先月9日、尖閣諸島北方の東シナ海に中国の無人航空機(UAV)が飛来し、我が国の防空識別圏(ADIZ)*1に入りました。飛来したUAVは、ISR(情報収集、監視、偵察)用の「BZK-005」と見られます。ADIZに入ったからといって攻撃理由にはならないので、いきなり撃墜するわけにはいきません。これは無人機も有人機も同じです。
中国のこうした挑発行為があるたびに、日本の安全保障が著しく低下したかのような言説を見かけます。F-35のような高い買い物をするよりも無人機をそろえろ、という意見もあります。確かに、中国のUAVに対する研究・開発意欲は日本に勝り、おそらく技術的にもあちらが進んでいます。うかうかしていられないのは間違いありません。
では、中国のUAV戦力の増強は、我が国にとってどれくらい脅威なのでしょうか。また、今後UAVが戦場の主役となり、有人機は間もなく舞台を去ることになるのでしょうか。
日本のUAV*2
過去記事で取り上げた通り、日本も標的機としてUAVを持っています。そして、2013年8月、防衛省は2014年度の予算にRQ-4グローバル・ホークの調達費用を盛り込むことを決定しました。2014-2018年度で3機購入予定です。私見としましては、グローバル・ホークを導入するなら、海洋監視任務においては中低高度での運用に適した機体であるMQ-4Cトライトンの方が妥当かなと思います。トライトンは、BAMS(広域海洋監視)無人機という位置づけで、米海軍の対潜哨戒P-8Aポセイドンを補完するセンサー・プラットフォームとして運用される方針です。
南西諸島方面を意識して導入する機体としてどの機体が最適か、という議論はさておき、日本も今後はISRのためのUAV研究を意欲的に行っていくべきだと思います。特に、領域警備においてUAVが果たす役割は大きなものです。周辺海域の警戒監視は、広範囲で長時間・長期間にわたる任務ですから、UAVによるISRやデータの中継機能を活用できれば、哨戒機などの機能の補完が可能となり、人員の負担軽減にもつながります。
中国のUAV
中国のUAV開発の歴史は古く、多くは標的機として、そして最近はISR任務を目的としたUAVが何種類か確認されています。その成長速度は速く、確かに驚異的です。
なお、UAV研究・開発、経験面でずば抜けているのが、米国とイスラエルです。この両国に比べて、中国のUAV技術は数年以上の開きがあると言われ、現状、あくまでも既存技術のコピーや解析が主眼となっています。技術的な面の力量不足は専門家からも指摘されていて、漢和情報センターのアンドレイ・チャン(平可夫)氏は、「中国のUAVの多くはリアルタイム通信能力に不安がある」としています。また、中国航空工業集団公司(AVIC)のチーフデザイナーTu Jida氏も、「中国のUAV開発における大きな壁となっているのが、統制・通信に関する問題だ」と、チャン氏と同様の見解を述べています。
また、無人戦闘攻撃機(UCAV)の開発状況は、ISR型UAVよりも低調です。プレデターに似た武装可能な多目的UAV「翼竜」が開発順調のようですが、詳しいことは分かりません。開発元いわく、世界最先端で、外国へも積極的に販売するとのことですので、翼竜が中東やアフリカの上空を飛ぶ日は遠くないかもしれません。
中国UAVが仕掛ける飽和攻撃?
