2008年03月

2008年03月28日

バイヤーの新しい職場(投稿者:しょーいち)

最近、購買のキャリアを積んだ人材の新しい職場に関する記事を読んだので
今日はその話をします。

年初に発刊された米国の購買関連の月刊誌に、
“ここ数年、Private Equity Firm(ここでは「事業再生会社」といいます)
に就職し手腕を発揮する人材が増えている”という記事が掲載されていました。
〜Private Equityとは、再生先企業に出資し経営にテコ入れしたうえで、
企業価値を高め株式売却益を得る業態の企業のことです。
米国ではサーベラス社などが有名です〜

事業再生会社が、購買のスキルを持った人材を採用する理由として
下記の件があげられます。
・ソーシング戦略の立て直しにより、
 出資先企業の利益やキャッシュフローを改善するため
・出資前の企業の評価をするため
 (=ソーシング戦略の立て直しによって、
  出資先企業がどこまで再生可能か評価するため)

以前は、事業再生会社は、
マッキンゼーやボストンコンサルティングのような
経営戦略系のコンサルティング会社を使っていました。
しかし、最近の事業再生会社は、
それらのコンサルティング会社に加えて、
購買のスキルを持った人材を、
前職の2倍の給与を提示して引き抜いています。

製造業においては、発生費用のほとんどを
外部調達費が占めていますから、ソーシングの立て直しによって、
出資先企業の利益が改善される、従って、事業再生会社は、
高い購買のスキルを有した人材を集めて、
出資先に送り込むことによって効率良く事業再生ができる、
というのは、昔も今も変わりはないと考えられます。

ではなぜ最近、事業再生会社は、
購買人材を多く採用するようになったのでしょうか?

調達のグローバル化、調達する材のハイテク化、
またはサプライチェーンの複雑化によって、
購買の仕事が高度の専門スキルを要するようになったため、
ジェネラルな経営戦略系のコンサルティング会社の手に負えなくなり、
購買プロフェッショナルとの分業が必要になったためである
と私は推測しています。
即ち、事業再生会社のバイヤーと経営戦略系のコンサルティング会社が
補完しあいながら、仕事を進めていかないと
事業再生がうまくいかなくなってきたということです。
(以前は、バイヤーが経営戦略系のコンサルタントと
協業することは考えられなかったことですが)  

今後、日本でもバイヤー職が高度の専門職になっていくに従って、
様々な活躍の場が生まれてきます。
同時に、そこでは今までとは違った職種の人材と協業していく能力も
必要になってくるだろうと記事を読んで思いました。



nomachi0306 at 10:00|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2008年03月24日

小売バイヤーと製造購買に求められる資質の違い(投稿者:野町直弘)

私が愛読しているメルマガの一つに


「現役バイヤーが語る今どきの営業とバイヤーのあり方」があります。

このメルマガは小売現役バイヤーの藤野さんが書かれているもので、
同じバイヤー職であっても、製造系バイヤーと小売バイヤーに
違いや共通点の新たな発見があり、たいへん興味深いです。

今週のテーマは「バイヤーになる方法」という内容で
バイヤー、マーチャンタイザーの方たちがどういう経歴を持っているか、
という内容でした。

とても驚いたのですが
『「新卒で入社して最初からバイヤー」という経歴は一度も聞いたことがない』
『接客経験と、売場運営経験の有る方が80%』ということです。

正確に調査をした訳ではないのですが、
製造系の購買部、資材部、調達部の場合は、全く違ったデータになる筈です。

私の感覚では「営業」→「購買」という職歴を持つ人は多分全体の数%、
また、新卒から「購買」に配属されて、3年後に異動、
もしくはそのままずっと「購買」という方が
全体の6割程度なのではないか、と思います。

また最近は職種別採用がより進んでおり、入社以来ずっと「購買」
という方はこれからも増加する傾向だと思います。

同じ「物を買う」という仕事なのに、何でこんなに違うのでしょうか?

