北朝鮮で発射の兆候を見せていたミサイルはKN-08ではなく、中距離弾道ミサイル「ムスダン」でした。アメリカの軍事衛星が北朝鮮東部・元山(ウォンサン)付近でムスダンが積み下ろされたことを確認したようです。

北朝鮮は北と西に向けては発射しませんし、現状、韓国上空を通過するルートも政治的に危険過ぎます。不幸なことに、残った東向きの日本上空ルートで試射するものとみられます。

ノドンやテポドンに比べて、ムスダンという名前は聞き慣れない人も多いと思います。これからニュースなどでも取り上げられると思いますので、その時の理解のとっかかりになる程度にムスダン情報をまとめてみます。


中距離弾道ミサイル「ムスダン」

1990年代半ば以降、北朝鮮は旧ソ連の技術者を招いて潜水艦発射型弾道ミサイル・R-27をベースにミサイル開発を進めました。R-27は潜水艦から発射するためにサイズを小さくする複雑な技術を採用していたため、これを北朝鮮の技術でも製造・整備できるように簡素化し、陸上発射型に改良しました。

初お目見えは2010年。北朝鮮での呼称は現在も不明ですが、発射基地のある舞水端里(ムスダンリ)の地名にちなんで「ムスダン」というコードネームが付されました*

R-27をベースにしたものですので、ムスダンはもともと技術的にはある程度確立されたところから始まっています。ムスダンそのものは未知数ですが、弾頭やロケットモーターの技術の一部はパキスタンやイランに輸出もされ、ガウリやシャハーブ3系といったミサイルに採用されています。イランでは2000年代に行われたミサイル実験の多くがムスダンやノドンの技術試験が含まれていたと見られますし、19発のムスダンがイランに引き渡されたという情報もあったりするので、同じく発射実績のないKN-08に比べれば、わりと出来上がった印象のあるミサイルです。移動発射車両搭載式という点から、生残性にも優れたシステムですしね。

今のところムスダンの諸元は以下のようなものと推定されています。

全長:12〜19m
直径:1.5〜2m
重量:19〜26トン
ペイロード:650〜1,200kg
弾頭:単弾頭
推進方式:1段式液体燃料
射程:2,500〜4,000km(IRBM級)
CEP:1.3〜2km

北朝鮮からハワイは約7,500kmですし、米本土西海岸を攻撃するには10,000km必要です。反対に韓国や日本の首都圏を攻撃する際、4,000kmというのは過剰な射程となってしまいます。

グアムまでは約3,400km。ムスダンがグアム攻撃用であることが分かります。
ムスダン射程
(ムスダンの射程範囲。赤い丸は平壌を中心に4,000kmの範囲。)


馬鹿にできない北朝鮮の技術

アメリカやロシアはもちろん、中国と比べても北朝鮮のミサイル技術レベルは劣ります。ムスダンにいたっては発射実験すら行われていません。しかし、だからといって「あんなもん、ガラクタだ」と頭ごなしに舐めてかかるのは間違い。

昨年、北朝鮮は2度のロケット発射を行いました。1度目は失敗に終わりましたが、2度目の成功は彼らの技術力の高さを示すのに十分なものだったと言えるでしょう。例えば、北朝鮮が太陽同期軌道へ衛星を投入するには、軌道傾斜角が97.42度でなければなりませんでした。発射初期段階で許される誤差は1度以内。ところが北朝鮮は94.45度で発射し、台湾沖上空でドッグレッグターン(軌道をくの字に曲げること)を行って正しい同期軌道に修正して光明星3号の太陽同期軌道への投入に成功しました。ブースターや弾頭カバーも予定地点で切り離されています。

彼らのミサイル発射技術はあなどれないのです。昨年12月の銀河3号発射成功以降、アメリカも対北朝鮮ミサイル態勢を従来のものから変化させていますね。GBIやTHAADの動向がその例です。

我が国はノドンに狙われてすでに実質的な脅威にさらされています。ビビり過ぎるのも駄目ですが、相手の実情を知ろうとせずに過小評価するのは非常に危険です。


試射されたら日本は迎撃する?