今年3月、米シンクタンクのProject2049研究所が、中国のUAV関連の報告書を発表しました。
報告書では、日本や米軍を攻撃する際の中国のUAV活用法について、筆者のRussell Hsiao氏がシナリオを提示しています。これについては、ブログ『東京の郊外より・・・』様において和訳されているので、そちらを引用させて頂きます。
Hsiao氏は中国の安全保障関係では著名ですが、これはあまりに中国に都合の良いシナリオと言わざるを得ません。ロマンはありますが成功の可能性は低いでしょう。
まず、無人機の対電子戦における脆弱さを考慮していません。米国やイスラエルのUAVは、何重ものジャミング対策を施していますし、テロ組織レベルの相手に電波妨害や通信回線への侵入を許したことはありません。しかし、一国の正規軍相手の電子戦を生き残れるか、となるとほとんど見込みがない、というのが大方の見方です(後述)。2011年12月、イランが米国のRQ-170センチネルを電子的に乗っ取りました。米国の先進的なUAVでさえも、この有様です。航空自衛隊に電子戦機はありませんが、F-15にECM(電子攻撃)ポッドを搭載する予定ですし、海上自衛隊の護衛艦の多くはECM/ESMの能力を持つNOLQシリーズを搭載し、電波探知妨害能力を持っています。米軍は専門のEA-18G グラウラーを持ってますしね。
次に、UAVの飽和攻撃についても、日米の「防空ミサイルを射耗させる」ことの難しさを安易に考え過ぎています。仮に、佐世保の第2護衛隊群が尖閣諸島周辺で中国UAVに飽和攻撃を仕掛けられたとしましょう。この護衛隊群を構成するのは、イージス護衛艦ちょうかい(DDG-176)、たかなみ(DD-110)、おおなみ(DD-111)、てるづき(DD-116)です。発射セル数はそれぞれ90、36、32、32。1セルにつき最大4発のESSM艦対空ミサイルが搭載できます。すべてのセルにESSMが装填されるわけではないですし、発射したミサイルが全弾命中するはずもありませんが、それを差し引いてもUAVで飽和攻撃するとなると、膨大な数が必要です。これに艦載砲が加わり、さらにCIWS(近接防御火器システム)の網もくぐり抜けなければなりません。UAVの巡航速度はせいぜい亜音速で、まして、旧式UAVをおとりとして使う場合、速度はぐっと落ちます。そして、言うまでもないですが、米空母打撃群の防空能力はさらに強力です。
大量のUAVをおとりにする戦術が有効というのは、旧ソ連の巡航ミサイル飽和攻撃に備えてきた自衛隊と米軍をさすがに見くびり過ぎでしょう。Project2049の報告書でも、Hsiao氏の構想に対して中国の関係者が否定的な見解を示しています*3。UAVで日米の艦隊群に突撃するというようなドクトリンは、中国でも考えられていません。尖閣に関して言うと、UAVを挑発の道具に使い、仮に日本がADIZで撃墜でもしようものなら、それを口実につけ込めるかも…といった程度の期待しか抱いてないでしょう。
今後の中国UAVの主任務はどうなる
では、中国はUAVをどのように使おうとしているのでしょうか? 中国・国家海洋局が2012年に出した発表が明確です。それによると、「中国は尖閣諸島やスカボロー礁に、2015年までに無人機監視・モニタリングシステムを構築する」*4。これは、中国が東シナ海と南シナ海におけるUAVの運用指向を示したものと言えます。彼らは、ISRをUAVの主任務に位置付けているのです。
もうひとつ、Andrew EricksonやLyle Goldsteinといった米海軍大学の中国軍事専門家が、対艦弾道ミサイル(ASBM)のターゲッティング・ノードの一部としてUAVが活用される可能性に言及しています。しかしこれは、こちらが発射シーケンスを断つ(キル・チェーン)機会が増えることも意味するため、相手の脆弱性を衝く好機ともなりうると米議会調査局で指摘されています*5。
UAVは対国家に使える兵器ではない
米国と中国のUAV運用構想はそれほど違ったものではありません。平時もしくは航空優勢環境下のISRにおいてはUAVが有効であると一致しています。
また、米中は、対地攻撃の一部をUAVに任せようという構想があり、米軍はすでに暗殺任務の多くをUAV部隊がカバーしています。大型ステルスUAV「X-47B」も戦闘機ではなく、爆撃機/攻撃機の系譜にあります。米国は海外での作戦展開をしなければならず、その際に必要な対地攻撃能力の充実と有人機への負担を減らす支援能力向上を急いでいます。
(X-47Bの空母着艦試験動画)
中国もX-47Bに似た「利剣」という大型UAVを開発中とみられます。詳細は分かりませんが、尖閣やスカボロー礁での運用が頭にあるでしょう。
(「利剣」のタキシング動画)
