- 共通テーマ:
- 資源エネルギー戦略 テーマに参加中!
世界のLNG市場に価格破壊 米国発「シェールガス革命」の衝撃 (2010/1/15『週刊ダイヤモンド』)
米国発のガス革命が世界の資源地図を塗り替えようとしている。
全米で「シェールガス」という新型の天然ガスが大増産され、その余波が世界中に及んでいるのだ。日本の総合商社もこの地殻変動に商機を見出し、参戦を始めた。
「シェールガス革命」と称されるこの大増産は、米国のガス戦略を根底から覆した。米国エネルギー省の2004年版長期エネルギー見通しで、25年の輸入依存度は 28%と試算されていたが、最新の09年版では30年の依存度でもわずか3%と、前代未聞の大幅見直しがなされたのだ。実際、米国で確認された天然ガスの 埋蔵量はわずか3年で2割以上も増えた。
ロシアからのパイプラインに依存してきた英独仏をはじめ欧州各国は、ガスプロムの呪縛から逃れようとわれ先にとシェールガス探査に着手している。(一部抜粋)
先日、この記事を見かけて以来、ずっと「シェールガス」なるものが気になっていました。なにしろ、資源エネルギーは、地政学上重要な変数ですし、その埋蔵場所、分布、開発・生産・処理・運搬技術、輸送等々…どれをとっても国家の戦略上無関係なものはありません。にもかかわらず、このガスの名前すら知らなかった自分の無知を嘆きつつ、ようやく時間ができたので調べてみました。
◆シェールガスとは
まず、シェールガスとはなんぞや、ということなのですが、
シェールガス
泥岩に含まれる天然ガス。非在来型天然ガスの一種。
在来型との違いは、貯留層が砂岩でなく、泥岩(頁岩)である点にある。泥岩の中で、特に、固く、薄片状に剥がれやすい性質をもつシェール(頁岩:けつがん)に含まれることから、シェールガスと呼ばれる。
商業的生産は、米国でのみ行われており、1970年代末、東部のアパラチア山脈などに主として分布する古生代デボン紀の頁岩、デボニアンシェールから始まった。
通常の泥岩は、石油、天然ガスの根源物質であるケロジェンを含む根源岩となるが、隙間(孔隙率)も浸透率も低いため、貯留岩とはならない。しかし、デボニアンシェールは、非常に厚い泥岩層であり、長い地質時代を通じて地下深くで圧密作用を受け、微細な割れ目、フラクチャーを生じた。その結果、ある程度貯留岩としての性状を持つようになった。ただし、その孔隙率は 4%以下、浸透率も0.001〜0.002md(ミリダルシー)と低く、シェールガスの生産性は低い。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC:Japan Oil, Gas and Metals National Corporation)
…ということです。……。
地質学的にこの問題をとらえようとしても門外漢にはさっぱりですね…(汗)違う切り口で見ていくことにします(苦笑)
シェールガスを含め、非在来型の天然ガスとは、特殊な回収技術を必要とする天然ガスのことを指すようです(ざっくりとした言い方ですが)。
従来のガス田は、地上から井戸を掘り、ガス層に達するとその圧力でガスは地上へ噴出し、自然と回収ができたのですが、非在来型天然ガスの場合はそうはいきません。取り出すためには、層の上から水圧をかけるなどして人工的に割れ目をつくり、浸透性を高める必要があるのだそうです。
ちなみに、現在すでに商業生産されている非在来型天然ガスは、次の3つ。
- コールベッドメタン(CBM): 石炭の生成・熟成に伴って発生したメタンガスが、石炭層にある微小な孔隙の表面に付着したもの。したがってガスは、従来の天然ガスに比べて移動しづらく、地表へ取り出すには浸透性を高める必要がある。このCBMは、石炭の多い地域に多く存在する。具体的には、米国、中国、ロシア、カナダ、オーストラリアなど。従来、炭鉱の坑道内に漏出し、爆発事故の原因の一つとして厄介者扱いされてきたが、近年、一部の炭田地帯でボーリングにより資源として採掘されている。
- タイトサンドガス:その名の通り、硬い砂岩層に存在するガス。生産性が低く、また、一般に地層深度が深いため、掘削費用がかさむなどに理由より、従来商業生産が進まなかったことから、非在来型とされていた。
- シェールガス:タイトサンドガスとシェールガスは、石油や従来の天然ガスの多い地層に散見される。
なお、現在の非在来型天然ガスの主流はタイトガスですが、近年急成長しているのが、本稿の主役である「シェールガス」です。
実は、シェールガス採掘の起源は意外に古く、最初のシェールガス井は1821年にデボニアン・ダンケルク・シェールで掘削され、生産されたガスはニューヨーク州フレドニアの民家を灯すのに使われました。しかし、その後長い間シェールは資源とは見なされず、根源岩や貯留層構造のシールとして取り扱われる存在に過ぎませんでした(JOGMEC)。
なぜ?
