米国は現在、オバマ大統領のもと核軍縮を進めています。その背景には、(1)核兵器の使用はハードルが極めて高い(使えない)、(2) 核兵器維持の財政的負担、(3)通常兵器における米国の圧倒的な軍事的優位状況、といった要素があります。こうした観点から、米国はかねてより核兵器に代わる新たな抑止能力を模索しており、この文脈で注目されたのが、CPGS(Conventional Prompt Global Strike:通常兵器型即時全地球攻撃)構想です。
CPGSとは、文字通り、「地球上のあらゆる場所へ1時間以内に通常戦力による攻撃を行う」というコンセプトです。爆撃機や潜水艦、巡航ミサイルや弾道ミサイルがその運搬手段となります。
構想自体が陸海空軍、国防高等研究計画局(DARPA)、そして国防省全体や米議会、NASAにまで関係する広いものであることから、なかなか総括して見ることは簡単ではない、というかめんどくさいのですが、米議会調査局(Congressional Research Service)による報告書『[PDF] Conventional Prompt Global Strike and Long-Range Ballistic Missiles: Background and Issues』の中で、米国がCPGSにどのような役割を与えようとしているのか、どのような課題を認識しているのかといった点が明らかにされていますので、要点を見ていきたいと思います。
(続く)
※ CEP(Circular Error Probable:半数必中界):命中精度の指標。発射した兵器の半数が、目標の中心からどれだけ離れた地点に着弾するかを表す数値。この数値が小さいほど命中精度が高いことを意味する。
CPGSとは、文字通り、「地球上のあらゆる場所へ1時間以内に通常戦力による攻撃を行う」というコンセプトです。爆撃機や潜水艦、巡航ミサイルや弾道ミサイルがその運搬手段となります。
構想自体が陸海空軍、国防高等研究計画局(DARPA)、そして国防省全体や米議会、NASAにまで関係する広いものであることから、なかなか総括して見ることは簡単ではない、というかめんどくさいのですが、米議会調査局(Congressional Research Service)による報告書『[PDF] Conventional Prompt Global Strike and Long-Range Ballistic Missiles: Background and Issues』の中で、米国がCPGSにどのような役割を与えようとしているのか、どのような課題を認識しているのかといった点が明らかにされていますので、要点を見ていきたいと思います。
◆海軍の計画
再突入体の研究
- 2003年、海軍はトライデント2の再突入体の精密性向上計画(E2構想:Enhanced Effectiveness Initiative)を立ち上げた。
- E2構想では、Mk4(再突入体)の後部に再突入後の大気圏内操縦用フラップを装備することを研究し、固定目標に対するトライデントのCEP※を10m以内にする計画だった。
- 2003、2004会計年度の予算を議会に拒否され、ロッキード・マーチンが規模を縮小したまま研究継続。
- 目標へ向かう際の機動力を向上させる以外に、速度を落とすことで衝突の際のコンディションを制御することにも成功。
- ロッキード・マーチンによると、2006会計年度に予算が獲得できれば2011年には運用開始の見込みだったが、海軍は2004、2005、そして2006会計年度でのE2計画の予算を計上しなかった。
- それ以降のE2構想予算も議会が却下。
通常弾頭型トライデント
- 海軍は2006年に、CTM(Conventional Trident Modification:トライデント通常弾頭化)計画を発足。
- CTMでは2種類の弾頭が計画された。
- 1つは、再突入体にタングステンのロッドを搭載し、それを3,000平方フィート(約278平方m)の範囲に雨のように降らせて飛行場やビルを破壊もしくは無能力化するもの。
- もう1つは、地下壕や強固に防護された建造物の破壊を目的としたもの。
