米国による中国の国産兵器開発に関するインテリジェンス(情報活動)がこれまで不十分であったことを反省しなくてはならない、というレポートが、米議会諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」から発行されました。

中国国産兵器の代表例として、元級潜水艦、衛星攻撃(ASAT)兵器、対艦弾道ミサイル(ASBM)、そしてJ-20 戦闘機が挙げられています。これらの兵器の存在はかねてから認識していたために大きな衝撃こそなかったものの、米当局やアナリストたちが想像していたよりも開発ペースが速く、その点で過小評価してしまっていた、という分析内容です。

Indigenous Weapons Development in China’s Military Modernization [PDF]
U.S.-China Economic and Security Review Commission Staff Research Report, April 5, 2012.

039A/B/041型(元級)ディーゼル潜水艦
2004年7月に初めて確認。現在4隻稼働中。5番艦が洋上試験中で、2012年に就役の見込み。ロシア製キロ級と中国国産の宋級の特徴を併せ持ち、武装は宋級に似ている。20隻ほど建造されるという予測がある。

2007年以降、非大気依存(AIP)推進能力を付与されたという情報が取り沙汰されている。2009年には米海軍情報局(ONI)レポートと米国防総省の「中国に関する年次報告書」が元級のAIP搭載疑惑を指摘。現時点で元級にAIPが搭載されているかどうかは不明であるが、中国の造船会社がパキスタンと協力して6隻のAIP搭載潜水艦を設計・建造しており、中国のAIP設計能力を暗示している。


【情報開示・漏洩の “拒否” 】

元級の出現は情報をずっと追っていた者にとってさえ開発ペースは予想以上に早いものだった。現在も元級に関する情報は限定的。中国の政府及び軍の透明性の欠如が、元級の開発状況を正確に予測することを難しくしている

また、確認できているわけではないが、元級の建造は完全なる地下施設で秘密裏に行われており、今後も情報は秘匿されるだろう。元級にまつわる秘密性は、「拒否と欺瞞(denial and deception)」のうちの「拒否」の例である。すなわち、国家機密に関する情報を敵国から隠す努力である。


【中国防衛産業部門の能力】
元級潜水艦に関する正確な情報分析を妨げているもう一つの要因が、90年代から2000年代初めにかけての中国の防衛産業における変化を米国が読み誤ったことである。将来予測とは過去に正確性が証明された現象の延長線上に弾き出されるものだが、80年代と90年代初頭に中国の防衛産業に目立った進歩は見られなかった。

しかし、90年代末の制度改革にともない、中国の防衛産業はパラダイムシフトを遂げたと見られる。防衛産業部門を改革しようという中国政府の政策とグローバルマーケットとが結びついて外国の製造業のノウハウが持ち込まれ、結果として中国の国産兵器製造能力が劇的に変化したのだ。この傾向は90年代にはまだ明らかになっておらず、2000年代の半ばに現れ始めた。

防衛産業部門にはまだ多くの問題があるものの、70〜80年代の旧弊な官僚的構造は取り払われたと見て良いだろう。依然として政府の管理下にあるものの、構造改革と技術革新によって、近代兵器製造能力は20年前とは比べ物にならない。


衛星攻撃(ASTA)兵器システム(SC-19)
2007年1月11日、地上から打ち上げたミサイルを人工衛星に直接体当たりさせる直接上昇方式(Direct Ascent)の衛星攻撃(ASAT)兵器試験に成功し、中国の気象衛星「FY-1C(風雲1号C)」を高度約530マイル(853km)の軌道上で破壊した。この実験で発生したスペース・デブリは、人類が単一の事例で発生させたものとしては最大である。米国をはじめ国際社会は宇宙環境への悪影響を懸念。さらに、米国の衛星システムの脆弱性への不安が高まることになった。

<ASAT開発の歴史>
60年代にはすでに中国でASAT技術の基礎的研究開発が確認されており、本格的なリサーチが開始されたのは80年代から。少なくとも90年代初頭以降、国家の優先課題としてASAT兵器開発が継続されている。ASAT能力は国家の威信を高揚し、宇宙戦略を強化するものであることから、抑止力として国家の安全保障環境を好ましい状態に保ち、軍事衝突が発生した場合には宇宙空間を含めた近代的なハイテク統合作戦を遂行する能力として中国は追及してきた。中国のASAT兵器は対米有事の際、米国の宇宙へのアクセスを阻害するのではないかという懸念は早くから指摘されていたが、技術的財政的ハードルが高く、実現は困難と見られていた。

