橋下氏、核持ち込み容認を示唆 「必要なら国民に問う」 (朝日新聞)

日本維新の会の橋下徹代表は10日、遊説先の広島市内で「日本を拠点とする(米海軍の)第7艦隊が核兵器を持っていないなんてことはありえない」と述べた。非核三原則については「基本は堅持」とする一方、非核三原則が禁じる核持ち込みには「米国の核に守られている以上、そういうこと(持ち込み)もありうるのではないかと思っている。本当に持ち込ませる必要があるなら、国民の皆さんに問うて理解を求めていきたい」と語った。

橋下氏は「理想論で言えば、核はなくなる世界の方がいいが、国際社会はそんな甘いもんじゃない。広島の市民や県民の皆さんの自治体レベルで政治をするのと、主権国家として国際政治をやるときにはステージが違う」とも述べた。報道陣の質問に答えた。

現在の世界の安全保障環境を考えれば、核兵器を廃絶することが極めて難しいことは橋下徹大阪市長のおっしゃる通りですし、そもそも核兵器をなくすことが平和につながるのかという疑念もあります。

ただ、そうしたことはさておき、橋下市長は大きく間違った理解をしている点があります。米第七艦隊は核兵器を持っていない、ということをどうも御存じないようなのです。これについては、橋下市長と同じような誤解しておられる方が多いようなので、以前から当ブログでは指摘してきたことですが、この機会に再度言及しておこうかと思います。

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昨年、自民党の国家戦略本部も橋下市長と同じような認識で報告書を発表しています。その中で、「持ち込ませず」を緩和して“非核2.5原則への転換を図る”という文言があります。

[PDF] 「日本再興」 国家戦略本部報告書

我が国は「核兵器を持たず、作らず、持ち込まさず」との非核3原則を堅持してきた。これを、陸上への核配備は認めないが、核兵器を積んだ艦船等の寄港などについては容認する「非核2.5原則」への転換を図る。

改めて説明するまでもありませんが、アメリカの核戦略の三本柱は、「大陸間弾道ミサイル(ICBM)」、「戦略爆撃機」、「潜水艦発射戦略弾道ミサイル(SLBM)」です。この3つの運搬手段によって核兵器を投射するということなのですが、このどれもが日本へ “持ち込まれ” ることはありません。

まずICBMですが、これは米本土から発射されるものだということはその名前から素人でも想像がつくので、日本に持ち込む必要性がないことは誰も疑わないでしょう。日本には発射サイロもありません。

次に核巡航ミサイルを搭載するB-52、B-2戦略爆撃機も日本へ立ち寄る必要性がありません。例えば、両爆撃機はそれ自体が長大な戦闘行動半径を持ちますし、搭載するAGM-129空中発射核巡航ミサイルの射程は3,400km以上ですので、仮に北京や平壌への攻撃が必要な場合であってもわざわざ敵の攻撃範囲である日本へ配備する必要などないのです。

最後に、SLBMですが、このミサイルの発射台である戦略ミサイル原子力潜水艦(戦略原潜:SSBN)は、運用上米本土周辺から離れることはありません。SSBNの運用については本稿の主題から逸れるものですので割愛しますが、SSBNを敵国近くに配備したりすれば秘匿性・生残性が低下し、第二撃の抑止力としての機能が果たせなくなります。

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このように、アメリカにとって日本国内に核兵器を持ち込む必要性も軍事的合理性もないのです。

水上艦船はどうでしょう?実はこちらも、1991年にブッシュ(父)大統領が核削減のための「大統領核イニシアティブ(PNIs)」を発し、空母、攻撃原潜、巡洋艦、駆逐艦などから核兵器がすべて撤去されています。さらに、核トマホークや海軍機の戦術核も退役しているので、日本に内緒で持ち込もうとしてもモノがそもそもありません。

かつて戦略核(SLBM)を搭載していたオハイオ級1〜4番艦もまた巡航ミサイル原潜(SSGN)に改装され、こちらも搭載出来る核兵器がありません。改良型オハイオ級のオハイオ、ミシガン、フロリダ、ジョージアの4隻は、24基ある核トライデントの発射筒のうち22基にそれぞれ7発のトマホーク巡航ミサイル(計154発)を搭載し、残りの発射筒2基は取り払われ、海軍特殊部隊のシールズが使用するドライデッキ(上陸用潜行挺)を装備しているため、核ミサイルを搭載する余地がありません。日本が核兵器を積んだ艦船等に寄港してもらいたいとしても、米側にはそのような準備がないのです。

橋下市長はおそらく核ミサイルを搭載したSSBNが日本に入港することを想定しておられると察しますが、初歩的なアメリカの核戦略態勢も理解しないまま「SSBN+SLBMを持ち込め!」と言うような具合では、とても防衛問題を担う国政レベルの議論はできないのではないでしょうか。

橋下市長は防衛問題の専門家をブレーンに招くことをお勧めします。