ミサイル防衛無効論はもううんざり
アメリカはミサイル防衛(MD)を推進する国だから、その政府の発表する実験結果なんて信用性ゼロ、という人がいます。米政府の情報を信じないのは良いとして、そういう人は、ミサイル防衛の実験に信憑性がないことを科学的に分析し、客観的評価を得たアメリカ以外の研究をどのくらい読んでおられるのでしょうか?

ミサイル防衛(MD)はポピュラーな兵器システムです(改稿)』で取り上げたように、アメリカ以外にもMDシステムを採用している国はいくつもあり、ロシア、中国、イランとアメリカと対立する国々さえもMDの配備/開発を進めています。彼らもMDの有効性をアメリカ以上に喧伝しますが、これら約30カ国の政府の情報や研究も信じられないわけですよねえ…。いったいどこの国のどの言葉で書かれた研究を読んだのやら。

MDに懐疑的な論者として代表的なのが、マサチューセッツ工科大のセオドア・ポストル氏、コーネル大のジョージ・ルイス氏、憂慮する科学者同盟(UCS)のデイビッド・ライト氏、プラウシェアズ財団のジョセフ・シリンシオーネ氏あたりでしょうか。ただ、彼らもまたアメリカの組織・研究者だったりするので、反米を掲げつつ彼らのMD懐疑論を支持するのは支離滅裂です。

米政府の情報を鵜呑みにするのは危険だと私も思います。しかし、ポストル教授らの主張がアメリカでもそれ以外の国でもほとんど支持を得られてない点を抑えておくべきでしょうね。アメリカでは、議会の会計などを厳正にときには批判的に審査するウォッチドッグの役目を持つ独立機関がいくつもあります。例えばGAO(米会計検査院)などもしばしばMD政策の不備を報告し、より効率的な運用のために厳しい意見を発表しますが、技術的に「当たらない」だの「使えない」だのという見解は現在ありません。

ポストル教授も最近は「迎撃ミサイルは当たらない」と言わなくなりました。MITの教授として豊富な物理学的知見を持ち、かつMDに懐疑的立場のポストル教授でさえ、ミサイル防衛が「当たらない」という論調ではなく「効果は薄い」と変化しています。

宗教や思想といった形而上の理由ならともかく、物理学を理由にMDを完全否定するのは悪手です。MD推進派の思うつぼですので、お勧めしません。日本ではいまだに科学的根拠も示さないまま「当たらない」と言っている方がいます。しかし、物理的に当らないといいながら、その物理的理由を説明してません。反米思想の方にはウケルかもしれませんが、娯楽としても面白味が欠けているかなあ、と思います。

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日本のMDの主役はSM-3です。射程、射高ともに、日本に向けて発射される北朝鮮の弾道ミサイル迎撃能力を備えているからです。今回のように飛行コースを予告していない場合はPAC-3の配備地選択に難航しますから、広範囲をカバーするSM-3が特に有用となります。

一方、MD無効論でよく言われる「湾岸戦争で役に立たなかった」というのはパトリオット・ミサイル「PAC-2」です。ただ、この湾岸戦争で使われたパトリオット・ミサイル、今話題になっているPAC-3とは全く別物。名前が似ているので誤解している人も少なくないかもしれません。

ニュースでも連日「パックスリー、パックスリー」と言ってますので、じゃあ、PAC-3ってなに?ということと、MD無効論に対する反論をこの機会に簡単にまとめてみます。いまさらな人には今さらな内容ですが^^;


湾岸戦争で役に立たなかったのはPAC-2
1991年の湾岸戦争の際、イスラエル、サウジアラビア、バーレーンにPAC-2が展開しました。「砂漠の嵐作戦」期間中、イラクは88〜93発の短距離弾道ミサイル・スカッドをイスラエルに発射。それに対し、PAC-2は158発発射されました。158発のうち、86発はスカッドミサイルに向けて発射されましたが、50発がスカッドの破片に、22発が誤った対象(航空機など)に発射されてしまいました。これは管制システムの不備などが原因とされています。

作戦を通じて、スカッドの弾頭に直撃したものは発射されたもののうち25%でした。米政府は当初、42発中41発迎撃と発表しましたが、後にGAOの調査で44発中4発であったことが判明します。現在、湾岸戦争におけるPAC-2のスカッドミサイル迎撃率は9%だったと結論付けられています。

管制システムなどの問題があったとはいえ、なぜこうもPAC-2は任務達成率が低かったのでしょうか?