小売バイヤーの場合「売れる物を仕入れる」のがその役割ですし、
ある意味「接客経験」「売場運営経験」がないと機能しないでしょう。
「売れる」かどうかは理論だけでなく感性に頼るところもあり、
それらは属人的な能力です。
属人的な能力の成長は現場経験やOJTに頼らざるを得ないのでしょう。
そのためある程度の経験者、それも販売の経験が必要、というのは頷けます。

一方で製造系バイヤーの場合、
昔から考えると大分仕事の内容は変わりつつあるものの
「販売」→「企画」→「設計」→「製造」→「購買」という流れの中で
決められた物を如何に上手く買うのか、ということに
視点があてられていることは確かだと思います。

また一方で「新人」でも、その道20年の「ベテラン」でも
基本的なビジネスマナーから、品目ナレッジ、コミュニケーション力、
サプライヤ評価、BS/PLの見方から経営指南まで、
同様のスキルや知識を求められます。
つまり「新人」の勉強の場としてはうってつけです。

それなりの理由があって、それぞれの経歴特性の違いがでているのでしょう。

ただどうでしょう。敢えて言うのであれば、製造系バイヤーは
もっと営業マインドや経験を持っていてもよい筈です。
もっと言えば、入社後、経理、人事、生産管理、営業、企画などの
各職種をローテーションして
入社5-6年後にキャリアゴールの購買専門職に従事する→
マネジャークラスで子会社のマネジメントで出向→親元に戻り購買部長へ。
というようなキャリアはあり得ないでしょうか?

そのためには購買専門職のゴールポジションが必要です。
ちなみに米国のCPO(Chief Procurement Officer)の平均年収は$336,000、
平均年齢は50歳、購買経験年数は20年。
購買部長の平均年収は$160,525、平均年齢は46歳、
購買経験年数は15年だそうです。

私が入社した当時CFO(Chief Financial Officer)のポジションは
日本企業ではありませんでした。
そう考えると数年後にCPOのゴールポジションができることも
(年収は難しいかもしれませんが)
あながち無理とは言えないのではないでしょうか?



nomachi0306 at 10:10|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2008年03月14日

「だったら本」増版が決まりました!!(投稿者:野町直弘)

ひつこいようですが、、

”製造業の現場バイヤーが教える 「だったら、世界一の購買部をつくってみろ!」”増版が決まりました。

ブログでも取り上げられております。有難うございます。

バイヤーKAORIのつれづれなるブログ

バイヤー三木谷の『俺流』

世界一のバイヤーになってみろ!!坂口孝則の本棚と雑文

それからここにも

中日読書サロン

是非読まれた方はご意見、ご感想をお寄せください。

 

 



nomachi0306 at 16:57|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

賃金格差とバイヤー評価(投稿者:しょーいち)

先日読んだ週刊誌の記事に、賃金格差について触れていましたので、
今日はその記事を読んで元バイヤーとして考えたことを話したいと思います。
その記事では、賃金格差は、
「大企業vs中小企業」「正社員vs非正社員」「都市vs地方」
の構図で解説されています。
この中で、バイヤー業務に最も密接に関連するのは、
「大企業vs中小企業」の関係なので、この点について絞って話をします。

“東京都内の中小企業は、発注元である大手企業の
購買からの値下げ要求で、毎年単価を3割以上カットせざるを得ない。
一方で、原料の値上がり圧力もあり、
従業員の賃金を削るくらいしか生き残る道はない”
というような記事内容でした。

今の環境を考えると、大企業のバイヤーの値下げ圧力が、
中小企業で働く人の賃金の引き下げ圧力となっている
というのは容易に想像できます。
また、大企業が一次下請に値下げ要求をすると、さらに二次、三次へと
値下げの連鎖が起こり、賃金引下げの連鎖も同時に起こっています。

大企業は、コスト削減成果をあげるバイヤーを高く評価します。
また、バイヤーの中には
“私は、競合メーカーを導入してコスト削減の成果を上げているだけ。
競争の結果として価格引下げが起こるのは当然”
という方も多いと思います。

