極超音速兵器(Hypersonic Weapons)の開発に関する米議会報告書が発表されました。個人的に気になったところをメモ用にピックアップしました。米露中、その他の国の極超音速兵器の現状がざっくりと概観できる報告書です。

[PDF ]Congressional Research Service, Hypersonic Weapons: Background and Issues for Congress, September 17, 2019.

背景

国防省のFY2020における極超音速兵器関連の予算要求は26億ドル、ここに極超音速兵器防衛計画に1億5740万ドルが含まれている。

米議会としては、国防省の極超音速兵器計画を検討するうえで、その理論的解釈や予想コスト、戦略的安定性並びに軍備管理に関する影響について以下のような質疑が想定される;
  • 極超音速兵器が用いられるミッションとは何か?極超音速兵器はそれらのミッション実行に最も費用効果の高い手段であるか?統合作戦ドクトリンやコンセプトに組み込めるのか?
  • 極超音速兵器ミッション要件の定義が不十分なことを考慮すると、議会としては極超音速兵器計画の資金要求やそのバランス、テクノロジーの実現、試験用インフラ支援等をどのように評価すべきか?極超音速兵器研究の促進・テクノロジーの有効化、そして極超音速兵器防衛オプションは両方とも必要で技術的に実現可能なのか?
  • すべて可能であったとして、極超音速兵器に配備は戦略的安定にどのように影響するのか?
  • 新STARTの拡大、新たな多国間軍備管理合意の交渉、透明性・信頼醸成活動の実施というようなリスク低減策が必要か?

極超音速兵器には主に2つのカテゴリーがある;
  • 極超音速滑空体(Hypersonic glide vehicles(HGV)):ロケットから発射され、標的に向かって滑空する。
  • 極超音速巡航ミサイル(Hypersonic cruise missiles):高速・空気吸引エンジンまたはスクラムジェットで推進。
弾道ミサイルと異なり弾道軌道を描かず、目標の途中で機動が可能。通常弾頭型極超音速兵器は運動エネルギーのみで非強化目標や地下施設を破壊する。速度と機動性、そして低高度を飛翔することで、探知・防御を突破する。地上配備レーダーは極超音速兵器の飛行終末段階まで探知できない。
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探知を遅らせることは、意思決定者が対応策を評価するタイムラインおよび迎撃システムのタイムラインを圧縮し、迎撃の機会を1回に限定してしまう。地上配備レーダーと現在の宇宙配備センサーからなるアーキテクチャでは極超音速兵器を探知・追跡するには不十分である。米国が一般的に静止軌道衛星で追跡するものよりも極超音速兵器は10〜20倍探知しづらい。将来的には、宇宙配備センサー・レイヤーを追跡・火器管制システムに組み込んで対応することが現実的である。専門家の一部には、THAADが極超音速兵器に対応し得るという見方に懐疑的である。THAADが防衛できる範囲が小さいためで、北米大陸全域を防衛するTHAADの数は費用的に賄いきれない。

米国

国防省は現在、海軍のConventional Prompt Strike programの下で極超音速兵器の開発を進めている。空軍、陸軍、DARPAの計画と同じく、強化型目標や時間制約目標に対し通常弾頭で攻撃する。

中露と違い、米国は現在、核弾頭を搭載した極超音速兵器を開発していない。そのため、両国よりもより正確でより技術的には難しい兵器開発に挑むことになっている。

米海軍
2018年6月メモランダムにおいて、国防省は、海軍が「共通滑空体(common glide vehicle)」開発を先導すると発表。共通滑空体は、米陸軍が2011年と2017年に試験成功を収めたマッハ6のAlternate Re-Entry Systemの弾頭を適用している。開発が完了すれば、サンディア国立研究所が滑空体製造を引き継ぎ、ブースターシステムの開発も行われる。

海軍の中距離通常型即時攻撃兵器(Intermediate Range Conventional Prompt Strike Weapon)は、潜水艦発射型ブースターシステムと共通滑空体が一組になる。FY2020で、海軍は5億9300万ドルをIR CPSに要求し、5ヵ年将来防衛プログラム(Future Years Defense Program(FYDP))においてコンポーネントのデモンストレーションとリスク軽減構想を組み入れたサブシステム技術の成熟を目標として52億ドルを要求した。海軍は2020年と2022年にIR CPSの飛行試験を計画しており、2024年1月までプロトタイプの開発を継続する。

