ASBM_flight_trajectory

PLA 'sinks' US carrier in DF-21D missile test in Gobi (Want China Times)

「空母キラー」だとか「ゲーム・チェンジャー」と呼ばれながら、空母リャオニンに比べて情報が出てこないのが、対艦弾道ミサイル(ASBM)のDF-21D(東風21D)です。

そのDF-21Dの試射が、中国西部のゴビ砂漠において行われたという情報がありました。試験では、米空母の飛行甲板を模した全長200mほどの施設を砂漠に建設し、それを標的としてDF-21Dが発射され、着弾しています。


Want China Times より画像転載。クリックで拡大します。)

今回の情報はアルゼンチンの画像掲示板に投稿されたことを発端に、中国のメディアにも報じられていますが、なにぶん実験の詳細などは一切わかりません。誤報の疑いも強いものです。外交誌『The Diplomat』でも取り上げられていますが、やはり確定的なことは書かれていません。

Did China Test its “Carrier-Killer?” (The Diplomat)

『The Diplomat』の記事中でランド研究所のロジャー・クリフ氏も言及していますが、仮に今回のDF-21Dの試射が所期目標をクリアしているとすれば、次のステップは洋上の移動目標への試射となります。これは、地上の固定目標を攻撃するのに比べて難度が飛躍的に高くなります。

まず、広い洋上で目標の抽出をしなければなりません。敵味方判定はもちろん、米海軍の空母と駆逐艦では大きさが違いすぎます。そして、発射した後の中間誘導において、正確な情報のアップデートとリンクが求められますよね。1時間前の衛星情報などは役に立ちません。発射から着弾まで5分だとしても、その間に空母は数kmも移動してしまっています。

さらに、クリフ氏も述べている通り、ASBMへの対処手段は多様です。大別すれば次の2つです;

  • アクティブ・ディフェンス(ハード・キル): 迎撃ミサイルによる撃墜
  • パッシブ・ディフェンス(ソフト・キル): 艦隊位置の隠匿・再突入体への欺瞞

ASBMが発射されてから着弾までの攻撃シーケンス(手順)としては、まず標的の探知・識別・位置特定、同時にそれらのデータをASBM発射機へ送信し、発射、再突入体に標的を認識させ、終末誘導、といった感じになります。これらを移動する標的に同期して軌道要素をアップデートするために、衛星やレーダーといった外部システムとのリアルタイムの高度なデータリンクが要求されます。

よって、迎撃側の狙いとしては、アクティブ/パッシブ・ディフェンスを組み合わせて用いることで、ASBMの攻撃シーケンスをあらゆるところで頓挫させ、失敗させることです。電磁的な妨害・欺瞞行為により、中国の長距離海洋偵察・ターゲッティング・システムやレーダーを無効化したり(ソフト・キル)、海上配備型ターミナル迎撃ミサイル(SM-3やSM-2ブロック4を含む)によって迎撃したり(ハード・キル)するわけです。米議会調査局のレポートでは、電磁レールガン(EMRG)や艦載型高出力自由電子レー ザー(FEL)、そしてソリッドステート・レーザー(SSL)などの研究開発も促進されるべきだという提言があります。


◇ ◇ ◇

ASBMに関しては、技術的ハードルを中国がどのように越えたのかについての詳報がなく、どうしてもそこに関心が集中してしまいます。移動目標に同期して軌道要素をアップデートする情報処理システムの構築、同じく移動目標を高空から捕捉できる(弾頭に搭載可能な)シーカーの開発、再突入時の高温・高圧条件下で制御可能な機動再突入体(Maneuverable Re-entry Vehicle:MaRV)の開発などなど…。しかも、核弾頭ではないということなので、よりいっそう疑問が沸いてしまいます。

もちろん、中国がこれらの技術的課題を克服した可能性はありますし、アメリカでは多くの資料ですでに初期作戦能力(IOC)があるとみなして議論を進めていることからも、DF-21Dはそれなりの技術レベルに達しているのでしょう。

他方で、政治的な(戦略的な?)面からみると、ASBMは現時点ですでに効果が期待できる兵器であると言えるかもしれません。というのも、第1、第2列島線内で米空母打撃群の活動を阻止・拒否するためには、複数の手段による多層的アプローチを採用しますが、用いられる兵器は必ずしも要求性能を満たした高価なシステムでなくとも構わないのです。心理的に「いやがらせ」をすることで、米軍の戦域への到着や介入を遅らせること自体が中国にとっては大きな戦略目標のひとつですからね。

機雷が良い例ではないでしょうか。実際の破壊力や敷設状況はどうであれ、中国が「機雷を敷設したかもね」と言い、アメリカが「機雷を敷設されてるかも…」と懸念する構図が成立して米艦隊が戦域への接近を躊躇すれば、中国としては十分なのです。潜水艦も同じですね。

ASBMはいまだに実験映像さえ存在しないのですから、脅威が煽られ過ぎている感がありますし、米海軍あたりの予算獲得のためのレトリックであるという見方も可能です。さらに、噂されるほどの性能を誇っていたとしても、米艦隊のミサイル防衛網を突破するのは容易ではありません。

しかしながら、ASBMはすでにさまざまな報告書で分析対象となっているのは事実で、一部では「ゲーム・チェンジャー」とまで称される存在です。あくまでもA2AD戦略を構成する多層システムの一部に過ぎませんが、米艦隊がASBMの射程圏内に入ることをためらったり、準備に時間をかけたりする心理を引きだせるのであれば、性能は二の次、と中国海軍は考えているかもしれませんね。


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