前稿 「ドラえもんがいない世界でのび太は誰と組むべきか」 では、『ドラえもん』の世界をメタファー(隠喩)にして、国家間の同盟について説明してみました。

本稿でも引き続き同盟についてのおはなしです。のび太を日本、ドラえもんをアメリカ、とみなして解説しているくだりもありますが、どの国をいずれのキャラクターになぞらえるかは条件次第で変わりますから、あくまでも思考実験として本シリーズをとらえていただければ幸いです。

名作『ドラえもん』に散りばめられた国際政治学や安全保障論のエッセンスが、現実世界の問題を理解する手掛かりになれば面白いな、と思います。


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勢力均衡(バランス・オブ・パワー)」 という言葉があります。これは、国家間の勢力が均衡していれば平和が保障され、不均衡だと戦争が起きやすいという考え方です。この場合の “勢力(パワー)” とは、軍事力だけにとどまらず、経済、産業、地理、人口などといった国力全般を指します。勢力均衡は、中国の春秋戦国時代や19世紀ヨーロッパで盛んに行われました。

日米同盟を考えた場合はどうでしょうか? 日米同盟は、ロシア(ソ連)や中国という勢力に対抗する位置づけですが、勢力均衡論でみると、圧倒的なパワーを持つのはロシアでも中国でもなくアメリカです。地域の各勢力のバランスをとるためには、アメリカを抑えるために各国が対米バランシング同盟を組むはずですよね。ところが実情は、ロシアや中国を抑止するためにアメリカと連携をとる国が多くなっています。

つまり、同盟は必ずしも“勢力”の均衡を目指すものではないというわけです。むしろ、攻撃的な意図を持つ“脅威”を均衡するために結成されることの方が多いかもしれません。これは「脅威均衡(バランス・オブ・スレット)」とよばれます。

「勢力均衡」も「脅威均衡」も、どちらも外部に特定の脅威を想定している点では同じですが、前者がパワーの分布状況に応じて勢力の均衡を図る手段であるのに対し、後者は重大な対外的脅威に対抗して脅威の均衡を形成する手段です。「ソ連の重大な脅威があるという共通の認識がなければNATOは誕生しなかった。ソ連がNATOを生んだ」と言われるように、NATOは脅威均衡論の賜物です。
 
勢力均衡

脅威均衡


さて、『ドラえもん』の世界で採用されているのも、「脅威均衡」モデルです。言うまでもなく、主要登場キャラ(ドラえもん、のび太、ジャイアン、スネ夫、しずか)の中では、ドラえもんの“パワー”が圧倒的。2世紀先の科学技術を持っていることからジャイアンやスネ夫の攻撃力を大きく凌駕していますし、知識や思考力も完全に大人です。それゆえ、勢力均衡論で考えると、ドラえもんを対象にした同盟が組まれるはずですが、そうなってはいませんよね。それどころか、のび太や町内の子供たちはドラえもんを頼りにしています。その理由は、ドラえもんには他者を独善的に攻撃する意図が低いからです(のび太のサポートのために未来から送られてきたので当然ですが…)。

一方、“パワー”こそドラえもんに劣るジャイアンですが、攻撃の意図が旺盛で、侵略対象であるのび太たちにとっては大きな脅威です。それゆえ、のび太がジャイアンの脅威を均衡するためにドラえもんと同盟関係にあることは、「脅威均衡論」に基づけば至極妥当ということになるのですね。