米陸軍
陸軍のLand-Based Hypersonic Missile programは、共通滑空体と二段式地上発射型ブースターシステムとの組み合わせになる。射程1400マイル(約2250km)で陸軍は戦術攻撃兵器システムを獲得することになる。陸軍はFY2020で2億2800万ドルを要求、FYDPに12億ドルを要求している。2023年にLand-Based Hypersonic Missileの飛行試験を計画している。

米空軍
空軍のHypersonic Conventional Strike Weaponは、共通滑空体と固体ロケット推進式GPS誘導システムと組み合わせ、B52から発射する。空軍はHCSWの概念実証プロトタイプ機開発のためにFY2020で2億9000万ドル要求。FY2020にクリティカルデザイン・レビューのスケジュールを完了する。

同様に、Air-launched Rapid Response Weaponを空中発射型極超音速滑空プロトタイプ機を開発する。マッハ20で飛翔し、射程575マイル(約925km)。ARRWは2019年7月に飛行試験を成功させ、FY2020にに飛行試験を完了する。空軍はFY2020で2億8600万ドルをARRWのために要求。FYDPでは7億3500ドルを要求。

DARPA
DARPAは空軍と協力してTactical Boost Glideを試験中である。V字型極超音速滑空体はマッハ7+で飛翔する。TBGは、海軍の垂直発射システム(Navy Vertical Launch System)と組み合わされ、空軍と海軍も利用できる。DARPAはFY2020でTBGに1億6200万ドルを要求した。

DARPAのOperational FiresにTBG技術を取り入れ、地上発射システムを開発し、現代防空システムや時間制限のある目標を迅速かつ正確に攻撃することを追及している。FY2020でOpFiresに5000万ドル要求するとともに、陸軍に計画の移行を検討している。

DARPAは長く空軍と協力してHypersonic Airbreathing Weapon Conceptに取り組んできた。FY2020にHAWCに1000万ドル要求している。さらに、マッハ5+で飛翔して再利用可能な航空機プロトタイプのエンジン能力をもつAdvanced Full-Range Engine開発が第一段階の半分まで進んでいると伝えられる。FY2020でAFREに4070万ドルが要求され、計画は空軍に移行される意向。

極超音速ミサイル防衛
国防省は極超音速兵器能力対策にも投資している。しかし、国防省・研究・技術担当国防次官室(USD R&E)によると、米国は2020年代中期まで極超音速兵器に対する防衛能力を持つことはない。ミサイル防衛局では2017年に国防権限法にHypersonic Defense Programを発表。hypersonic missile defense options、interceptor missiles、 hypervelocity projectiles、laser guns、electronic attack systems等を開発するよう命じている。FY2020で極超音速兵器防衛に1億5740万ドル要求。また、DARPAとともにGlide Breakerと呼ばれるコンポーネント技術の開発構想に取り組むためFY2020に1000万ドル要求した。


ロシア

1980年代から極超音速兵器技術の研究を手掛けていたが、加速したのは米国がミサイル防衛を米欧に配備したこと、2001年にABM条約から米国が脱退することに反応したところからである。

次の極超音速兵器計画がある;
  • 「アヴァンガールト(Avangard)」
  • 「3M22 ツィルコン(Zircon)」
  • 「Kh-47M2 キンジャール(Kinzhal)

アヴァンガールトは、大陸間弾道ミサイル(ICBM)から極超音速滑空体を発射する。現在まだ開発中であるが、2016年と2018年12月に試験を成功させ、報告によると速度はマッハ20+に達した。米国情報筋によると、2020年までに運用される見通しはない。

ツィルコンは艦対艦・艦対地極超音速巡航ミサイルで、速度はマッハ6〜8。米国は2023年には運用開始と見ている。射程は約400〜965kmで、巡洋艦、コルベット、フリゲート、潜水艦に搭載される。

