米海軍協会(Naval Institute)の機関誌『Proceedings』に「オフショア・コントロール」についてのエッセイが寄稿されていました。今後の米軍戦略を理解する上で参考になる資料なので、ざっと要約してみたいと思います。お時間のある方は是非全文を。

Offshore Control is the Answer
By Colonel T.X. Hammes, U.S. Marine Corps (Retired)

  • 迫りくる予算削減の波は、アジア太平洋地域における米軍の影響とプレゼンスにかかるコストを大幅に減少させることを要求している。
  • 現在、アメリカはアジアにおいて戦略的リバランシングを実行中だが、具体的な調達計画や戦力構造を決定しないままに進められている。
  • アメリカの平時における影響力を維持し、戦時の国益を守るための戦略とは何か。
  • それが、「オフショア・コントロール(Offshore Control: OC)」である。


  • OCは、イギリスのオフショア・バランシングとは異なる概念である。
  • OCは、同盟国を守りつつ、中国のエネルギー・貿易ルートを締め付ける能力をパートナーに示すものである。
  • 中国による第1列島線内側の使用を拒否するとともに、そこにある島嶼を防衛し、その戦域外の空と海の優勢を確保する。
  • つまり、中国のインフラを破壊するために物理的に中国の防空圏に侵入するのではなく、経済的に絞め殺すことに焦点を置いた遠距離からの軍事作戦(stand-off military campaign)を描く。
  • アメリカの強みを最大限に生かし、中国の長所を最小限にする戦い方である。
  • OCは、エアシーバトルという作戦レベルのアプローチを戦略レベルのコンテクストに与えるものである。
  • 中国のA2AD(接近阻止・領域拒否)戦略に対抗しつつ、防衛にかかるリソースの削減を可能にする。
  • OC戦略はまだ初期段階であり、これから政治的にも戦略的にも作戦、戦術レベルにおいても厳しく実現可能性が試される。

  • OCは、同盟国が中国に攻撃された時にだけ米軍が保護する。
  • この際、米軍も同盟国も中国本土へ侵入しない。
  • この方法は現在の能力でも充分に実行可能であり、将来、高価な侵攻兵器を大量に買いそろえる必要もない。

  • 中国の孤立は世界経済を荒廃させるが、米中対立もまた同様。
  • 貿易における地理や海の特質を考慮すれば、世界経済はやがて回復するが、中国が新シルクロードを通して再建する見込みはほとんどない。
  • OCは中国のインフラを破壊しないので、紛争後の世界経済の立ち直りを早める。
  • 好まない者もいるだろうが、世界の繁栄は中国の繁栄に強く依存しているのが経済の現実だ。



作戦レベルにおいて;
  1. 第1列島線内の海を中国に使わせない。
    ・攻撃原潜、機雷、限定的な航空戦力による。
  2. 第1列島線エリアにある海・空域を防衛する。
    ・同盟国の国土防衛のためにあらゆるアセットを投入し、同盟国にも貢献を求める。
    ・同盟国には、地上配備の防空力や短距離海上防衛力(対機雷戦含む)などに投資することを奨励する。
  3. 第1列島線域外の海上・航空優勢を確保する。
    ・同盟国領内で海・空防衛力を統合して戦い、中国には遠距離に投射することを強制し、その地理的優位を無効化する
    ・中国のアセットの射程外で戦い、陸空海戦力や商業プラットフォームのコンビネーションによって中国経済に必要なルートを締め上げる。


  • 中国の防空圏内に侵攻する作戦構想はない。
  • 非侵攻オプションは核エスカレーションの可能性を減らし、作戦の実行コストを下げ、紛争終結を容易にする
  • 中国国内の直接的な損害が少なければ、共産党指導部にとってもメンツを保ったまま紛争の幕引きを図ることができる



戦術レベルにおいて;
  • 中国の防空圏内に侵入する構想は、中国の強さを利する。
  • ハイテク・高価なアセットを限定的な数だけ侵入作戦に用いても、中国の防空圏内では旧式で安価だが大量のアセットに対抗しなければならない。
  • また、必要があれば、中国は重要なアセットを大陸内部へ移動させることもできる。
  • ミサイル・アセットは移動式のものやサイロに隠されたもので、侵入攻撃するとなると、これを見つけ出さなくてはならない。
  • 対照的にOCでは、中国が持つ非常に限られた数の長射程・高機能プラットフォームを、同盟国の統合された陸空海防衛網へ投射することを強いる。
  • これは、アメリカと同盟国の陸上配備防空ミサイル、短距離防空アセット、電子戦システムにとって有利。
  • 中国がOCを克服するためには、世界レベルで海洋をコントロールできる海軍の建設―何十年も何兆ドルもかかる―しなければならない


オフショア・コントロール戦略における戦争目的が、中国共産党の排除でも降伏でもなく、中国の攻撃を止めさせるところにあるのは、日本の「専守防衛」の理念にもかなった戦略、と言えるかもしれません。

ともすれば同盟国を突き放すイメージのある「オフショア・バランシング」ですが、ここで説明された「オフショア・コントロール」はかなりニュアンスの異なるコンセプトですね。アメリカがオフショア・バランサーという立ち位置は同じですが、中国が攻撃を仕掛けてくれば、積極的にバック・キャッチャーになろうという意図があります。近年、日本でも有事におけるアメリカの関与を疑う意見があり、その辺りへのケアも含まれているのかもしれません。

◇ ◇ ◇

戦略学者の奥山真司氏によると、オフショア・バランシングは大戦略レベルに位置します。ちなみに、エアシーバトルは作戦レベルですね。

上記エッセイがオフショア・バランシングを例に出して比較している点を考えると、オフショア・コントロールも大戦略レベルにあると思われますが、文中、少しあいまいな描写も見受けられます。ただ、コンセプトの透明性を高めることで、中国の誤認・誤算の要素を少なくし、かつ抑止効果を上げて極力紛争の発生を防ごうとするわけですから、やはりオフショア・コントロールは軍事戦略以上に位置するものです。

戦争の終らせ方、特に中国が振り上げた拳を下ろしやすいように政治的配慮が施されているあたりなどは日本も参考にすべき観点ではないでしょうか。言うまでもなく、この配慮はアメリカや同盟国にとっても望ましい効果をもたらします。

著者自身もオフショア・コントロールはまだinfancy(揺籃期)の段階であると断っているとおり、このあたりのコンセプトは論者によって主張の色合いが結構異なります。財政の問題に押し出されるようにして、これから徐々に理論が確立されていくと思われます。

それにしても、現役、退役問わず、軍人によるこうした論考が様々なレベルで出てくるアメリカの風土は素直にうらやましいですね。


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