米国が気球を撃墜

今月4日米東部時間午後2時39分、サウスカロライナ州沖合約9.6kmにおいて、上空約1万7,700mにあるF-22がマッハ1.3でズーム上昇しながら高度約1万8,300mを飛行中の気球にAIM-9XブロックII空対空ミサイルを発射し、撃墜しました[1]。その際、F-15C×2機がスナイパー照準システムを搭載してバックアップし、海軍のP-8A哨戒機、KC-135空中給油機も随伴し、沿岸警備隊のHC-130捜索救助機も協働しています。
気球がアラスカに近づいた時点では、米政府はそれを軍事的脅威と認識していなかったとのことです[2]。しかし、民間航空サービスが危険にさらされていることと米国の機密施設に対する偵察リスクの二点が排除できないため、最終的にバイデン大統領が撃墜の判断を下しました[3]。その上で、民間人への被害を考慮し、かつ気球のコンポーネントを回収するために、気球が安全な海域へ移動するのを待ったようです[4]。

撃墜された気球の大きさは、約60mでペイロードは約1トンと見られています。
本任務を実施するにあたり、米連邦航空局(FAA)は、ノースカロライナ、サウスカロライナ両州沿岸の空域の一部で一時飛行禁止とし、周辺4つの空港で発着停止命令を出すなどの物々しい措置をとっています。

当該の気球によって中国が新たに獲得したインテリジェンスはないと見られていますが、米政府によると気球の航路は意図的なもので、風を利用して戦略的に移動し配置されたものであると評価しています[5]。つまり、中国外交部による、「気球は、気象研究用の民間飛行船である。偏西風の影響を受け、自律航行能力が制限され、計画されたコースから大きく逸脱した。不可抗力により意図せず米国領空に侵入してしまった」[6]という言い分を一蹴しました。

実際、表向きは民間の調査気球であっても、中国の場合は軍民デュアルユースのアセットが多いことで知られます。今回の偵察気球開発に関与した件では、米商務省安全保障局(BIS)が中国企業5社と1つの中国国家研究機関を輸出管理ブラックリストに入れたことが報じられたばかりです[7]。

成層圏気球とは

気球は、ISR(情報収集・警戒監視・偵察)用途として期待されている成層圏プラットフォームのひとつです。1969年に初めて動力飛行して以来、現在も各国で研究・開発プロジェクトが存在します。

成層圏気球は、主に通信の無線中継ノードとして活用されます。地上無線回線は、山や高層ビルの障害物に遮られる場合、多くの地上中継局が必要です。衛星回線は、障害物はそれほど気にしなくてよいものの電波が減衰して弱くなり、受信側がパラボラアンテナなど大型の設備で拾わなければなりません。そこで、高度2万mに滞留する成層圏気球であれば、地上基地局のような人的リソースが少なく済み、海上にも展開しつつ電波強度を維持することが可能です。

周波数によるものの、高度2万mの気球1つで半径50〜200kmをカバーし、ミッションペイロード1トンの気球なら上面に装備した太陽電池パネルで推進モーターを使用し、搭載した燃料電池で約3年間滞留し続けます[8]。

成層圏プラットフォームという点では、軍用アセットが現在数えきれないほど実運用されています。そうした西太平洋での洋上監視任務に就いているE-2D、MQ-9B、MQ-8C、MQ-4Cなどとともに成層圏気球の使用を組み込むことのメリットについて、ハドソン研究所が調査していたりします[9]。ISRの任務は、偵察衛星、AWACS、哨戒機、各種ドローンが担当していますが、気球、特に操縦可能型成層圏気球(steerable stratospheric balloon)は、中国だけでなく米国でも有用なプラットフォームの一部として認識されているのです。

日本にも来ている中国の気球

周知のとおり、我が国でも2019年11月鹿児島県薩摩川内市、2020年6月宮城県、2021年9月東京都父島、2021年9月青森県、2022年1月鹿児島県屋久島、2022年4月沖縄県座間味島などで、気球型の浮揚物体が確認されています。