- ただ、計画通り製造・調達された場合でもその数量は少ないものであり、そのために国防省はCTMを限定的な状況の下、特別な攻撃対象への使用しか考えてなかったとみられる。
- 2007〜2010会計年度において、海軍の要求した個別の計画に関する予算は議会から下りなかったものの、PGS構想一般に対する研究費は認められている。
潜水艦発射型中距離弾道ミサイル:SLIRBM
- 海軍は弾道ミサイル原子力潜水艦発射型の中距離弾道ミサイルの開発も研究していた。
- ペイロードは2,000ポンド(約910kg)で、射程は2,400km、CEPは5mというもので、15分以内で着弾することを想定されていた。
- 国防省は本計画への関心を失ったわけではないが、2008年以降、議会は予算を出していない。
◆空軍の計画
FALCON計画
- 空軍とDARPAは2003年にFALCON(Force Application and Launch from Continental United States)と名付けられた構想を立ち上げた。
- FALCON計画は、弾道ミサイルに似た運搬体と、CAV(Common Aero Vehicle:共通航空運搬体)と呼ばれる極超音速再突入体を計画していた。
- CAVとは、ICBMによって運搬される再突入体であり、無動力で機動可能な極超音速(マッハ5)の滑空運搬体のことで、ペイロードは1,000ポンド(約450kg)。大気圏内を極超音速で飛翔し、米国本土から地球上のあらゆる場所へ2時間以内に攻撃を可能とする。
- PGS兵器として、CAVは敵領土奥深くまで攻撃するだけでなく、3,000カイリ(約5,556km)のクロスレンジ(cross-range)能力も併せ持たなくてはならない。
- CAVは、発射運搬体から放たれた後、一般的な弾道軌道とは異なる軌道を描いて機動する。
- つまり、飛翔しつつ情報を更新し、移動目標を攻撃しうる。これにより、目標の3m以内にCAVを運搬することを目指す。
- CAVの発射を観測している他国が、それが核攻撃であると誤認するリスクを最小化するため、空軍は通常弾頭のミサイルと核弾頭のミサイルとを別々に配置する予定である。
- また、CAVは移動式発射装置や半地下のサイロに配備され、バンデンバーグ空軍基地(カリフォルニア)と ケープ・カナベラル空軍基地(フロリダ)の2か所が配備予定地である。
- FALCON計画実現のためには、ブースターや運搬体の開発だけでなく、標的を正確かつ迅速に確認するISR(情報・監視・偵察)能力が必要。
- 標的の評価、攻撃計画、短時間内での発射命令に関する指揮・管制能力も。
再突入体の研究と弾頭オプション
- 米国防科学委員会(Defense Science Board:DSB)は、長距離弾道ミサイルの有用性を鑑み、ミニットマン2やピースキーパーの弾頭を通常兵器へ取り替えることで運用しようとしていた。
- これらのミサイルは爆発性の弾頭を用いず、秒速14,000フィート(マッハ12. 5)の運動エネルギーだけで標的を破壊しうる。
- また、FALCON計画におけるCAVのような極超音速滑空体を長距離弾道ミサイルの再突入体として運用することを考えている。
- 2008会計年度以降、国防省はこれらの研究に対してCPGS計画として投資してきている。
- 空軍はCPGS計画において2種類の弾頭を想定している。
- 1つは運動エネルギー発射体で、フレシェット弾のように、子弾を広範囲にばらまくもの。
- もう1つは、爆発性の弾頭を運搬し、強化されたり地下に埋められた標的を破壊するもの。
- いずれも極超音速で飛翔する。
ミサイル・オプション
- 2004年、空軍はミニットマン2とピースキーパーを通常弾頭化改修することを計画。
- しかし、2005年までに両ミサイルは退役。現在はPGSや衛星打ち上げの発射体として利用されている。
- 現在、ピースキーパーから派生した「ミノタウロス4」が運用開始されている。初めの3段にピースキーパーを用い、4段目にオービタル・サイエンシズ社が開発したものを用いている。
- ミノタウロス4は、CPGSのブースト体として運用を見込まれている。
