北朝鮮・中国→米本土の弾道ミサイルは日本上空を通過しません』のエントリに関し、「コリオリの力」を計算に入れてない!というご指摘を何人かの方からいただきました。

問題の図はこれですかね。
平壌_LA

上図では平壌からロサンゼルスまで直線で表していますから、確かに図そのものはコリオリの力を加味した弾道軌道にはなっていませんが、あのエントリの焦点は記事タイトルで示した通り、「北朝鮮・中国→米本土の弾道ミサイルは日本上空を通過するかどうか」でした。コリオリの力という要素は、「米本土を狙って発射された北朝鮮・中国から発射された弾道ミサイルが、日本本上空を通過しない」理由のひとつですから、多少なりとも触れておくべきだったかもしれません。。

他方、コリオリの力を十分にご存知の方は該当エントリを見て、「北朝鮮・中国→米本土の弾道ミサイルは日本上空を通過するかどうか」というテーマ上、コリオリの力への言及が必要ないことを理解していただけると考えてもおりました。コリオリの力を加味しても結果に影響がないからです。ただ、これも私の勝手な思い込みでしたので、今後の反省としたいと思います。

さて、言い訳はこの辺にしまして、本稿ではざっくりとコリオリの力について説明するとともに、やっぱり「北朝鮮・中国→米本土の弾道ミサイルは日本上空を通過しない」、そして米本土へ向かう弾道ミサイル迎撃に関して日本は集団的自衛権の行使で悩む状況にはならないことを再確認してみたいと思います。

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回転している座標系に現れる慣性力としてよく知られているのが、遠心力です。この遠心力は、物体が静止していようと運動していようと作用します。回転座標系ではこの遠心力とは別に、物体が回転座標系に対して運動しているときにのみ作用する慣性力があります。それが、「コリオリの力」です。

地球はほぼ球体で、地軸を中心に24時間で1周くるりと回ります。球体であることから、南北の極に近づくにつれて円周が小さくなり、地球表面の南北の異なる2地点では自転の速度に差があります(図1)。

fig1
(図1 赤道と北緯30度での円周と自転速度の差)

ここで仮に、地球表面の自転速度の速い地点Aから遅い地点Bにボールを投げたとします。地点Aから投げられたボールは地点Aの自転の速さを持ちますから、地点Bよりも先、図2で言うとより東へ落下することになります。

fig2
(図2)

反対に、地球表面の自転速度の遅い地点Bから速い地点Aにボールを投げたとします。地点Bから投げられたボールは地点Bの自転の速さを持ちますから、地点Aよりも後ろ、図3で言うとより西へ落下することになります。

fig3
(図3)

図2、3から分かるとおり、北半球で南北方向に物体を運動させると、進行方向に対して右にそれるように見えます。南半球では進行方向に対して左にそれるように見えます。この見せかけの力をコリオリの力といいます。なお、コリオリの力は赤道上ではゼロで、働きません。


コリオリの力は動画で見るとよく分かります。



1分18秒からメリーゴーラウンドのような遊具を使って回転座標系にある2地点間でボールを投げるとどうなるかを実験しています。カメラに正対している女性が自転速度の速いA地点。カメラ手前のメリーゴーラウンドの中心に座っている人が自転速度の遅いB地点だと考えてみて下さい。ボールが必ず進行方向の右に曲がって見えるかと思います。



こちらの動画はやや理論的ですが、分かりやすいので英語の苦手な方も御覧になってみて下さい。

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さて、数式も物理学的説明もできるだけ省いてコリオリの力を見てきましたが、「北朝鮮・中国→米本土の弾道ミサイルは日本上空を通過するかどうか」を考えるだけなら、ひとつだけざっくりとした原則を知っておけばいいと思います。つまり、“北半球で南北方向に物体を運動させると、進行方向に対して右にそれる” という点です。

そして、平壌の座標は北緯39度、ロサンゼルスは北緯34度ですから、どちらも北半球にある都市です。

ここで改めて以前のエントリの図を見てみましょう。
平壌から5000km
(図4 北朝鮮から日本上空を通過する弾道ミサイル(射程5,000km)が落下する範囲)

この図も非常に粗いものではありますが、北朝鮮から発射された弾道ミサイルが日本上空を通過するにはこの黄色い範囲を通過することになります。前回のエントリではコリオリの力を加味せずに平壌〜ロサンゼルスの最短距離を想定弾道軌道としました。

平壌_LA
(図5 北朝鮮→ロサンゼルス)

コリオリの力を加味した図を作成してみました(図6)。
平壌から日本通過_コリオリ
(図6)

いかがでしょうか。ロサンゼルスを狙った弾道ミサイルの軌道はやはりどう考えても日本上空を通るのは無理があります。そして、平壌から日本上空を通過する弾道ミサイルを発射すれば、米本土からは遠くなるばかりです。

基本的に、弾道ミサイルは左右方向への大幅な変針はできません。中国が現在対艦弾道ミサイル(ASBM)を配備していると言われますが、特徴となる機動はターミナル・フェイズのものですから、ミッドコースで90度ほども機動するものではありません。加えて、それほどの軌道修正をするためには弾頭のペイロードを割いて大量の推進剤を搭載する必要があり、破壊力は大きく減少します。もはやなんのためにミサイルを撃つのか分からなくなります。

これは、北朝鮮にしても同じです。北朝鮮がロシアや中国の上空通過を回避するために日本上空を迂回したいと考えたとしても、そのために爆薬のペイロードを減らしたのでは意味がありません。それに、万が一北朝鮮が急旋回可能な弾道(?)ミサイルを開発できたとしましょう。しかし、大幅に機動制御するためには減速しなければなりません。減速する=運動エネルギーを熱エネルギーに変えることなので、SM-3の赤外線シーカーにとって格好の的になってしまいます。弾道ミサイルの長所である速度とペイロードを減らしてまで日本上空を通過させる合理的理由が見つかりません。

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弾道軌道はコリオリの力だけでなく他の多くの物理学的影響を受けます。ミサイルの形状由来の空気の流れや、天候や気圧、風など様々な要素が複雑に関係するため、私のような素人に正確な弾道軌道をはじき出すことはできません。とはいえ、さすがに北朝鮮や中国から米本土を弾道ミサイルで狙うために日本上空を通過することは、科学的とまではいかない考察で十分否定できます。

というか、北朝鮮から弾道ミサイルが日本に向けて飛来するのは、テポドン2改良型でアメリカ本土を狙うと見せかけた時などではなく、まともに日本の都市部を狙ってノドンを撃ち込んでくる時だと思います。