国際評価戦略センター(IASC)のリチャード・フィッシャー氏が、中国空軍戦力の近況について報告した記事が発表されています。

フィッシャー氏の報告によると、第四世代ターボファンエンジンの開発は必ずしも順調ではなく、空軍などでの評判も芳しくない模様です。AWACSやAEW、空中給油機などのフォース・マルチプライヤーへの投資は進んでいると見られますが、南シナ海で小国を脅す程度ならまだしも、米国や日本と事を構えるには全く不十分な水準にとどまっています。ただ、J-10BやJ-15、J-20の開発状況は盛んなようですし、着々と進むJ-10AやJ-11B/BSの配備は今後も注視が必要です。

2019年までには第三世代+〜第四世代の戦闘機数が1,000を超えるとも見積もられ、防衛費の削減傾向にある米国や日本にとって状況は楽観視できるものではありません。

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China’s Maturing Fighter Force (国際評価戦略センター)
by Richard Fisher, Jr.
近年の中国空軍の成長は目覚ましいものがあるが、とりわけ、国産の第四世代ターボファンエンジンの製造が注目されている。これは、現在進行中である第五世代ターボファンの開発にも大きく貢献している。また、J-10Bへの装備が予定されているAESAレーダーの開発、そして、長距離アクティブ誘導空対空ミサイルや精密誘導対地爆弾といった近代兵器の射程向上なども特筆すべき進歩である。この他にも、ステルス技術の開発といった業績があるが、これらは成都飛機工業公司(CAC)と瀋陽飛機工業集団(SAC)の開発チームに依るところが大きい。

第二次世界大戦以降、米国のアジア戦略の柱は、航空優勢の確保にあった。中国空軍力の急速な成長は、米国のこの空における保証を少しずつむしばんでおり、米国はF-35のような第五世代戦闘機開発、さらには第六世代戦闘機の技術開発への投資を維持すべきである。日本、そしてオーストラリアや韓国、インドネシア、シンガポールといった他のアジア諸国も、中国の空軍力台頭を懸念して第五世代戦闘機への投資を検討している。なお、中国の空軍力は主に台湾に向けられたものであるが、米国がその台湾が要求した66機のF-16C/Dの売却を拒否したことは驚きだった。


不明な戦闘機数
  • 2010年と2011年の米国防総省の報告書『中国の軍事力』によると、中国空軍の近代化率は、2000年には5%未満だったものが、25%にまで上昇しているという。
  • 上記報告書では、空軍(PLAAF)と海軍航空隊(PLANAF)の保有する戦闘機数は1,680機と見積もられ、最大で420機が第四世代マルチロール/第三世代+の「近代型」戦闘攻撃機であることを意味し、台湾の388機を上回る。
  • ただし、420機という数字は疑わしく、例えば国際戦略研究所(IISS)では、中国は2010年までに567機の「近代型」戦闘機を保有していると見ている。
  • さらに、第四世代機に近い能力を持ち、PL-12空対空ミサイル(AAM)を装備するJ-8Fなども加えるならば、「近代型」戦闘機は639機まで増える(IISS)とされ、ある私的試算によると900機にまで達するという。
  • これに対し、日本は約360機、米太平洋軍(USPACOM)は韓国、日本、ハワイ、アラスカに第四・第五世代戦闘機を約250機配備している。
  • 米国防総省の420という数字が正しいとしても、いずれにしろ2019年までに1,000機を超える「近代型」戦闘機が調達されることになるだろう。


国産ターボファンエンジン
中国の国産ターボファンエンジンについての4つのポイント。
  1. 中国は、エンジンの性能などに関して信用できるデータをほとんど公表しない。
  2. エンジン開発部門は弱いとされているが、重点的な投資が功を奏しつつある。
  3. 第四世代ターボファンエンジン「WS-10A太行」が第四世代戦闘機用に製造中。
    さらに高バイパス・ターボファン計画もある。
  4. より強力な第五世代ターボファンが開発段階にあり、第五世代戦闘機のJ-20に搭載予定である。

最近まで中国の戦闘機は、ロシア(ソ連)のターボジェットのコピー版やロールスロイス製スペイをライセンス生産したWS-9を搭載してきた。今後もこれらのエンジンは使用されるが、新たな国産エンジンの製造が始まりつつある。


WS-10A太行
  • 1986年に開発が始まったと見られるが、当局からの公式な発表がないままである。
  • ロシアや中国の情報によると、目標推力には達していないと見られ、28,000 lbs(12.7トン)ほどと見積もられる。
  • 信頼性も低く、米国他の水準には届いていないが、中国の非公式情報によると、年間80〜120基が製造される段階であるという。
  • J-11B、J-11BS(J-11Bの複座型)、J-15空母艦載機、J-10に搭載される見込みである。
  • 未確認情報ではあるが、「WS-10B(推力31,000 lbs)」も開発中であるというレポートがある。
  • また、同レポートでは、軸対称推力偏向システムをもつ「WS-10BIII」も開発中だと伝えている。