それは、十分な掘削技術がなく採算性が見合わなかったからです。ところが、水平掘りと水圧破砕の技術革新が大きな変化をもたらします。2005年頃まではほとんどどの油田もガス田も、埋蔵されているところへ向かって垂直に掘削を行う垂直井だったのですが、Devon社が水平掘削技術を確立して一挙に水平井が適用され始め、これにより都市部の地下からもガスを採取できるようになりました。また、水圧をかけて動きにくいガスを地上へ噴出させる際にも、遠隔操作が可能になったことなどが、非在来型天然ガスの実用性向上に大きく貢献したのです(JOGMEC)。
また、シェールガスは、生産コストもそれほど高いものではありません。1MMBtu当たり6〜7ドル(安い場合で4〜5ドル)で、不況による影響で低迷する在来型天然ガス価格の3〜4ドル/MMBtuを上回るものの、原油に換算すると1バレル当たり35〜40ドルに相当します。これには、上述した掘削技術の進歩が大きく影響していると見られています。
加えて、非在来型天然ガスに対して米国では税制優遇措置も取られたことも、最近の米国における「シェールガス革命」と呼ばれる傾向に拍車をかけたのではないでしょうか。1990〜2000年にかけての実績で、1MMBtuに対して約1ドルの免税効果があったと試算されていて、これは原油換算すると1バレル当たり5.8ドルというものであり、相当に大きなインセンティブであることがうかがえます(日経BP)。
一方で、シェールガスの減退率に疑問を投げかける専門家もいるようですが、ガスはフラクチャーを通って生産されるため、最近の調査では時間経過の生産減退率はさほど大きくないとみられています。確かに、低浸透率のため高レートは確保できないようですが、フラクチャーの長さや幅をある程度維持し、ガスの流路を確保できれば(つまり一定の好条件が確保できれば)、シェールそのものは高範囲に賦存するため、長期間(30年)の安定生産も可能と試算されているようです(JOGMEC)。
また、環境汚染の懸念も取り沙汰されていますが、環境に悪影響を及ぼしたケースがどれもやや古い記録で、近年、少なくともここ2、3年では大きな環境被害は報告されていないようです。反対に、エクソンモービルがXTOエナジーを買収するにあたり、エクソンモービルのCEOが、「環境に害を与えることなく生産可能」(Bloomberg)と下院エネルギー・環境小委員会の公聴会において先月20日に証言したりしています。
とはいえ、これはあくまでも一企業の証言です。これだけでシェールガスの環境アセスメントがクリアされるなどと言うつもりはありませんし、米国と欧州などの開発・生産環境には大きな差異がある(パイプラインの敷設状況や周辺住民のガス田への受容度)ことや、生産に大量の水を必要とすることなどを考慮すれば、シェールガス開発に伴う地球環境への影響を、今後ますます注視する必要があることは間違いありません。
◆ アメリカにおける状況
ところで、今回取り上げた『週刊ダイヤモンド』の記事は “米国発の「シェールガス革命」”というものですが、米国では具体的にどのような状況なのでしょうか?
3〜4年前まで、米国の天然ガスは「このまま需要が増加するのに合わせて生産していれば、あと6〜7年もすれば枯渇してしまうのではないか」と懸念されていました。米国エネルギー情報局(EIA)の「米国エネルギー展望(Annual Energy Outlook:AEO)2004やAEO2005では、急増する天然ガス需要に対応するためには、「LNGの輸入量を現在の(つまり2004年や 2005年の)20〜30倍に増やさなければならない」と報告され、それに合わせた需給見通しが策定されていました(コスモ石油)。
ところが、前述した掘削技術を確立することによって他国に先駆けてシェールガスの商業化が可能になり、近年生産が急増し始めたため、現在は「もう米国ではLNG輸入は必要ない」とまで言われています。AEO2009 によると、1990年には1日当たり78億立方フィート(年間2.8兆立方フィート)だった生産量が、2007年には1日当たり230億立方フィート(年間8.4兆立方フィート)へと増産されています。2007年のこの数字は、年間のガス生産量19兆立方フィートの44%を占めており、その後も増加傾向が続いています。既に天然ガス生産のほぼ半分が、非在来型に占められているということになりますね(Annual Energy Outlook 2009)。
英メジャーBPが2008年末にまとめた統計によると、米国における在来型天然ガスの可採埋蔵量は、238兆立方フィートと見込まれています。一方で、非在来型の可採埋蔵量は莫大で、タイトガスが304兆立方フィート、シェールガスが125兆立方フィート、CBMが71兆立方フィートで、合計500兆立方フィートと、在来型のなんと倍以上なのです(BP Statistical Review of World Energy 2009)。