当時も中国から飛来したものではないかという推測はありましたが、おそらく政府も確証を得られなかったのでしょう。日本国内企業、研究機関、または個人による申告漏れの気球の可能性があり、安全保障上の問題として俎上に挙げるのは難しい状況であったと思います。

今般の気球撃墜に関する一連の事案について、米国から多少の情報提供があったと考えられます。松野博一官房長官が今月15日の会見において、以下のように発表しています。
令和元年11月20日の鹿児島県上空、令和2年6月17日の宮城県上空、令和3年9月3日の青森県上空を含め、過去に我が国領空内で確認されていた特定の気球型の飛行物体については、中国が飛行させた無人偵察用気球と強く推定するに至りました。

首相官邸, 内閣官房長官記者会見, 令和5年2月15日, [2023/2/18アクセス].

気球の何が問題?

SNSなどでは、「気球が飛んでるからって何が問題なんだ!」「民間の調査気球まで撃墜しちゃっていいのかしら」という声があります。真っ当な反応だと思います。とはいえ、実際には問題がありまくりなので、そのあたりを少し見ていきたいと思います。

まず、米国が撃墜した気球はいろんな法律に違反している可能性が高いのです。米国は国際民間航空条約の締約国なので、それに準拠した国内法を整備しています。日本も同条約に準拠して国内法を策定しています。では、我が国に飛来した際にどのような法律が該当するかを少し確認してみます。


国際民間航空条約に違反

気球は、国際法上どういう存在なのでしょうか。国際民間航空条約(シカゴ条約)によると以下の通りです。"Balloons are classified as aircraft, but unmanned free balloons can be flown only under specified conditions detailed in the Annex"とされ、気球は航空機であると明記されています(ただし、無人無動力気球については航空交通管制(ATS)の条件に従う旨があり、日本では国土交通省を指します)[10]。

2月4日に撃墜された気球の場合、シカゴ条約に従えば、第1条(主権)、2条(領域)、5条(不定期飛行の権利)、9条(禁止区域)、11条(航空に関する規制の適用)、12条(航空規則)、17条(航空機の国籍)、20条(記号の表示)、21条(登録の報告)等に抵触するでしょう[11]。とりわけ、気球が無人であることから、第8条(無操縦者航空機)で規定されている「特別の許可のない航空機」と扱われるので飛行が認められません。また、気球の積載物が不明で、そこに如何なる細菌やウイルスが入っているやも知れないことを顧慮すると、第14条(疾病のまん延の防止)を口実に、場合によっては速やかに効果的な措置をとることが求められて然るべきです。

なお、日本も米国も中国もシカゴ条約の締約国で、当条約に基づいて設置された国連専門機関である国際民間航空機関(ICAOの理事国(第1カテゴリー)です[12]。


航空法に違反

航空法は、"国際民間航空条約の規定並びに同条約の附属書として採択された標準、方式及び手続に準拠して"いるので、国内法においても「気球は航空機である」と分類されることになります[13]。

航空法第2条の22では無人航空機の定義があり、ペイロード1トンの自律操縦気球は無人航空機として扱われることが明確です[14]。そうすると、かの気球は無人航空機の航行について定めた第132条の諸則に抵触します。なにより、第87条(無操縦者航空機)にある通り、国土交通大臣の許可がないものは飛行が認められません。

さらに、第4条の2で外国籍の航空機は登録できない旨があり、第126条(外国航空機の航行)でも国土交通大臣の許可なく航行することは認められておらず、第57条(国籍等の表示義務)、127条(外国航空機の国内使用の禁止)、128条(軍需品輸送の禁止)等にもことごとく抵触します。