中サイズターボファン/WS-13
  • 中国は、小型戦闘機のために推力8トン+サイズの中サイズのエンジン開発も手掛けている。
  • FC-1/JF-17戦闘機のために、クリモフ設計所(ロシア)の「RD-93ターボファン(推力18,300 lbs)」100基を調達しようとしていたが、2010年、輸出は凍結された。
  • RD-93の代替として、同サイズの「WS-13」を開発中だと言われている。
  • China Gas Turbine Establishment(CGTE)が、2008年の珠海航空ショーで推力9,500kg(20,943 lbs)の軸対称推力偏向ノズルのモデルを展示した。
  • この中推力エンジン(WS-13?)が完成すれば、FC-1用エンジンに関して、中国はロシアなどから受ける輸出面での制限を顧慮する必要がなくなる。
  • 他の選択肢として、ウクライナのイーウチェンコ・プロフレース設計局が、推力9.5トンの「Al-222-95Fターボファン」の共同開発計画を中国に持ちかけている。


第五世代ターボファン「WS-15」
  • CGTEは、J-20に搭載する第五世代ターボファンエンジンの開発をしている。
  • ただし、このエンジンはJ-20のプロトタイプには間に合わないため、推力15トン(33,000 lbs)クラスの第四世代エンジンを利用すると見られる。
  • 2009年、ロシア当局が、中国は推力18トン(39,600 lbs)クラスのエンジン開発を進めていると明らかにした。
  • これが、CGTEの手掛けているエンジンなのか、それとも別のものなのかは分からないが、軸対称推力偏向システムを備えていると見られる。


ロシア製エンジン
  • 1990年以降、中国は1,000基を上回るAL-31F/FNターボファンを調達してきた。
  • AL-31Fは、Su-27SK、Su-28UBK、Su-30MKK/MKK2、そしてJ-11Aに積まれている。
  • また、2013年までに、J-10搭載用としてAL-31FN(推力27,800 lbs)を400基調達予定である。
  • 中国は、より強力なAL-31M1(推力29,800 lbs)に関心を示しているという。


先進型レーダーとアビオニクス

aesa
華声論壇より画像転載)

J-10BはXバンドAESAレーダーを搭載している。

display
文匯報より画像転載)

また、珠海航空ショーでは、中国の航空機メーカーがF-35に用いられているような大型のコックピット・ディスプレイの製造能力を示した。


先進型兵器
空対空ミサイル(AAM)
  • 1991年から、R-73(AA-11)やパイソン3(PL-8)の派生型短距離AAMを対台湾兵器として配備。
  • これらのミサイルは、ヘルメット・マウンテッド・サイトの搭載により、ミサイルの照準軸から大きく外れた目標とも交戦可能である(オフボアサイト能力)。
  • 2003年までに、中国は射程70〜80kmのR-77アクティブレーダー誘導AAMの調達を開始。
  • また、2001年に明らかにされたPL-12は、アクティブ/パッシブレーダー誘導AAM。
    射程は100km。J-8F、J-10、J-11シリーズに搭載される。
  • 中国のネットに掲載された情報では、ラムジェット搭載のPL-12DやPL-21といったAAMの存在も伝えられている。

精密誘導対地爆弾(PGM)
  • 2010年までの珠海航空ショーにて、戦闘機から無人機搭載用まで様々な種類の精密誘導爆弾が発表されてきた。
  • FTシリーズ、LSシリーズなどがあり、例えば500kg級LS-4は、レーザー誘導の爆弾である。
  • これらの精密誘導爆弾を運搬するJH-7攻撃機などは、新型の多種類捜索/照準ポッドを搭載する。
中国の精密誘導爆弾に関する画像はこちらにたくさん。


フォース・マルチプライヤー
AWACS&AEW
KJ2000
(KJ-2000早期警戒管制機。Wikipediaより)
  • 2005年までに、ロシアのベリエフA-50をベースにしたAWACS「KJ-2000」が4機配備されている。
  • 2007〜2008年には、より小型で低価格のY-8輸送機をベースにAESAレーダーを搭載したAEW「KJ-200」の配備も開始され、現在4〜6機保有されている。

空中給油機
H6U
(H-6U。Wikipediaより)
  • PLAAFとPLANAFは、あわせて約15機のH-6U空中給油機を保有しているとみられる。
  • J-8DとJ-10に給油可能だが、給油システムの異なるSu-30MKKには給油できない。
  • 将来は、国産の軍用COMAC C-919が給油機として就役するかもしれない。

無人機(UAV)
  • これまで珠海航空ショーでは、翔龍、暗剣など多様なUAVが展示されてきた(参照記事)。
  • 2011年のショーでは、空母着艦能力を持つUAVの構想が明らかにされた。
  • ノースロップ・グラマンのX-47Bに似た空母艦載の大型UCAVが想定されている模様で、瀋陽航空航天大学は中国航空工業集団(AVIC)から研究費用の助成を受けている。