反面、バイヤーの立場を離れて、世の中全体を見ると、
バイヤーが安く調達するということが、
(バイヤーの)関知しない間に賃金格差拡大の引き金となっていたり、
中小企業から人材育成の余力を奪う結果となることも
現実として起こっています。
これは将来の日本の国力を下げる要因ともなると思っています。
〜良心的なバイヤーは、自分の値下げの結果として、
一次下請企業の賃金引下げが起これば、
心が痛んで手心を加えるようなことをしています。
しかし、値下げ交渉の結果として、ニ次、三次で、何が起こっているかは
ほとんどのバイヤーにとって関心の外ではないでしょうか?〜 

自分の仕事がサプライチェーン全体にどのような影響を与えるかを考えずに、
自分の評価を上げるためにコスト削減を追及するバイヤーが増えると、
世の中がおかしくなるのでは?と、私は危惧しています。
「バイヤーとして自社の利益に貢献すること」と、
「サプライチェーン全体を良くすること」とを両立することは
難しいようですが、企業毎に最適な手法はあるはずです。
具体的には、CSRとコスト削減を両立させる手法や開発購買かも知れませんし、
VOS(Voice of Supplier)のような新手法の導入であるかも知れません。
但し、表面に見えるコスト削減の額や率の大きさを評価する
単純な方法ではないことは確かです。

これから高く評価されるバイヤーは、この最適手法を自分の頭で導きだし、
経営層に説明できる人ではないでしょうか?

注)VOSとは、サプライヤーがバイヤー企業を評価する手法であり、
米国の先進的な企業においては、自社購買部を評価し
改善する手法として取り入れられています。



nomachi0306 at 10:00|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2008年03月10日

現場学と物語(投稿者:野町直弘)

引き続き
“製造業の現場バイヤーが教える 
     「だったら、世界一の購買部をつくってみろ!」”

に関連する話です。

この本では調達・購買の現場で
普通に起きているトピックを取り上げています。

なかでも5章「新規商品開発」で述べられているのは、
設計部門や製造部門の反対を押し切って購買部が主導して選定した
サプライヤが起こした品質・納品トラブルとその対応です。

製造業では、新規商品開発時に通常数回の試作と工場試作を繰り返し、
品質や納期の改善、安定化を行っていきます。
その過程で品質トラブルが起こり納期が遅延する、
といった現象は日常茶飯事です。

しかし、そういうトラブルに対してどのように対応すればよいか、
という点に関しては誰も教えてくれませんし、
ましてや教科書本やマニュアルには一切書かれていません。

この本が目指したのは、こういうよくある現場の問題を
どう解決していけばよいかについて指針を示してあげることでした。

出版社の編集者によると、これが「現場学」だということです。

元々、日本の企業においてはOJT(オンザジョブトレーニング)や
職人の技を盗むと言った点で「現場学」が継承されたのだと思います。
しかし近年
「人材の流動化」
「現場でのコミュニケーションの不足」
「管理や教育に専念する(いじわるな?)課長さんや係長さんがいなくなったこと」
「プロセス標準化」等々の様々な要因により、
この「現場学」がなくなりつつるのかもしれません。

最近「現場学」や「現場力」という言葉をよく耳にするようになりましたが、
これはこういう力がだんだんと、なくなってきているからなのでしょう。

実際にOJTが崩壊しているという話を企業さんから聞くこともあります。
それではOJTが崩壊しつつある中でどのような方法で
「現場学」を学べばよいのでしょうか?

私は「物語」「ロールプレイ」「ケーススタディ」のような疑似体験が
「現場学」習得に役に立つと思っています。

つまり、現場で学ぶ環境を疑似的に場を作ることで学ばせるということです。

今回の本で共同執筆者とともに我々が物語にこだわったのは
こういう理由からです。

一方で、この本の物語はあくまでも一例でしかありません。
全てのバイヤー、いやビジネスパーソンがそれぞれの物語を持っているのです。
その物語を多くの人たちが共有することができれば、
日本企業の「現場学」は進んでいき「現場力」は向上すると思います。

やはり編集者のお言葉をお借りすると
『本書は、教科書的な知識ではない「現場学」を教えるというもの。
本来(現場学)は教えるものではなく、感じ取るものだけに、
知識を鵜呑みにするのではなく、ストーリーの中で「私ならこうする」
という視点をもって読み進めて欲しい。』
ということです。



nomachi0306 at 14:09|PermalinkComments(2)TrackBack(0)