ざっくり言ってしまうと、PAC-2はそもそも航空機や巡航ミサイル迎撃用であったため、近接爆破方式を採用していたからです。近接爆破というのは、標的が近づいてきたら、文字通りその鼻先で爆発して標的を無効化するものです。人の操縦する航空機や、速度の遅い巡航ミサイル相手だとこの方式は有効でした。

ところが、弾道ミサイルであるスカッドは秒速1,500m(マッハ4+)ほどであるため、速度と運動エネルギーが大きく、爆風では追いつかなかったり破壊しきれなかったのです。

この戦訓により、弾道ミサイル迎撃は弾頭直撃(hit-to-kill:ヒット・トゥ・キル)方式が採用されるようになります。


PAC-3の登場
PAC-2の苦い経験により、弾道ミサイル迎撃専用に開発されたのがPAC-3です。標的に直撃して運動エネルギーで破壊します。名前こそ同じ「パトリオット」を冠していますが、直径も重さも射程も射高もPAC-2とは全然違う別物。苗字が一緒の他人みたいな感じです。PAC-3は2001年に初期試験を終え、2002年から配備開始されました。

【参考過去記事】 優秀なPAC-3の迎撃試験成績

試験記録を追ってみると、PAC-3の試験が比較的初期から難しい条件が付されていたことが分かります。複数目標の同時迎撃試験なども早い段階でクリアしていますね。

2003年のイラク戦争でPAC-3は実戦デビューを果たします。2発の短距離弾道ミサイルに対して4発のPAC-3を発射し、すべて迎撃・破壊に成功しました。

PAC-3(特に現行のConfig.3とMSE)は米軍やメーカーだけでなく独立審査機関などでも高い信頼性を得ています。実弾迎撃試験において、詳細な標的弾発射情報(日時や方位、軌道要素)を伏せるだけでなく、複数発の迎撃を要求したりといったシビアな条件をクリアしているので、高評価は当然です。

PAC-3は2011会計年度からMSEへ移っていて、2013年からはLRIP(低率初期生産)開始予定で、FRP(全規模量産)は2016年 (CY15のIOT&E後)に予定されています。現在、日本、ドイツ、オランダ、イタリア、UAE、カタール、サウジアラビアがMSE導入の意向を示しています(日本などが現在運用しているタイプは、最新のConfig.3)。MSEのユニットコストは690〜960万ドル(5.5億〜7.6億円)。2014会計年度に調達が開始され、生産数は1,680発に達する計画です。


PAC-3は北朝鮮の弾道ミサイルを迎撃できるのか?
現在、北朝鮮が撃つぞ撃つぞと言っているミサイルは、ムスダンです(参照)。日本にとっても脅威ですが、これはおそらくグアム攻撃用。

北朝鮮の弾道ミサイルで我が国に直接的な脅威を与えているのは、射程約1,300kmのノドンです。このノドン、発射から7〜10分ほどで着弾します。終末速度は秒速約3,500m(マッハ10)です。

PAC-3は射程20km、射高15km、速度は秒速1,700m(マッハ5+)です。ノドンの終末速度よりも遅いですが、だから迎撃できないと思うのは大間違い。PAC-3はヘッドオンでこちらにまっしぐらに向かってくるミサイルを撃ち落とすものです。防護すべき拠点からそれたり、上空を通過する標的を追いかけて撃墜するものではありません。

