核保有の筋立てを=「抑止力になる」 (時事通信)

日本維新の会の石原慎太郎代表は20日、都内の日本外国特派員協会で講演し、尖閣諸島をめぐり対立する中国への対応に関し「日本は核兵器(保有)に関するシミュレーションぐらいやったらよい。これが一つの抑止力になる」と表明した。外国人記者との質疑応答の中で発言した。
核保有の検討は石原氏の持論だが、先に非核三原則見直しの必要性に言及した維新の橋下徹代表代行(大阪市長)の発言と併せ、事実上の選挙戦が始まった衆院選で論議を呼びそうだ。中国などは「日本右傾化」の主張を強めるとみられる。
石原氏は「軍事的な抑止力を強く持たない限り外交の発言力はない。今の世界で核を保有しない国の発言力、外交力は圧倒的に弱い。北朝鮮は核を開発しているから存在感がある」と指摘。ただ「個人の考えだ」とも語り、維新の安全保障政策とは無関係であることを強調した。

石原慎太郎・日本維新の会代表は、「日本は核兵器(保有)に関するシミュレーションぐらいやったらよい。これが一つの抑止力になる」とおっしゃるのですが、日本はすでに第二次大戦中から核保有に関する研究を何度もしています。

【詳しくは過去記事で】 → 日本に核武装は必要か(1)〜核武装はすると決めたらできるのか〜

石原代表の先輩である中曽根康弘・大勲位も70年代に核武装研究を行っています。石原代表の研究への熱意自体は否定しませんが、今のところこれまでのシミュレーションを覆す材料はありません。近年の中国や北朝鮮の軍事力増強は、日本の核保有の妥当性を高めることにはなりません。上記過去記事で触れてある通り、日本を取り巻く国内外の政治的環境、NPTやアメリカとの関係といった多くのハードルがあります。核武装論者からこれらに対する理性的で現実的な対策を聞いたことがありません。

なにより、日本の核武装にとって大きな問題は、地理的に第二撃の生残性を得ることができない点です。地理は普遍的な問題です。

原子力潜水艦の取得も欲しいからと言って手に入れられるものではありません。原潜を含む核兵器の運用には、運搬手段の開発、指揮命令系統、支援・補給システムの確立と法整備、国政/自治体レベルの関与まで必要な巨大な核兵器運用システムを作り上げなければなりません。独裁国や寡頭制の国ならともかく、日本でそれをやりきるつもりなら、その政治力をもっと優先的に注ぐべき方面があるのではないでしょうか。核武装は、情緒的な愛国心があれば達成できるものではありません。

「軍事的な抑止力を強く持たない限り外交の発言力はない。今の世界で核を保有しない国の発言力、外交力は圧倒的に弱い。北朝鮮は核を開発しているから存在感がある」というのも、呆れた物言いです。軍事力が国際政治の場での発言力を裏付けるというのは部分的には同意します。しかし、それは通常兵器の存在を無視していますし、非核国の外交力が圧倒的に弱い、というのは間違いです。欧州の財政危機をめぐる舞台において、ドイツ(非核国)とフランス(核保有国)の関係を知らないわけではないでしょう。しかも、北朝鮮の振る舞いを真似ろ!というのは、記者団へのリップサービスにしてもセンスのないものです。


核保有国に挑む非核国


核保有国一覧

核保有国と核兵器を持っていると見られる国はおおよそ上記の9カ国。確かに、これらの国の多くは石原代表のおっしゃる通り、国際政治の場での発言権は大きいものかもしれません。ただ、それは核兵器の効果によるものでしょうか?通常戦力の規模、経済力、第二次世界大戦の戦勝国という立場(P5であること)などの要素を見落としてはいないでしょうか。

核武装論者は、核兵器を保有すれば気に食わない周辺国が黙って日本の言うことを聞くようになる!と言いますが、核保有国に非核国が軍事力で挑んだ例は多いんです。以下はその一例です。

核保有国と非核国の紛争史

この他にも、キューバ危機(1961)や台湾海峡危機(1996)のように、武力行使に至らない「危機」レベルのものとなるとさらに事例は増えます。

また、ロシアはチェチェンやアブハジアの独立紛争を抑止できませんでしたし、ユーゴスラビア紛争のような内戦では、NATO(核保有国を含む)が介入しても容易に停戦には至りませんでした。イスラエルはハマスやファタハなどの武装勢力にいまだに手を焼いてる状態で、イランの核保有を核攻撃で黙らせるということもできません。係争相手が非核国であることを考えれば、南シナ海はとっくに中国のものになっていてもおかしくないですが、実情はどうでしょう?


核兵器が抑止するものは核兵器の使用

核兵器は万能薬ではありません。破壊力は強大ですが、できること、できないことがあります。特に、抑止力と対処力とは区別しておいた方が良いと思います。

例えば、アメリカの核兵器は中国の海洋覇権拡大や北朝鮮の核開発を思いとどまらせるためのものではありません。彼らが核兵器を使おうとした時、それが実際に使用されないようにするための兵器です。北朝鮮の核開発をやめさせるのは、説得(persuade)であって、抑止(deterrence)ではありません。

北朝鮮の方も核のカードを抑止力として使ってはいるわけではなく、アメリカや日本に対する「強要(compellance)」政策の一つとしてちらつかせているのです。北朝鮮の抑止手段は、長距離砲やスカッドをはじめとしたミサイル戦力である点は抑えておきたいところです。

日本が核武装さえすれば安全保障環境が好転すると思っているとしたら大間違いですし、北方領土、竹島、尖閣諸島などの領土問題も日本優位になるというのは幻想です。


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