キンジャールはイスカンデルを改良して空中発射型弾道ミサイルと報じられている。2018年7月の試験ではMiG-31から発射され、約800km離れた標的を攻撃している。2020年までに配備されると見られる。ロシアはMiG-31とSu-34に搭載する計画である。Tu-22M3戦略爆撃機に搭載するよう取り組んでいるが、速度の遅い爆撃機がキンジャールを正確な発射範囲へ届けることは困難かもしれない。ロシアメディアはキンジャールの最高速度をマッハ10、MiG-31から発射される際の射程は1930kmまで到達すると報じている。機動的に飛翔して地上および海上目標を攻撃し、核弾頭も搭載できる。しかし、こうしたキンジャールのパフォーマンスに対しては懐疑的な意見が多い。


中国

中国が極超音速兵器を追及するようになった動機は、ロシアと同様に、米国の極超音速兵器が中国の核戦力や支援設備を先制・斬首攻撃を行うかもしれないという懸念を反映したものだ。米ミサイル防衛が中国の報復能力を制限しうる、というのもその一つである。

中国は通常弾頭極超音速滑空体(HGV)の研究、試験を継続しており、DF-21やDF-26といった弾道ミサイル戦力群とHGVを組み合わせてA2AD戦略を支援すると見られる。中国は極超音速兵器を核搭載型にするか、通常弾頭搭載型にするか、デュアルユースにするかを最終決断をしていないと伝えられる。

計画
HGV発射用に設計された準中距離弾道ミサイル「DF-17」の試験を多く成功している。DF-17の射程は1600~2415km。中国はICBM「DF-41」も試験しており、こちらには通常弾頭型と核弾頭型のHGVが搭載される。

「DF-ZF HGV(以前はWU-14と呼称)」を2014年以降少なくとも9回実施。射程は約1930kmで、極端な機動力("extreme maneuvers")を持つとされる。早ければ2020年には運用開始と見られる。

また、核搭載可能な極超音速体「Starry Sky-2 (or Xing Kong-2)」のプロトタイプの実験も2018年8月に成功した。DF-ZFとは異なり、Starry Sky-2は“waverider”であり、発射後に推進力が加えられ、自身の衝撃波から揚力を得る。中国航天空气动力技术研究院(CAAA)では、Starry Sky-2は最高速度マッハ6、2025年までに運用開始されるとも報じられている。

その他の国

オーストラリアは米国と共同して極超音速技術開発のためHypersonic International Flight Research Experimentation (HIFiRE) programを進めてきた。「HIFiRE」の試験は2017年7月にも成功を収めている。マッハ8の極超音速滑空体で、スクラムジェットエンジン技術で推進する。ウーメラ試験場にてオーストラリアは7回に及ぶ極超音速風洞実験を行い、マッハ30に達する実験能力がある。

インドはロシアと、マッハ7の「ブラモス2」極超音速巡航ミサイルを共同開発している。2017年に配備予定だったが、現在では2025年から2028年の間あたりに初期運用能力(IOC)を獲得するとみられる。インドは独自でも極超音速巡航ミサイル開発に着手しており、Hypersonic Technology Demonstrator Vehicle programの一環として2019年6月にスクラムジェット技術でマッハ6の試験に成功している。

フランスもロシアと共同して極超音速技術の開発をしてきた。 V-max (Experimental Maneuvering Vehicle) programの下、2022年までに「ASN4G超音速空対地巡航ミサイル」を改良して極超音速飛行をさせる計画だ。V-max programはフランスの戦略核兵器に含まれると見られている。

ドイツは2012年に試験的極超音速滑空体「SHEFEX II」の実験に成功しているが、報告ではすでに計画資金を引き揚げたとされる。ドイツ航空宇宙センター(DLR)が欧州連合のATLAS II projectの一環としてマッハ5〜6の極超音速体の研究開発を継続している。

日本は島嶼防衛用に「高速滑空弾(Hyper Velocity Gliding Projectile (HVGP) )」を開発中。FY2019で1億2200万ドルを当該計画にあてた。FY2026に高速滑空弾ブロックIが、FY2023には高速滑空弾ブロックIIが配備予定。

他にも、イラン、イスラエル、韓国などが極超音速技術の基礎的な研究を行っているが、現時点で兵器化する能力はない。