こうした米国における非在来型天然ガスの開発はこれまで中堅企業が担ってきたのですが、最近はメジャーも投資に向かっている模様です。
その動きの一つに、さきほどのエクソンモービルによるXTOエナジーの買収があります。どうやらこれは、エクソンモービルがXTOエナジーのシェールガスを含めた非在来型天然ガスの開発技術のノウハウ(技術・人的資源)を欲した、という背景があるようです(ExxonMobile)。その他にも、コノコフィリップスが、2006年にバーリントン・リソーシズを356億ドルで買収し、日量12億立方フィートのサン・フアン盆地のタイトサンド/CBMからのガス生産と非在来型天然ガスの未開発エリアを獲得しています(ConocoPhillips)。
もちろん、日本の総合商社もこうした状況に商機を見出し参戦し始めています。2009年12月15日、住友商事は「全米最大のシェールガス生産地であるテキサス州バーネット・シェール・フィールドにおいて、中でもコアエリアと呼ばれる地域で天然ガス優良権益の開発生産プロジェクトに参入する」(住友商事)、と日本企業として初めて参画することを明らかにしました。
他の総合商社も参入の機会をうかがっており、三菱商事は韓国ガス公社と組んで、シェールガスの開発を狙っている模様です。
◆ 世界的な注目
こうした米国での “盛り上がり” は世界にも輸出されているようです。
世界中のシェールガス埋蔵量16,000兆立方フィートのうち、510兆立方フィートがヨーロッパにあると言われ、北米発の技術の適用により、今後ヨーロッパにおいてシェールガスの開発が進むことは疑いありません。ヨーロッパの510兆立方フィートのうち、どれだけ経済的に産出できるのかは今のところ不明ですが、イギリス、ドイツ、ハンガリー、ポーランドなどを中心に注目が高まっているようです。
というのも、温暖化対策としてエネルギー供給源を石炭から天然ガスへの転換を進める中で、北海ガス田の生産量が減少傾向を続けていることに加え、天然ガスの不安定な供給源であるロシアへの依存度を下げたいという意向があるからです。この点、シェールガス革命の市場への効果はなかなかてきめんのようで、天然ガス供給を人質にして欧州に強気で臨んでいたロシアの天然ガス企業ガスプロムは、昨年のヨーロッパ向け輸出が3割減少する羽目になりました。
アジア太平洋地域ではオーストラリアのクイーンズランド州が最も進んでいて、石炭の多い同州では、既に地元の発電所向けにCBMの生産が始まっています。そして、やはりアジアで非在来型天然ガスの開発・生産に最も積極的な国と言えば、そう、中国です。もともと中国は天然ガスの生産量が少ない国です。そのため、非在来型天然ガスは、それを補填する重要な資源と位置付けられているようです(2009/5/20 Asia Press Release News)。中国は世界第4位の産油国であり(Worldwide Production 2009 at Oil & Gas Journal)、探鉱開発技術は決して低いものではありません。陸上の在来型油ガス田の開発はほぼ自力で行うことが可能です。とはいえ、シェールガス開発については開発費用がかさむ上、多段階水破砕など最新の坑井刺激技術が必要なことから、当面は北米でシェールガスを生産している企業などから開発のためのノウハウを学ばなければなりません。2009年11月、中国は米国とシェールガスの共同研究を進めることで合意し、その技術を獲得することを目指しています(JOGMEC)。
◇ ◇ ◇
冒頭でも触れましたが、資源エネルギーは、地政学における重要な変数で、これが世界のバランスオブパワーに影響を与えることは揺るがしようのない事実です。 そこに、技術革新という新たな変数が加わることによって、方程式の解がより劇的に変化する可能性もあり得るのです。シェールガスなどの非在来型天然ガスとその掘削技術の革新は、各国の国家戦略上、決して軽視できない要素を含んでいるのではないでしょうか。
北米での非在来型天然ガス生産の予期せぬ盛り上がりに、現在の景気低迷に伴う需要の冷え込みが重なったことで、今後2〜3年は大幅なガスの供給過剰が見込まれます。実際すでにガス供給過剰傾向は表れていますが、これは、ガス市場の構造とヨーロッパ、アジア太平洋におけるガス価格決定方式にも広範な影響を及ぼす可能性があります。ガス需要が大幅に増加する一方で、産ガス国は供給を絞る政策を進め、例えばガス版OPECの結成などが、資源エネルギー戦略における牽制材料としてクローズアップされるかもしれません(コスモ石油)。
シェールガス、非在来型天然ガスこれらはまだ活用が始まったばかりですが、今後も注目してみたいと思います。


Comment
コメントする