第134条の3(飛行に影響を及ぼすおそれのある行為)において、"航空交通管制圏、航空交通情報圏、高度変更禁止空域又は航空交通管制区内の特別管制空域における航空機の飛行に影響を及ぼすおそれのあるロケットの打上げその他の行為"を禁じており、国土交通省に無断で飛行する気球もこれに該当します。第134条で規定しているものは主体ではなく行為そのものですから、気球であれ何であれ、航空機の飛行に影響を及ぼすおそれのある飛行をするものはこの条文に違反します。


電波法に違反

2月4日にサウスカロライナ州沖で撃墜された中国の気球は、通信を監視できる電子機器を用いた偵察技術を備えていたことが分かっています。
大型の気球が日本国内を無許可で飛行し、そこに何らかの無線装置を積載している場合、これは電波法違反になります。例えば、第4条(無線局を開設)にて総務大臣の免許が必要と規定されていたり、第38条諸項の技術基準適合証明の登録及び表示などが必要となります。

"中国は軍事基地間の通信の傍受など、衛星の偵察能力を補うために偵察気球を使った可能性がある。(中略)米軍が回収した気球からは電源確保のための太陽光パネルや、通信傍受のためのアンテナなどが確認された。間違いなく偵察用といえる"[15]と専門家は指摘します。これを日本国内で行えば、電波法第59条(秘密の保護)に抵触します。

さらに、"何らかの妨害電波を出して、衛星と地上基地との交信など軍事活動を妨害する作戦への活用を試していたのではないか"[16]と指摘する専門家もおり、こちらも電波法の罰則に抵触し、例えば第108条の2で規定される"無線通信を妨害した者"とみなされ得ます[17]。

電波法施行規則第2条の45(無人方式の無線設備)では、使用可能な電力、周波数帯、などが規定されています。無許可の気球は、当然これらの電波法施行規則で定められた電波を使用していません。

また、気象観測のラジオゾンデを例にとると、電波法および電波法施行規則で定められるところに従って、放球前に航空情報(NOTAM)を出す義務がありますが、気球はここも不明なままなので、保安上も危険な存在です。


領空侵犯である

領空の高度上の限界を明確に定義した国際法はありません。これは法の欠缺として議論されているところではありますが、既存の国際法を基にある程度慣習的に運用されています。

まず、上述した国際民間航空条約において、第1条(主権)および第2条(領域)で定められるところを鑑みると、領空とは、領土+領海上に排他的な主権を有する空間であると考えられます。
territorial airspace
(Wikimedia Commons: 領土領海領空)

なお、国際航空業務通過協定(IASTA)では、着陸を行わずに他国の領空を通過する権利を認めていますが、中国は非加盟国です[18]。ロシアなどと同じく、自国領空への出入りに対し厳重に管理しています。

シカゴ条約も国際航空業務通過協定どちらも民間機を対象とした取り決めです。しかし、陸の警察や海の海上保安庁のような法執行機関が空には存在しないため、ほとんどの国家で対象の軍・民を問わず空軍が領空の治安を維持する役目を負っています。"シカゴ条約が継承した領空概念は、民間航空機にとどまらず、広く、各国主権の及ぶ範囲としての領空概念を、国際慣習法として確立した"[19]とされる所以です。

次に、宇宙条約第2条において、"月その他の天体を含む宇宙空間は、主権の主張、使用若しくは占拠又はその他のいかなる手段によっても国家による取得の対象とはならない"と規定されています[20]。つまり、宇宙空間に領有権は存在しません。

したがって、成層圏気球が飛来した場合に焦点となるのは、「どこからが宇宙か」という点になります。これには諸説ありますが、海抜高度100kmを境界線(いわゆるカーマン・ライン)とし、これより上を宇宙空間、これより下を大気圏として領空の管理を行う国が多いようです。この考えに従うと、領空は高度100kmまでとなり、成層圏は高度11〜50kmなので、無許可で飛行する他国の成層圏気球は領空侵犯と見做されます。

