品本音ではやりたくないが、やらないと製品が
売れない、という話をされていました。いずれにしても今は製品の良し悪しよりも如何に
コンビニに自社製品を置いてもらうか、これが売れるか売れないかの重要な決定要因
である、という話に象徴されるように消費者向け日用品や食品市場の覇権は既に
コンビニエンスストアが持っていることを誰も否定できません。

典型的なピラミッド構造と考えられていた自動車市場においても完成車メーカーに対して
メガサプライヤを代表とした自動車部品メーカーの地位が相対的に上がっていることは
前回のメルマガでも書きました。このように上意下達の典型例と言われていた自動車業界
においてもこのような異業種格闘技がおきつつあるのです。

このような時代になってきているのですが、先日トヨタが米ウーバー(Uber)テクノロジー社
と提携するという発表がありました。ウーバー社は自動車配車の仕組みを運営する企業で
タクシー配車に加え、一般人が自分の空き時間と自家用車を使って他人を運ぶ仕組みを
構築している米企業です。ウーバー社のビジネスモデルのユニークさは、個人の自家用車
をシェアするというところですが、トヨタはウーバーのドライバー向けに自動車リースを提供
しそこでシェアを獲得したいというのが提携の表向きの狙いとのこと。しかし、今回の提携
は車を保有するのではなく、必要な時に使いたいというシェアリングニーズが進む中で
自動車市場の将来に向けてトヨタが布石を打ったという捉え方をしている人もいるようです。

具体的にはADAS(先進運転支援システム)や自動運転が進展すると、自動車はモータリ
ゼーションではなく、単なるトランスポーテーションの一手段と捉えられ始め、将来的には
自動車のシェアリングは一気に進展すると予測されます。そうなるとウーバーのような
シェアリングモデルはタクシーやハイヤーの代替としてではなく自家用車の代替になって
いくでしょう。結果的には社会全体で車の稼働率が上がることになり、車の総需要台数は
激減する(必要なくなる)方向です。今回の提携はこのような自動車市場の構造変化を
考えた上でのものではないか、という見方なのでしょう。

私は日本のマーケットではこのようなシェアリングのニーズは乗用よりも貨物用途の方が
高いと考えます。実際に米国ではinstacartという買い物代行事業者やアマゾンのFlexと
いうサービスなど貨物版ウーバーのサービスモデルが生まれ始めているようです。

4月14日の夜に熊本地震が始まりましたが、同日にトヨタとホンダが通れる道の地図情報
(トヨタ「通れた道マップ」ホンダ「道路通行実績情報」)を公開しました。これは両社が通信
機能を持つカーナビからの情報を元に作成公開したものです。このような情報サービスが
非常に短時間に取得・加工・公開できるということは驚くべきことです。

このような乗用車の通行情報だけでなく、貨物運搬可否情報や運行予定情報などが取得
できれば物流は爆発的に効率化されるでしょう。物流は実働率と実車率を掛け合わせると
モノを実際に運搬している比率になりますが、営業用車でもこの数値は50%程度です。
つまり半分は車庫に眠っていたり、荷物を積まないで走ったりしています。この数値からも
運行情報とシェアリングモデルにより物流が大幅に効率化される余地は残っているのです。

現在、物流の大きな問題とされるラストマイルの問題ですが、このような情報活用とシェア
リングモデルで解決される可能性は高いと考えられます。ADASや自動運転化は事故の
リスクを低減し、従来なら、プロでないと運べない、もしくはプロ以外の人に運転してもらい
たくない、といった制約が限りなく低くなるでしょう。これは一層シェアリングモデルの活用を
進展させる要因になります。

将来をイメージするとこういう感じでしょう。自動運転カーをレンタルしカーナビに行き先を
インプットすると貨物情報や乗り合い情報(ニーズ)が提示される。そこでついでに荷物を
運ぶとレンタル費用が割引になる。これを個人がやったり自動運転カーを保有する事業者
がやったりする時代になるのです。

ラストマイル問題が解消されれば物流費用は安くなります。ネットスーパーは益々盛んに
なり消費者向け食料品や日用品などの市場では異業種格闘技の結果コンビニに代わる
覇権を持つ新しいプレイヤーが出てくる可能性もあるでしょう。アマゾンなどはその候補
なのではないでしょうか。

いずれにしてもこのような時代になると多くの異業種格闘技が日々行われる世界になり
ます。内田先生の著書からの引用です。「異業種格闘技は何でもありの世界であり、
『これが正しい』といった唯一の解はありません。どこから弾が飛んでくるかわからない、
攻めるにやさしく守るに難しい世界です。・・」
正にどこから弾が飛んでくるかわからない世界になりつつあるのです。

もちろん、現実的には様々な規制やクリアしなければならない制約はとても多いでしょう。
それにしても日々異業種格闘技を見ることができる面白い世の中になったと感じます。



nomachi0306 at 14:07|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2016年05月20日

三菱自動車の不正燃費問題の背景にある構造変化

三菱自動車の不正燃費問題は日産自動車による三菱自動車への出資という形にまで
つながってしまいました。今回の問題については三菱自動車の企業風土について問題
指摘がなされたり、CSRを重視しない企業は事業存続が危うくなるなどの社会的な環境
変化を印象づけるものと言えます。
一方で背景には自動車市場の構造変化と自動車そのものの構造変化という2つの構造
変化が影響をもたらしていると私は考えます。