2004年9月〜2007年1月の間に、中国は計4回の直接上昇方式によるASAT実験を実施。米当局では中国のASAT兵器開発の意向を掴んではいたが、2007年の実験まで大きな注意を払ってはこなかった。

2009年、米国防情報局(DIA)のメープルズ局長(陸軍中将)は、上院軍事委員会の公聴会で「中国は米国の宇宙配備型ナビゲーション、コミュニケーション、インテリジェンス・アセットを標的としたシステムや技術を開発している」と指摘し、「次の10年でASAT作戦のための妨害兵器、キネティック兵器、直接エネルギー兵器といった先進システムを配備するだろう」と証言している。また、メープルズ局長は、ASAT攻撃の前提となる衛星の追跡・識別を行う能力を向上させるために、中国政府が民間の衛星技術を利用することも指摘している。

ISR、通信、ナビゲーション、位置特定を宇宙配備アセットに依存する米国にとって、中国のさらなるASAT試験は深刻な問題である。中国が地上配備型キネティック・キル弾頭(物理的衝撃による運動エネルギーで標的を直接破壊する。例:SC-19ASAT)やレーザー兵器、電磁スペクトル分裂ハードウェアの開発を今後も続けることは明らかだと言われる。さらに中国は、宇宙配備型のプラットフォームの制限や宇宙の武装化を抑制する軍備管理協定を繰り返し提案することで、米国や他の競争国の宇宙戦力を限定し、自らの地上配備型プラットフォームは規制の対象外となるような試みも始めている


【戦略的欺瞞・誤誘導メッセージ】
米政府は中国の潜在的ASAT能力を過小評価しておらず、2007年の実験も不意を突かれたわけではなかった。ただし、2007年以前、中国の外交スタンスや公式声明のレトリックは「米国やその他の国と宇宙で軍事的に事を構えるつもりはない」というものであったため、誤誘導された専門家やアナリストはいるかもしれない。

2006年まで中国は宇宙の平和利用のみに限定し、ASATを含む宇宙空間のいかなる軍事開発にも反対し、ルール作りの必要性さえ訴えていた。しかし、2006年の白書において、法規制に関する言及が無くなり、ASAT開発の可能性を匂わせ始める。ところが、2008年の国防白書の中に再び法規制に関する文言が登場し、アナリストやインテリジェンス界隈では中国の言動に惑わされている。

中国が2007年の実験に関して質問に答える際も、部署によって意見が異なっていた。それは中国政府部内でうまく政策が共有されていないための齟齬であるとか、中国の宇宙兵器計画に関する情報を欺瞞するためではないかといったさまざまな憶測を呼んだ。中国の歴史哲学及び軍事哲学を知る学者は、こうした中国の手法を戦略的欺瞞であると見ている。すなわち、敵の戦略評価プロセスを操作し、戦略的意思決定権を持つ高レベル層に対して影響を与えることを目的としている。情報の選択的宣伝は、中国共産党に深く根差した制度的文化ともいえよう。中国の国家安全保障や軍事に関する情報は不透明で、軍事技術やハードウェア開発の進捗度合いを知る手掛かりも少ない。さらに、軍事的意図、政策の意思決定プロセスも依然として秘匿されている。


【政策調整の欠如と政軍間の隔たり】
歴史的に人民解放軍(PLA)は中国共産党(CCP)に多大な影響力を行使している一方で、文民の指導力がシステム上はPLAをコントロールしてきており、両者の関係は複雑である。中国軍の発展に関する事実と米国側の情報にズレが生じる理由は、中国の政軍間に政策協調が欠如しているところにあるが、政軍間の隔たりがどれほどのものであるかを測ることもまた難しい

2007年のASAT実験は部局間の調整不足を示す例だとされる。中国外交部(MFA)は実験を公式に確認するまで12日を要した。これは、MFAが事前に発射実験について通達されていなかったのではないかという疑念を生む。2011年1月11日、ロバート・ゲイツ米国防長官の訪中期間中にJ-20の飛行試験が実施され、胡錦濤主席が驚くという騒ぎもまた、政軍間の連携が取れていないことを示していると言われる。

