アメリカで、明日26日(現地時間)にGMD(Ground-based Midcourse Defense:地上配備型ミッドコース防衛)の試験が予定されています。
当ブログではたびたび弾道ミサイルやミサイル防衛について取り上げてきましたが、あまり丁寧な解説はしてきませんでした。しかし、これでは関心のない方には用語一つとってもなんのこっちゃ分かりませんよね。かくいう私自身も詳しいことは分かってないのですが…。
そこで、本稿では後日GMDの記事を読んで頂くにあたり、せめてこれくらい知っているとちょっとはミサイル防衛が分かるかも!というはじめの一歩のそのまた一部分をまとめてみます。
弾道ミサイルはその名前の通り、ミサイルの軌道が弾道軌道=放物線を描きます。ロケットエンジンは放物線の前半で使い切って切り離し、あとは慣性に従って着弾します。北朝鮮から日本に向けて弾道ミサイルが撃たれた場合の軌道イメージはこんな感じです。

弾道ミサイルの特徴と言えばやはり速度です。遅いものでもマッハ5(時速6,120km)、速いものだとマッハ20(時速24,480km)にも達します。その代り巡航ミサイルのようにウネウネと機動したり、低高度を飛んでレーダーをかいくぐるような器用さはありません。弾道ミサイルはその速度で敵防空網を突破し、大きな運搬能力で核兵器や大量破壊兵器を目標に叩き込むのです。
弾道ミサイルはいろいろな分類の仕方がありますが、射程距離を基準にすると4種類に分けられます。

例えば、中国が台湾に向けて大量に配備しているDF-15はSRBMで、前稿で紹介した中国のDF-21D、北朝鮮のテポドン1やノドンはMRBMです。イランのシャハブ3や北朝鮮で配備されていると言われるムスダンはIRBM。そして、アメリカのミニットマン3やロシアのトーポリM、中国のDF-31/31A、DF-41、テポドン2がICBMと、それぞれ射程距離によって分類されています。
次に、弾道ミサイルが発射して着弾するまでの過程を3つの段階に区切ることができます。

角度を変えると、こうかな。

ブースト・フェイズ:
弾道ミサイル発射からブースターを切り離し終えるまでの上昇段階です。
時間はSRBMやMRBMだと1分、IRBMやICBMだと数分といった具合に射程距離によってばらつきがあります。
ミッドコース・フェイズ:
ペイロード(弾頭)は弾道軌道に沿って慣性飛行します。ミッドコースの大半は大気圏外。
このフェイズが最も長く、ICBMだと30分ほどの場合もあります。
ターミナル・フェイズ:
ペイロードが大気圏に再突入する終末段階です。
このフェイズは一般的に1分ほどしかありません。
これらを踏まえて動画を見るとより分かりやすいと思います。アメリカのICBM・ミニットマン3のCGです(※音量注意)。
この三段階を知っておくと便利です。というのも、ミサイル防衛の各システムがそれぞれのフェイズに対応したものになっているからです。下図の通り、日本のミサイル防衛の話題で頻出するSM-3とPAC-3も、迎撃のフェイズが異なります。

ノドンのようなMRBMを迎撃する場合、SM-3はミッドコースで対処しますが、PAC-3はターミナル・フェイズで待ち構えます。両システムを採用している日本では、海上配備SM-3が撃ち漏らした場合に備えて陸上配備PAC-3を配備しています。
PAC-3は能力不足、といった批判を聞くことがありますが、それは的外れ。ターミナル・フェイズという極めて時間的制約の大きいフェイズでいち早く迎撃高度まで上昇し精密な機動で迎撃をするPAC-3は、拠点防空において優れたミサイル防衛システムなのです。
SM-3やTHAADもまた、それぞれの用途に応じた特長を発揮することで多層防御を構成しています。
で、米本土防衛用のGMDはこちら。

GMDにいたっては、IRBMとICBMに特化した性能となっています。当然ですが、GMDに拠点防空能力はありません。
最後に、「射高」という言葉について触れておきたいと思います。
弾道ミサイルを撃つ側はミサイルの「射程」を気にしますが、ミサイル防衛で迎撃する側は敵ミサイルの射程だけでなくこちらの迎撃ミサイルの「射高」が重要です。というのも、ミッドコースでの迎撃は弾道軌道の頂点付近を地上/海上から狙うので、「弾道ミサイルの頂点高度>迎撃ミサイルの射高」という状態ではミッドコースでの迎撃は覚束ないものになってしまうからです。