とはいえ、UCAVの有効性も、テロ組織レベルを相手にした場合に限られるかもしれません。米空軍参謀長ノートン・シュワルツ大将は、「リーパーのようなUAVはA2/AD(接近阻止・領域拒否)環境下には対応できない」(Flihtglobal)と言ってますね。だからこそ、「第5世代戦闘機のF-35開発を進め、B-2ステルス爆撃機を保有しているのだ」(同上)とシュワルツ大将は明言しています。さらに、米空軍航空戦闘軍団のマイケル・ホステージ大将も同様に、「プレデターやリーパーは強度の強い作戦環境下では使えない代物だ」(ノーボスチ)と発言しています。UCAVは、対国家向けのCAP(戦闘空中哨戒)機として運用するには能力が足りないとのことです。
こうして米軍が実戦経験によって得た原理は、中国のUAV運用にもあてはまります。そのことは中国の無人機の専門家も認識しています。
(UAV翼竜の設計者たちへのインタビュー。1分20秒から該当発言。)
翼竜の設計担当者たちも、「UAVが有人機に完全に取って替わることはない」と考えていることが分かります。そもそも、有人機のいらない未来が近いなら、中国がJ-20を開発していることに説明がつきません。
同時に、防空を主任務とする日本にとってUCAVなど必要ありません。制空型のUAVに至ってはまだ存在すらしていませんしね。防空の主役もまた、当面は有人機なのです。
有人機とUAVは相互補完関係である
今後、UAVの有用性が高くなることは間違いありません。ただしそれは、有人機に対する支援であったり、補完であったりという形で進んでいくものです。「米空軍は、今後30年程度はこのような軍事環境が続くと見ており、将来、防御力や抗堪性の課題を克服して、有人機と同様の能力を持つようになったとしても、全ての有人機が UAV に置き換わるとは限らないと明言している」と防衛研究所の神田英宣氏は指摘します(強調筆者、資料33ページ参照)。神田氏は日本についても触れ、「UCAV 同士の位置や戦術指示の認識などの課題も多く、実戦運用までには長期の開発期間が予想される。日本が近い将来の航空作戦においてUCAVに戦闘機の代替を期待することは未だ現実的ではない」(強調筆者、資料45ページ参照)と述べておられます。
もちろん、技術の進歩は一直線ではなく、必ずしも現在の発展の延長線上に未来があるわけではありません。もしかすると、10年後には今では考えもつかない画期的な技術が中国で発明される可能性だってあります。しかし、その「もし」に国の安全保障を預けるのは危険です。
最も進んだUAV技術及び運用経験を持つ米国とそれに挑戦しようとする中国。両国ともに、有人機が姿を消す未来はまだ遠いと考え、当面は有人機をUAVが支援する形で相互に補完し合うことを目指しています。
*1 領空の外周に設けられた空域(Air Defense Identification Zone:ADIZ)です。領空は、岸から12海里(22km)に設定された領海の上空を指します。無通報のまま領空を侵犯すれば、強制着陸させるか、領空から退去させることになります。ADIZは各国の都合で設けるものですから、この中に勝手に入られても国際法上、不法行為ではありません。
参照記事:http://blog.livedoor.jp/nonreal-pompandcircumstance/archives/50406351.html
*2 航空機タイプではありませんが、海に囲まれた我が国ならではの無人機を紹介します。海上自衛隊の特徴として、掃海能力の高さが挙げられます。その能力を支える装備のひとつが、無人掃海機です。ペルシャ湾の掃海任務にも派遣されたはつしま型掃海艇には機雷処分具「S-4(75式)」、うわじま型には「S-7・1型」、深深度用としてやえやま型には「S-7・2型」が搭載され、後継の処分具としてS-10も開発されています。いずれも三菱重工製です。機雷処分は非常に危険な任務ですから、無人機が代替することで隊員の命を守ることができますし、作業効率の向上も期待できます。
*3 While Chinese sources that were reviewed for this study indicated significantly less interest in planning to use UAVs in support of amphibious island landing operations or operations against land-based targets,…と、述べています(強調筆者)。Project2049 Institute, The Chinese People’s Liberation Army’s Unmanned Aerial Vehicle Project: Organizational Capacit ies and Operational Capabilities, March 11, 2013, 14ページ。
*4 China to promote drones for marine surveillance(2012/9/24 人民日報)