ところが一方では、ASAT実験の決定は政軍間の指導者が慎重に審議を重ねたものであるというソースもある。ASAT実験後の政府の沈黙は、米国などに対して不透明性を掻き立てる計算された意図的行動であり、抑止効果を高めるためのものだという見方もある


【中国の脅威認識についての過小評価】
ASAT計画にまつわる中国の振る舞いは、米国が中国に与える脅威認識によって理由づけられる。つまり、米国は宇宙において支配的な軍事国家であり、宇宙空間における優越を維持しようとするが、それが却って他国に脅威を与え、国際社会を宇宙軍事競争へと駆り立て、中国もまた宇宙空間での抑止力を築くという反応を余儀なくされている、という論理だ。中国は、米国の宇宙に対するスタンスや宇宙空間における軍備競争の防止(PAROS)によって潜在的な安全保障上の脅威を感じ、ASATシステムによる対処をするしかないと感じている


対艦弾道ミサイル(ASBM)「DF-21D/CSS-5」
「DF-21D」は通常弾頭の準中距離弾道ミサイルで、射程は1,500〜2,000km。機動再突入体(Maneuverable Re-entry Vehicle:MaRV)を搭載し、GPS・アクティブレーダー方式で終末誘導される。


【ASBM開発の歴史】
DF-21シリーズの起源は1965年にさかのぼり、周恩来首相が固形燃料推進ロケット技術の開発を提案したことによる。2008年の米国防総省の中国年次報告書にて初めて言及され、2009年には基本性能や米軍への影響等に触れられた。2010年にはASBMへの言及はなかったが、米政府は明確に中国のASBM開発を意識していた。同年、ウィラード太平洋軍司令官が、「ASBMは初期作戦能力(IOC:Initial Operational Capability)レベルに達している」との見方を示す。2011年2月18日、中国メディアがASBMはすでに配備されている、と報道。同年3月17日、台湾国家安全局の蔡得勝(Tsai Der-sheng)長官も中国はすでにASBMを配備済みであるとメディアに語った。米国ではASBMの配備を確認する情報はまだないものの、ラフェッド米海軍作戦部長は2011年1月14日に「数年以内に実戦能力が確認されても驚かない」とインタビューに答えている。

ASBMのMaRVは、空母のような洋上の移動目標を直撃するよう設計されている(上図参照)。空母は米海軍の作戦上最も重要であることから、米国のアナリストや当局者はASBMが深刻な脅威であると理解している。米海軍は、洋上の移動目標を攻撃する能力を持った弾道ミサイルに対峙したことがない。

ただし、中国はDF-21Dシステムの陸上発射試験は行っているが、海上の機動目標に対する実験はしていない。なお、中国は終末誘導技術を研究しており、MaRVを搭載したパーシングII の誘導技術もその対象となっている模様

何人かの専門家が指摘する通り、ASBMが完全運用能力に達するまでにはまだ数年かかるだろう。2009年にMark Stokes が想定したASBMの配備までのスケジュールは以下の通り;

(第1フェイズ)
 2010年末までに1,500〜2,000kmの射程能力を獲得。
(第2フェイズ)
 2015年までに射程を3,000kmまで延伸し、空気力学的機動能力を獲得。
(第3フェイズ)
 2020年末までに射程8,000km(ICBM級)の通常弾頭による精密攻撃能力を獲得。
(第4フェイズ)
 2025年までに全地球規模精密攻撃能力を獲得。

さらに、ミサイル以外のインフラや支援システムに関する開発も進んでいる。2009年にはDF-21Dロケットモーター施設が完成し、共通軌道電子偵察衛星(co-orbital electric intelligence satellite)やリモートセンシング衛星(地球観測衛星)が打ち上げられ、海洋画像情報や長距離精密攻撃のアセットとして準備が進んでいる。宇宙配備型でないISRシステムを保有しているという情報もある。

なお、IOCに達しているとはいえ、ASBMが洋上の移動目標に対して配備されるまでにはまだハードルが残っている。とくに、C4ISRシステムと高度に統合されることが要求され、このプロセスにはさらに数年を要すると見られる