法制上、無人気球を撃墜できるのか

ここまで見たように、国土交通省や総務省など関係機関に通告なく成層圏を飛行する無人気球は、多くの国際法および国内法に違反していることが分かります。もっとも、中国の無人偵察機、いわゆるドローンによる領空侵犯はすでに何度も発生し、その都度航空自衛隊がスクランブル発進して警戒監視を行っていますが、中国やロシアによる領空侵犯に私たちが悪い意味で慣れてしまっているところもありました。米国が気球を撃墜したことで、我が国でも無人気球による領空侵犯へどのように対処するのかについて改めて注目が集まっています。

まず、領空侵犯に対する措置は自衛隊法第84条で定められています[21]。上述の通り、航空自衛隊は空では治安維持の任務も負っているため、同条で謂うところの「必要な措置」とは、陸上と海上と同じく警察官職務執行法第7条(武器の使用)が準用されます[22]。すなわち、正当防衛または緊急避難の要件に該当する場合にのみ許されるというもので、政府もこの解釈を引き継いできました。

「無人航空機による領空侵犯」という点ではドローンも無人気球も同じですが、仮に海上ではなく陸上を無許可で飛行情報も出していない1トンもの物体が頭上に滞留するとなると、私たち国民の生命・財産そして生活を直接的に脅かすものとなります。予定経路も不明ですから、民間航空機への影響回避の目途も立ちません。気球が制御不能になり落下すれば地上に大きな被害が出ます。

そして、国家にとって、安全保障上機微な地域・施設を成層圏(またはより低い高度)という近距離から偵察され続ける事態は、まさに主権の侵害です。いかなる国家でもこれを看過することは許されませんが、従来の対領空侵犯措置には、"主権尊重 (主権侵害の阻止) や領土保全といった国防上の観念が読み取れない"のが実情でした[23]。

このような経緯を踏まえて、防衛省では自衛隊法第84条の武器使用の要件を次のように見直しました。
政府は、従来からですね、自衛隊法第84条に規定する対領空侵犯措置の際の武器の使用は、同条に規定する必要な措置として、正当防衛又は緊急避難の要件に該当する場合にのみ許されると述べてまいりました。これは、有人かつ軍用の航空機を念頭に置いたものであり、武器を使用した場合には、結果として撃墜という形態になる蓋然性が極めて高く、領空侵犯機のパイロットの人命等との関係を考慮する必要がある趣旨で述べたものであります。これに対し、今回のように領空侵犯し高高度を飛行する無人の気球については、武器の使用を行っても直接に人に危害が及ぶことはないことから、我が国領域内の人の生命及び財産、また航空路を飛行する航空機の安全確保といった保護すべき法益のために、必要と認める場合には、正当防衛又は緊急避難に該当しなくても、武器を使用することが許されると考えております[強調筆者]。
防衛大臣記者会見, 防衛省, 令和5年2月17日, [2023/2/19アクセス].
一方、この解釈の見直しについては、異論も出ています。

例えば、"シカゴ条約には「民間航空機に対して武器の使用に訴えることを差し控えなければならず」と規定されている。(中略)「民間」の無人気球に対して実際に武器を使用することができるのかは不明瞭だ"というような指摘もあります[24]。確かに、シカゴ条約の1984年改正議定書(モントリオール改正議定書)には、"武器の使用を差し控えなければならず、要撃の場合には航空機内における人命を脅かし又は航空機の安全を損なってはならない"とされています[25]。

しかしながら、モントリオール改正議定書は、"1983年の大韓航空機事件を踏まえ、同様の事件の再発を防止するため国際法の原則である民間航空機に対する武器の不使用を条約上の義務として明文化"したものです[26]。この改正議定書が無人気球を想定したものでないことは、作成経緯から明らかです。

そして、上述のとおり、民間の無人気球であっても航空法第134条の3において、飛行に影響を及ぼすおそれのある行為は禁じられており、気球は速やかに着陸や退去を指示され、応じなければしかるべき措置が下されます。