*5 China Naval Modernization: Implications for U.S. Navy Capabilities—Background and Issues for Congress (米議会調査局)。参照記事:http://blog.livedoor.jp/nonreal-pompandcircumstance/archives/50659394.html
【参考資料】
中国のこうした挑発行為があるたびに、日本の安全保障が著しく低下したかのような言説を見かけます。F-35のような高い買い物をするよりも無人機をそろえろ、という意見もあります。確かに、中国のUAVに対する研究・開発意欲は日本に勝り、おそらく技術的にもあちらが進んでいます。うかうかしていられないのは間違いありません。
では、中国のUAV戦力の増強は、我が国にとってどれくらい脅威なのでしょうか。また、今後UAVが戦場の主役となり、有人機は間もなく舞台を去ることになるのでしょうか。
日本のUAV*2
過去記事で取り上げた通り、日本も標的機としてUAVを持っています。そして、2013年8月、防衛省は2014年度の予算にRQ-4グローバル・ホークの調達費用を盛り込むことを決定しました。2014-2018年度で3機購入予定です。私見としましては、グローバル・ホークを導入するなら、海洋監視任務においては中低高度での運用に適した機体であるMQ-4Cトライトンの方が妥当かなと思います。トライトンは、BAMS(広域海洋監視)無人機という位置づけで、米海軍の対潜哨戒P-8Aポセイドンを補完するセンサー・プラットフォームとして運用される方針です。
南西諸島方面を意識して導入する機体としてどの機体が最適か、という議論はさておき、日本も今後はISRのためのUAV研究を意欲的に行っていくべきだと思います。特に、領域警備においてUAVが果たす役割は大きなものです。周辺海域の警戒監視は、広範囲で長時間・長期間にわたる任務ですから、UAVによるISRやデータの中継機能を活用できれば、哨戒機などの機能の補完が可能となり、人員の負担軽減にもつながります。
中国のUAV
中国のUAV開発の歴史は古く、多くは標的機として、そして最近はISR任務を目的としたUAVが何種類か確認されています。その成長速度は速く、確かに驚異的です。
なお、UAV研究・開発、経験面でずば抜けているのが、米国とイスラエルです。この両国に比べて、中国のUAV技術は数年以上の開きがあると言われ、現状、あくまでも既存技術のコピーや解析が主眼となっています。技術的な面の力量不足は専門家からも指摘されていて、漢和情報センターのアンドレイ・チャン(平可夫)氏は、「中国のUAVの多くはリアルタイム通信能力に不安がある」としています。また、中国航空工業集団公司(AVIC)のチーフデザイナーTu Jida氏も、「中国のUAV開発における大きな壁となっているのが、統制・通信に関する問題だ」と、チャン氏と同様の見解を述べています。
また、無人戦闘攻撃機(UCAV)の開発状況は、ISR型UAVよりも低調です。プレデターに似た武装可能な多目的UAV「翼竜」が開発順調のようですが、詳しいことは分かりません。開発元いわく、世界最先端で、外国へも積極的に販売するとのことですので、翼竜が中東やアフリカの上空を飛ぶ日は遠くないかもしれません。
中国UAVが仕掛ける飽和攻撃?
今年3月、米シンクタンクのProject2049研究所が、中国のUAV関連の報告書を発表しました。
報告書では、日本や米軍を攻撃する際の中国のUAV活用法について、筆者のRussell Hsiao氏がシナリオを提示しています。これについては、ブログ『東京の郊外より・・・』様において和訳されているので、そちらを引用させて頂きます。
UAVを使用した究極の作戦構想
- ネットワーク化されたISRは米海軍にとって大きな懸念である。中国軍の作戦計画者たちは、多数で多機能のUAVで紛争時米空母を攻撃しようと考えている
- まず最初に航空攻撃を模擬したおとりUAV攻撃を行い、敵の防空ミサイルを射耗させる。次に一群の電子戦UAV(敵の衛星、早期警戒機、レーダーを妨害)やレーダー攻撃UAVを投入する
- 同時または後続として、攻撃UAVが対艦ミサイルや巡航ミサイル発射母機となって攻撃する。究極の目標は、UAV活動とミサイル攻撃を緊密に連動させ、敵の強固な防衛線を突破し、敵を飽和させる攻撃である
2013/3/12 驚嘆の中国軍UAV構想(『東京の郊外より・・・』)
Hsiao氏は中国の安全保障関係では著名ですが、これはあまりに中国に都合の良いシナリオと言わざるを得ません。ロマンはありますが成功の可能性は低いでしょう。
まず、無人機の対電子戦における脆弱さを考慮していません。米国やイスラエルのUAVは、何重ものジャミング対策を施していますし、テロ組織レベルの相手に電波妨害や通信回線への侵入を許したことはありません。しかし、一国の正規軍相手の電子戦を生き残れるか、となるとほとんど見込みがない、というのが大方の見方です(後述)。2011年12月、イランが米国のRQ-170センチネルを電子的に乗っ取りました。米国の先進的なUAVでさえも、この有様です。航空自衛隊に電子戦機はありませんが、F-15にECM(電子攻撃)ポッドを搭載する予定ですし、海上自衛隊の護衛艦の多くはECM/ESMの能力を持つNOLQシリーズを搭載し、電波探知妨害能力を持っています。米軍は専門のEA-18G グラウラーを持ってますしね。
