China test fires new long-range missile (Washington Free Beacon)

中国が大陸間弾道ミサイル「DF-41(東風41)」の実験をしたという情報が出ました。7月24日、DF-41が太原衛星発射センターから数千マイル先の中国西部の砂漠へ向けて発射されたとのことです。

DF-41は、液体燃料式のICBMであるCSS-4(DF-5/DF-5A)の代替として1986年に開発が始まったとみられる固体燃料式弾道ミサイルです。射程距離は12,000+km。三段式で、最初の二段はDF-31Aです。最大10個のMIRV(多弾頭)を搭載可能。サイズは不明ですが、DF-31と同じTEL(移動式直立発射機)によって運用可能だとされています。これまで地上試験とシミュレーションの実施が1999年に報告されていますが、飛行試験は確認されていません(Jane's)。DF-41はロシアのトーポリM(SS-27)をベースに開発されたという情報もあり、ロシアのミサイル誘導技術を買ったとも盗んだとも言われています。


このDF-41の発射実験を報じたのは、今年2月に創設されたばかりのサイト「ワシントン・フリービーコン」です。発足間もないからといって情報の信憑性が低いというわけではありませんが、このサイト以外にDF-41の発射実験を伝えたメディアがないので、クロスチェックができません。国防総省の報道官もフリービーコンの伝えたミサイル実験報道に関するコメントを出していません。FAS(全米科学者連盟)は2008年にDF-41の開発計画がキャンセルされたとみなしていて、2009年以降のアメリカの報告書にもDF-41に関する新たな記述はありません。

フリービーコンによる今回のDF-41の発射実験は眉に唾をつけて眺めておくのが賢明かもしれませんね。。。

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もうひとつフリービーコンから。

China conducts rare flight test of new submarine-launched missile (Washington Free Beacon)

先週、潜水艦発射型弾道ミサイル「JL-2(巨浪2)」の発射実験が実施されたそうです。渤海湾に展開した2隻の094型晋級潜水艦から発射された…というのですが、これもフリービーコン以外に伝えているところがないのですよね。フリービーコンも詳細については触れていません。今年1月に6発のJL-2発射実験が行われ、その時は中国や台湾のメディア報じていましたが(参照)、今回は今のところまだどこも言及なしです。


以前のエントリでも触れたとおり、中国の潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)開発は順調なものではありません。中国はJL-2を晋級へ搭載しようとしていますが、JL-2開発の進捗状況ははかばかしくなく、2003年、2004年、2005年、2008年、2009年に行われた水中発射試験のうち、2005年の試験を除いていずれも失敗に終わっています。したがって、現時点で初期作戦能力(IOC)に達した実用的なSLBMを中国は持っていません。

また、晴れてJL-2が完成し、海軍がSSBNの運用経験を積んだと仮定しても問題が残ります。米中間で有事が生起した場合、中国はSSBNをどこに展開させるのでしょうか?2011 年の米国防総省年次報告書では、これまで7,200+kmとされていたJL-2の射程距離が7,400kmへとわずかに上方修正されました。それでも、米本土はかすりもしません(アラスカやグアム、ロシアとインドは中国近海に配備した晋級から射程に収めることは可能ですが)。10,000kmでようやく米本土の西半分を射程に収めることができる…といった具合です。

missilerange1
(渤海から発射したJL-2の射程距離)

JL-2が現在の性能で米本土を射程に収めるためには、晋級は中国近海を遠く離れ、太平洋を東経160度近くまで進出しなければ西海岸の主要都市にさえ届きません。しかし、途中には米軍が対潜音響バリアーや哨戒網を張り巡らせているチョークポイントがあり、有事であれば西太平洋に米空母打撃群も複数個展開しているでしょう。その状況下で隠密性と生残性が最重要となるSSBNを太平洋へ展開させるのは得策ではありません。渤海や黄海は中国のSSBNにとって「聖域」とするには水深が浅く、好ましい作戦海域ではありません。