北朝鮮東部・元山や舞水端里から東向きにムスダンを発射するとなると、日本上空を通過することになります。

ムスダン日本通過ルート

上図の黄色い部分が想定されるムスダンの飛翔ルートです。

これまでと同じく、実験で上空を通過するだけなら迎撃しません。ミサイルがコントロールを失ったり、大きな部品やブースターが落ちてくる場合にのみ対処することになります。


ミサイル防衛ではムスダンは迎撃できない???
北朝鮮のミサイル技術水準は向上してきており、未発射のムスダンといえども不当に過小評価するべきではありません。一方でムスダンが対処不可能な脅威かというとそうではありません。むしろ十分な備えがあると言えます。主力となるSM-3は何度も実験を重ねており、純粋に科学技術という面から比較してどちらが信頼性の高いものであるかは言うまでもありません。

ではまず、ムスダンがグアムに発射された場合について考えてみましょう。

大雑把な数字ですが、距離が約3,400kmですので、秒速4.5kmと想定すると、発射から6分17秒後に弾道頂点(高度約400〜450km前後の大気圏外)に達します(発射の角度によって頂点高度は変わります)。

イージス艦はこの近辺に配置され、弾道頂点またはそこから少し降下しはじめたところで待ち構えられるようSM-3ブロック1Aを発射します。すでに衛星や早期警戒機をはじめ、日本海や東シナ海に展開した日米韓のイージス艦、経ヶ岬のXバンドレーダーや下甑島のFPS-5などの前方展開レーダーで発射後の弾道軌道が追跡され、SM-3にとって最適な迎撃地点は割り出されています。

ムスダン迎撃イメージ
(迎撃イメージ図)

SM-3ブロック1Aの射程は1,200kmで、到達高度は500km、速度は秒速4km。ムスダン迎撃は可能です。実際に、2011年4月の実験でSM-3ブロック1Aは秒速4kmを超える中距離弾道ミサイルの迎撃に成功しています(参照記事)。

万が一、SM-3の網をすり抜けたとしても、グアムにはTHAADが待ち構え、さらにはPAC-3もいます。これらをすべてくぐり抜けなければならないとなると、迎撃側に分があると考えるのが妥当です。

補足しておくと、現在、日米で共同開発中のSM-3ブロック2Aは迎撃高度が1,000kmに届きます。ムスダン程度の弾道ミサイルにはかなり余裕をもって対応できるようになりますね。2018年までには配備される予定です。

次に、ムスダンが日本の都市を狙って発射された場合について。

北朝鮮・元山から東京を狙う場合、距離は1,100km。先述の通り射程4,000kmのムスダンは過剰性能となりますから、東京攻撃には主としてノドン(射程:1,300km)が用いられます。沖縄なら約1,500kmの距離なので、ムスダンを使うかもしれません。

仮にムスダンで東京を狙うとすると、普通に撃ったのでは日本を飛び越えていってしまいます。そこで、通常の弾道軌道ではなく、高く打ち上げて近くに落とすよう工夫しなければなりません。この場合に描く軌道をロフテッド軌道と言います。

ロフテッド軌道イメージ
(ロフテッド軌道イメージ)

ロフテッド軌道で発射されると、弾道頂点がSM-3ブロック1Aの到達高度を超えてしまうため、その場合は迎撃可能な高度に標的が降りてくるまで待たなければなりません。標準の軌道と比べて落下速度にそれほどの違いは出ませんが、待っている分だけ対処時間が制約されることになり、迎撃作業が難しくなると言われています。ただ、難しくはなりますが不可能というわけではなく、限られた時間の中でどれだけ対応できるか、という状況になると思います。

なお、発射実験において、太平洋に向けて撃ったつもりがなんらかの不具合で失速したり、ブースターが日本に落ちてきたりした場合は正常な軌道は描きませんし、速度も格段に遅くなっているので、それこそPAC-3で十分対処できます。

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すでに米韓は不意打ちに備えてイージス艦を展開させています。日本も破壊措置命令が間もなく発令される見込みで、その後イージス艦とPAC-3部隊が展開するものと思われます。

それにしても北朝鮮はどこまで緊張をエスカレーションさせるつもりなんでしょうか。各国の大使館員に退去を促しているあたり、そろそろ「いつものパターンか」で済ませられなくなってきています。三代目が、北朝鮮内部に向けて「米帝なんて怖くねーし。俺ブルってねーし。」みたいなノリでどんどん強がりを抑えられなくなってるのだとしたら、状況は全然読めないですね。ムスダンも成功するとなると脅威ですが、あのかりあげクンの考えの方がよっぽど不気味です。



* ノドンB、ノドン2、BM-25、ミリムといった名前で呼ばれることもあります。