(PAC-3迎撃実験の映像)

来月の北朝鮮の衛星ロケット/弾道ミサイル発射予定にちなんで、本稿ではミサイル防衛にまつわる否定的意見を考察してみたいと思います。

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ミサイル防衛(MD)システムは、正常に飛んでくる弾道ミサイルを迎撃するものです。今回想定されているように、ロケット/ミサイル及びその部品・破片等が事故や故障で落下してきたものを撃ち落とすことは本来のMDの任務ではありません。そうした意味において、不測の事態が考えられなくもない、という懸念であればまだ納得もできるのですが、ミサイルでミサイルを撃ち落とすということがいまだに「ありえない」と信じておられる方が多いのには辟易してしまいます。


「ミサイルをミサイルで撃ち落とす」という表現の落とし穴


2009年の発射実験の折、鴻池祥肇官房副長官(当時)がMDを評して「ピストルの弾同士が当たるというのは、なかなか難しい」と仰いました。MDに対してこうした印象を持つ方は多いと思いますが、次のような条件を付ければどうでしょうか? 

ピストルの(弾-A)をピストルの(弾-B)が撃ち落とす際、(弾-B)の射手の帽子にレーダーを取り付け、(弾-A)が発射される兆候を探知し、発射後は追跡してその情報を拳銃と(弾-B)にリアルタイムで送信します。さらに拳銃が(弾-A)の弾道を計算し、速度や角度を割り出し、そのデータを受信した(弾-B)は誘導シーカーと機動制御スラスタによってくねくねと機動し、(弾-A)の予想飛翔経路で待ち受け、直撃寸前に胴径を増加させる――。 少なくとも闇雲に撃つよりはヒットする確率が上がりますよね? MDはこうした技術によって実現されています。敵ミサイルがドーンと撃たれて、なんとなくポーンと迎撃弾を撃っているわけではありません。


SM-3とPAC-3は実戦で役立たず?


実戦で使ったことのないシステムは役に立たない、という意見もあるかと思いますが、実戦を経験せずに世界的に高い評価を得ている兵器なんて少なくありません。テポドンもノドンも実戦は経験していませんしね。なお、テポドン・シリーズの実験は、1998年、2006年、2009年の3回。ノドンは、1993年と2006年(4発)に発射実験が行われています。

MDはイラク戦争などで実戦経験がありますし、度重なる実験とその成功率は少なくとも北朝鮮の弾道ミサイルと比べれば、よほど実績のあるシステムだと言えます。

【SM-3】
2002年に海上配備型BMD実験が開始されて以来、SM-3ブロック1Aによる実験は27回実施され、そのうち22回が迎撃に成功しています。単純に見て迎撃率は81%を超えています。2008年2月には、高度247kmを秒速7.76km(マッハ22)で飛行中のアメリカの故障した人工衛星を破壊することにも成功しています。

海上自衛隊でもイージス護衛艦の「こんごう」、「ちょうかい」、「みょうこう」、そして「きりしま」の4隻それぞれのSM-3発射試験が終了しています。結果は、4回の試験で3回の迎撃成功です。なお、2008年11月20日に実施された「ちょうかい」による試験が唯一の失敗でしたが、これはミサイル弾頭部の軌道や姿勢を制御する固体燃料を噴出するバルブなどに発生した不具合が原因で、ミサイル防衛システム自体に問題があったわけではありません。標的ミサイルの捕捉とSM-3の発射・追尾は成功していますし、同じ工程で作られたSM-3を米軍が試射した際は迎撃に成功していることから設計や製造工程の問題ではなく、極めてまれなケースと報告されています(参照)。

さらに、2011年4月14日には、米軍がイージスBMD 3.6.1を用いた初めての中距離弾道ミサイル(射程3,000km〜5,500km)迎撃実験に成功しており、この時の迎撃高度は300〜400kmでした。

【PAC-3】
よく引き合いに出される湾岸戦争での迎撃成績の悪さですが、あれはPAC-2のもので、PAC-3とはまったく別物です(参照)。

また、「PAC-3は有効範囲が狭い(射程:15〜20km、射高:15〜20km)ので敵弾道ミサイルに届かない」、という点もしばしば指摘されますが、そもそもPAC-3は本当に重要な拠点を点で防御するためのものなので、広い範囲を防御できないからといって無能扱いするのは言い掛かりに過ぎません。ICBM級の弾道ミサイル迎撃ができないから駄目だ、というのも無茶です。例えば、ひとくちに「車」と言っても、サーキット用のレーシングカーから貨物輸送用の10トントラックまでサイズや性能が多様であるのと同じく、迎撃ミサイルシステムも用途に応じて種類を揃えており、PAC-3は短距離弾道ミサイル〜準中距離弾道ミサイル(ノドンなど)までを迎撃するよう設計されたものです。つまり、マッハ10(秒速3.4km)くらいまでの弾道ミサイルに対応できます。