他にも、自民党の石破茂氏は、"軽々に解釈の変更に頼るべきではありません。「航空機」を「航空機等」に変え、「これを着陸、退去させるため、又は排除するために」と第84条を改める方が正道だと思います"と主張されています[27]。石破氏の指摘の通り、本来は解釈変更ではなく自衛隊法改正が望ましいことには同意します。しかし、石破氏の提言はシカゴ条約でクリアしている部分であり(気球は航空機である)、今回の解釈変更の主部は、「正当防衛又は緊急避難に該当しなくても」という武器の使用要件見直しですので、ここに関する提言も頂きたかったところです。

さらに、東京新聞では、「どうやって外国からの気球と判断するのか」という疑問を投げかけています[28]。確かに、国籍表示もコールサインもなくADS-Bも搭載せず、スクランブル機からの呼びかけにも応答しない無人気球の場合、国籍の確認ができずに第84条の「外国の航空機が」という部分が成立しないおそれがあります。ただし、この懸念に対しては、次のような国際慣習を指摘する専門家もいます。
被侵犯国が領空侵犯機に退去要求や着陸要求のために無線信号、翼を振る視覚信号、更に警告射撃をしても、当該機がその命令に従わず領空侵犯を継続する場合には、最終的に射撃行為 (撃墜) を実施しても止むを得ないと理解されている。

岩本誠吾, 自衛隊と国際法の関係性の変遷― 自己抑制と法的ズレを超えて ― (download), 産大法学 55-2, 京都産業大学, 2021/7, p. 20. [2023/2/23アクセス].

撃墜するかどうかは高度な政治的判断

「国籍不明の気球が領空侵犯し、その行為が国際法および国内法に違反している」状況に対しては、これを適切に措置することが求められますが、その適切な措置が必ずしも撃墜であるかどうかはまた別の議論です。第一、防衛省は武器の使用において、"我が国領域内の人の生命及び財産、また航空路を飛行する航空機の安全確保といった保護すべき法益のため"の措置であると条件を付しており、気球発見即撃墜というような極端な運用へと舵を切ったわけではありません。

確かに、領空侵犯した気球を撃墜することが適切な場合と認められた場合に関しては、自衛隊法の解釈見直しによって法的環境は整えられつつあります。しかし、撃墜すれば、対中関係(中国からの気球の場合ですが)はより険悪なものとなります。ここから先は、その時点での国際環境などを鑑みた高度な政治的判断が求められます。事実、直前までブリンケン国務長官の訪中を歓迎するほどにまで改善していた米中関係は気球撃墜後に冷え込み、当面のブリンケンの訪中は立ち消えました。

国際法にも国内法にも違反している気球を法の制限内で撃墜したとしても、外交は相手のある問題ですから軽々しく判断できるものではありません。日本政府は米国での一連の撃墜措置以降、慎重に歩を進めています。浜田防衛大臣の自衛隊法第84条解釈見直し発信、さらには林外務大臣が王毅政治局委員に念を押し[29]、日中防衛当局協議では、"許可のない領空への侵入は領空侵犯に当たり、断じて受け入れられないとして、中国側にこうした事態が再び生じないよう改めて申し入れ"までしました[30]。外交上、日本政府は多層的な対話とコンテキストを丁寧に積み重ねていると言って差し支えありません。

それでもなお気球を中国が我が国領空へ無断で飛行させるということは、我が国の主権に対する明確な挑戦です。これを看過すれば、気球だけでなくより明確な意図をもってドローンによる偵察活動も活発化するでしょう。5年ぶりの国務長官による訪中を目前に控えた米国が撃墜の判断を下したことの重みを我が国も主権国家として深く受け止めなければなりません。
国際法が許容する軍事活動を、国内法上実施できないこと(選択肢の放棄)と、国内法上可能であるが、政治判断により実施しないこと(選択肢の保持)は 、当該機及びその旗国に対して、法的にも軍事的にも、全く抑止的効果が異なる。
岩本前掲書, pp. 21-22.
米国が中国の気球を撃墜したことを奇貨として、対グレーゾーン事態への態勢のための法整備も進んでいくことを望みます。