野球でたとえるとキャッチャー。サッカーだとゴールキーパーのイメージです。捕手やキーパーの動く速度は投手やキッカーから放たれるボールに比べてずいぶんと遅いものですが、真正面に向かってくるボールを受け止めるのは簡単です。「ダルビッシュ投手のボールの50倍の速度のミサイルを迎撃できるわけない」とトンチンカンな話を聞きましたが、構えたキャッチャーミット付近に向かってくるボールにキャッチャーミットをあてることは難しいことではありません。だいたい、ダルビッシュのボール50倍の速度というと、秒速約2,080m(マッハ6)です。ノドンの速度にも達していないスカッド程度の話なら、PAC-3単独で迎撃可能ですね。


どこから飛んでくるか分からないから迎撃不可能
どこから飛んでくるか分からないって、、、北朝鮮ですがな。FPS-5やFPS-3、AN/TPY-2レーダーも太平洋じゃなく日本海側に集中して配備しているのはそのため。どこに撃つか分からない?日本の政治的軍事的に重要な拠点です。外れて海に落ちたり人里離れた山中に落ちるミサイルをやみくもに迎撃することはありません。

確かにノドンやムスダンを搭載する移動式起立発射車両(TEL)は捕捉が困難で、弾道ミサイルの生残性を高めます。しかし、現在の北朝鮮のように緊張がある程度高まった状態で、米軍の監視の目から完全に逃れることも難しいものです。事実、今回ムスダンの発射は米軍の無慈悲な通信傍受によってミサイルの積み下ろし準備まで確認される始末です。


PAC-3は迎撃範囲が狭いから要らない
くどくなりますが、日本のMDの主役はSM-3。PAC-3はあくまで拠点防空で、SM-3が撃ち漏らしたミサイルやその破片を破壊する最後の砦です。PAC-3単独で迎撃任務にあたることはほとんどありません。有事には米軍のTHAAD部隊が支援に駆けつけることも考えられますし、飛来する対象によっては弾道ミサイル専用のPAC-3ではなく、PAC-2やその他の地対空ミサイルもサポートします。どんな兵器も単独で運用されるわけじゃないですよね。

一応イージスBMDでの対応にも触れておくと、SM-3ブロック1Aは射程1,200km、射高500km、速度は秒速4,000m(マッハ11)で、実験ではノドンの倍以上の射程距離を持つ中距離弾道ミサイルを迎撃した実績もあります。日米合わせたイージス艦とSM-3の数を考えれば、PAC-3の出番はおそらくないでしょう。

確かにPAC-3の防護範囲は狭いので、そこに不安を抱く人がいるのは仕方がないと思います。その場合、「PAC-3の迎撃範囲が狭い」→「PAC-3を増やす or より範囲の広いTHAADを買う」が私などは自然な話の展開だと思います。実際、イランの弾道ミサイル脅威下にあるUAE、カタール、サウジアラビアは、THAADとPAC-3の購入を進めています。

予算の問題などから必ずしも増強がままならないこともありますから、その時は「PAC-3の迎撃範囲が狭い」→「わずかでも被害を限定させるよう当分今の状態でやりくりする」ということになるでしょう。しかし、「PAC-3の迎撃範囲が狭い」→「全部守れないなら要らない」という考え方にはポカーンとならざるを得ません。

「少ししか守れないけど少しでも守る」と「少ししか守れないなら無駄」という意見のどちらかに命を預けるのなら、私は前者に託したいと思います。


迎撃に成功しても破片が落ちてくるから要らない
この心配も当然なものだと思いますが、1発のPAC-3が標的ミサイルを迎撃し、その破片を2発目のPAC-3が破壊するという実験にもすんなり成功しています。バラバラになった破片の大きなものは、後発のPAC-3によって破壊可能かもしれません(対処時間は限定されますが)。

また、イスラエルがパレスチナからの砲弾をアイアンドームで迎撃・破壊した際、住民は建物の中にいることで破片による被害を防いでいる実例もあります。なにより、ミサイルが正常に飛翔して正常に標的に着弾した場合の被害と、迎撃した破片による被害とでは、比べるのも馬鹿馬鹿しい話です。

終末速度マッハ10の弾頭とマッハ5のPAC-3が衝突した場合、発生する運動エネルギーは巨大です。完全に破壊できなかったとしても、そこで加えられた運動エネルギーによって、弾頭は所期の着弾点に向かうことはかなわず、拠点防御というPAC-3の任務は達成されます。


実験での成績なんてあてにならない
「実験でいくら好成績でも実戦の役には立たない」ともよく言われます。では、それを北朝鮮の弾道ミサイルたちが聞いたらどう思うでしょうか?