日米のSM-3は大丈夫でしょうか?例えば、北朝鮮の持つノドン(MRBM)は弾道頂点が約200〜350km。これに対し、海上自衛隊が配備中のSM-3ブロック1Aは射高500km(射程500km、速度は約マッハ10)ですから、能力的には十分です。さらに、日米が共同開発中のSM-3ブロック2Aになると迎撃可能高度は1,000kmまで達しますから、IRBMさえも撃ち落とせるようになります。
弾道ミサイルとミサイル防衛のほんの初歩について紹介してみました。他にも言及したほうが良いことも多々ありますが、今回はこんなところで。
次回はこのGMDの実験結果をお伝えします。
当ブログではたびたび弾道ミサイルやミサイル防衛について取り上げてきましたが、あまり丁寧な解説はしてきませんでした。しかし、これでは関心のない方には用語一つとってもなんのこっちゃ分かりませんよね。かくいう私自身も詳しいことは分かってないのですが…。
そこで、本稿では後日GMDの記事を読んで頂くにあたり、せめてこれくらい知っているとちょっとはミサイル防衛が分かるかも!というはじめの一歩のそのまた一部分をまとめてみます。
◇ ◇ ◇
弾道ミサイルはその名前の通り、ミサイルの軌道が弾道軌道=放物線を描きます。ロケットエンジンは放物線の前半で使い切って切り離し、あとは慣性に従って着弾します。北朝鮮から日本に向けて弾道ミサイルが撃たれた場合の軌道イメージはこんな感じです。

弾道ミサイルの特徴と言えばやはり速度です。遅いものでもマッハ5(時速6,120km)、速いものだとマッハ20(時速24,480km)にも達します。その代り巡航ミサイルのようにウネウネと機動したり、低高度を飛んでレーダーをかいくぐるような器用さはありません。弾道ミサイルはその速度で敵防空網を突破し、大きな運搬能力で核兵器や大量破壊兵器を目標に叩き込むのです。
弾道ミサイルはいろいろな分類の仕方がありますが、射程距離を基準にすると4種類に分けられます。

例えば、中国が台湾に向けて大量に配備しているDF-15はSRBMで、前稿で紹介した中国のDF-21D、北朝鮮のテポドン1やノドンはMRBMです。イランのシャハブ3や北朝鮮で配備されていると言われるムスダンはIRBM。そして、アメリカのミニットマン3やロシアのトーポリM、中国のDF-31/31A、DF-41、テポドン2がICBMと、それぞれ射程距離によって分類されています。
次に、弾道ミサイルが発射して着弾するまでの過程を3つの段階に区切ることができます。

角度を変えると、こうかな。

ブースト・フェイズ:
弾道ミサイル発射からブースターを切り離し終えるまでの上昇段階です。
時間はSRBMやMRBMだと1分、IRBMやICBMだと数分といった具合に射程距離によってばらつきがあります。
ミッドコース・フェイズ:
ペイロード(弾頭)は弾道軌道に沿って慣性飛行します。ミッドコースの大半は大気圏外。
このフェイズが最も長く、ICBMだと30分ほどの場合もあります。
ターミナル・フェイズ:
ペイロードが大気圏に再突入する終末段階です。
このフェイズは一般的に1分ほどしかありません。
これらを踏まえて動画を見るとより分かりやすいと思います。アメリカのICBM・ミニットマン3のCGです(※音量注意)。
この三段階を知っておくと便利です。というのも、ミサイル防衛の各システムがそれぞれのフェイズに対応したものになっているからです。下図の通り、日本のミサイル防衛の話題で頻出するSM-3とPAC-3も、迎撃のフェイズが異なります。

ノドンのようなMRBMを迎撃する場合、SM-3はミッドコースで対処しますが、PAC-3はターミナル・フェイズで待ち構えます。両システムを採用している日本では、海上配備SM-3が撃ち漏らした場合に備えて陸上配備PAC-3を配備しています。
PAC-3は能力不足、といった批判を聞くことがありますが、それは的外れ。ターミナル・フェイズという極めて時間的制約の大きいフェイズでいち早く迎撃高度まで上昇し精密な機動で迎撃をするPAC-3は、拠点防空において優れたミサイル防衛システムなのです。
SM-3やTHAADもまた、それぞれの用途に応じた特長を発揮することで多層防御を構成しています。
で、米本土防衛用のGMDはこちら。

GMDにいたっては、IRBMとICBMに特化した性能となっています。当然ですが、GMDに拠点防空能力はありません。
最後に、「射高」という言葉について触れておきたいと思います。
弾道ミサイルを撃つ側はミサイルの「射程」を気にしますが、ミサイル防衛で迎撃する側は敵ミサイルの射程だけでなくこちらの迎撃ミサイルの「射高」が重要です。というのも、ミッドコースでの迎撃は弾道軌道の頂点付近を地上/海上から狙うので、「弾道ミサイルの頂点高度>迎撃ミサイルの射高」という状態ではミッドコースでの迎撃は覚束ないものになってしまうからです。

日米のSM-3は大丈夫でしょうか?例えば、北朝鮮の持つノドン(MRBM)は弾道頂点が約200〜350km。これに対し、海上自衛隊が配備中のSM-3ブロック1Aは射高500km(射程500km、速度は約マッハ10)ですから、能力的には十分です。さらに、日米が共同開発中のSM-3ブロック2Aになると迎撃可能高度は1,000kmまで達しますから、IRBMさえも撃ち落とせるようになります。
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弾道ミサイルとミサイル防衛のほんの初歩について紹介してみました。他にも言及したほうが良いことも多々ありますが、今回はこんなところで。
次回はこのGMDの実験結果をお伝えします。