KN08
Arms Control Wonkより画像転載)

北朝鮮が、今月11日に東倉里(トンチャンリ)の西海衛星発射場で新型弾道ミサイルのエンジン燃焼実験を行っていた模様です。

新型ミサイルの燃焼実験 核実験の前日 (産経新聞)

新型ミサイルとは、「KN-08*1のこと。中距離弾道ミサイル(IRBM)との見方もありますが、重量から考えると準ICBM級(6,000km〜)の射程があっても不思議じゃないと思います。

初お目見えは、2012年4月の金日成生誕100年を祝う軍事パレードでした。展示されたのは6発。専門家の間ではモックアップ(原寸大模型)だという分析があります(参考記事)。もちろん、本物だと主張する人もいて議論は分かれています。個人的には、これらは地上試験用ではないかという見方*2が一番納得のいくものでした。偽物ではなくて研究&人員訓練用の初期配備モデルだ、というものですね。もちろん、いずれの分析も憶測の域を出ません。

今回の実験は発射実験ではないので、報道などでは小さな扱いですが、私はKN-08が北朝鮮の主力ミサイルのひとつになると考えています。


ノドンやテポドンとどう違う?
ご存知の通り、北朝鮮は何種類かの弾道ミサイルを保有しています(参考記事)。有名なところだとノドン、テポドンがありますね。KN-08とこれらのミサイルとを簡単に比べてみましょう。

  1. 名前
    まず気がつくのは名前かな、と思います。ノドンやテポドンのように北朝鮮の地名にちなんだコードネームがつけられていません*3。実験が行われた東倉里から「トンチャン」なんて間の抜けた名前になるくらいなら、KN-08のままが良いです。(2014/3/6追記:「KN-08」は、「火星13(Hwasong-13)」というコードネームが付されたようです。
     
  2. ノドンとの比較
    ノドンは、ノドン1とノドン2(ムスダン)があります。それぞれ射程が1,300kmと2,500km〜5,000km?という準中距離弾道ミサイル(MRBM)〜IRBM級なので、準ICBM級のKN-08とは違いますね。

    液体燃料ロケットであるノドンに対して、KN-08は固体燃料とみられます(液体燃料説もあり)。

    類似点は、移動発射車両(TEL)に搭載可である点です。
     
  3. テポドンとの比較
    テポドン1(1,500〜2,500km)、テポドン2(4,000〜6,700km)、テポドン2B(8,000km〜?)というように、テポドン・シリーズはMRBM〜ICBM級まで意外と多彩。射程距離だけでみると、KN-08はテポドン2と2Bの間くらいですね。

    テポドン・シリーズはいずれも固定発射台から発射されるため、移動発射式に比べて発射の兆候が探知されやすいのが特徴です。地下サイロ(格納施設)などに隠して生残性を高めなければなりませんが、どうしても衛星などで位置が特定されやすいのが難点です。

    KN-08がテポドン以上に脅威なのは、この点にあります。つまり、テポドン2〜2B級の射程を持ちつつ、移動発射式という生残性の高い非常に実戦的な戦略兵器を北朝鮮が保有することになるのです。

    なお、昨年打ち上げに成功した銀河3号の三段目(人工衛星)を弾頭に替えた新型ICBM(テポドンX)ですが、射程(1万km?)だけを見ればこちらも大きな脅威と言えるかもしれません。しかし、テポドンXはKN-08に必要な制御や誘導技術などのためのテストベッドだと見ている専門家もいます。

◇ ◇ ◇

現在、北朝鮮北東部の舞水端里(ムスダンリ)でも液体燃料ミサイルを発射する兆候があると伝えられます。固定発射タイプのKN-08かもしれませんし、テポドン・シリーズかもしれません。まだはっきりしたことは分かりませんが、舞水端里から発射するとなると、日本上空を通過して太平洋へ向かうと考えられます。また、大騒ぎになりますね…。


KN-08の影響

北朝鮮がICBMを実戦配備する上で、再突入体の開発や核の小型化など克服しなければならない問題が多いのも事実です。ただ、北朝鮮が国際社会の制止を振り切って今後も核実験を続ければ、いつか信頼度の高い核弾頭開発技術を手に入れるでしょう。

  1. アメリカへの影響
    北朝鮮から発射された弾道ミサイルは、6,000kmならグアム・アラスカを、8,000kmならハワイを、そして10,000kmなら米本土西海岸主要都市を射程に収めます。
    北朝鮮からのミサイル射程図
    (平壌を発射地点とした各ミサイルの射程距離。)

    北朝鮮がこれまでアメリカを脅す道具としていたテポドンは、「こけおどし」的なニュアンスの強い兵器でした。準ICBM級のKN-08をTELに搭載できるようになったことは、北朝鮮の対米戦略上とても重要な一歩ですし、このKN-08こそが北朝鮮の戦略ミサイルの大本命となるのではないでしょうか。