成都飛機工業公司(CAC)
J-10A
j10a
Wikipediaより)
  • J-10AはF-16 Block30〜40の能力に匹敵すると見られる。
  • J-10Aによって、2011年までにPLAAFは6個飛行連隊を創設、PLANAFは1個飛行連隊を創設中
  • J-10Aの総製造数は200を超えると見積もられるが、AL-31FNの調達数が400〜500基であることから、J-10Aの最終的な製造数もこれに近いものになるかもしれない。
  • レーダーはKLJ-3を搭載し、探知距離は120km。
    約10目標を追尾しながら2つの目標に対する同時交戦能力を持つ。
  • PL-12アクティブレーダー誘導AAMを標準装備し、LS-6などの精密誘導爆弾も搭載可能であるとされている。

J-10B
j10b
Pakistan Defenceより画像転載)
  • ダイバータレスインテイク(DSI)が特徴的なJ-10Bは、2011年半ばに国産エンジン「WS-10A」を搭載した機体が確認されている。
  • J-10Bのアップグレードにおいて最も重要なものが、レーダーであり、おそらくAESAレーダーを装備している
  • 全てのアップグレードを経たJ-10Bの性能は飛躍的に向上し、第四世代+に達する。
  • 2011年には製造が開始されたと考えられるが、搭載エンジンがAL-31FNなのかWS-10なのかは不明である。
  • J-10の双発型も時折話題になるが、CGTEが開発した推力9.5トンのターボファンエンジンなら可能とみられる。

FC-1/JF-17

  • パキスタンとの共同開発機。
  • エンジンがロシア製RD-93を搭載していることや、ハイ・ロー・ミックスのローをすでにJ-10が担っていることなどから、中国では配備されていない。
  • RD-93の代替として、FC-1用に同サイズのWS-13を開発中(上述)だとされている。
  • レーダーはKLJ-7。探知距離105km、10目標を捕捉しつつ2目標に対する同時交戦能力を持つ。
  • レーザー/ナブサット誘導精密爆弾とPL-12AAMを搭載。
  • いくつかの報告によると、FC-1のステルス版として「FC-2」が開発中であると言われている
  • 国産エンジンの開発に成功すれば、J-7軽戦闘機の代替として中国でも採用されるかもしれない。

J-20
  • 2009年、ゲーツ国防長官(当時)は「2025年までに中国が配備する第五世代戦闘機は大した数ではない」と演説した(参照記事)。
  • 2011年の米国防総省の報告書によると、J-20は2018年初頭に実戦配備されるという。
  • 制空戦闘機と見られている一方で、F-22よりも大型の機体であることから、J-20の主任務は爆撃ではないかという推測もある
  • F-22は187機で調達中止となったが、J-20は300機調達される予定と見られている
  • J-20プロトタイプの飛行試験では、WS-10系もしくはAL-31系のものが搭載されていたようだが、現在、推力15〜18トンのWS-15が開発中(上述)。
  • 2005年に、CACはF-35のような単発の第五世代戦闘機開発を検討中であると伝えられたが、現在まで確認できていない。


瀋陽航空機工業(SAC)
J-11B/BS
j11b
日本周辺国の軍事兵器より画像転載)
  • Su-27の ‘国産型’ であるJ-11Bは、2007年に複座型のJ-11BSが初飛行。
  • PL-12AAMやPGMを搭載可能。
  • J-11B/BSはPLAAFの4個飛行連隊とPLANAFの1個飛行連隊に配備されつつある
  • PLAAFのJ-11B飛行連隊のひとつは、台湾に接する南京軍区に属している

J-15
j15
日本周辺国の軍事兵器より画像転載
  • Su-33艦上戦闘機のコピー。
  • 2009年には、動力にAL-31Fを使用していたが、2011年に確認された機体にはWS-10Aの搭載が確認された。
  • 2012年までには海軍の空母ワリャーグ上での訓練が開始され、2015年までに空母航空戦力形成の基礎をなすと見られる
  • J-15の初期能力は、米海軍のF/A-18CとF/A-18E/Fとの中間程度に位置する

J-16
  • J-11BSの発展型とみられ、ステルス性能を持ち、AESAレーダーを備える。
  • F-15Eの発展型やSu-30と交戦することを考慮して開発中であると言われる。
  • 艦載機型もある。

J-18
  • 第四世代+〜第五世代戦闘機計画として、双発ステルス機 J-18「白梟」(注:「紅鷹」とも呼ばれる)の存在も指摘されている。
  • 被低観測性能を求め、ステルス外形や内部武器格納庫などを備える。
  • 艦載機化されると見られる。

F-60
  • 2011年に存在が知られるようになった第五世代戦闘機。
  • J-11よりわずかに小型で、被低観測外形・内部格納庫、AESAレーダー装備などが特徴とされる。
  • エンジンは太行モデルの発展型を搭載すると見られるが、詳細は不明。