ノドン、テポドン: 「・・・。」
ムスダン、KN-08: 「(俺たち、実験もしてない…。)」

このように、実戦での成績(コンバット・プルーフ)を持ち出すと、攻撃側をも否定することになります。PAC-3は少なくともイラク戦争で短距離弾道ミサイルを迎撃してますし、実験回数、実験内容、成績、どれをとっても北朝鮮の弾道ミサイルは不利です。

日時や方位、軌道要素などの標的弾発射情報を隠し、気温や気圧、湿度や風速の異なる実験においてもPAC-3やSM-3が好成績を収めていることを無視することはできません。

また、航空機や巡航ミサイルとは異なり、迎撃すべき弾道ミサイルは実験でも実戦でも基本的には弾道軌道を描きます。ターミナルフェイズでは弾頭は自由落下しているわけで、対処時間の問題があるとはいえ、軌道を割り出すこと自体は難しくありません。発射側がディプレスト軌道(低軌道)やロフテッド軌道(高軌道)で打ち上げたり、標的ミサイルの不具合による軌道のズレやその日の天候などが原因で迎撃側に不利な状況が発生することも考えられますが、訓練や実験がまったく活かされない実戦状況ばかりを想定することもまた極論ではないでしょうか。

デコイ(囮弾)がどうとか多弾頭がどうとかいう意見もありますね。ごもっともですが、北朝鮮の弾道ミサイルは単弾頭で、デコイもありません。北朝鮮側にMDを欺瞞したりかいくぐる技術が存在しないにもかかわらず、すでに迎撃側は将来の多弾頭迎撃やデコイの識別研究・開発が進めています。いたちごっこといわれる兵器開発競争において、迎撃側が大きく先回りしている状態といえます。


MDはアメリカを守るため。日本防衛じゃない
現在、SM-3ブロック1Aは、中距離弾道ミサイルまでしか迎撃対象に含みません。THAAD、PAC-3にいたっては、それ以下。対して、米本土が弾道ミサイルで攻撃される際に用いられるのは基本的にはICBM級のものですので、日本にいる第七艦隊のイージス艦が現在運用するSM-3ブロック1Aでは迎撃できません(ブロック2以降は別です)。アメリカの本土ミサイル防衛はあくまでもGBIが担っています。

つまり、日本に展開しているMDシステムは、米本土防衛には能力不足なんです。そもそもミサイル防衛は対北朝鮮・イラン用に開発されているものですしね。もちろんアメリカは自分たちの国益を弾道ミサイルの脅威から守ることを第一にMDを運用していますが、結果として日本を北朝鮮の弾道ミサイルから防衛するという形になっているんです。SM-3の防護範囲は広大で、そこには日本人が多く居住していますし、日米の基地を防御するためのPAC-3は基地周辺の日本のインフラや人命を守っていることに不都合を感じるのはおかしな話です。

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外交とミサイル防衛はトレードオフの関係ではありません。イージス艦やPAC-3の展開が外交放棄を意味するわけではないですから、外交は粘り強く継続されなければなりません。

現在、北朝鮮のミサイル発射や挑発を思いとどまらせるために日米韓(中露?)で外交が展開されています。2009年の時も同じでした。しかし、それでもなお、当時北朝鮮の弾道ミサイル発射を中止させることはかないませんでした。アメリカの核兵器も日本、韓国を含む国際社会の外交的アプローチも最終的には北朝鮮の意思を変えられなかったのです。

発射されたミサイルによって発生するかもしれない被害を最小限化するのは、今のところミサイル防衛しかありません。100%の迎撃を誇る鉄壁の盾ではないですが、不幸にして外交努力が実らず、かつ北朝鮮の弾道ミサイルが我々に向かって放たれた時の最後の盾が、ミサイル防衛なのです。




できれば過去記事にも目を通していただければ…。今回の記事の補足になることも書いてますので。

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