なお、PAC-3は2006年の時点で22回中19回の短距離弾道ミサイル(SRBM)迎撃実験に成功しており、実験における迎撃率は86%以上。現在も改良が続いていますし、昨年5月にはPAC-3MSE(Missile Segment Enhancement:ミサイル部分強化型)の発射試験が実施され、成功を収めています(参照)。

もちろん、実験で出した高い迎撃率なんぞ実戦で通用するものか、という意見にも一理あります。では、実験よりも半分の迎撃率しか達成できなかった場合について考えてみましょう。単純に確率だけの話なので、他の諸条件は考慮しません。

まず、SRBMに対するPAC-3単発の迎撃率が40%とします。敵弾道ミサイル1発に対してPAC-3は2発発射することになっていますから、1回目(PAC-3×2発)で迎撃率は64%になります。2回目(PAC-3×2発)で迎撃率は95%まで上がります。したがって、PAC-3を4発撃てば、撃ち漏らしは5%という結果になるということです。そしてこれはPAC-3×4発だけの数字であり、そこに至るまでにSM-3の網をくぐりぬけておかなければならず、さらに多くのPAC-3を撃てば、当然迎撃率は向上します。

実験と実戦は違う、と言いますが、MD実験は発射時刻などを伏せて行われています。また、航空機や巡航ミサイルとは異なり、迎撃すべき弾道ミサイルは実験でも実戦でも基本的には弾道軌道を描きます。発射側がディプレスト軌道(低軌道)やロフテッド軌道(高軌道)で打ち上げたり、標的ミサイルの不具合による軌道のズレやその日の天候などが原因で迎撃側に不利な状況が発生することも考えられますが、訓練や実験がまったく活かされない実戦状況ばかりを想定することもまた極論ではないでしょうか。


MDは日本がアメリカに無理やり買わされたもの?


日本はアメリカの言いなりになってMDという無用なものに高い金を払わされている、という意見もよく聞きます。日本がアメリカの言いなりかどうかはよくわかりませんが、MDをただ高価な無用の長物だと考えている国ってあるんでしょうか?

MDを配備もしくは導入検討している国は日米以外にも、ロシア、中国、イスラエル、インド、英、独、仏、イタリア、オーストラリア、韓国、台湾、他にもUAEやサウジが挙げられ、今後も増えていくことでしょう。イランや中国、そして北朝鮮の弾道ミサイルの脅威を抱えている地域の国では、MD導入・検討は必要に駆られたものであり、無用の長物だとの認識はありません。MDがまったくの役立たずであるなら、ロシアがあれほど執拗に欧州のMD配備計画に反発することもないでしょう。カタール、UAE、バーレーン、クウェートもまた、どうして米国が国内にMDを配備することを受け入れたのでしょうか。

なにより、「アメリカの言いなり」というロジックは、ロシアや中国までもがこのシステムを開発・配備していることで破たんしています。


◇ ◇ ◇

100%の兵器なんて存在しません。1%でも被害が出る可能性のあるものは役立たず、というのは、シートベルトもヘルメットもエアバッグも否定する意見ですから、さすがに同意しかねます。MDには「安全保障のジレンマ」という問題が潜んでいますからそれを指摘したり、政府の政治的決断を危惧するのなら議論の余地もありますが、冒頭で触れたように、MDの批判・否定には極論が多く、事実に反した例証を挙げたり、確率や物理法則を無視した意見が多いために、建設的な議論にならないのが残念です。

決してMD万能論を説くつもりはありません。他の兵器システムと同じように不備のあるシステムだと思います。しかしながら、弾道ミサイルは極めて対処の難しい兵器であり、専守防衛を掲げる日本はより一層限定された手段しか採用できません。確かに、99%の迎撃率を誇っていても、1%の撃ち漏らしによって甚大な被害が出るかもしれませんし、そこに自分や大切な人たちが巻き込まれることも十分考えられます。そうした観点から言えば、限りなく100%に近いシステムを希求する気持ちは私にもあります。それでいてなお、よほど効果的な代替システムが開発されない限り、MDは日本にとって現時点で最も適切な対弾道ミサイル・システムであると言わざるを得ません。