次に、UAVの飽和攻撃についても、日米の「防空ミサイルを射耗させる」ことの難しさを安易に考え過ぎています。仮に、佐世保の第2護衛隊群が尖閣諸島周辺で中国UAVに飽和攻撃を仕掛けられたとしましょう。この護衛隊群を構成するのは、イージス護衛艦ちょうかい(DDG-176)、たかなみ(DD-110)、おおなみ(DD-111)、てるづき(DD-116)です。発射セル数はそれぞれ90、36、32、32。1セルにつき最大4発のESSM艦対空ミサイルが搭載できます。すべてのセルにESSMが装填されるわけではないですし、発射したミサイルが全弾命中するはずもありませんが、それを差し引いてもUAVで飽和攻撃するとなると、膨大な数が必要です。これに艦載砲が加わり、さらにCIWS(近接防御火器システム)の網もくぐり抜けなければなりません。UAVの巡航速度はせいぜい亜音速で、まして、旧式UAVをおとりとして使う場合、速度はぐっと落ちます。そして、言うまでもないですが、米空母打撃群の防空能力はさらに強力です。
大量のUAVをおとりにする戦術が有効というのは、旧ソ連の巡航ミサイル飽和攻撃に備えてきた自衛隊と米軍をさすがに見くびり過ぎでしょう。Project2049の報告書でも、Hsiao氏の構想に対して中国の関係者が否定的な見解を示しています*3。UAVで日米の艦隊群に突撃するというようなドクトリンは、中国でも考えられていません。尖閣に関して言うと、UAVを挑発の道具に使い、仮に日本がADIZで撃墜でもしようものなら、それを口実につけ込めるかも…といった程度の期待しか抱いてないでしょう。
今後の中国UAVの主任務はどうなる
では、中国はUAVをどのように使おうとしているのでしょうか? 中国・国家海洋局が2012年に出した発表が明確です。それによると、「中国は尖閣諸島やスカボロー礁に、2015年までに無人機監視・モニタリングシステムを構築する」*4。これは、中国が東シナ海と南シナ海におけるUAVの運用指向を示したものと言えます。彼らは、ISRをUAVの主任務に位置付けているのです。
もうひとつ、Andrew EricksonやLyle Goldsteinといった米海軍大学の中国軍事専門家が、対艦弾道ミサイル(ASBM)のターゲッティング・ノードの一部としてUAVが活用される可能性に言及しています。しかしこれは、こちらが発射シーケンスを断つ(キル・チェーン)機会が増えることも意味するため、相手の脆弱性を衝く好機ともなりうると米議会調査局で指摘されています*5。
UAVは対国家に使える兵器ではない
米国と中国のUAV運用構想はそれほど違ったものではありません。平時もしくは航空優勢環境下のISRにおいてはUAVが有効であると一致しています。
また、米中は、対地攻撃の一部をUAVに任せようという構想があり、米軍はすでに暗殺任務の多くをUAV部隊がカバーしています。大型ステルスUAV「X-47B」も戦闘機ではなく、爆撃機/攻撃機の系譜にあります。米国は海外での作戦展開をしなければならず、その際に必要な対地攻撃能力の充実と有人機への負担を減らす支援能力向上を急いでいます。
(X-47Bの空母着艦試験動画)
中国もX-47Bに似た「利剣」という大型UAVを開発中とみられます。詳細は分かりませんが、尖閣やスカボロー礁での運用が頭にあるでしょう。
(「利剣」のタキシング動画)
とはいえ、UCAVの有効性も、テロ組織レベルを相手にした場合に限られるかもしれません。米空軍参謀長ノートン・シュワルツ大将は、「リーパーのようなUAVはA2/AD(接近阻止・領域拒否)環境下には対応できない」(Flihtglobal)と言ってますね。だからこそ、「第5世代戦闘機のF-35開発を進め、B-2ステルス爆撃機を保有しているのだ」(同上)とシュワルツ大将は明言しています。さらに、米空軍航空戦闘軍団のマイケル・ホステージ大将も同様に、「プレデターやリーパーは強度の強い作戦環境下では使えない代物だ」(ノーボスチ)と発言しています。UCAVは、対国家向けのCAP(戦闘空中哨戒)機として運用するには能力が足りないとのことです。
こうして米軍が実戦経験によって得た原理は、中国のUAV運用にもあてはまります。そのことは中国の無人機の専門家も認識しています。
(UAV翼竜の設計者たちへのインタビュー。1分20秒から該当発言。)
翼竜の設計担当者たちも、「UAVが有人機に完全に取って替わることはない」と考えていることが分かります。そもそも、有人機のいらない未来が近いなら、中国がJ-20を開発していることに説明がつきません。
