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(リムパック2016に参加しているイージス艦「ちょうかい」自作CGイメージ)


日米韓が初のミサイル防衛合同演習


現在、27か国が参加する軍事演習「環太平洋合同演習(リムパック)」がハワイ沖・米本土西岸沖で行われています。その中で、対北朝鮮弾道ミサイルを想定して日米韓3か国がミサイル警戒演習「パシフィック・ドラゴン2016」を行いました。パシフィック・ドラゴンは日米が隔年で継続している演習で、初めて韓国海軍が参加しました。

Trilateral Pacific Dragon ballistic missile defense exercise concludes (2016/6/28 米海軍)

演習に参加したのは、日本から「ちょうかい」、米国から「ジョン・ポール・ジョーンズ」と「シャウプ」、韓国から「世宗大王」と「カンガムチャン」(←イージス艦ではないです)の4隻。この演習は2014年に3か国間で署名された「北朝鮮による核及びミサイルの脅威に関する日本国防衛省、大韓民国国防部及びアメリカ合衆国国防省の間の三者間情報共有取決め」(TISA)に基づくものです。

演習には迎撃訓練は含まれておらず、3か国のイージス艦が仮想の弾道ミサイル標的を探知・追跡し、それぞれ探知したミサイルの情報を戦術データリンクで共有したようです。上記引用の米海軍サイトでは触れられていませんが、昨日の韓国報道において、情報は米国の陸上中継所を経由すると伝えられていました。


C2BMCはミサイル防衛の”頭脳”


陸上中継所とは、C2BMC(Command, Control, Battle Management and Communications)と呼ばれるものです。その名の通り、指揮・管制・戦闘管理・通信システムの機能を持つ指令所です。北朝鮮から発射された弾道ミサイルは、衛星や前方展開センサー・ノード(THAADレーダー、イージス艦レーダー、FPS-5、無人機など)によって探知・追跡され、ハワイにあるC2BMCへデータが送信されます。そのデータをもとにC2BMCは、目標の識別、飛翔コースの割り出し、目標の脅威度を判定し、優先順位をつけ、広範囲に分散配置されている複数のアセット(イージス艦やTHAAD、パトリオットなど)の中から最適な射手を調整、交戦の指令というようなことを行います(ミサイル防衛局サイト参照)。C2BMCが”頭脳”となり、複数のセンサー群/シューター群の各ノードがニアリアルタイムで連携してはじめて多層的な弾道ミサイル防衛を成立させるというわけなんですね。

弾道ミサイル防衛分野だけでなく、航空機や巡航ミサイル、無人機といった脅威の多様化を受けて、こうした指令・調整機能は防空システム分野においても具体的になってきています。統合防空・ミサイル防衛(IAMD)といったりしますね。陸上システムだとIBCS、海上システムだとDWESといったものもありますが、本稿ではちょっと趣きが違うので割愛。


日米ミサイル防衛と距離をとる韓国のミサイル防衛


北朝鮮から韓国領土への弾道ミサイル攻撃で用いられるのは、短距離弾道ミサイルのスカッド・シリーズです。大気圏外迎撃ミサイルであるイージス艦発射型のSM-3の出番はなく、PAC-3、PAC-2が主役となります。こうした安全保障上の要求から、KAMD(2020年までに構築予定の「韓国独自のミサイル防衛」)にとってイージスBMD(弾道ミサイル防衛)が十分なものでないのは確かです。選択の問題ですから、韓国イージス艦が日米のイージス艦に対して劣っているといったような話ではありませんが、少なくとも現時点で韓国のイージス艦に弾道ミサイル迎撃能力は付与されていません(探知・追跡能力はあります)。

また、このところの北朝鮮の弾道ミサイル能力向上を受けて在韓米軍のTHAAD配備はようやく開始しますが、依然として米主導のBMDに取り込まれることに韓国は必ずしも積極的な姿勢を見せていません。というのも、日米のBMDは限定的に中国の弾道ミサイル対処能力もあることから、日本とグアム、ハワイ、そして米本土を防衛するために中国の機嫌を損ねてまで米BMDにおいて重要な役割を果たすことは、韓国にとって軍事的にも政治的にもメリットが少ないという考えがあるようです。


韓国を取り込むことは日米にとって有益


スカッド迎撃、つまり韓国防衛には有効でないイージスBMDですが、日本攻撃用のノドンやグアム攻撃用のムスダン、そしてハワイを攻撃可能なKN-08(および改良型のKN-14)を迎撃する際には、その性能をフルに発揮することになります。前方展開センサー・ノードとして韓国を取り込んでいくことは、日米にとっては有益です。

今年初めには米韓がリンク16で連結されたことですし(日米間は以前から連結済)、弾道ミサイル対処において韓国からの情報がC2BMCへ送信されてこれまで以上に統合的に運用されれば、探知・追跡情報の精度が上がり、結果として迎撃の確率も上がります。日米韓の間でミサイル防衛の連携が深まることは大歓迎です。

日韓間にはご存知のとおりいろいろと溝があり、今回の演習でも日韓で情報共有することはないというような事前報道もあります。当面は米国をハブとする形にならざるを得ませんね。「MDシステムにおいて日本は同盟国の中で米国と相互運用能力が最も高いが、日韓間の情報共有不足が地域全体におけるMDシステムの効率的な運用を制限している」という指摘がCSISからあったとおり、せめて韓国が軍事情報包括保護協定(GSOMIA)締結をさっさとのんでくれるといいんですけどね。


【参考記事】
井上孝司、軍事とIT、7 弾道ミサイル防衛とC2BMC、2013/7/31
 ↑ 井上先生がC2BMCについてより端的に詳しく解説されておられるので、是非。 


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