*1 Howard Altman, Stetson Payne, Tyler Rogoway, F-22 Shoots Down Chinese Spy Balloon Off Carolinas With Missile (Updated), The War Zone, 2023/2/4, [2023/2/19アクセス].
*2 Howard Altman, Tyler Rogoway, The Shooting Down Of China’s Spy Balloon In Moment-By-Moment Audio, The War Zone, 2023/2/7, [2023/2/19アクセス].
*3 Gen. Glen VanHerck, Commander, North American Aerospace Defense Command and United States Northern Command, Holds an Off-Camera, On-The-Record Briefing on the High-Altitude Surveillance Balloon Recovery Efforts, U.S.  Department of Defense, 2023/2/6, [2023/2/19アクセス].
*4 Remarks by President Biden on the United States’ Response to Recent Aerial Objects, White House, 2023/2/16, [2023/2/19アクセス].
*5 米国防省前掲.
*6 中国外交部, Foreign Ministry Spokesperson’s Remarks on the Unintended Entry of a Chinese Unmanned Airship into US Airspace Due to Force Majeure, 2023/2/3, [2023/2/19アクセス].
*7 Ana Swanson, Chris Buckley, Behind China’s Balloons, a Push for Business to Serve the Military, New York Times, 2023/2/16, [2023/2/19アクセス].
*8 三浦龍, 大堂雅之, 3-2 成層圏プラットフォームを用いた無線通信システム/3-2-1 成層圏プラットフォームを用いた通信・放送システムの研究開発, 横須賀無線通信研究センター特集 Vol.47 No.4, 通信総合研究所季報, 通信総合研究所, 2002/6/20, [2023/2/19アクセス].
*9 Bryan Clark, Timothy A. Walton, Regaining the High Ground Against China: A Plan to Achieve US Naval Aviation Superiority This Decade, Center For Defense Concepts and Technology, Hudson Institute, 2022/4, [2023/2/19アクセス].
*10 The Convention on International Civil Aviation Annexes 1 to 18, International Civil Aviation Organization, 1974/03/22, [2023/2/19アクセス]. 無人自由気球(unmanned free balloon)の分類、規則、事前通告義務などについては、APPENDIX 4. Unmanned free balloons, Annex 2 to the Convention on International Civil Aviation -Rules of the Air-, Tenth Edition, July 2005, [2023/2/19アクセス] を参照。
*11 外務省, 国際民間航空条約, [2023/2/18アクセス] および  Convention on International Civil Aviation  Nineth Edition 2006, International Civil Aviation Organization, 2006, [2023/2/19アクセス]. 
*12 国土交通省, 国際民間航空機関(ICAO)の概要, [2023/2/19アクセス].
*13 航空法, [2023/2/23アクセス].
*14 航空局安全部無人航空機安全課長, 無人航空機に係る規制の運用における解釈について, 国土交通省, 令和5年1月26日最終改正, [2023/2/23アクセス]. この中で、1. 航空法第2条第22項関係, (2) 無人航空機から除かれるもの として、"重量が100グラム未満のものは無人航空機の対象からは除外される。ここで、「重量」とは、無人航空機本体の重量及びバッテリーの重量の合計を指しており、バッテリー以外の取り外し可能な付属品の重量は含まないものとする"とあり、サウスカロライナ州沖で撃墜されたサイズの気球は、日本の航空法においては無人航空機として扱われます。
