あまり他人様の主張に絡んでいくのは本意ではありませんが、気になったので取り上げておきます。

北朝鮮ミサイルと集団的自衛権 (BLOGOS)
鈴木馨祐

今の我が国の法律論のもとでは、実はミサイルが「日本方面」に向かって発射されただけでは迎撃が許されません。集団的自衛権を認めていない以上、いくら我が国と密接な関係があろうとも、同盟国のアメリカの為に「防衛」をすることは許されていない。角度や速度等から計算して厳密に「日本」に向かっていることが証明されなければ対応出来ないのです。

そもそも、アメリカに向かっているのがわかりながら、あるいはアメリカの艦艇に向かっているのがわかっていながら自分の国の憲法の解釈により防衛出来ません、というのは異常な事態であって、普通に考えれば同盟国に喧嘩を売っているようにしか思えません。つまり、我が国の自衛のために絶対的に必要な日米同盟が集団的自衛権の解釈を維持すれば崩壊する可能性も否定出来ないのが現状です。

鈴木先生の「アメリカ」が米本土を指すのか、それともハワイ、またはグアムを指すのかが明確ではないのですが、北朝鮮から発射された弾道ミサイルがアメリカ本土を狙っていた場合、そのミサイルは日本上空を通過しません。

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地球儀またはグーグルアースで見ると一目瞭然ですが、北朝鮮から日本上空を通過するように弾道ミサイルを発射すれば、ノドンだろうとテポドンだろうと太平洋に落ちるしかありません。正距方位図法で書かれた地図でも確認できます(図1)。
平壌から5000km
(図1 北朝鮮から日本上空を通過する弾道ミサイル(射程5,000km)が落下する範囲)

北朝鮮がアメリカ本土を狙うのであれば、弾道ミサイルは日本上空を通らず西海岸を狙った場合でも樺太方面に抜けていきます。東海岸を狙うのであれば日本列島をかすりもしません。平壌からロサンゼルスまでの弾道ミサイルの予想飛翔経路は下図の通りです(図2)。
平壌_LA
(図2 北朝鮮→ロサンゼルス)

これは、中国からの弾道ミサイルに関しても概ね同じです。中国からアメリカ本土に向けて発射する大陸間弾道ミサイル(ICBM)は北極圏上空を通過し、日本列島上空を通過することはありません。わざわざ軌道を曲げて寄り道するわけはないので、「通過しない」と断言できます。例として、中国のICBM「DF-31A」が配備されている青海省(図3)と河南省(図4)からロサンゼルスまでの弾道ミサイル飛翔経路を示してみます。
青海省_LA
(図3 青海省→ロサンゼルス)

河南省_LA
(図4 河南省→ロサンゼルス)

唯一、南シナ海に配備された晋級原潜からSLBM「JL-2(巨浪2)」をロサンゼルスへ向けて発射すれば北海道上空辺りを通過することになります(図5)が、この場合、飛距離は1万kmを大きく超えてしまいます。現在知られているJL-2 の射程距離は7,400kmですから、射程不足です。しかも、JL-2はまだ開発中で、その進捗状況ははかばかしくなく、2003年、2004年、2005年、2008年、2009年に行われた水中発射試験のうち、2005年の試験を除いていずれも失敗に終わっています。したがって、現時点で初期作戦能力(Initial Operation Capability:IOC)に達した実用的なSLBMを中国は持っていません。

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海南島_LA
(図5 南シナ海からロサンゼルスに向けてSLBMを発射した場合)

では次に、北朝鮮からハワイを狙った場合を考えてみます。ハワイに向けて発射された場合は東北の上空を(図6)、そしてグアムを狙った場合には西日本上空を飛行する可能性があります(図7)。しかし、北朝鮮からハワイまでは7,000+kmですから、現行のSM-3ブロック1Aでは迎撃できません。

平壌_ハワイ
(図6 北朝鮮→ハワイ)

グアムの場合はどうかと言いますと、平壌〜グアム間が3,000+kmなので、SM-3 ブロック1Aでも迎撃可能、ブロック2Aなら能力的には余裕を持って迎撃できます。ノドンでは届きませんから、テポドン2以降のシリーズを使うことになります。今のところ蓋然性は低いですが、仮にこの選択肢について議論するのであれば理解できます。
平壌_グアム
(図7 北朝鮮→グアム)

アメリカは、こうした弾道ミサイルの飛翔経路や日本のBMD能力を当然知っていますから、北朝鮮や中国がアメリカ本土に向けて弾道ミサイルを発射しようとした場合に日本のBMDに何とかしてもらおうなんて考えていません。アラスカに配備したアメリカ自前のGBI(Ground Based Interceptor)が対処します。



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