【ASBM開発速度に対する過小評価】
ONIが初めて中国のASBM開発に関して公式に議論したのは2004年。国防総省は2005年。2006年には、ONIによって、中国がレーダーもしくは赤外線シーカーを搭載したMaRVの開発をしているというアセスメントが発表されている。米インテリジェンスはASBMに対する認識を早くから持ってはいたが、その開発の進捗度については見くびっていた。また、米政策決定者たちは、空母が危険にさらされる状況を想像できなかった。


【研究開発(R&D)への投資増加と軍民両用技術】
過去10年で中国の軍事費は世界第2位となり、それに伴って軍事的R&Dへの投資も増え続けている。当然、国産兵器や支援システムの開発や配備も急速な勢いで進んでいる。また、兵器開発に携わる民間企業や大学などの研究機関への投資額も大幅に増えている。

中国のオープンソースを研究し活用する能力が米国には不足しており、中国のこうした状況が兵器開発にどの程度影響を与えるかについて過小評価していた。

2001年2月、江沢民が「暗殺者の矛(Assassin’s Mace/杀手锏)」計画を掲げ、防衛技術の革新を進めることになる。計画は軍民両用技術の開発を主眼とし、国家主権と安全保障を確保するために「杀手锏」の開発が促された。中国の軍民両用技術に対する米国の関心は十分なものではなかったために、正確な情勢分析が遅れることになる。政府出資のR&D計画と民間企業の商用技術との融合が、中国の軍事力先進化を加速させたことも、米インテリジェンスにとっては意外だった


<中国指導者層の脅威認識と優先政策に対する過小評価>

台湾有事が軍近代化のモチベーションである。中国の軍事的主要課題は、台湾との軍事バランスにおいて戦略的優位を維持することだ。1996年の台湾海峡危機でPLAは米空母打撃群の威嚇によって自尊心を傷つけられ、それが近代化を進める大きな契機となった。中国は、この危機以降、米軍を戦域の外に足止めするための兵器(近代型潜水艦やミサイル、第三・第四世代戦闘機)の獲得に努めることになった。

空母を標的としたASBMは、この目的を達成する上で特に重要。また、台湾は米本土から遠く離れており、ここで作戦を展開する米軍C4ISRにとって衛星は必需システムであることから、ASAT兵器も台湾有事に極めて有効である。すなわち、ASBMとASATは、中国が台湾危機以降発展させてきたA2AD(接近阻止/領域拒否)戦略上不可欠である

中国の軍事費増は、PLAと他国の先進軍隊との技術格差を埋めるというモチベーションによってさらに促進されるだろう。また、中国の国益は領土的主権の保護にとどまらず、今後さらに外に向けて拡大することが予想され、軍事技術のR&Dや投資対象もそれに伴ってパワー・プロジェクション(戦力投射)能力の獲得や外洋での影響力行使へと移っていくだろう。


J-20 戦闘機
2011年1月11日に存在が公になった第五世代戦闘機プロトタイプ。米政府は存在を認識してはいたものの、開発状況までは把握できていなかった。


【J-20開発の歴史】
1997年にONIは中国が開発中の戦闘機に「XXJ」という名称をつけた。成都飛機工業公司(611研究所)と瀋陽飛機設計研究所(601研究所)の2つの戦闘機メーカーが開発競争をする。2004年の米国防総省の中国に関する年次報告書の中で、「中国は2010年までにより強力な第四世代戦闘機の飛行隊を持つ」との予測があるが、第五世代戦闘機計画への言及はない。2008年3月14日、新華社通信が「殲-20:第五世代戦闘機研究を加速させる中国」という題で写真が掲載されたが、すぐ取り消された。

2009年、ゲーツ国防長官は、中国に対する米空軍力の優位性を以下のように強調した;「2020年までに米国は約2,500機の有人戦闘機を投入する。そのうち1,100機は第五世代戦闘機であるF-35とF-22である。一方、中国が2020年までに保有するであろう第五世代戦闘機はゼロである。さらに、2025年までにそのギャップは広がるばかりだ。米国は約1,700機の第五世代戦闘機を持つのに対し、中国は一握りの第五世代戦闘機を持つのがやっとであろう」。