- 既存のロケットモーターを使用しているところから、改修費が安く、技術面でのリスクが小さい。
◆防衛政策全体から見たCPGS
- 議会は2008会計年度に海・空軍のPGS計画を拒否したものの、その代りに1億ドルを充ててより広範なCPGS計画を推進するよう求めた。
- 海軍のCTM計画にこの予算を使うことは許可されなかった。
- また、陸軍が進めていた極超音速滑空体の研究に予算の一部を割り当てるよう明記されていた。
- 議会は2009、2010会計年度に計2億4,150万ドルを認めている。
CSM:通常型攻撃ミサイル
- 2008年、空軍はCSM(Conventional Strike Missile:通常型攻撃ミサイル)システムの研究を開始。
- CTMが議会に拒否された後、CSMがPGS計画において最も実用化される見込みの高いものとなった。
- 国防省によると、CSMは地上配備型のシステムでブースト滑空(boost-glide)技術により通常弾頭を運搬し、発射から数時間以内に着弾する。
- 核弾頭ミサイルとは異なり、弾道軌道は描かない。低軌道、もしくはディプレスド軌道を描く。
- PDV(ペイロード運搬体)は発射体から分離後、機動しながら標的に達するため、高い精密性と第三国への領空侵犯を回避できる。
- つまり、議会がCTMに対して抱いていた懸念――核兵器を発射したのではないかと他国に誤認されること――を、CSMは緩和する。
- 現在の計画では、CSMはミノタウロス4に極超音速PDVを搭載することを想定されている。
- 配備時期には諸説あるが、国防省は配備時期を不明であるとしている。
極超音速技術実証機:HTV-2
- DARPAによると、HTV-2(Hypersonic Technology Vehicle)は超高層大気に発射され、時速13,000マイル(マッハ17)で太平洋を横断する。
- バンデンバーグ基地から太平洋のクワジェリン環礁まで30分で飛翔する。
- 2008年に議会がCPGS構想を立ち上げ、1億ドルが計上された際、国防省はそのうちの5,600万ドルを極超音速滑空試験に充てた。
- これはHTV-2の研究・開発促進にも寄与。
- 2009、2010会計年度には計1億3,200万ドルの予算がつく。2011会計年度には1億3,650万ドルが計上されている。
- 2010年4月22日、HTV-2の第1回目の試験を実施。HTV-2を搭載したミノタウロス4ライト(第4段目のない)をバンデンバーグ基地から打ち上げたが、9分後にHTV-2との通信が途絶え、実験の所期目的は果たせなかった。
陸軍先進型極超音速兵器:AHW
- 陸軍はAHW(Advanced Hypersonic Weapon)という極超音速滑空体を開発中。
- 極超音速滑空やペイロードの点ではHTV-2と類似しているが、射程が短いために前方配備の必要がある。
- 第三国への侵犯を避けたり標的を追跡したりすることを可能にするため、精密誘導システムによって機動。
- まだ飛翔試験は行われていない。試験の際には、SLBMポセイドンから派生したStrategic Targets System(STARS)が用いられることになっている。
- 2006会計年度以降、予算が認められ、2011会計年度には6,900万ドルが計上。
- 空軍のCPGS計画のリスク軽減を支援するものと位置付けられ、2011年に試験が見込まれている。
アークライト:ArcLight
- DARPAは「ArkLight」と呼ばれる計画を持っている。
- SM-3のブースターを利用した極超音速滑空体で、射程は約3,700km、ペイロードは100-200ポンド(45〜90kg)。
- 潜水艦や水上艦のMark41VLSから発射。
- トライデントや空軍のCSMに比べて射程は短い。海軍の前方展開アセットへの配備が求められる。
- 現在、計画は打ち切られた模様。
(続く)
※ CEP(Circular Error Probable:半数必中界):命中精度の指標。発射した兵器の半数が、目標の中心からどれだけ離れた地点に着弾するかを表す数値。この数値が小さいほど命中精度が高いことを意味する。