自動車市場の構造変化はニーズの変化という形でモータリゼーションの進化と共に
変化してきました。従来国内自動車メーカーは国内中心の事業(生産、販売)であり、
製品ライナップは小型車から大型車までの一連のライナップを持っていることが望まれ
ていたのです。一時期のコマーシャルで「いつかはクラウン」というコピーがありましたが、
このコピーが象徴するように車格というヒエラルヒーの中で買い替えを促していく、という
のがモータリゼーション初期のころの自動車メーカーの戦略であり、市場のニーズでした。

そのニーズを変化させたきっかけがRVの出現です。RVとはレクリエーショナルビークル
の略称であり、4WDや車室の広い様々な用途に適した車です。自動車に対するニーズ
はRVの出現で変わりました。今までの小型車から大型車へのヒエラルヒーを壊し、アウト
ドアブームやポストバブル期のファミリー重視の価値観に合致し、90年代初めに普及した
のです。

三菱自動車はこのRVのブームを引っ張る存在でした。デリカやパジェロなどを始めと
したRVで一世を風靡しました。一時期にはパジェロをシリーズ化し、軽のパジェロから
大型パジェロまでライナップしていたのです。しかし、RVブームも4WDなどの高価格車
のブームは去り、ワゴン車などにそのニーズは移行していきました。また、特に90年代後半
から2000年代前半にかけての失われた10年の時期には自動車メーカー11社体制は数が
多すぎると言われながらもアジアや中国などの新興市場需要により各社とも存続し、
乗用車メーカーについては目立った再編は起きなかったのです。

一方で2000年代前半から自動車に対するニーズはまた大きく変化しました。ハイブリッド、
クリーンディーゼルなどの燃費、環境へ市場ニーズは変わったのです。プリウス、アクアが
ヒットするなど、従来のRVが担っていたヒエラルヒーの打破をこれらの車が担うようになり
ました。現在は欧米メーカーに先行されているものの、今後は自動ブレーキシステムなど
に代表されるADAS(先進運転支援システム)が市場ニーズを変化させていくと私は考え
ます。つまり燃費、環境は当たり前で、その上で安全、安心、快適などにニーズがシフト
していくでしょう。ADASの技術革新の先には自動運転化があり、従来「運転を楽しむ」と
いう市場はニッチ化し「楽に運転できる」ニーズが高まり、最終的にはモータリゼーションは
トランスポーテーションの手段となっていくと考えられます。

今回の事案はこういう自動車市場の構造変化の中で起きたことです。もしRV全盛の時代
であればそもそも燃費に厳しい目標を立てることも燃費を偽装することもなかったでしょう。
(90年代とかの過去にもこういう不正問題がなかったかどうかは不明ですが)そういう意味
では自動車市場の構造変化に追いついていけなかった企業による無理を不正で隠そうと
したというのが今回の事案の背景にある問題なのではないかと考えられます。

もう一つの視点は自動車そのものの構造変化です。言うまでもなく現在の自動車はどんどん
技術が複合化しています。特にハイテク技術に関しては、マイコンから始まり、エアバッグ、
ハイブリッド車用バッテリー、ADAS、今後の自動運転化に伴い、益々技術は複合化する
方向です。一方でこの複合化する技術を完成車メーカーが全て開発している訳ではありま
せん。ADASなどはむしろシステムサプライヤがその開発の主体を担っています。
(あくまでも推測ですが。。)
完成車メーカーはシステムサプライヤが開発したシステムを買ってくることになりますし、
実際に現状のADASはどこの完成車メーカーの車でも同じような機能が同程度の価格で
装備されています。これらの技術や機能は部品メーカーのノウハウであり付加価値と
言えます。

自動車部品メーカーは完成車メーカー以上に系列の崩壊や統合によるメガサプライヤ化
が既に進んでいます。このような自動車の構造変化でメガサプライヤの力はますます
強くなっています。完成車メーカーは改めてサプライヤーとの関係性を定義し直す
必要も出てくるでしょう。このような自動車そのものの構造改革は製品の競争優位が
完成車メーカーから部品メーカーが持つことのきっかけになります。自動車メーカーは
今まで車の基本性能やデザインを競争優位の源泉にしてきました。三菱自動車では
その象徴がRVやラリーカーだったのです。しかし、車が売れる競争優位の源泉が基本
機能やデザインではなく、燃費、環境、安全、安心、快適などにシフトすることによって
完成車メーカーに対して部品メーカーの力が相対的に強くなってきたと言えます。

今後完成車メーカーは競争優位の源泉を確保するために非常に厳しい立場に置かれる
でしょう。市場ニーズを満たす競争優位の源泉を直接的に持つ立場にいられなくなれば
一層の合従連衡が起こることも予想されます。

以前「異業種競争戦略」をこのメルマガでも取り上げました。
http://www.agile-associates.com/2013/11/20131126.html
深いピラミッド構造と言われ上意下達が徹底されていると言われるこの自動車業界に
おいてもこのような環境変化の元、完成車メーカーと部品メーカーの競争が起きつつ
あるのです。今回の三菱自動車の問題の背景にはこのような2つの自動車を巡る
構造変化があると言えるでしょう。



nomachi0306 at 16:00|PermalinkComments(0)TrackBack(0)