中国政府筋が第五世代戦闘機計画を公式に認めたのは、2009年11月、PLAAF副司令官 He Weirong 将軍がテレビのインタビューに答えたものが最初である。同将軍は「第五世代戦闘機が現在開発中であり、2010〜11年に初飛行し、2017〜19年に実戦配備される」と語った。なお、2011年だけで、J-20は60回の試験を行っている。

現在、米中両政府からJ-20の性能(ステルス技術を含む)や開発状況について発表はない。ロシアのメディアは、中国には第五世代戦闘機設計のキー・コンポーネントが不足しているためにJ-20のステルス能力に疑念を抱いている。米国でも、中国のジェットエンジン製造技術などの不備を指摘し、J-20の性能に疑義を示しているアナリストがいる。また、J-20は、ステルスやエンジン以外にも、アビオニクスや電子能力、人材育成等の面での問題がたびたび指摘される。


【中国航空機部門の開発ペースに対する過小評価】

米政府アナリストにとって、J-20の出現は驚くべきものではなかった。ただし、公式声明等を見る限り、米政府はJ-20がいつ完全運用状態になるのかというタイムラインを明確に把握できてはいないようだ。

ドーセット海軍中将は、「J-20の存在そのものは驚きではなかったが、中国の兵器システム開発とIOC能力獲得のスピードを過小評価していた」と語った。2010年5月、米空軍の国家航空宇宙情報センター(NASIC)のウルマン・センター長が、連邦議会聴聞会で「J-20は2018年頃に実戦配備されるだろう」と証言した。


【中国の政軍関係の隔たり?戦略的メッセージ?】

2011年、ゲーツ国防長官が胡錦濤主席にJ-20飛行試験に関する疑問をぶつけた時に、中国側の文民は何も知らされていなかったようだと伝えられている。そうしたこともあり、J-20の初飛行試験はPLAが共産党幹部に相談なく実施し、米国にメッセージを送ったものだという認識がある。

しかし、中国の指導者が軍事・技術開発全般を監督下に置いている状況から考えれば、胡主席がJ-20の試験を知らなかったということはあり得ない。習近平・国家副主席と呉邦国・政治局常務委員が2011年1月10日にJ-20の試験飛行場である成都に姿を見せており、これは文民幹部がJ-20の試験計画を知っていたという何よりの証拠と言えよう。とはいえ、政府と軍の間でどの程度情報の共有・意思の疎通が図られていたかについては不明である

J-20の飛行試験が中国の戦略的メッセージであったとするならば、その意味するところは抑止効果を狙ったものであろう。もしもJ-20の飛行試験が単に定期的な活動が歴史的な外交行事と偶然重なっただけであったとしたら、これは別の懸念を生じさせることになる。すなわち、中国の軍事的不透明性ならびに意思決定プロセスの秘密性が、依然として部外者に情報を遮断していることを示しているのだ。

◇ ◇ ◇

本レポートでは、まとめとして次のように語っています。
  • 中国の選択的透明性戦略は、中国の軍事開発状況や戦略的意図を秘匿し、米国の政策決定者の理解を妨げる原因となっている
  • CCPとPLA両幹部の間に情報共有・意思疎通に関する調整不足が潜在しており、そのことが中国の意思決定や軍事開発を分析するうえで複雑性をもたらしている
  • 台湾有事や領有権問題によって触発されて軍事費は増大し、ひいては開発・配備ペースのスピードアップ、国産兵器システムの先進化を促す
  • 中国における軍民両用技術の開発トレンドならびにR&Dメソッドの多様化への理解は、米国が中国の軍事技術・システム開発の進捗状況を測るうえで有効である


ここ10年ちょっとの中国の経済発展とそれに伴う軍事部門での投資増や産業部門における急速な構造の変化を読み切ることは、米インテリジェンスでも難しかったようです。

将来予測とは、過去に正確性が証明された現象の延長線上に弾き出されるものですから、社会構造や経済システムが劇的に変化すれば、これまでの経験則が活かし辛くなってしまうのも当然です。そういう観点で見れば、次の10年はそれほどの変則性は織り込まなくて済むのではないでしょうか。

とはいえ、中国の兵器開発や政策決定プロセスに関する不透明性はそれそのものが対米抑止力であるという一面があったりもしますから、判断材料が乏しい状況は続くでしょうし、米国や日本の基準で中国の兵器開発や軍事的R&Dを単純に予測することが危険であるのは変わりありませんね。