また、南シナ海へ配備するとしても、あくまで米本土を狙うのであれば、たとえ10,000kmの射程を持つSLBMが開発されたとしても届きません。いかに「最小限抑止」とはいえ、人口密度の低いアラスカやグアムしか攻撃できないのでは抑止力も十分働かないのではないでしょうか。ソ連にはバレンツ海やオホーツク海という場所がありましたが、中国の地理環境ではそう都合良くもいかないようです。

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短距離弾道ミサイルなどミサイル戦力の増強著しい中国ですが、実は戦略級弾道ミサイルに関しては量産されることもなく、数量的にはここ20年ほど抑制的に推移しています。現在、中国が保有する米本土攻撃可能なICBMは、サイロ発射型のDF-5A(20発)と合わせて約50発以下と見積もられています。依然としてアメリカの大都市に対する核報復攻撃能力は十分なものとは言えません。ですから、もしもフリービーコンの伝えたとおり、中国がわずか1カ月のうちにDF-41とJL-2という「第二撃」能力の信頼性を高める戦略核ミサイルの実験を相次いで行ったのであれば、それは軍事的だけでなく政治的な意味も考えなくてはならなくなります。地域覇権のための短距離弾道ミサイルや巡航ミサイルではなく、ICBMやSLBMの増強は中国の核戦略が変化したことを示すからです。この場合、アメリカはもちろん、ロシアをも刺激するでしょう。

それらこれらを考え合わせると、ICBMとSLBMを相次いで実験したというのはさすがにガセかなあ、と思います。




***【追記 2012/8/25】***

DF-41の発射実験について、Jane's Defense Weekly、ニューヨーク・タイムズ、ウォールストリート・ジャーナル、環球時報など複数のメディアが報じました。ただ、どの記事も発信元をたどっていくと「Washington Free Beacon」に行き着きます。独自の情報源による報道は見当たりませんでした。

もちろん、Jane'sなどがフリービーコンの情報を信用に足りうるものだと認めたからこそこの発射実験を伝えたとも言えるのですが、これではクロスチェックにはなりません。中国が新世代のICBM開発を手掛けている可能性については私も否定するものではありませんが、DF-41とJL-2の今回の実験については他の発信元からの情報が出るまで保留としたいと思います。

何かしら情報がありましたらご教示ください。



***【追記 2012/8/30】***

Misattribution and Exaggeration Mar Reporting on Chinese Missile Test

米・憂慮する科学者同盟(UCS)のグレゴリー・カラキー(Gregory Kulacki)氏が今回のDF-41実験騒動をブログで取り上げています。カラキー氏は複数のメディアが中国のICBM実験を伝えてはいるがすべてフリービーコンが発信元であり、中国の政府・軍関係者及び米政府関係者もこのニュースを公式に認めていないことを指摘しています。そして、今回の実験報道は、誤った情報が流布し、検証されないまま世界に伝えられたものだとしています。


***【追記 2012/9/2】***

中国国防部が弾道ミサイル実験の実施を公式に認めました。

中国国防部の耿雁生報道官が記者団による第二砲兵のミサイル試射実験についての質問を受け、「最近、中国国境内において、正常な兵器試験を実施した(近期我们在境内进行了一些正常的武器试验)」と回答しました(8/31 国務院)。

ただ、ミサイルの種類など詳細には触れられず、DF-41およびJL-2の発射であったかどうかは依然として不明です。また、「中国当局が、戦略核ミサイル試射の事実を公の場で認め」(朝鮮日報)たのは異例なことだ、と伝えるメディアもありますが、実験が戦略級のミサイルであったかどうかについて耿報道官は言及を拒否していますので、これも確定できる材料はありません。

弾道ミサイルの発射実験があったというところまではこれで確認できましたが、今回の問題の焦点である戦略級弾道ミサイルの連続実験であったかどうかはまだ分からない、という段階です。

引き続き情報をフォローしてみるつもりです。


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