メールフォームで珍しく複数の類似したお問い合わせを頂きました。"海上自衛隊の護衛艦「きりしま」が大陸間弾道ミサイル(ICBM)を6発迎撃成功したとのことだが、本当か?"というものです。

結論から言うと、そのような事実はありません

お問い合わせと同時にその情報の発信源となるブログもご教示頂いたので読んでみました。ちょうど2年前の記事で、確かに「きりしま」によるミサイル防衛実験について取り上げているのですが、内容は…そうですね、正確なところの方が少ない、というのが率直な感想です。ミサイル防衛についての理解もあまり正確ではないように見受けられます。

当ブログは、他人様の意見や主張に絡んでいくことを良しとするところではありません。安全保障や軍事の問題は、立場や切り口によって解釈の仕方が異なるものですし、その多様さが柔軟な対応策を生み出すきっかけになるとも思います。

しかし、くだんの記事には事実がほとんど含まれておらず、provocativeな意見によって議論を喚起する性質のものでもありませんでした。この稿で事細かに訂正していくというのも気が進まないので、これまでに海自が実施した4回のイージスBMD実験のあらましを以下に列挙しておくことで、問い合わせ頂いた方々へのご返答とさせて頂きたいと思います。

◇ ◇ ◇


2007年12月17日: JFTM-1(Stellar Kiji「星の雉」)


  • 米国外の艦船による初のイージスBMD迎撃実験。
  • 護衛艦「こんごう(DDG-173)」がSM-3ブロック1Aによって高度160kmで分離型準中距離弾道ミサイルの迎撃に成功。


2008年11月19日:JFTM-2(Stellar Hayabusa「星の隼」)


  • 海自にとって初めての事前通知なしの抜き打ち試験。
  • 護衛艦「ちょうかい(DDG-176)」が分離型準中距離弾道ミサイル標的を探知、追跡。
  • 標的発射から3分後にSM-3ブロック1Aを発射したが、直撃の数秒前に標的を見失い、迎撃に失敗。
  • 失敗の原因は、TDACSの制御ガス・バルブに発生した不具合。同じ工程で製造されたSM-3を米軍が試射した際には迎撃に成功しており、設計や製造工程の問題ではなく、極めてまれなケースとして報告されている。


2009年10月27日:JFTM-3(Stellar Raicho「星の雷鳥」)


  • 事前通知なしの抜き打ち試験。
  • 護衛艦「みょうこう(DDG-175)」がSM-3ブロック1Aによって高度160kmで分離型準中距離弾道ミサイル標的の迎撃に成功。


2010年10月28日:JFTM-4(Stellar Taka「星の鷹」)


  • 事前通知なしの抜き打ち試験。
  • 護衛艦「きりしま(DDG-174)」がSM-3ブロック1Aによって高度160kmで分離型準中距離弾道ミサイル標的の迎撃に成功。

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以上が、現時点までの海上自衛隊のこんごう型イージス艦によるミサイル防衛実験のすべてです。全4回の実験で、3回迎撃に成功しています。標的はすべて準中距離弾道ミサイル(MRBM)標的が1発です。複数標的を同時迎撃する実験も実施していませんし、ICBM迎撃はもちろん含まれていません。

米国のイージスBMD実験はこれまで34回実施され28回迎撃成功し(海自の上記実験含む)、短距離弾道ミサイルや巡航ミサイルの複数標的を同時に迎撃する実験も行っていますが、ICBM迎撃実験はまだ実施されていません。

複数目標迎撃やICBM実験を行っていないからといって海自のBMD能力にがっかりする必要はありません。むしろ、4回中3回のMRBM迎撃に成功していることは世界に胸を張って良い実績です。嘘やデマで飾り立てなくとも、日本の弾道ミサイル防衛能力は世界屈指の実力なんですから、もっと自信を持ちましょうよ。


【参考資料】

【参考記事】