同時に、防空を主任務とする日本にとってUCAVなど必要ありません。制空型のUAVに至ってはまだ存在すらしていませんしね。防空の主役もまた、当面は有人機なのです。
有人機とUAVは相互補完関係である
今後、UAVの有用性が高くなることは間違いありません。ただしそれは、有人機に対する支援であったり、補完であったりという形で進んでいくものです。「米空軍は、今後30年程度はこのような軍事環境が続くと見ており、将来、防御力や抗堪性の課題を克服して、有人機と同様の能力を持つようになったとしても、全ての有人機が UAV に置き換わるとは限らないと明言している」と防衛研究所の神田英宣氏は指摘します(強調筆者、資料33ページ参照)。神田氏は日本についても触れ、「UCAV 同士の位置や戦術指示の認識などの課題も多く、実戦運用までには長期の開発期間が予想される。日本が近い将来の航空作戦においてUCAVに戦闘機の代替を期待することは未だ現実的ではない」(強調筆者、資料45ページ参照)と述べておられます。
もちろん、技術の進歩は一直線ではなく、必ずしも現在の発展の延長線上に未来があるわけではありません。もしかすると、10年後には今では考えもつかない画期的な技術が中国で発明される可能性だってあります。しかし、その「もし」に国の安全保障を預けるのは危険です。
最も進んだUAV技術及び運用経験を持つ米国とそれに挑戦しようとする中国。両国ともに、有人機が姿を消す未来はまだ遠いと考え、当面は有人機をUAVが支援する形で相互に補完し合うことを目指しています。
*1 領空の外周に設けられた空域(Air Defense Identification Zone:ADIZ)です。領空は、岸から12海里(22km)に設定された領海の上空を指します。無通報のまま領空を侵犯すれば、強制着陸させるか、領空から退去させることになります。ADIZは各国の都合で設けるものですから、この中に勝手に入られても国際法上、不法行為ではありません。
参照記事:http://blog.livedoor.jp/nonreal-pompandcircumstance/archives/50406351.html
*2 航空機タイプではありませんが、海に囲まれた我が国ならではの無人機を紹介します。海上自衛隊の特徴として、掃海能力の高さが挙げられます。その能力を支える装備のひとつが、無人掃海機です。ペルシャ湾の掃海任務にも派遣されたはつしま型掃海艇には機雷処分具「S-4(75式)」、うわじま型には「S-7・1型」、深深度用としてやえやま型には「S-7・2型」が搭載され、後継の処分具としてS-10も開発されています。いずれも三菱重工製です。機雷処分は非常に危険な任務ですから、無人機が代替することで隊員の命を守ることができますし、作業効率の向上も期待できます。
*3 While Chinese sources that were reviewed for this study indicated significantly less interest in planning to use UAVs in support of amphibious island landing operations or operations against land-based targets,…と、述べています(強調筆者)。Project2049 Institute, The Chinese People’s Liberation Army’s Unmanned Aerial Vehicle Project: Organizational Capacit ies and Operational Capabilities, March 11, 2013, 14ページ。
*4 China to promote drones for marine surveillance(2012/9/24 人民日報)
*5 China Naval Modernization: Implications for U.S. Navy Capabilities—Background and Issues for Congress (米議会調査局)。参照記事:http://blog.livedoor.jp/nonreal-pompandcircumstance/archives/50659394.html
【参考資料】
- 神田英宣、UAVの開発・運用動向と日本の安全保障、『防衛研究所紀要』第15巻第2号(2013年2月)
- 矢野哲也、米国の無人機による新たな軍事行動について、『防衛研究所紀要』第15巻第1号(2012年10月)
- Anti-Access/Area Denial Challenges Give Manned Aircraft Edge over UAVs(2012/7/25 Flihtglobal)
- Predator drones ‘useless’ in combat scenarios - Air Force general(2013/9/20 ノーボスチ)