    湾岸戦争でイラク軍の移動式スカッドミサイル発射基を米軍は最後まで破壊しきれませんでした。現在はUAV(無人機)による偵察・監視能力が向上しているとはいえ、砂漠が広がるイラクと山岳部の多い北朝鮮ではどちらがかくれんぼに適しているかは言うまでもありません*4

    とはいえ、北朝鮮には核弾頭を一定数そろえる能力はまだありませんし、KN-08を大量配備するまでには時間がかかります。政治的に見ても、近い将来に北朝鮮が米領土にミサイル攻撃を仕掛ける蓋然性は低いと言えるでしょう。北朝鮮が得る軍事的効果は小さい上に、引き換えとして金王朝が吹き消されてしまうのは確実ですからね。

    こうしたことから、依然としてアメリカはKN-08を実質的な脅威だと受け止めていないところがあります。しかし、固定発射式のテポドンとは違って、神出鬼没のKN-08が米本土を狙うとなると、アメリカもこれまでのような態度ではいられなくなるでしょう。
     
  2. 日本への影響
    北朝鮮による日本への脅威はなんといっても実戦配備済みのノドンです。では、KN-08は日本にどのような影響をもたらすのでしょうか?

    北朝鮮から米本土に向けて発射された弾道ミサイルが、日本の上空を通過しないことは以前説明したとおりです(参考記事)。一方、ハワイやグアムを狙って撃った場合には日本上空を通過します。
    5
    (北朝鮮→ハワイ)

    map7
    (北朝鮮→グアム)

    日本には北朝鮮からハワイへ向かう弾道ミサイルを迎撃する能力がありませんが、グアムを狙った場合は、SM-3ブロック1Aで迎撃が可能です*5。この場合、問題となるのが集団的自衛権です。海上自衛隊イージス艦をグアム防衛のために展開させるかどうかが焦点となるでしょう*6
     
  3. 国際社会への影響
    これはKN-08に限ったことではありませんが、ミサイル&核技術を他国へ売ることが北朝鮮の体制を支える一因となっています。同時に、北朝鮮のミサイルや核技術は北朝鮮だけの問題にとどまりません。パキスタンやイラン、そして中国との技術提携はよく知られています*7。 とりわけ、北朝鮮とイランの技術交流は緊密です。北朝鮮からイランへ核開発技術が伝わることは中東諸国の不安を呼び、アメリカやヨーロッパももはや他人事ではなくなってきています。イランのミサイル技術が北朝鮮に還元されることもまたしかりです。

    北朝鮮のミサイル&核開発問題は、日米や東アジアだけでなく、より広い多国間で懸念を共有して欲しい問題です。
◇ ◇ ◇

国連安保理が北朝鮮への制裁強化を決定すれば、次はKN-08の発射実験が行われるかもしれません。今後も目が離せない状況が続きますね。



※1 諸元はだいたい以下の通りと言われています。
  • 全長:17.5〜21m
  • 直径:1.5〜2m
  • 重量:最大で60トン?
  • 弾頭重量:750〜1,000kg?
  • 最大射程:6,000km〜10,000km?(ペイロードで変わります)
  • 推進方式:三段式固体(液体?)燃料
※2 Nick Hansen, North Korea’s New Long-Range Missile: Fact or Fiction?, 38 North.
※3 北朝鮮でノドンは木星とか火星、テポドンは白頭山や銀河と呼ばれてます。
※4 もちろん、20mのミサイルを運ぶ運搬車両が通れる道路の整備や地形上の制限はあり、一概に秘匿性が上がるというわけでもありませんが。
※5 弾道ミサイル防衛システムSM3の迎撃能力(Yahooニュース)← 『週刊オブイェクト』のJSF氏による解説。
※6 グアム攻撃はムスダンの役割かな、と思いますが。
 あと、本稿の主題とは外れますが、集団的自衛権についてもう少し。
 日本にとっての脅威はノドンです。北朝鮮をめぐる地域の緊張が高まり、ノドン発射の兆候をつかんだアメリカが北朝鮮へ軍事行動を起こすシナリオも可能性の一つとして挙げられます(これも現時点では蓋然性が高いとは言えませんが)。この場合、米軍のイージス艦、THAADやPAC-3部隊も米本土から増援にやって来ます。脅威にさらされているのはアメリカではなく我が国です。日本にとっては個別的自衛権の問題ですが、この状況で米軍と協同しない選択などありません。やはり集団的自衛権の行使が問題となるでしょう。
 グアム防衛というシナリオを議論の中心にすべきかどうかはさておき、集団的自衛権についての議論が活発化することは歓迎ですし、もちろん私は行使に賛成です。
※7 最近、エジプトと技術協力があったことも伝えられました。


【参考資料】