アメリカの外交専門誌『The National Interest』が、中国の接近阻止・領域拒否(A2AD)戦略の対抗策について取り上げています。著者は当ブログでもたびたび登場している海軍大学准教授のアンドリュー・S・エリクソンです。

Deterrence by Denial: How to Prevent China From Using Force(The National Interest 2013/12/16)

ズバリ、A2ADにはA2ADを、というものですね。記事のタイトルもDeterrence by Denial(拒否的抑止力)を謳っています。

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  • 中国との衝突は回避されなければならないが、中国が近隣諸国へ圧力を掛け、力によって地域の現状を変更しようとすることも防がれなければならない。
  • この点を強調しそこなうと、中国政府および地域の同盟諸国の目には、米国が弱腰であり、中国の攻勢を認めたように映る危険性がある。中国の誤算を招くかもしれない。

  • 米国の軍事力は、現行秩序(既存の国際システム)の機能を維持していくことにある
  • 米国は中国を封じ込めるつもりのないことを明らかにする一方で、既存のシステムを阻害しようとする中国の行動に対抗しなければならない。
  • アデン湾やギニアにおける中国の国際公益に対する積極的な取り組みを賞賛していくことも重要。


  • 中国の力による現状変更をさせないために、米国は最低限、中国が紛争領域を獲得しようとする能力を拒否する力を地域に維持していく必要がある。
  • 米国はこれまでも防御的アプローチをとっており、今後の緊縮財政下においても十分こうした拒否的抑止力を維持することはできる
  • 米国政府は、中国政府のA2ADに過度に高価な兵器で対抗すべきではない。
  • また、中国本土への攻撃というアプローチはエスカレーションや逆効果をもたらしかねないうえに、東シナ海や南シナ海の問題で中国を抑止しうる信頼性も欠いており、避けるべきである。
  • 遠海からの封じ込め(distant blockade)を効果的な策であるとする意見もあるが、エスカレーションをもたらすうえ、多くの理由から現実的でない


  • むしろ、中国が米軍事力を中国本土に近づけないように努めているように、米国も力によって領土/領海問題を解決しようという中国を拒否することを目的とするべきだ。
  • 中国が係争領域を獲得すると、次は補給の問題がある。小さな島嶼において補給は本質的に困難な問題で、地理による脆弱性が発生する。
  • 島嶼の維持がいかに難しいかを中国に実証するために、米国と同盟諸国は補給線を断つ能力を最大化すべきである。すなわち、独自のA2ADである。


  • 厳しい財政状況と迫りくる脅威を前に優先されるのは、既存のプラットフォームや兵器システムの配備と維持だ。それらは技術的に証明され、限られた数量でありながら迅速かつ効果的でもある。
  • 米国にとって最も有望な分野は、水面下の戦力における優位性である。中国は十分な対抗能力を持っておらず、莫大で不均衡なリソースを投資してもギャップを埋められるかどうかわからない。
  • バージニア級攻撃原潜(SSN)の建造予定(1年に2隻ずつ)が保証されることが不可欠だが、これは中国の補給線を断つ理想的なプラットフォームだ。
  • この分野で中国が立ち遅れを挽回するのは容易ではなく、バージニア級の何倍ものコストが必要で、しかもそれに匹敵することはできないかもしれない。
  • 対艦巡航ミサイルの分野でも米国は中国より優れている。
  • 最近、長距離対艦ミサイル(LRASM)の実験が実施されたことは、正しい方向へ進んでいるといえよう。
  • 攻勢機雷戦はまだ開発途上の分野だが、検討価値があるかもしれない。


  • こうした米国の態度を中国に示すことが、効果的な抑止になりうる。達成できもしない目的のために中国はリスクを冒す余裕はないからだ。
  • 拒否的抑止戦略を採用することで、米国はアジア太平洋の平和を維持し続けられる。

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日本にとっても対中戦略上、A2ADはひとつの解である、と過去記事に書きましたが、米国では最近、A2ADを採用すべしとの報告書や論文が増えていますね。リソースがこれまでよりも限定的な状況で、採用可能なアプローチが限定されるのも致し方ないことです。相手よりも多大なリソースを必要とする懲罰的抑止(deterrence by punishment)よりも、既存の兵器やプラットフォームを利用して実現できる拒否的抑止が経済的かつ現実的な対処法であるのは自明ですから、今後、こうした主旨の提言は増えていくのではないでしょうか。


【参照過去記事】
  • [論文紹介] 距離と軍事作戦
    坂口大作防衛大学教授が、ケネス・ボールディングの「強度喪失勾配」理論を用いて、距離と軍事作戦との相関関係を説明しています。中国が島嶼獲得後に補給線を維持することの難しさもここで読み取れるかと思います。