*15 小谷哲男, 回収の気球「送信記録の有無が焦点」, 中国の偵察気球「衛星補う狙いか」 識者に聞く, 日本経済新聞, 2023/2/10, [2023/2/24アクセス].
*16 佐藤丙午, 「妨害電波、活用試した可能性」, 中国の偵察気球「衛星補う狙いか」 識者に聞く, 日本経済新聞, 2023/2/10, [2023/2/24アクセス].
*17 電波法, [2023/2/24アクセス].
*18 INTERNATIONAL AIR SERVICES TRANSIT AGREEMENT SIGNED AT CHICAGO ON 7 DECEMBER 1944, International Air Services Transit Agreement, 1944/12/7, [2023/2/23アクセス]. 香港とマカオにだけは適用している模様です。なお、日本は加盟国です。
*19 甲斐素直, 宇宙エレベータ法 その海法、空法及び宇宙法との関係,『日本法學』第80巻第2号, 日本大学法学研究所, 2014/10月, pp. 437- 474, [2023/2/23アクセス].
*20 宇宙条約(月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約), [2023/2/23アクセス].
*21 自衛隊法第84条(領空侵犯に対する措置), [2023/2/24アクセス]. 防衛大臣は、外国の航空機が国際法規又は航空法その他の法令の規定に違反してわが国の領域の上空に侵入したときは、自衛隊の部隊に対し、これを着陸させ、又はわが国の領域の上空から退去させるため必要な措置を講じさせることができる。
*22 警察官職務執行法第7条(武器の使用), [2023/2/24アクセス]. 警察官は、犯人の逮捕若しくは逃走の防止、自己若しくは他人に対する防護又は公務執行に対する抵抗の抑止のため必要であると認める相当な理由のある場合においては、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、武器を使用することができる。但し、刑法第三十六条(正当防衛)若しくは同法第三十七条(緊急避難)に該当する場合又は左の各号の一に該当する場合を除いては、人に危害を与えてはならない。
*23 岩本誠吾, 自衛隊と国際法の関係性の変遷― 自己抑制と法的ズレを超えて ― (download), 産大法学 55-2, 京都産業大学, 2021/7, p. 19, [2023/2/23アクセス].
*24 岩本瑞貴, 「気球撃墜」なぜ日本では困難なのか「技術的にも、性能的にも、法的にも」高いハードル, TBS NEWS DIG, 2023/2/20, [2023/2/20アクセス].
*25 国際民間航空条約の改正に関する1984年5月10日にモントリオールで署名された議定書, 外務省, 1984/5/10, [2023/2/23アクセス]. なお、モントリオール改正議定書には続きがあり、領空侵犯していることが確実な民間機に対し、締約国は指定空港への着陸若しくは違反を終止させるその他の指示を与える権利を有し、すべての民間機はこの国内法令に従い、関係法令の違反については重い制裁を科すされる、とも規定しています。
*26 第142回国会 外交・防衛委員会, 1998/1/12, [2023/2/22アクセス].
*27 予算委質問など, 石破茂(いしばしげる)ブログ, 2023/2/17, [2023/2/22アクセス].
*28 川田篤志, 気球を撃墜可能に武器使用の要件緩和、自公が了承 でも、どうやって外国からの気球と判断する?, 東京新聞, 2023/2/17, [2023/2/19アクセス].*30 日中防衛当局協議 ”気球の領空侵犯”生じないよう申し入れ, NHK, 2023/2/22, [2023/2/22アクセス].


【参考】
気球の撃墜任務に関する軍事技術面からの解説は、こちらの記事をお勧めします。数多久遠, 撃墜で一気に緊迫、「気象研究用が誤って米国に進入」のわけがない中国気球 日本でも偵察活動、気球の仕様と性能は?, 2023/2/5, [2023/2/25アクセス].

領空侵犯に関する論考としては、山口達也, 宇宙物体の領空通過権に関する法的論考 : 海洋法の類推を手掛かりとして, 立命館国際研究, 2008/9/15, [2023/2/25アクセス] が参考になります。

稲葉義泰, 「スパイ気球」が領空侵犯 日本はアメリカのように撃墜できるのか 現状を鑑みると…?, 乗りものニュース, 2023/02/12, [2023/2/25アクセス].